第五十話 注意の合間
「…そうじゃな、まだお前には早いと思っておったが不出来な弟子の成長のためじゃ、師匠であるワシが胸を貸してやろう。」
{クエスト 愉快な修行by拳鬼 が発生しました。}
「何言ってんのよ、師匠のくせに弟子を殴って修行の妨害をする基礎的なマナーすらなってない爺さんが。」
こうして私は師匠と直接戦闘することになった。
「どれ、先手は譲ってやろう。」
「じゃあ、有り難っっっ」
「おお!避けたか」
「何で先手譲るって言ったのにそっちから攻撃してくるのよ。」
「なぜ戦いの前に律儀に本当のことを言わねばならんのじゃ?」
「…」
………
ヤバイ、マジでヤバい。この爺さん強すぎる。
全然歯が立たなかった。
残念ながら今日はまだ爺さんの言ってた自分に合ったオーラを見つけることはできなかった。
でも成長したという実感はある。
先生と戦っていたあの時の集中と、戦闘中は常にゆっくりと動く体のもどかしさに近いものを感じるようになってきたのだ。
先生に勝ってからはVRゲームそのものに手を付けていなかったからかなり腕?がなまっていたようだ。
先生との戦いは動きを止めればゲームオーバーだった。
下手に良い攻撃を貰えばそのまま連撃に繋げられて一瞬で試合は終わった。
そのため次に動くべきはどこか、次に相手はどうしてくるかを常に考え続けなければダメだった。
その技術が再び私の身につき直している。
このゲームはステータスによって、思考速度や動体視力に補正がかかるので、自分で思考を加速させ何とか敵との戦いに思考が追いつく、みたいな事にはあまりならないのだ。
そのためこの爺さんとの実践は私の勘を取り戻すのに最適と言っていい訓練だ。
だがそれでも爺さんは追えなかった。
常に油断すること無く、爺さんの動きを追い続けるが、補足すら出来ない。
たまに追い付くことができるが、追いついたと思ったら更に速度を上げられる。
すると追いきれなくなった私は四方八方から拳で滅多打ちにされる。
オーラで守る暇なんて無い、無様に倒れ伏す。
これの繰り返しだ。
結局私はあれから爺さんに一度も触れること無く、ログアウトした。
今日も今日とて爺さんと訓練。
もうかなり勘を取り戻している。
それでもまだ見えない。
もうこれからはこれまでのようにテンポよく戦闘技術が上昇することはないだろう。
なので私は今、爺さんに拳闘士の身のこなしについて学んでいる。
剣士の身のこなしはそれなりに上手だと自分としても思う。
なんせ数年間ずっと剣士の身のこなしは見続けてきたのだから。
だが私は拳闘士だ。
剣士ではない。
という事で私は一度剣士の動きを忘れ、拳闘士としての動き方を1から学ぶことにした。
「違う!もっと腰を入れろ!、もっと姿勢を低く!」
そんな言い方すること無いだろうって感じだしバンバン叩いてくる。
爺さんめ、私のほうが強くなったら覚えとけよ。
……
{クエスト 愉快な稽古by拳鬼 をクリアしました。}
……終わった、か。
「ふうぅ〜」
私はいつぶりになるか分からない息を深く吐き出していた。
あの爺さん散々私のことを殴って私に自分の技術の基礎を叩き込んだとか言って勝手に満足して帰っていきやがった。
ふざけやがって、戻ってこい!
私は今までお前を一撃殴ることを夢見て訓練してきたんだぞ!
さっさと出てこい!
そう思ったが口には出さない。
理由はまだ勝てないことぐらい自分でもわかっているからだ。
でもこれだけは言わせてほしい、報酬は?
これまでのクエストでは金貨やらをもらっていた。
だが今回はもらっていない。
おい、今回はまじで頑張ったんだぞ。
頑張り過ぎなぐらい頑張ったんだよ?
出てこいよ、おい!
何かよこせよ!
……
私があのクエストを始めてから三時間目
歩き方、姿勢などの基礎が固まってきた。
「いいぞ、その調子だ。」
三日目
体の使い方などを学んでいる。
「違う!」
「ゴン」
十三日目
反復練習。
「何だその足は?」
「ゴン」
二十五日目
技について教えてくれるようになった。
「形だけではないか!力が込もっておらん。力を込めろ力を!」
「ゴン」
三十二日目
一通りのことを教えたそうなので教えたことを実践。
「身についておらんではないか、反復練習はどうした!」
「ゴン」
三十四日目
「そろそろ魔物たちが、攻めてくる頃じゃろう。まだまだ未熟じゃがとりあえずだいたいのことの基礎を教えはしたからリベンジに行くまでは反復練習なり狩りなりして戦いまで備えておくことじゃな。わかったか?」
「……う」
「返事が遅い!」
「ゴン」
「ではな」
まあ要約するとこんな感じ。
これを一日に四時間した。
現実の時間でね。
五倍だから体感20時間だ
まあ別に訓練に文句があるわけではない。
私にとって自分が強くなっていると感じる時間は何より嬉しいひとときだし、現実でもあまりすることがないので特に時間に文句があったわけでもない。
だが注意の合間に何故か入る拳。
あれは我慢できない。
あれで私が倒れ伏すと「早く起きろ〜」とか言ってくるのだ。
「黄」を纏っていても関係なく倒れ伏すことになる。
逃げようとしても絶対当たるし結界があろうとなかろうと関係なく同じぐらいのダメージを与えてくる。
これがあったから本来なら労るべき、か弱い?老人を殴りたくなったのだ。
まあとにかくクエストは終了した。
確かに成長したという実感はあるが、それはあくまで数値上には現れることのない強さである。
圧倒的なステータス差で目で捉えることもできずに死にたくはない。
狩りでもしてレベルでもあげようと思ったが、そういえば進化、ランクアップをどちらともしていなかったという事に気がついた。
しまった。
不味い、不味すぎる。
これだけの経験でジョブレベルが一体いくつ上がるはずだったというのだろう。
たしかもうランクアップしたような気が〜などと現実逃避をする。
「す、ステータスオープン」
つい声に出して言ってしまった。
それに声が震えている。
だがそこに表示されたステータスは私の想像とは全くの別物だった。




