第六六話 不可視の炎
随分と間が空いてしまい申し訳ありません。
これからはあまり高頻度で投稿できそうにないので新しいのが来てたらラッキーぐらいの気持ちでお願いします。
竜視点です。
我は今、異邦人と戦っている。
少し前にも我の拠点に足を踏み入れた異邦人だ。
我は2日前まで王都とやらに攻め込んでいたが、出てくるものがどんどん強くなるものだから困る。
始めは何匹来ても問題ないぐらいの者共が相手だったのだが時間を追う事に強い者共がチラホラ出てくるようになったのだ。
そして強いものを仕留めたかと思うとその強いものと同じ鎧を着た大量の者共が隊列を組んで我に向かってきたのだ。
流石の我でもこれには危険だと感じ尻尾を巻いて帰ってきた。
我もこの異邦人にいい様にされた記憶がなければ撤退のするべき時を見失っていただろう。
我の内心は決して穏やかなものではなかったが、人間は危険だ。
我はこの異邦人との戦いで多くのことを学んだ。
人間は敵の動きを読み回避する等、戦いでは自分が有利になるような選択を取ってくる。
今回の例である先程の戦いは一戦での勝利は捨て時間稼ぎに徹することで、大局で見た場合の勝利を目指していたのだろう。
我はこれまで攻撃を回避するなど弱者の悪足掻きだ、数を揃えるなど強者の前では無意味に等しいなどと思っていたがそれはこの異邦人に粉砕された。
我の攻撃をギリギリで避けることすらできないはずのステータスであるのに我に攻撃を与えたのだ。
思えばあれはおかしかった。
そもそもあの程度の敏捷で我の攻撃を見切ることができるなど違和感しかなかった。
鑑定で見た結果は我の直系の眷属よりステータスは二回りほど低く、脅威ではない、の一言に限られた。
しかし我の直系の眷属でも簡単には回避できないであろう攻撃を次々に回避してみせたのだ。
本来であれば吹けば死ぬ程度の戦闘力、であるはずのそれが我の邪魔をしている。
その事実に我は怒りや不快感といった感情ではなく衝撃を覚えた。
この程度のステータスでこの芸当が可能なのか!と。
昔のことになるが我の少し先輩の竜は我と同じでプライドが高く、戦闘に工夫など必要ないといった考え方を持つ者の一人だった。
何故老竜共が悪魔や天使等の上位種だけでなく、人間等の下位種を危険視しているのかがさっぱり分からず、我たち若者はそんな者たちのことを老い過ぎて力が衰え、必要以上に警戒しなくてはならない哀れな竜。
などと小馬鹿にしていた。
その考え方は都を離れても変わらなかった。
だがやっと分かった、これは危険だ。
この程度の人一人にここまで手こずってしまう様では大量の人間が居る街や村といった場所は危険極まりないだろう。
我は更によく人間について知るため、人間の戦い方について学ぶことにした。
眷属として各地に放った魔物たちと、人間と戦闘させてみる。
話を聞き、時にはわざわざ出向いて影から戦いを観戦するなど様々な方法で戦法等について学ぼうとした。
その結果際立ったのがあの異邦人の戦闘力だ。
たしかに他の人間たちも我ら魔物を倒すために様々な手を取ってくる。
回避などもしっかりするし、罠を使ったりもする。
しかしやはりこの異邦人は異質だ。
今回は前回よりも更に余裕を持って攻撃を回避され、我に鋭い一撃を打ち込んでくる。
鱗を突破までは到底行かないだろうが、我にも鱗を通じて衝撃を与える程度の威力はある一撃だった。
巫山戯た話だ、いくら最後は道具に頼ったと言っても、あそこまで魔法から逃げれるのは驚きだ。
そしてやはり簡単には捉えられない。
我は人間のようにできる限り消耗を減らすため、魔力をふんだんに使ってすぐに仕留めるつもりでいた。
しかしそれは叶わなかった、途中まではうまく行っていた。
我の目的を武器の能力確認だと誤認させ、異邦人の意識を魔法などに割かせ、不意をつくつもりでブレスを作り出した。
結局不意をつくことは叶わず、気付いていたようだったが邪魔をするには間に合わないとでも判断したのだろう、我のブレスを受けるつもりか防ぐつもりかは知らないが立ち止まり、こちらを見据えていた。
ただ、我には絶対に攻撃を当てる自信はあったし、当たれば倒せるという確信もあった。
半分は我の予想通りになり、少しの間逃げられたものの直ぐに異邦人にブレスは直撃した。
しかし、我自慢のブレスは何らかの手段を用いて防がれてしまったようだった。
我はもう一度ブレスを吐く事も考えたがもう一度防がれては埒が明かないし、消耗も決して少ないとは言えないし、むしろかなり多い。
このままワンパターンな攻撃を続けるわけにも行かないだろう。
そう思った我は人間の真似事だが、鋭く爪で異邦人を狙った。
我の爪は寸分違わず異邦人に迫り、そして横へ流された。
ただ、我の爪は異邦人の腕の一部を大きく抉っていた。
今までまともなダメージを与えることのできなかった身としては、なぜ今頃?というのが素直な感想だ。
つまりはなにか攻撃が通った理由があるはずだ。
…状況を整理してみるとブレスの直後に攻撃したことと、人間のように爪で突き刺すように攻撃したことが先程からの変化だ。
こうして整理してみるとブレスを打ったあとだからなんだというのだ。
おそらくは後者が大きなダメージを負った原因だろう。
そうと分かれば人間の真似事で攻撃するふりをしてみたり、次に繋がりにくい攻撃の仕方はしないように大振りな攻撃は極力しないようにしてみる。
しかし、攻撃は先程のように相手に被害を与えることなく弾かれるだけで終わってしまう。
だが我の目にはこれは効果的だと映った。
反撃がないのだ。
先程この戦法を使う前までは防がれるだけでなく、反撃までされていた。
だがこの戦法を使い始めてから反撃がなくなっていた。
これなら勝てる。そう思い我は畳み掛けるためのとっておきの魔法を使った。
この魔法は視認することができず、不意打ちにもってこいだ。
難易度も高く、普段遣いには向かないものの、その強さは言うまでもない。
先程までは余裕が無かったために使うことができなかったが今なら使える。
魔力感知を持っているため、もしも感知していれば気づかれるかもしれないが、常に魔力の感知をし続けるなど脳のリソースをこれほど無駄にするものはない。
まずありえないだろう。
ではな、これで終わりだ!
その不可視の炎は誰の目にも触れることなく、それでいて凄まじい火力で異邦人を焼き尽くす。
はずだったのだがあっさりと回避されてしまう。
…まあそんな時もあるかもしれない、魔法を制御して異邦人を追いかけ回す。
しかしスルスルと我の攻撃をくぐり抜けて行く。
…今は調子が悪いようだ。
当たり前のように不可視であるはずの攻撃をくぐり抜けていく異邦人を目にし、その一言で自分を納得させた後に元のように姿の見える難易度の低い魔法に切り替えて異邦人を再び攻め立て始める………