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18 真田幸村の見解(その他の西国大名)

「次は肥前、鍋島はどうだ?長崎を擁する要地だが。」

「鍋島は先の冬の陣で徳川方で鍋島勝茂の実弟、鍋島忠茂が参陣して体裁は保ちましたが実際にはほとんど動けますまい。肥前三十五万石、さらに外国交易で余裕があると傍目には見えましょうが()にあらず。鍋島勝茂直轄領は僅か六万石ほど。度々畿内まで兵を出していては領内で反乱が頻発しましょう。」

「成る程な。鍋島は動けぬ…と。肥後の加藤はどうだ?最近は肥後でも外国交易も模索して居る様子だが。」

「秀頼様。西国大名は皆外国交易に乗り出しつつありますぞ。まあ唐津・天草を領する寺沢広高などの家康の腰巾着は家康に遠慮して外国交易を控えておる様子で御座るが。」

「くっくっくっ。いくら控えていても家康などが外国交易路を開けようはずも無かろうにのう。そもそも外国船の興味は九州、ついで畿内まで。わざわざ商業の遅れている東国まで行くものか。」

「如何にも………。話が逸れましたな。肥後の加藤と安芸の福島は別の意味で動けますまい。」

「太閤子飼の両名だな。加藤はすでに代替わりしているが。」


真田幸村が頷く。


「今秀頼様が口にされた通り。太閤子飼という、その成り立ちが彼らを縛っておりまする。本心では家康に尻尾を振りたい、されど流石に世間体が悪すぎる。領民に面従腹背でもされては改易の口実にもなりかねない。さればこそ、大坂に蓄えてあった福島の蔵米を我らが抑えても抗議もなかったので御座る。」

「うむ。されど家康にも信用されることは未来永劫無い。永久に改易対象の針の筵という事だな。確かにそれでは動けぬ。次は筑前の黒田はどうだ?」

「黒田はちょっと他と異なりますな。関ケ原では家康に全てを賭けたので、筑前五十二万石の大封を得た訳で御座るが、その大封が家康の猜疑心を(つつ)いておりまする。先の戦でも長政が江戸に押し込められていたのもそれが故。黒田は黒田で博多を活用して外国交易に乗り出しましたしな。」

「確か家康から海外貿易の朱印状を取ったのだったな。一応筋は通した積りだろうが、家康の腹の底は煮え(たぎ)っておろう。」

「長政はそういう処がありまする。人の心を推し量るのが不得手のようで。」


後藤又兵衛が黒田家から奉公構(ほうこうがまえ)にされた件もそうだった。関ケ原後は親父の如水にも呆れられていた。そう言えば、大坂の陣の前、幕府からしつこく起請文を提出させられたのだったか。


「幕閣からも信用されぬでは、此度は動くに動けぬか。」


幸村が頷く。


「九州で残る主な者は豊前豊後に(またが)る小倉の細川忠興か。」


丹後(豊後の一部も)十八万石を領していた細川忠興は関ケ原の論功行賞で豊前1国と豊後2郡の合わせて三十九万九千石に加増転封している。史実では毛利勝永が細川忠興・小笠原忠真らを相手に、寡兵にも関わらず優勢に戦っている。


「細川は忠興の(さが)からしてぶれぬでしょうな。徳川が滅ぶ場合でも共に滅ぶ。そういう者で御座る。」

「だろうな。親父の幽斎であったならば条件次第で如何ようにも転びそうだが、忠興は行かぬ。策を以て打ち取るしかないか。猛将故、戦場でもかなり前に出てくる。機会はあるのではないか?」

「さて………戦場で打ち取るだけが戦でも御座いますまい。」


ほぉ?慎重な言動に終始していた幸村にしては踏み込んでくれたな。この秀頼を疑う心は最早無いようだ。


「ふむ。幸村にはすでに策が有ると見える。ではこの件は幸村に任せる。全ての責めは、この秀頼が引き受ける故、存分にな。」


どうやら詳細は聞かぬが花のようだ。戦国生き残りの詭道の匂いがする。

幸村も黙って頭を下げる。


「最後は久留米三十二万石の田中だが、代替わりしており国元も混乱中。参戦は出来ぬようだな。」

「表向きは家中の混乱を装っておりますが、田中家中に太閤のご恩を盾に参戦を忌避する者が相当数居ります。実際には再出兵の潰えを不服とした反抗で御座いましょう。何れにしろ戦える状態では有りませぬ。」

「だろうな。差し当たって九州で直ぐに手を打たねばならぬ大名は居らぬようだな。」

「?敵対確定の大名はそこそこ居ますぞ?」

「この大坂に攻め込む大名が数人増えた処で五十歩百歩よ。東国の殆どが動員されるのだからな。要は九州の地でわれら豊臣の活動を妨げられなければ良いのだ。特に、長崎と博多でな。」

「………長崎に博多………。南蛮ですか。」

「そうだ。釈迦に説法だが、援軍の無い籠城戦は遅かれ早かれ負ける。そうだな。」

「は。さればこそ、先の戦でも打って出る事を求めましたが………。」


頷いて、


「だが、持久して徳川や与力大名に財政負担を強いる事も有効だ。これは籠城に有利に働く。」


幸村も頷く。


「そこで援軍を南蛮に求めようと思う。」

「! 南蛮に援軍ですか………。」

「と言っても南蛮兵が上陸して来る訳ではない。例の南蛮船の艦隊で支援してもらう。これはまだ木村重成だけしか知らぬ事だが既に手の者を長崎に出して、エゲレスとの接触を図っている。」

「エゲレス………。」

「まだ知れ渡って居らぬが当分エゲレスが海の覇者となろう。我らはいち早くエゲレスとの交易路を開き、関係を強める。徳川が未だにイスパニアやオランダに固執しているのも有利に働こう。勿論エゲレスとて無償で支援してくれはせぬが、現状エゲレスは明や天竺での交易に難航して居るので、安定した交易が見込める我らに気が付きさえすれば乗ってくるだろう。明との交易の便宜を図ってやる事もできるしの。」

「明や天竺での交易は上手く行って無いので御座いますか?そのエゲレスは。」

「明も天竺もそれぞれに問題が多くてな。明は知っての通り気位が高く対等な交易はできぬ。形だけでも臣従した形式を踏まねばならぬ上、明の台所事情に合わせて交易制限が課されてしまう。天竺はそもそも安定した統治者が居らぬ。交易相手が不安定では大商いは出来ぬ。」

「成る程。我らも見込みは十分有るのですな。」

「だがエゲレスに頼り過ぎるのも良くない。交易しつつ南蛮の技術を学び我ら自身の水軍を再建する。既に淡輪重政には其の構想を語ってある。」

「この幸村は海の事は疎う御座いますが、それでも大坂が完全包囲出来ぬ事は解りました。………!もしや太閤様はそこまで考慮されて家康を東国に移封された!?」

「そうだ………と言いたい処だが、それは有るまい。水軍衆を無下に潰してしまったからな。だが交易の利や市の発達具合は明確に考慮した事は確かだろう。滝川一益は前右府によって上野に加増転封された時この世の終わりであるかのような反応だったと聞く。一益には石高では測れぬ立地の不利が見えていたのだな。」

「だが家康は大封を提示されて喜々とまでは行かずとも、内心ほくそ笑んで移封に応じた。家康には見えていなかった………という事でしょうか。」

「さてのう………。見えておらぬか、見えていても何をして良いか判らぬのか………。」

「?あの家康がそのような無能でしょうや?」

「儂の目には、事商いに限って言えば、家康は並以下の無能に近いように見える。そうでなければ三河にも津島とまでは言わずとも、それなりの規模の港が無い説明が付かぬ。市を見てもそうであろう。氏康・氏政が市の育成に尽力した相模は、より東国に有りながら三河より発展して居る。」

「………お話を聞いているうちに、少々怖く成りました。商いへの意識の低さは我が真田も徳川と大差有りませぬ。太閤様の知遇を得て居らねば時の流れに取り残されて居たやも………。」

「真田殿は致し方なかろう。海のない信濃や上野では。市の育成を手掛ける余裕が有ったとも思えぬ。」

「………この事、兄の信之に伝えても?」

「勿論良いぞ。信之殿が領内仕置に専念されて大坂へ出兵されぬなら、我らにも利が有る事だ。」


大きく溜息をつき、ほっとした表情を見せる幸村。幸村にこのような並みの人間的な面も有ったのだな………噂や伝聞だけでは人は測れぬ。改めて幸村像を上書きするのだった。







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