第四四話 決着
「我の力が遠距離からの攻撃に限定されたものだと勘違いした代償は重いぞ。」
竜はそう言いその爪を振るう。
私は爪が振るわれた瞬間、焦燥感に駆られた。
なんせその竜の爪は私に驚くほど鋭く迫ったからだ。
流石に焦った。
あっぶな、マジでこいつ接近戦のほうが得意かもじゃん。
なんせその爪速は集中した私の視界でも止まらず迫ってくるものであり、回避し切ることができずに装備品の服が破れたのだ。
おそらく体に当たっていたら「黄」をまとっていても無駄だっただろう。
そう理解した瞬間全身もオーラを「赤」に切り替える。
この攻防の中で私は少しずつ気の編み込みを強化したものに変更して行っているが、全身が決着までに間に合うかは怪しい。
どんどん竜の爪速が速くなっているからだ。
「フハハハ、いいぞいいぞ、楽しくなって来たな。まさか貴様がここまでやるとは思わなかったぞ。」
こいつ戦闘狂かよ。
まあいい、私も楽しくなってきたところだし今度はこっちから攻めてやる。
私は攻撃を回避した瞬間走り出す。
奴が爪で攻撃してくるがそれを「黄」を纏った拳でパリイする。
「っな、貴様ぁ」
本気で焦ったような竜が本気で先程までとは比べ物にならないどころか目にも止まらぬ速度で迫ったもう片方の爪も見極めパリイする。
どうやらまだ全力ではなかったらしい。
だが竜は無理やり攻撃を放ったようなので体制を崩している。
そして私は奴の顔に向かってジャンプ。
すると先程までのおそらくは焦っていた顔、がこちらを見て変化する。
その顔は勘だが嘲るような笑みを浮かべているように感じた。
攻撃を食らわされるのにこちらを笑うわけ無いだろう、と自分でもその勘に微妙な物を感じながら顔面に拳を叩き込む直前、2つのことに気がついた。
1つはナックルが無くなっていること。
まあこれはどうでもいい。
どうでも良くはないが、おそらくは壊れたのだろう。
まあお金でも払えばきっと治るはずだ。
2つ目は奴がこちらに向かって口を開けていくということだ。
私はゲームばかりしていたのであまりファンタジーな生物の生態には詳しくない。
だがそんな私でもドラゴン、竜というあまりに有名な生き物がどんな攻撃をするかぐらい知っている。
ブレスだ。
そう、奴はブレスを吐く準備をしているのだ。
直感的にそう思いどうにか回避しようと極度の集中の中、まるで時が止まったかのように自分も敵もゆっくりと動く意識の中、必死に身を捩りつま先を全力でやつの顎を当て、無理矢理閉じようとする。
すると苦し紛れの攻撃が運良くクリティカル判定となり、全力で放った攻撃と同じ程の手応えを感じた。
しかし、それでも竜は当たりはしたが口を閉じるどころか小揺るぎもせず、その瞳は私のことを見据えていた。
そしてブレスが放たれる。
視界が再び赤に染まった。
…何故か私は生きていた。
今の攻防で生き残れる要素は皆無だったはず。
何故だ?
「クハハハハ、まさか最後の最後で攻撃を当ててくるとはな。やはり貴様、我の眷属にならんか?」
会話から察するにどうやら私はわざと攻撃を外されたらしい。
「ヤダ」
そう時間を長く一緒に過ごしたわけでも、たくさん喋ったわけでもないのに何故か自然と言葉が出てくる
「…そうか、まあいい、どうせ貴様はまだ生き返るのだろう?あと何回だ?」
「何が?」
「生き返る回数だ」
「私は異邦人だから無制限」
「なんと!何度でも生き返る者が存在している可能性があると眷属の魔物が言っておったが本当にそんなものが存在しておるとは…
「となると貴様とも近いうちに再び戦うことになりそうだな。」
「どういうこと?」
「なに、我々魔物の力が最大限に強化されるときが近いということよ。その時に知能のない魔物共の体が万能感で満たされ、大暴れするのよ。ほとんどの力、知恵ある魔物は保身のためにあまり活発にはならんのだ。だが我は強くなりたい、それに戦うのが好きだからの。そのお祭り騒ぎに乗じて大暴れするというわけだ。」
「じゃあさ、待ち合わせしない?その…言いにくいけど私も戦うのが好きでさ、それにあなたにはリベンジしたいから…」
「やはり貴様は面白いな、いいぞ、我としても強者との戦闘は大歓迎だ、まあ我には及ばんが貴様も強者の部類に入るだろう。それに貴様の動きは我も学ぶものが多い。」
……
話を聞いたところプレイヤー以外は4度の死で無に帰るらしい。
そしてそれは進化することでのみ回復させることができるんだと。
そしてその竜は最近転生したため、あと3度生き返ることができるらしい。
元々は主が居たため死ぬことはなかったが主が死んだため再び回数に囚われることになったとかなんとか。
「おや、もうこんな時間か、長々と引き止めてしまって悪かったな。せっかくなら送ってやろう。」
「え?いいの?」
「ああ遠慮するな。では我に背を向けろ。」
背を向ける。
するといきなり大ダメージを私が襲う。
!?何が起こった?
「クハハハどうせ貴様は何度でも生き返るのだろう?負けたのだから今回は大人しく死ぬといい、街まで送ってやる。ではな、また会う時を楽しみにしているぞ。」
…やられた、送るってそういうことか。
てっきり背中にでも乗せて送ってくれるもんかと。
ぐふっ、無念
そして私の意識は久方ぶりに闇に包まれた。




