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1話 毎回思うけど初投稿ってムズくない?

「手洗い教の教えは厳しいぞ?」みたいな作品です。

 午前3時。小さな子供ならおやつの時間であり、殆どの学生がバリバリ勉強をしている時間。

 ルイン王国の王宮。その最奥に位置する部屋で、とある男が頭を抱えていた。

「あんの馬鹿野郎どもが・・・」

 頭を抱える彼は、言うなれば平凡。目立って顔立ちが良いわけでもなく、背が高くも低くもなく。特徴と言えば30代にも関わらず20代後半ぐらいには若く見える所だろうか。

 名前は『中城なかじょう 臥煙がえん』。国務大臣と財務大臣を歴任するスーパーエリートなのだが、目立った能力も無く、反乱軍の立ち上げメンバーであるだけで新政府の大役を任された普通のオッサンである。

 椅子に座り、書類でほとんどスペースの無い机に肘をつき、彼は盛大なため息をついた。

「・・・・・・はぁ」

 手元の資料には、面倒を見ている子供達が引き起こした事件の被害報告がリストアップされていた。その数、およそ20。

「あんの馬鹿野郎どもぉ!」

 大切なことなので、彼は2度言った。

 彼は子供達が自立できるよう、言わばバイトの形で送り出していた。しかし帰ってきたのは昼の時点で請求書20枚。手伝いどころか邪魔しているようだったのだ。

「本当に何なんだよあの3バカども!バイトだろ!懇切丁寧に説明受けただろ!ちゃんと聞いてたのかよアホぉ!!」

 ガタッと椅子を蹴っ飛ばして立ち上がった臥煙は、勢い良く自室から飛び出した。

 そのまま30代のダッシュを見せた臥煙は、少しして古い木造の建物の前へやって来た。

 この『ルイン王国』王宮の修練棟は非常にこじんまりした板張りの建物で、元々が古い建物なのもあって田舎の道場と見違えるようなみすぼらしい外観をしていた。ルイン王国の英雄の多くがここで修練したという歴史があるため、誰も建て替えようとしないため古いまま残されている。

 血走った目で修練棟の扉を蹴り開けた臥煙。すると彼の目に映ったのは、スポンジの剣を持って佇んでいる少年と、死屍累々の男達だった。

「・・・・・・あ、おじさん」

 半殺しの男が数人、見ただけで明らかに骨折しているのが2人、他多数の怪我人が倒れ伏す中央に、スポンジを巻き付けた剣を持った少年が1人。

 男にしては少し小柄で線も細く、空色のパーカーを着込む彼の名前は『杉木 蓮』。黒髪で蒼目。先の戦争の英雄だが、今は弱々しい表情を浮かべて臥煙の表情を窺っていた。

「お、おじさん。その、これは・・・・・・」

 言い訳を必死に考えた蓮だが、思いつかなかったため黙って臥煙の言葉を待った。

 臥煙は修練棟の中を見回した。

 酷いものだった。

 さっきも言ったが、死屍累々の光景が広がっていた。白目を剥いた人、顔に大きな青痣がある人や、中には壁にめり込んでいる人もいて、とても鍛錬が行われていたようには見えなかった。

 精一杯に息を吸い込んだ臥煙は、盛大に叱りつけた。

「こんの阿呆がぁあああああ!!!!!」

 即座に正座した蓮は、大声で言い返した。

「おじさん!やっぱ俺に指南は無理だわ!殺しかける!」

「見れば分かるわ阿呆!!!!」

 臥煙は蓮に、兵に戦いを教えるよう言いつけた。まだ15のガキだが、大英雄と決闘して勝利を収めるぐらいには強い。適任だろうと考え、彼は蓮に私兵を任せた。しかし午前中の時点で多数の被害者を出し、わざわざ昼の時点で報告が上がってきて、今臥煙はここにいる。

「手加減しろ手加減を!」

「だからソレが無理だったんだって!」

 臥煙は蓮の前で頭を抱えたくなった。

 反乱軍時代。蓮は徹底的に『殺しの技術』を叩き込まれた。そして何百と人を殺し、しかし日常と完全に切り分けて生きてきたため笑いはするが、一度戦いのスイッチが入ったら相手を殺し尽くすまで止まらない。訓練という殺しの無いやり方はカラッキシだったのだ。

「・・・ごめん!おじさん!俺逃げるわ!」

 正座の状態から立ち上がった蓮が窓から逃走を図るが、臥煙はパンピーレベルの身体能力をフルに発揮して回り込むと、蓮の両肩を掴んだ。

「っちょ!おじさん!」

「分かった!お前に訓練が向かないことはよーーーーーーく分かった!だがちょっと待て!俺は残りの馬鹿2人を回収しになきゃならない!アイツらお前の言葉しか聞かないからな!一緒に行くぞ!」






 野球ドーム約3個分の敷地を目一杯に使って建てられた王宮は、その広さゆえに働いている人数が余所の王宮と比べて段違いに多い。なので巨大な王宮各所の清掃、王宮で寝泊まりする人の衣服を洗濯したりと、せかせかと働くメイドの姿もまた多い。彼女らの中には長年王宮で働いている人も多く、その動きは一挙手一投足が俊敏だ。

 しかし今日は、メイドの一部が作業を止めていた。

「ですから、どうして雑巾を捻じ切るんですか?」

「だって・・・、力を緩めたら絞れないし」

「誰も雑巾を捻じ切れなんて言ってませんよね?」

「し、仕方ないじゃん。力加減が分からないんだから」

「はぁ。どうしたものか・・・」

 メイド服に身を包む若い女性が、さっきの臥煙のように頭を抱えていた。

「うぅ・・・」

 涙目でメイド服の女性に叱られている少女は黒髪を肩より少し下まで伸ばしており、色は違うが蓮と同じパーカーを着ていた。名前は『中城なかじょう 灯香とうか』。臥煙の実の娘だ。

「はぁ。まずは力加減から覚えてもらわないといけませんね。また窓ガラスを割られても困りますし」

 雑巾を絞る前は、その雑巾で窓を拭いていた灯香だったが、ここでも力加減をミスって窓ガラスにヒビを入れていた。ようするに中城灯香という少女は、何をさせてもポンコツだった。ちなみに窓拭きの前は水汲みだったが、そこではバケツを盛大にひっくり返していた。

「・・・・・・ご、ごめんなさい」

 半日で請求書5枚分の働きをした灯香が座り込んだまましょぼくれていると、その小さな肩に手が置かれた。

「頑張ってるみたいだな。うん。そのまま頑張るように」

 どの口が言ってんだ、と言われそうなことを偉そうに言う彼は杉木 蓮だった。座り込んだまま声ですぐ蓮だと分かった灯香は、涙目で立ったままの蓮を見上げた。

「れ~ん~。手伝って~」

 蓮と灯香は臥煙の子供として長い間一緒にいた。その中で灯香は無駄に高スペックな蓮を頼ることが多くなっていった。ようするに甘え癖がついていた。

 甘々な声で助けを求めた灯香だが、蓮は慣れているため軽く受け流すと、背後に立っていた臥煙を見た。

「灯香って請求書何枚?」

 臥煙は即答した。

「5枚だ」

「勝ったな」

「いや14枚は恥じるべきだからな?ポンコツ度合いで威張るなよ」

 頭を抱える臥煙。すると臥煙の存在にようやく気づいたメイドは素早く直立し、恭しく頭を下げた。

「あ、おはようございます。大臣」

「あぁ。ウチの娘はどうだ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。何と申し上げればいいか・・・」

「何でもいいぞ」

「・・・・・・・・・ポンコツ、ですね」

「だろうな」

「その、どうやったらモップを事故で叩き折ることになるのか理解しがたく、何を指導したらいいか・・・」

「分かった。もういい。十分だ」

「駄目だな~灯香は」

「蓮の方は?ちゃんとやれた?」

「そりゃあもうバッチリだ」

「嘘つけ14枚」

「14枚って・・・。逆にどうやったの?」

「いや掃除で5枚も異常だからな?」

「どっちもどっちだ阿呆」

 いつもの会話をしていると、ふと蓮が言った。

「てことは14,5,1枚か。ダントツで俺が1番だな」

 すると、呪詛を込めた目をした臥煙が言った。

「被害額ならアイツがトップだ」

「え、マジ?1枚で?何したんだよ」

「お貴族様の家をぶち壊しやがった」











「ほら。失敗は成功の元と言うじゃないですか」

「失敗を繰り返す奴にそれを言う権利は無いからな?」

 所変わって王宮の端。貴族達の屋敷が建ち並び、一軒一軒が美麗な外観をしているため観光地にもなっている場所。その地区に今は、豪華絢爛であって精悍で趣のある建物とはそぐわない人達がいた。

 正座して臥煙を見上げる少女が1人。

 名前は『つじ 優奈ゆな』。特徴的な銀髪を肩で切り揃えている美少女で、身長は灯香より少し低いぐらい。彼女も色違いの蓮達と同じパーカーを着ていて、見るからに活発なのが分かる少女だった。

「お義父様。落ち着いて考えてください」

「誰がお義父様だ」

「私は誰ですか?」

「ポンコツ3号」

「美少女天才発明家の優奈ちゃんですよね?」

「自分で言うな阿呆」

「つまり100回失敗しても、泣きの101回目で成功すればいいってことですよね?」

「100超えてんじゃねぇか。てか何事にも限度ってものがあるんだよ。見ろ」

 臥煙が指差す方向に視線を移すと、そこには横倒しになった巨大な人型のロボットが一体。よく見れば、美麗な建物がそのロボットの下敷きになっていた。

「あれは200回分の失敗じゃないのか?」

 この時臥煙の背後では蓮が爆笑し、灯香がたしなめていた。そして銀髪のポンコツもまた一味違う。立ち上がって慎ましい胸を張った優奈は、自信満々に言ってのけた。

「つまりまた一歩!サイエンスの未来が切り拓かれたというわけですね!」

「違うわ阿呆!!!!」

 何度目かも分からない臥煙の咆哮が、ルイン王国の王宮に轟いた。











「お前ら3人、学校に通え。社会を勉強してこい」

「はいはい!俺小学校の範囲すら怪しいんすけど!」

「そうか。それは大変だな」

「あ、私も。今更3年通って研究をおろそかにしたら、『巨大人型決戦兵器』の開発が2年は遅れるので嫌です」

「必要なら補充を用意する」

 技術開発の分野で多大な業績を残した優奈だったが、すでに後進も育ってきていた。

「わ、私は・・・えっと」

「思いつかないなら無理に考えなくていいぞ。どうせ決定事項だ」

 思いつかず落ち込む灯香だが、好き勝手言うアホ2人よりは臥煙にとってよっぽど扱い易い相手だった。

「『春風学園』の名前ぐらいはお前らも知っているな?」

 『春風学園』。とある魔王が封印された地を代々守護するため建てられた学校で、1国から3人まで入学可能という少しどころではない変わった学校だ。

 名目は魔王と戦う精鋭を育てるための教育機関で、例年世界中から卵の時から一級品の曲者達が世界中から選抜されて集められる。言わば魔窟だ。かわいい子には旅をさせよ、とは言うが、平凡な臥煙にしては思い切った決断だった。

「危険じゃないんですか?」

 優奈が聞くと、臥煙は頷いた。

「あぁ。問題を起こせば殺されるかもな」

「国防はどうするんだ?」

 革命の英雄こと杉木 蓮は、国内にいるだけで他国による干渉を和らげる、言わば抑止力の役割を成している。まだ建国して日が経っていないため、この時期に蓮を国外へ送るのは相当なリスクを伴うものだった。

「それも対策済みだ。いいから、お前ら3人は一旦ルイン王国のことは忘れて外を見てこい。命令だ」

「「「・・・・・・・・・」」」

 3人(蓮は少し違う)は死力を尽くして戦ってきた。今更いなかったで居場所を失うのは嫌なのだ。しかも臥煙を1人にするということでもある。臥煙を失うことは、3人にとって親を失うことと同義だ。

「・・・・・・あのな」

 渋る3人を見かねて、臥煙が口を開いた。

「10年前のあの日から、蓮は一言も文句を言わずに戦ってきたな。どれだけ痛くとも、どれだけ孤独でも、お前は戦って戦って戦ってきた。

 灯香は生まれから災難だったな。妻が早くに亡くなって俺と2人、宛もなく放浪した。小さかった時のことを覚えているか?お前ずっと泣いていたぞ?それに蓮やアイツと出会って戦いばかりになっても、お前は強いままでいた。ちょっと抜けてる所はあるが、お前は十分凄いぞ。

 優奈も。一番凄惨な過去を背負っていながら、全くそういう側面を見せることをせず、無理してでも明るく振る舞っているだろ?ずっと不安で不安で、どうしようもないことを延々と考えて」

 親はバカにできないと、ふと思う時があるだろうか。親という者は、時には本人以上に子供のことを理解していることがあるが、今がまさにソレだった。

「だがな、お前達ぐらいの歳の子は普通に恋愛して、普通に両親がいて、親に文句を言って、ゲームして遊んで、腹一杯食って、安心して寝てるんだ。それが普通だ」

 普通。確かに3人とは縁遠い言葉だった。

「お前達に夢はあるか?無いだろ?それは多くを求めないからか?いいや、違う。外の世界を知らなすぎるんだ。例えば俳優や歌手を生で見たことがあるか?ああいう奴らは凄いぞ。キラキラが違う。お前らはそういうのを知らなすぎるんだ。だから『今の生活が続けばいい』、なんて言葉が出てくる」

 責任の一端が自分にあるからこそ、臥煙は強く訴えかけた。

「お前達はまだ若い。箱庭で生きてきて、何も知らないことは自覚してるだろ?

 だからまぁ、世界を見てこい。『楽しい』を見つけてこい。それが、親として俺ができる最善のことだ」

 黙る3人。その心は盛大に揺れ動いていた。

「・・・・・・まぁ、いても武力以外は役立たずなのもあるけどな」

 その一言が全てを台無しにした。

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