日記
それは、語りかけてきた。耳では無く思考に。脳裏に直接、語りかけてきた。
【もし、一日だけ、書いたとおりのことがその通りに必ず起きる日記があるとしたら、貴方はどうしたいかね?】
私の目の前にあるのは、一冊の本。仮面のマークが付いた本。その本を無表情の男が私の目の前に突き出している。
【嘘か本当か分からないとしたら、日記に書き込んでしまえばいい。嘘ならば何も起こらない。本当なら、その通りに起こる。さあ、貴方はどうしたいかね?】
声の主は私に問いかけてくる。その声の言うとおり、嘘ならば何も起こらない。本当ならば起こる。
私は声の主に導かれるようにして、本を受け取り、日記の一ページに書き込んだ。
『明日、私の知人が麻薬所持の疑いで警察に逮捕される。自宅からは麻薬に似た粉糖が自転車のサイドカバーから発見される。知人は容疑を否認する。どこで手に入れたかは不明。ゆえに警察は知人を問い詰める。その後、釈明される。
その後、知人の自宅が小火に遭い、干していた洗濯物は全焼する。家屋は無事。小火は知人の煙草の不始末から』
それは、知人に対する私の昏い願望。出所不明の麻薬など有り得ないこと。私を苦しませる知人への仕返しを込めている。
【嘘か本当か、どちらにしても構わない。詳細に書いても外れてしまえば嘘になる。麻薬が突然出ることも、不明でも、火事になることも。ならなかったら全部が嘘。本当に起これば真実になる。良く考えられたものだ。さあ嘘か本当かどちらになるかなーー】
声の主はそう言うと、本共々煙のように消えていった。白昼夢なのか私には分からない。
明日の晩、私が自宅で呆然と寛いでいるとスマホが鳴った。見ると、友人からだった。
何でも、知人が麻薬所持の疑いで逮捕されたそうで、本人は否認しているとのこと。自転車のサイドカバーから麻薬に似た粉糖が発見されたそうだ。
さらには、知人の煙草の不始末で小火が起こり、家屋は無事だったが洗濯物は全焼してしまったようだ。
洗濯物だけで済んで良かったのか。知人にとっては災難だったというべきか。
知人の近隣住民たちも、自分たちが住んでいる町でこんな騒動が生じたなんて信じられないようだった。
私自身、とてもじゃないが信じられなかった。無論、別の意味でだがーー。




