『余白』
先生と別れたあと、少し思うことがありオレは本屋に向かった。前に近藤たちと飲みに行った時に聞いたテレビは毎週見ていたが、引きこもってしまうラビリアンについてはこの2ヶ月で1度も言っていなかった。紗奈ちゃんや『教授』からもそういう話は聞いたことがない。もし、引きこもる可能性があるのなら最初の頃に言われているはずだ。なら先生はいったいどこでその情報を得たのか。心の隅に引っかかっていた。
ラビリアンのことが書かれた書籍を何冊か手に取り1冊づつ目次のページを開く。目的のものはどこにもない。
どこにも書いていないのなら消去法で答えは1つしかない。先生の周りにラビリアンがいて、実際に引きこもっている可能性だ。ただ、それならばなぜ周りにいることを隠すのか。あえて言わないようにしているのか言う必要が無いと思ったのか。
いや、オレがこの世界に来て1番安心したのは紗奈ちゃんがラビリアンで、その紗奈ちゃんと話を出来たことだと言ったことがある。頭のいい人だ。それがどういう意味なのか分からないはずがない。
なら、本当に伝え聞いただけなのだろうか。思考がぐるぐると頭の中を巡る。このままここにいても答えは出ない。手に取った本を棚に戻して店をあとにした。
店を出てしばらく歩いたあと、そういえば紗奈ちゃんに誘われていることを思い出した。
「もしもし、紗奈ちゃん、遅くなってごめん。今1人になったとこ。」
小さな嘘をついた。
「本屋さんでやましい本でも見てた?」
「えっ、なんで?」
「私、その本屋さんに入るとこだったのよ。声掛けようとしたけどちょっと間に合わなくて。」
驚いた。1日に2度も知人と偶然会うなんて。まぁ大学があるとはいえ小さな町だ。これからは少しだけ行動に気を付けよう。
「あー、ごめん。ちょっと調べ物してて。余計に分からなくて考え事。」
今のセリフには嘘は無い。
「そういう時ってあるよね。で、電話くれたってことはお誘いってことでいいんだよね?」
そういうつもりではなかった。ただ思い出したから電話しただけ。他意は無い。
「あー、そうそう。今からどうかなぁって。」
またひとつ嘘をついた。
「大丈夫だよ。もともと誘ったの私だもん。でもご飯って時間でも無いしどうしよっか?」
ノープランなオレは聞かれても答えることが出来ない。
「ごめん、何も考えてなかった。」
「ぽいね。じゃあとりあえず合流する?」
「そうしよ。本屋にいる?そこまで戻る。」
「分かった。じゃあ外で待ってるね。」
電話を切って来た道を戻る。時間は午後4時になろうとしていた。
紗奈ちゃんと合流して、何気ない話をした。先生のことを話さないようにしながら引きこもっているラビリアンの話題をすることは難しい、そう思い、紗奈ちゃんには何も言わなかった。いや、先生の話題を黙っている必要も無かったのかもしれない。でも、どこかで紗奈ちゃんにバレたくなかった。
その日は夕食を共にすることなく帰路に着いた。