第六七話 欲張り
……ようやく気の調整が終わるという時に私は気付いた。
気のせいかもしれない、だが気にしない訳にもいかないだろう。
竜への反撃の隙が少なくなっているような気がしたのだ。
…やはり確かに今までの攻撃よりも嫌らしい攻撃の仕方をしている気がする。
…段々と嫌らしい動き方が精度を増し、私にもそれが何の動きに似ているのかが理解できるようになっていく。
これは…人間の真似事か?
そう、竜の動きは人間の動きを模していたのだ。
背筋の辺りに嫌な汗が流れる。
それは私がこのままでは敗北する可能性が高いということを理解したからだ。
先程までは気付けない程度でしかなかった拙い真似事がたった数分で今では私でも何をしているのかはっきりと分かる程のそれなりの物となっている。
恐ろしいまでに高い学習能力だ。
このペースで無駄のない攻撃を上達されていった場合、私が竜を仕留めるよりも先に私が力尽きることとなるだろう。
だが私もこのまま何もすることなく負けるつもりは微塵もない。
むしろ勝つつもりでいる。
でも今の調子では無理だ。
でもやっと気の調整が完了した。
さあ反撃に出ようか。
私はそう心のなかで呟き、行動を開始した。
好き勝手に攻撃してしてくれているが直ぐには反撃に出ず、オーラを竜の周りに張り巡らすことにする。
十分に気を周りに張り巡らすことができた事を確認すると、まず竜の片腕の攻撃を流す。
その隙を補うように迫ってきているもう片腕をオーラによって遅らせ、そのまま無視して動体へ向かう。
殴れる距離まで来れば拳にのみ「青」を纏わせ殴りまくる。
一撃の強さ重視ではなく軽くても数を増やすようにしている。
勿論「青」からだけでなく、十分に近づいているため気力操作でも直接奪い取っている。
SPを全損させればHPを変換させて行動するしかなく、それでは効率も悪いし動きも鈍るはずだ。
そうすればその後で煮るなり焼くなりすればいい。
それにそうでなくともせっかく目の前にSPタンクがあるのだ、使わなければ失礼というものだろう。
もちろんこの攻撃を竜が無視し続けるはずもなく、魔法と物理攻撃で邪魔しようとしてくる。
だが物理はオーラで、魔法はブレスの影響で破壊されることを恐れて一度インベントリにしまった歯車でそれに対抗する。
流石に強めの魔法だからか私に魔法が届くが、既に大幅に威力を落としている魔法であれば何とか耐えられる。
因みに結界は歯車をインベントリから取り出した瞬間に砕け散った。
竜も爪で私を攻撃してくるがオーラを使い全力で速度を落とし、回避していく。
だが今は回避よりも攻撃だ、無視しても構わない程度の攻撃は甘んじて受け入れる。
私は今、SPを削って竜を無防備な状態にしてから倒そうとしている。
だが未だに竜のSPの底は感知しきれず見えない。
それはHPも同じだが、HPは簡単に回復することはないがSPは簡単に回復してしまう。
隙を見せ逃げられてしまった場合、私の敏捷では追いつける可能性が低い上にしばらくすれば体制を立て直されてしまうのが目に見える。
私には恐らくいいダメージを与えることができるであろう攻撃があるが、まだあまり使い慣れておらず隙が生じる。
そしてそれを使うには相手にも大きな隙が生じていること、もしくはトドメや急所への致命的な攻撃が条件だ。
そうでなくては簡単に回避、反撃されてしまうだろう。
そして今の私の素の攻撃力で竜のHPを削りきれる可能性は極めて低い。
そもそも鱗すら突破できていないようではダメージになっているのかすら怪しい。
そのため私はでかい一撃をぶちかます方が倒せる可能性があると判断した。
それにおそらくそこまで削る事ができればSP不足でダメージを与えることも可能だろう。
だがここまで攻めているのにまだ底すら見通せない。
くそ、まだか?まだなのか?
そう心の中で悪態をつきながらも今も私を掠っていく爪に肝を冷やす。
ならもっと早く吸い取ってやる。
そう思い私は今のSPを気にする必要がない状況を利用して普段は無駄になるSPが多すぎて効率的でないため使用しないレベルで強固に気を編み始めた。
おぉ、やっぱり今の私じゃあこの反発を抑えるのはなかなかに厳しい。
でもSPを湯水のように使い反発を気の量によるゴリ押しで抑え、密度を保ちそれでいて完全にくっつき同化しないように操作していく。
ぎぎぎ、これは不味い、欲張ったかな?
だが密度を保つのも簡単ではなく、少しずつ、少しずつ拮抗していた両方の圧縮だったが気の編み込みからの方が優勢になってきている。
多少の変化では素早く状況を変えるほどの状況の変化は見込めない。
そう考えたのが裏目に出たのか長くは持ちそうもないのに大量にSPを消費し続けてしまう欠陥しかない編み込みになってしまった。
しかし今の私にとってはむしろ好都合だ。
これなら行ける!
そう自身を奮い立たせ今の編み込んだ気で拳の「青」と体の「赤」を纏い直す。
一度距離を離されれば警戒はされるし、オーラも霧散してしまうはずなのでかなり厳しい展開になる。
ここで決める!
そう判断した私はもう積極的に攻撃を回避することは考えなかった。
強化された防御で攻撃を受けても耐えきれると信じ、一刻も早く竜のSPを全損させることを考え、連撃を放ち続けた。
不快感が次々と体を襲う。
だがそれを無理やりSPをHPに変換することで無視して腹、顔、脚と次々に攻撃を当て続ける。
だがここで恐るべき速度で私に迫るものを感知。
これは…尾だ。
なぜここまで温存していたのかわからないが、散々使い渋っていたらしい。
特にここぞという場面でもなんでもない時に使ってくるという事はないだろう。