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ラビリアン~異次元転移~  作者: ペンギン
6/13

なんかオレだけ『別』なんですけど

2005年9月12日。今日から後期が始まる。実に10年振りだ。サークル棟はちょくちょく来ているが学内に入るのは転移してきた時に『教授』に話を聞いて以来だ。だがあの日は中までは入っていない。校舎に入るのはこちらに来て初めてだ。


それにしても懐かしい。あちらこちらで歩きタバコを見かける。まだ健康促進法に罰則が無いのかそもそも健康促進法自体が無いのか、興味すら無かった。


そういえばこちらに来てからタバコを吸っていない。どうりで体が軽いしご飯が美味しいわけだ。帰りにコンビニで買って帰ることにしよう。




「あっ、いたいた!どう?久しぶりの学生は?」


紗奈ちゃんが遠くのほうが駆け寄って来た。夏休みの間、何回かご飯に行ったが、やはりかわいい。これぞ初恋の人。


(そういや、告白、、、まぁもういっか)


人生唯一の恋は答えも聞かぬまま今日終わらせることにした。


「ねぇ聞いてる?」


「あ〜ごめん、ちょっと考え事。」


「もう、また転移してきたのかと思ったよ。」


楽しい会話だ。


「紗奈ちゃんって何学部だっけ?」


「あっ、忘れてる!同じ文学部で同じ学科なのにぃ。」


そういえばそうだった。2回生になった最初の授業で見かけて、そのあと本屋で見かけて、京都が好きなのが一緒って分かって、話すようになって、そして恋したんだ。


前の地球ではこの後期、同じ講義を取らないように近藤その他大勢の手を借りたのだ。


「なんか不思議だよね。紗奈ちゃんと夏休み終わっても話してるなんて。」


「私避けられてたからなぁ。」


そういうと紗奈ちゃんはニコッと笑った。


「気付いてたの?」


「当たり前でしょ。2年半、1個も講義被らないとか有り得ないし。」


「まぁもう時効ってことで。今はこうして話せてるんだしそれでいいじゃん。」


オレは少し気まずくなって紗奈ちゃんから顔を逸らした。


「夏休みに何回もご飯食べに行ったのも時効かなぁ?」


「こういう時に年上の余裕見せるのはずるいって。」


「いいのいいの。ラビリアンの私たちにしか出来ない会話でしょ?」


「そうだけどさぁ。」


ところどころに彼女が3つ上ということを思い出す。でもそれがとても心地よかった。彼女と2人で話しているとありのままでいられる、そんなふうに感じていた。


5分ほど会話したのちお互いの友だちを見つけたためにここで別れた。


ブー、ブー、ブー


《さっきは楽しかった、またご飯行こうね!》


大人な対応だ。



「おいおい、朝からイチャイチャして羨ましいなぁ!」


近藤が不貞腐れたようにしながら近づいてきて背中をポーンと叩いた。


「イチャイチャなんてしてねぇよ。」


さっきまでのいい気分が台無しだ、なんて言える訳もなく、まだブツブツ言っている近藤を連れてゼミの教室に向かった。




東出ゼミ。もともと京都にあるどこかの大学で教授をしていた東出教授のゼミなのだが、このゼミを選んだのには訳があった。もちろん京都にいたからとかそんな単純なものではない。ここで上位の成績を取って卒業すると進路が優遇されるのだ。もちろん都市伝説などではなく実績があった。


まぁ元の世界では上位に入ることが出来なかったため、地元に戻り介護の仕事を選んだのだが。せっかくまたチャレンジ出来るのだ。やってやろうではないか。


「みなさん、おはようございます。後期に入り前期の成績を元にまた3つのクラスに分けさせてもらいました。上位15名は神武、続く20名は崇神、残りの15人は応神となります。」


それにしてもこの教授のネーミングセンスはどうなんだろうか。歴代の天皇の名前をクラスの名前にするとは。まぁABCとかで分けられるよりも味があっていいとは思うのだが。


「近藤はどのクラスだ?」


実は同じゼミなのだ。授業もほぼ同じ。サークルも同じ。近藤に会わない日はサークルに行かない日曜日くらいなものだろう。


「応神以外あると思うか?」


「まぁないな。」


「なんかムカつくなぁ。お前は?」


「崇神。すごいだろ。」


まぁすごいと言っても真ん中だ。3回生の後期までには神武に上がらなければ前と同じ結果になってしまう。まぁその時にはまたクラスの名前も変わっているのだろうが。




各々荷物を持って指定された教室に移動する。

そこで1つ大事な問題があることに気付いた。近藤と離れてしまっては話す相手がいない。正確に言うと覚えていない。もはやはじめましてと言ってもいいレベルだ。


いや、方法はある。素直にラビリアンということを打ち明ければいい。しかし、夏休みにサークルのメンバーと顔を合わせるたびに根掘り葉掘り聞かれてうんざりしていた事実もある。実際安達さんや高木に至ってはおじさんと呼んで来るのだ。この中にもそういう人間がいるのかもしれない。オレはまるで犯人でも探す探偵のように一人一人をゆっくり観察した。



「あの、ぼくたちのこと覚えて、、、ますか?」


ひょろっとした学生が1人、オレに近づいてきてそう尋ねてきた。明らかに警戒されている。


「えっと、、、なんでそんなに他人行儀?」


「えっ、だってその、背中の紙に、、、」


「背中?」


背中に手を伸ばす。紙だ。もう察しはついた。多分近藤なりの優しさのつもりなのだろう。しかし、古典的過ぎる。


『この人はラビリアンのおじさんです。夏休みに転移してきたから前期のことは忘れてると思うのでよろしくどうぞ』


いつか近藤を社会的に抹殺してやろうか、なんて考えているうちにオレの周りに人が集まってきていた。


「元は何歳?おじさんてことはめちゃくちゃ上とか?」


「この世界にはもう慣れた?」


「前の世界のこと聞かせてよ!」


恐れていた事態だ。こうなりたくなかったから言うかどうか悩んでいたのだ。やはり近藤には社会的な制裁を食らわすしか無いのだろう。


「はいはい、みなさん静かに。東出教授が来るまでの間は自習じゃないですよ。後期のゼミで使う資料配布するから彼との会話はまたにして席に座って。」


いつの間にか教壇にいた女性が空気を変えた。


彼女のことは覚えている。話したこともないし名前自体は忘れたが、ことある事に近藤が東出教授の愛人だと言っていた。もちろん根拠の無い話だ。まぁたとえ事実だとしてもそこは大人として責任を取るのならそれでいい。


「資料の中に後期の講義一覧と選択記入用紙も入っているので各自金曜日までに記入して学生課に提出してください。提出を忘れると単位が貰えないので気を付けてください。諸注意は別紙にありますのでよく読むように。質問はありますか?」


質問する学生はいない。まぁ2回生の後期なのだからみんな当然この仕組みは理解している。


オレも周りに合わせて講義一覧を取り出して視線を落とす。


懐かしい。何曜日の何コマ目に何を入れるのか、近藤や竹内たちとパズルのように組み合わせていたのを思い出す。



授業が終わり教室から解放された。今日はもう何も無い。サークルにでも顔を出そう。そう思って外に出ようとした時に不意に呼び止められた。


「ちょっといい?君、ラビリアンなんだよね?」


講義で説明をしてくれた女性だ。


「えぇ、そうですけど。」


「いきなりでごめんなさいね。君のことは教授のたちの中でも話題になってて。ほら、ラビリアンって現役とはちょっと違うでしょ?だから講義の選び方とかも他の人と違って、時間あるかしら?」


特に決まった約束とかも無い。それに夏休みの間に講義を理解出来るのか考えたこともある。聞いておいて損は無いだろう。いや、聞いておくべきだ。


「東出教授の部屋に行きましょ。」



彼女に連れられて東出教授の部屋に着いた。



「そこに座ってくれる?」


案内されるまま部屋の中央にあったイスに腰をかけた。応接用の座りやすいイス、という訳ではなく簡易的なイスだ。


「ごめんなさいね。教授は研究と学生のことにしか興味なくてね。他の教授の部屋に比べて質素でしょ?」


他の教授の部屋は知らないが、確かに山のような資料がある以外は何も無い。


「あの、それでラビリアンは講義一緒に受けられないんですか?」


ここに長居する理由も特に無い。さっさと要件だけ聞いて帰ることにしよう。


「あぁ、そういう訳じゃないんだけどね、必修科目が増えるからそのコマでは他の講義取れないの。あと、隔週の月曜日と水曜日に転移するまでに受けた講義の復習をするのよ。」


復習する時間があるのはありがたい。


「まぁラビリアン自体この大学に4人しかいないし、この後期は君1人だけだから君さえ良ければ復習は空いてるコマに自由に入れても大丈夫。それで期末までに担当官がB判定以上を出すとこれまでの単位を再取得するのよ。」


これはもしかしたらかなりの難易度があるのではないだろうか。通常の24単位に加えて、これまでの3期分、72単位もやり直しになる。


「B判定取れなかったらどうなるんですか?」


「3回生の前期にまたやり直しよ。まぁ4回生になるまで受け続けること自体は出来るんだけど就活とか考えたら3回生のうちがタイムリミットかな?」


彼女の説明はよくわかった。まぁとにかく頑張らないといけないということだ。


その後少しだけ雑談をしてから部屋を出た。




ブー、ブー、ブー


《夜時間ある?ご飯食べに行こ!》


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