30 八尾の戦い(その2)
「行けやぁ~~」
「ぶち抜け~、止まるなぁ~、打ち捨てじゃぁ~」
逸早く離脱にかかった藤堂高刑の背後にまで敵兵の叫びが聞こえてくる。逐一兵に止めも刺さずに只管突撃してくるようだ。
-くそっ、奴ら手柄がどうでも良いのか………いかに奇襲されたとは言え、異常な突破力だ………-
それでも桑名吉成の居る中央部こそ一時は支えていたようだが、左右両横にまですでに喧噪が追いつきつつある。
-………くっ弱い………いかに裏技が得手の藤堂家と云えど、ここまで弱くはなかった筈…。実戦から離れて数年でここまで落ちるか………。-
藤堂高刑は今更のように自軍の兵の弱さを痛感していた。個人の武力ではそれなりに名を馳せている藤堂高刑だが、藤堂勢と云えば下より単独の白兵戦での武勇など記憶にない。主将の藤堂高虎が長く小身代であった事もあり、もっぱら謀略や内政を得意としているが羽柴秀長の元で戦った天正の世の頃にも特段弱いという評判でも無かった筈。端から互角の戦場での武勲など取り立てて期待してはいないが、それにしても弱すぎた。
-迫ってきているのは、長曾我部の連中か………-
その特異な方言や上方武士と異なる戦い方から藤堂高刑も迫り來る敵を正確に把握しつつあった。
-最悪の相性だ………-
圧倒的に差のある個々の兵の戦闘力だけではない。関ケ原後に土佐を接収に動いたのが正しく藤堂高虎なのだ。自らの先祖伝来の土地を追われた土佐兵の怨念如何ばかりか………
-下手をすれば全滅しかね……くっ!-
左翼からの横槍が藤堂高刑にもついに届く。
カギッ………
耳障りな音を残して右横でも金属音が響く。わずかに連れて来ていた近習がなんとか防いでいる。
「全員右に当たれ、左は儂が支えるっ!」
受けに徹してひたすら走るが子飼いの近習たちも一人減り、二人減り…ついには………
-くそっ、囲まれたか………-
「儂は藤堂家が重臣、とう…(グシュッ)………」
グシュッ、グシュグシュッ…
「ふんっ。名らあどうじゃちえいわぃ。皆次じゃあ!」
「うおらぁ~!」
この日、藤堂勢先鋒はその半数を失い継戦不能となった。
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-八尾方面の戦いはこのような推移で御座いました………秀頼様-
「ご苦労、よくそこまで詳細な状況を知らせてくれた。見事だ。」
顔を伏せたまま服部藤内配下の忍びは微動だにせず、控えている。僅かに動いた肩のみで面目を施した達成感を顕している。
「追撃は玉串川までであれば問題ないな。しかし、藤堂一門の者を打ち取ったか。流石宮内少輔(長宗我部盛親)殿だ。おっと、話が逸れたな。これで全戦線で作戦は終了だ。藤内殿の忍び衆も撤収にかかってくれ。これからは大坂の防諜が主任務になる。初戦で鋭鋒を砕かれた幕府側が次に仕掛けてくるのは間違いなく謀略の類だ。頼んだぞ。」
-一部の繋を幕府要人周辺に入れると頭より………-
「なに?出来るのか?それは助かるが、無理をするで無いぞ。」
-此度の戦勝で、いまだ徳川に付いて居りし伊賀者…服部党もが面従腹背に。金さえ貰えれば見逃す…と………-
「ほう、それは重畳よな。修理(大野治長)には言うておく故、多めに資金を受け取り、そのまま残りの伊賀衆を全て味方に引き抜け。勿論、徳川には面従腹背のままでな。」
-承知!-
さて、家康はどう動いてくるか。いろいろと動いて来ようが………やはり京か………
(母上。愈々のこの切所、備前守(浅井長政)殿の血筋が豪勇の一欠片、呼び覚ましてくだされよ………。)




