謎の女の子
「おーい!」
誰かに呼ばれてオレは目を覚ます。
「いつまで寝てるつもり?」
「あれ?『教授』は?」
まだ少し頭がぼーっとする。そんなにも深く寝てしまったのだろうか。
「教授なら講義終わって帰ったぞ。」
「講義?さっきのやつがか。」
「は?寝てたくせに何言ってんだよ。」
どういうことだ。寝たのは話が終わってからのはず。それまではちゃんと聞いていたし、やり取りだってしたはずだ。
「夢でも見てたんじゃね?それより学祭のことで話があるって女の子来てるぞ。」
そいつが指差すほうには1人の知らない女の子が立っていた。
「誰?」
「お前の知り合いじゃねぇの?」
「いや、ほんとに知らない。」
「なんだよそれ。まぁとにかく行ってこいよ。」
そう言ってそいつはオレの肩をぽんと叩いてたち去っていった。とりあえず呼ばれているのだから行くだけ行ってみよう。
「あの、何か御用ですか?」
パッと見、まだ10代だろうか。白いワンピースにグリーンのニットカーディガン。胸くらいまである髪はやや茶色で多分誰が見てもかわいいと思える見た目をしていた。
「覚えてませんか?」
そうは言われても全く記憶に無い。オレだって男だ。こんなにかわいい子を忘れるわけも無いはずだ。
「まぁ仕方ないですよね。私自身、外に出るの1年ぶりですから。」
あどけなく笑いながら話す彼女に、不意にドキッとした。
「1年ぶり?」
「はい、いわゆる引きこもりってやつですね。」
「えっと、オレに会うために1年ぶりに出てきたの?」
「正確にはちょっと違うんですけど。ゆっくり話したいから場所変えません?」
返事を聞く前に彼女はオレの手を取り歩き出した。荷物は、まぁ財布は持ってるしまた後で取りに来たらいいか。
それよりもさっきあんなことがあったのに学内は驚く程に日常だ。まるで何も無かったかのように。これも全知創世の書の力だというんだろうか。
「ものすごく不自然でしょ?」
見透かしたように彼女が言った。無邪気な笑顔にどこか惹き付けられる。そんな時だった。
「あー、おじさんが若い子と手繋いでる!」
この楽しそうな声は安達さんしかいない。
「年上の次は年下とかおじさんも隅に置けないねぇ。」
そういえば安達さんもなかなかかわいい部類に入るんじゃないだろうか。そういう目で見たことが無かったから意識していなかった。
「彼女とかじゃないから!」
「彼女じゃないならどういう関係?」
「どういうっていうかなんて言うか初対面かな?」
安達さんの顔が驚いた顔のまま固まった。
「初対面じゃないのになぁ。」
隣を見ると無邪気な表情を浮かべて笑っている。
「安達さんですよね?お久しぶりです。」
彼女は安達さんのことも知っているようだった。しかし安達さんはまた驚いた顔をして固まる。
「不思議ですよね?でも私は2人のことを知っています。」
不思議なことが続く。さっきの『教授』の話、あんなことがあったのに驚く程にいつもの日常、
そして謎の女の子。
「よかったら安達さんも一緒にどうですか?」
「一緒にってどこに?」
「お話するだけですよ。楽しいことが好きならぜひ!」
彼女は安達さんのツボを押さえているようだった。
「うーん。学祭の打ち合わせも行かなきゃだし演奏の練習もあるしなぁ。」
こういうところは意外と真面目だと思う。責任感が強い。
「損はさせませんから。それにこの人も一緒にいますから。」
彼女は安達さんに微笑みかけた。
「まぁいっか!楽しくなかったらおじさんに責任取ってもらおっと!」
彼女と安達さんが顔を見合わせて笑っている。
それから3人で場所を変えた。




