学祭・序
「第34回作戦会議を始めます!」
いつもの居酒屋にて、いつものメンバーで代わり映えのない日常。いつものごとく安達さんによる謎の乾杯の挨拶から始まった。ちなみに前回は第26回親睦会議だった。
「ほんとにあの人楽しそうだよなぁ。」
近藤がため息混じりに呟いた。
「まぁまぁ。高校の時よりかはマシだぞ。」
高木が苦笑いして言った。そういえばこいつはもう7年も安達さんの友達をしているんだ。さぞかし気苦労も多かっただろう。
「皆の者、飲んでいるかな?」
箸をマイクに見立ててこちらに向ける。まだ来店して5分、1杯目すら席に来ていない。なんなら竹内はトイレだ。
「安達先輩、近藤先輩が文句言ってまーす!」
高木がいやらしい顔をしている。気苦労していると思ったのは間違いだ。こいつも安達さんと同類だった。
「近藤は罰として部室掃除!」
「なんでだよ!まだなんも言ってないですって。」
「まだってことは言うつもりだったのね。」
ふふっと不気味な笑みを浮かべる安達さん。その横で笑いをこらえる高木。悪魔のツートップだ。
「まぁ、冗談はここまでで今日は結構真剣な話。」
安達さんの表情が引き締まった。
「うちのサークル、幽霊入れて15人しかいないじゃん?で、学祭で去年みたいにカフェやりながら演奏ってなるとどうしても人手が足りないのよ。」
まぁ確かにそうだ。去年まで30人近くの部員がいたが4回生になり、みんな引退してしまった。新入部員が高木も含めて2人しかいない。幽霊部員全員出てきたとしてもフル回転といったところだ。
「演奏やめてカフェだけにするとかは?」
「ダメ。前期の時点で何するか提出しちゃってるから今さら変えらんないの。」
「人数考えろっつーの。」
近藤はほんとに一言多い。まぁそれでもみんなそれには慣れている。安達さんは何事も無かったかのように話を続けた。
「まぁ10年変わらずおんなじだからさぁ。それに演奏しないなら場所も借りられないし。」
「じゃあどうする?」
4人で頭を抱える。何も思い浮かばない。少しして竹内がトイレから戻ってきた。
「あれ?どうしたの?」
オレは竹内に説明した。
「なら、4回生に頼むか人集めるかしたら良くない?」
簡単に言ってくれる。それが出来るのならこの第34回作戦会議とやらは行われていないだろう。
「あー!それもあるわ。てか、それで行こう!」
どうやら出来るらしい。難題はすぐに解決した。
「4回生は私と高木で声掛けるから、他に手伝ってくれそうな人はそっちの3人でお願いね。」
決まれば早いのが安達さんの長所である。
「あっ、おじさんは彼女さん連れてきてもいいんだよ?」
安達さんは本当に余計なことを言う。あの日からちょくちょく先生のことを彼女だと言ってオレをからかっては楽しんでいる。
「いいよなぁ、年上彼女とかさ。」
「違うって言ってんだろ!」
場が和んだところでようやく乾杯となった。
翌日、オレは竹内と2人で学内を歩いていた。4回生以外で手伝ってくれそうな人を探すなどなかなかに骨の折れる作業だ。
「竹内は心当たりとかあんの?」
「いや、まったく。」
自信満々に竹内が答える。
「そういうお前は?」
「オレもない。どうする?とりあえず部室戻る?」
「だな。まさかバイト雇う訳にもいかないし、チラシ巻く訳にもいかないしな。」
わずか20分程度でオレたちの散策は終わった。
サークル棟に戻り、部屋に入る前に竹内と二人でタバコに火をつけた。普段ならここで吸うことはほとんど無いのだが、他のメンバーは講義やバイトで留守。そういう時は廊下に限って吸うことが出来る。
「なぁ、お隣さんって学祭で何すんだろ?」
オレはふとした視界に入ったアニ研をみながら竹内に問いかけた。
「アニメ研究部って言うくらいだからアニメ関係じゃない?」
まぁ当然の答えだ。しかし学祭で名前通りに活動しないサークルがいくつかある。そして、文字通り学祭でまったく活動しないサークルもある。
「まぁ、隣同士だし聞いてみるくらいはいいかな。」
竹内も同調してくれた。付けたばかりの火を消して、2人でアニ研のドアを叩いた。
☆
「どうぞ〜。」
オレと竹内は中にいた人に招き入れてもらった。中に入り挨拶を簡単に済ませると竹内が訪問の理由を説明する。
「結論から言うと大丈夫だと思う。まぁ部長は講義中だから絶対とは言えないし、部員も参加するかどうかはまた別だし。とにかくうちは学祭は自由参加ってことで部としては何もしないからね。」
幸先の良い返事だ。とりあえずその場はお互いの部長が来てから改めてということでまとまった。