第四八話 クラン設立
こうして私は結界を教えてもらいクッキーの店を出た。
その後結界を活用した攻撃や防御、回避などを試すために訓練場に行く。
暫くの間空中ジャンプや強度について調べた結果は使い勝手が悪いこの一言に尽きる。
なんせ結界が脆すぎて全力で踏めば結界が破れ、中途半端な速度で動くことになる。
そして逆に防御では一箇所に留まって動かすことができないため自身を守るのも苦労しそうだ。
攻撃は敵が来そうな場所に結界を置くぐらい、ただそれも感知されれば簡単に見破られ魔力の無駄となる。
それに空中でジャンプする事を目的とした場合、足場を作らなくてはならないため、結界ができるまでのタイムラグ中に、どこでどんな動きをするかが相手に簡単にバレてしまう。
これ、どうしたらいいんだ?
……
しばらく試行錯誤した結果別に魔法を使うのは詠唱する必要がないということが分かった。
因みに方法は詠唱しなくても魔力の形を覚えていればその形に整えることで発動が可能だった。
ただ数時間やり続けてやって分かったのはそれだけだった。
特に結界が動かせるようになったり、固くなったりなんてことはない。
なにか方法はないのか?
そう思い私は魔法の掲示板を覗いてみることに。
…どうやら魔法の強さは魔攻、魔力操作、スキルのレベルで判断されるらしい。
つまり私がやるべきことは魔力を動かすことだ。
そう思い暫くの間魔力を動かすことに集中した。
私の意識を取り戻させたのはフレンドチャットだった。
{お〜い、ハルちゃ〜ん時間空いてる?}
どうやらクッキーかららしい。
{空いてるよ}
{なら私の店に来てくれない?アマメちゃんが直接言いたいことがあるんだって}
{分かった}
私には特に呼び出されるようなことに心当たりはないのでなんのことだろうかと思いつつ、待たせても悪いので早足で向かう。
店に着けば既に二人はいた。
まあ呼びつけられたのだから当たり前か。
「ハルさんは何をしていたの?」
アマメさんが聞いてくる。
魔法の練習。
「ところでなんでハルさんは強くなりたいんだい?」
アマメさんが聞いてくる。
ちょっとどうしても倒したい敵がいるんです。
「そうか…ところでハルさんはこのゲームにどれくらいの情熱を持っているんだい?」
情熱がどうのこうのってのはよくわかんないけどそりゃあやる以上は全力でやって楽しむし、そのために妥協はしないよ。
「妥協はしないってどんなことでも?例えばPKとかNPCを殺したりとかも?」
勿論。ゲームには楽しむために来てるのに妥協なんてもったいないでしょ?
「…そうだよね、やっぱりやる以上は全力を尽くすよね。じゃあさ、ここに居る三人でクランを作らない?私達はとにかく楽しみたいじゃん。だから私達は協力もいいけど、常に目的を一つに動くわけではなく、自由にとにかく楽しむことを目的として動くクランを作ろうよ。私達が楽しむためなら手段も選ばないクランをさ。あとクランの恩恵を受けるためにさ。なんせ私達は今どきの人間では珍しく全員ゲームで楽しむ為なら妥協する事ができないんだから。」
私への問に満足したのか何なのかいきなりこんな提案をアマメさんがしてきた。
「私は別にいいよ。」
私もいいかな。
「よし!それじゃあ決定だね。この三人であらゆる手段を使って、この世界全てを楽しみつくそうじゃないか。じゃあクラン設立だ。ってあれ?」
「どしたの?」
どうしたの?
「……ねえ、二人とも。お金持ってる?」
どうやらクラン設立にはなぜか、かなりの金額(一万ゴールド)がいるようで私とクッキーはがめつい商人に皆が出すものの価値が三等分になるようにと持ち物ほとんどをむしり取られた。
まずはクランの名前を決めなければならないようだった。
外国語のかっこいい名前とか色々案が出たけど結局、皆いざ決めるとなったらカッコ良すぎる名前は恥ずかしかったので比較的マシな部類だった物にした。
私達は他の人達とは少し違い、ゲームの中では何でもするだけの覚悟があるから狂気などの象徴である月と、何らかのルールに従って妥協などをするのが嫌いなため、自由などの象徴である猫をあわせて「ルナティックキャット」にした。
次に決めなければならないのはクランのルールだった。
もしも守らなければ何らかのペナルティが与えられるギルド内でのみ通用するルール。
それはそのクランのあり方を決めるものなので慎重に決めてくださいなどとシステムが言っていたが私達のクランのルールには「仲間を裏切らない」そんな抽象的な一項しか載っていなかった。
だがこれでいい気もした。
あり方を決められ選択肢を狭められるのはここに居る全員嫌だったから。
こうして私達のクラン「ルナティックキャット」はひっそりと誕生した。