昔の『友』は今も『友』
オレは気付いたら違う宇宙の同じ地球に転移していた。
その地球では転移者はラビリアンと呼ばれていた。
そして初恋の紗奈ちゃんもラビリアン。
何がなんだか分からないまま始まった別の宇宙の同じ地球ライフ!
激動の1日が過ぎた。頭の中は整理できていないし、考えるだけ疑問が湧いてくる。宇宙?全知?わけが分からない。
時間だけが過ぎていく。
(はぁー、なんなんだよまったく。)
それにしても13年前に住んでいたとはいえ、ここは落ち着かない。まるで他人の家に1人でいるみたいだし、携帯だってスマホじゃないし、なんだか変な感じだ。
ピーンポーン
深夜、インターホンが鳴った。
ガチャガチャ
ピーンポーン
ガチャガチャ
インターホンとドアを開けようとする音が交互にする。恐怖だ。
「おーい、帰るのめんどくさいから泊めてくれぇ。」
ドアの外から声がする。
(あー、そういや学生の時は溜まり場だったか)
過去の記憶が少しづつ蘇ってくる。確か声の相手は近藤なんとかだ。なんとかと言ったのは卒業してからあってなく記憶から消えていたから。
「今開けるー!」
ドアを開けるとそこには近藤なんとかがいた。
「お前が鍵かけるとか珍しいじゃん。」
近藤がドアをくぐりながらオレの肩をトントンとする。そういや昔は誰が来てもいいように鍵は開けっ放しだった。
「あとで竹内も来るってさ!なんか話したいことあるんだってよ!」
(竹内かぁー、懐かしいなぁ)
過去の記憶がどんどんと蘇ってくる。よく3人で一緒に馬鹿やったもんだ。またあの日々を過ごせるなら転生とやらも悪くないかもしれない。
「玄関で何してんだよ。」
近藤がオレを部屋に入るように促してきた。
2人だけの沈黙の時間が続く。何を話していいのか分からない。当たり前だ。この地球で昨日まで近藤と何を話していたのか分からないのだから。
「ごめんな。」
近藤が口を開いた。
「竹内来たらさ、パァーっとしようぜ。だからほら、その、元気出せよ。」
(ん?何がだ?)
「紗奈ちゃんだっけ?どうせダメだったんだろ?」
そういえば今日は告白の返事を聞く日だった。ラビリアンなんてことを聞いてすっかり忘れていた。彼女も帰りに何も言っていなかったし。
『昔の家覚えてるよね?今日はそこに帰ってゆっくり休んでね。また明日続き話しましょ。』
彼女からはそれだけしか言われなかった。告白のことなんてすっかり無かったことになっているようだった。まぁ当然と言えば当然だ。彼女に告白したオレはいなくて、目の前にいるのは32歳のオレなんだから。
(そういえば、消えたオレはどうなったんだ?)
また新しい悩みが増えた。明日紗奈ちゃんに聞いてみることにしよう。
「おーい、聞いてんのかよ。」
「あー、ごめん。告白だろ?」
「そうそう、振られるって言ってたから来てやったんだよ。」
「それがさぁ、無かったことになった。」
「は?えっ?意味わかんねぇんだけど。」
「いや、説明めんどくさいしお前なら分かるだろ?」
「いや、無理だし!」
「はははははっ。」
「笑い事じゃねぇって。説明しろよ。」
近藤ならラビリアンのオレを受け入れてくれるのだろうか。いや、ラビリアンの存在は全知創世の書とやらで知ってるはずだ。なら打ち明けてしまってもいいのかもしれない。
「近藤だよな?」
「はっ?近藤ですけど?」
「オレら友だちだよな?」
「あ?1年前に出会ってからそのつもりだけど?」
「あの、オレさぁ、その、、、」
「ラビリアンか?」
驚いた。なんて察しのいい友人なのだろうか。いや、当然といえば当然か。皆がこの世界の仕組みを知っているのだから。
「物分り良くて助かるよ。」
「まぁ友だちだからな。」
そういうと近藤はカバンからメモのようなものを取り出した。
「お前来たのって今日だろ?で、混乱しててよく分からん、そんなとこじゃねぇの?」
「どこまで聞いた?」
「あー、宇宙は無限にあって、同じ地球があって、歴史がどうのこうのって。」
今日聞いたことなのにうまく説明出来ない。頭では分かっていたつもりだったのに言葉にするにはまだまだ時間がかかりそうだ。
「多元宇宙理論。そう呼ばれてるらしいぞ。で、その中で別の宇宙の地球に転移しちゃうのがラビリアン。どだ?分かりやすいだろ?」
確かにわかりやすい。『教授』が1時間近くかけて言っていたことがたった一言で終わってしまった。
「近藤って頭良かったんだな。」
昔は竹内と3人で馬鹿なことしかしてなかったから気づかなかっただけなのかもしれない。
「違うよ、それくらい子どもでも知ってるつーの。」
「全知創世の書か。」
「そういうこと。6年前に白紙の書を見た瞬間に頭の中に入ってきたんだわ。それこそ昔から知ってたみたいにさ。」
刷り込みみたいなものだろうか。
「で、お前は自分がラビリアンってどこで聞いたわけ?」
オレは近藤に転移してから近藤が来るまでのことを説明した。
「あー、図書室の『教授』かぁ。あの人の話長いからなぁ。」
「あの人って何者なんだ?」
「何者も何も『教授』だろ?」
1人でいる時に疑問に思ったことのひとつがあの『教授』の存在だ。記憶があやふやだが元の世界ではあの人はいなかった、そう思っていた。
「オレの記憶の中じゃあの人って大学にいなかったような感じなんだよなぁ。」
「そんなわけないだろ。未来の中で起こることは変わっても存在する人は変わらない、ってのがその多元宇宙理論のはずだからさ。」
「立場が変わることとかはあるのか?」
「いやぁ俺は転移したことないし詳しいことは分かんねぇけどあるんじゃない?」
全知創世の書でも全てが分かるわけでは無いようだ。多分、仕組みとかそういうのだけが分かるのだろう。
「まぁ立場が変わるって言ってもこの世界が歴史から外れたのって6年前だろ。元々関係ない人がたった6年で教授になるのって無理だと思うし、多分記憶にないだけだろ。」
至極もっともな意見だ。大学にいたのは前の地球の中で13年前。記憶に無くても仕方ないことだ。
「ていうか近藤に聞くのも変だけどさ、昨日までのオレってどうなったんだ?」
「あー、別の宇宙に転移してるはずだ。」
「じゃあその転移先のオレはまた違う宇宙の地球にすんのか?」
「そうだと思うけど、うーん。」
近藤が首を傾げた。
「お前が転移して他のお前も転移してって繰り返すとどっかで1人余らないか?」
確かにそうだ。いや、それなら最後の1人が元いた世界に収まっているのでは無いのだろうか。
「元いた世界に転移してんじゃねぇの?」
しかし近藤はすぐにそれを否定した。
「いや、それは無いと思うぞ。理論において転移先ってのは歴史から外れた世界だけって決まってるはずだから。」
近藤は知ってる限りのことを分かりやすく説明してくれる。今のオレにとってはとてもありがたい存在だ。それに甘えたように頭に浮かんだ疑問をすぐに近藤に尋ねた。
「ラビリアンの中でさ、元からラビリアン知ってた人もいるんだよな?」
転移し続けるのなら有り得る可能性の話だ。
「いや、そういやそれは聞いたことない。転移して来た奴ってのは歴史通りの地球からってのが一般論なわけだし。」
「それも全知創世の書の知識か?」
「いや、今まで発見されたラビリアンの中にいなかったってだけではっきり言うとテレビで得た知識だ。」
なぜか少しドヤ顔の近藤にオレは少し呆れながらも、この世界のことを分かりやすく教えてくれるこいつと友だちで良かったと心から感謝した。
「まぁ宇宙だ転移だなんてのは考えても分かんないしやめようぜ。」
何を書こうとしていたのか、結局何も書かれずなんなら開かれもしなかったメモのようなものを近藤はカバンにしまった。
ほどなくして竹内も合流し、元の世界の話や今の世界との違いについて盛り上がった。
『友』はやはり次元を超えても『友』だった。
わけが分からないままとにかく別次元地球ライフ1日目終わり!