第五六話 バグ?
犯人は鹿であることがわかった。
それとどうやらその鹿はあの竜の眷属である可能性も浮上してきた。
なんとなくだが、あのコンラッド村の近くの森の魔物と同じ気配がしたのだ。
まあ別にそれはいいのだが、この鹿と戦っている間に仮面をつけてから一時間が経過したようで、HPが削られ始めた。
ただこの鹿は非常に私の役に立っている。
この鹿の木を使った攻撃は感知のレベルを上げるのに非常に都合が良い。
手数が多いため常に集中しておかなければならず、あくまでも元々存在していた木を本体として使っているので魔力も感じにくい。
そのため私はこの戦いが始まってからグングンと感知系統のスキルレベルが伸びて行っているのを感じているのだ。
折角の機会だ、もっともっと熟練度を上げたい。
そのため私は軽くあの鹿に攻撃したいのだ。
きっとあの鹿が相手でも全力で攻撃すれば倒すことができてしまうだろう。
だが、下手に軽く攻撃しすぎれば反撃が待っているだろう。
そのため私はどのぐらいの攻撃をしようか迷っているのだ。
私はHPが60%を切ったところで一度ぐらいは全力攻撃でも耐えきれると信じ、思いっきって遠慮なく攻撃することにした。
だが私が攻撃しようと根っこを避けながらどんどん近づいていった途端、鹿が私に背を向けて走り出したのだ。
凄まじい速度で逃げていった鹿を仕留めるのは容易ではない。
なぜならここは森の中、鹿の領域だ。
敏捷においては遥かに鹿を上回っているはずの私でも追い付くどころか、鹿が操る根っこや天然の植物、デコボコの地面が邪魔で、どんどん距離を離されている。
不味い、このままだと攻撃を当てることができずにHPを削られきってしまう。
焦る気持ちを抑えて、SPポーションを飲みながら冷静に鹿を追う。
「逃げるなー卑怯者!」
そんな事を言っても何も変わらないのはわかっているが少し文句を言ってやりたかったのだ。
だが鹿はそんな聞こえないはずの私の声に反応して動きを止めた。
私の声に反応したと言うよりは何かを見つけて慌てて止まった。という方が正しかったような気がするが
特に何も見当たらない(見えていないが)。
まあ私よりも感覚が鋭くてもおかしくない野生生物の鹿が反応したのだから何かがあってもおかしくは無いのだろう。
何かあっても困るので感知系統のスキル上げは諦め、手早く立ち止まった鹿を殴り殺して周囲を確認する。
だが何も見当たらない。
木の後ろ、土の中、どこを感じ取っても違和感すら無く謎は深まるばかりだ。
魔力感知にも気力感知にも反応はない。
不思議に思いながらも狐の面に少しずつ慣れてきたと実感しながら帰路につく。
その途中、狼に出会った。
その狼はおそらくはレッサーウルフだろう。
その狼は飛びかかってきた。
私の真横に向かって。
これはどういうことだろう。
何もない所に反応を示している。
…バグかな?
ただ、何もない所に反応を示しているという点においては先程の鹿とも重なる。
こんなに連続でそんなバグが起こるものなのだろうか…。
私は今までにこんな状況を経験したことが無い。
つまりはもしこれがバグでないと仮定するならば、この状況は私が最近したことに関係しているはずだ。
最近したことといえばなんだろう。
…爺さんとの訓練?クランの設立?どれもしっくり来ない。
あ、もしかして…狐の面の説明文を確認することに。