道案内
「ううんっ」
僕の名前は、どうでもいいし、これと言った特徴もない、普通の奴である。一日中ゲームをしていたいが、徹夜できるほどの維持、あ、いや意地は無く、多少の厨二病を抱えつつも、殴り合いをしようとは思わない、それが僕である。そんな僕がなぜわざわざ自己紹介を含めた回りくどい導入をするのかというと、
「こっちです」
「ほんとー?」
「魔法の板を信じてください」
「いいよわかった」
文字どうり、導きに入るところだったからである。
「いやーすごいね」
「そうかな…普通だと思う…ますけど」
「すごいすごいよ、こんなの見たことない」
そんなに田園風景がすごいだろうか。彼女は首をブンブン振って周りを見渡している。見ているこっちの目が回りそうである。まさか現役のjkに声をかけられるとは思っていなかった。いや自分も高校生だけど。
家の最寄り駅近くの公園にここら辺の大雑把な地図看板が立っている。そこに彼女はいた。メモと地図を見比べながら時より、うーんと唸ったりしていた。そしてその時が
「ねえ何年なのえーと…さとう?」
「2年…あとさいとうです」
「さいとうかごめんごめん、私も2年、一緒だね〜」
僕はいつも公園にある自販機で飲み物を買って、飲んで、ごみを捨てて帰る。そして今日も、今日は地図前のその人を眺めながら飲んでいると、
「あ、これきれい、サザンクロスって言うんだって、知ってる?」
「知らない…かなー」
めっちゃ園芸やってる家の前で立ち止まる。鉢には売られているときの品種とかが書かれているカードがささっているようだ。
「私も知らなかった、バラとかしかわかんないや」
「…マリーゴールドとか」
「んーとサルビア」
「ラベンダー」
「ひまわり」
「オオイヌノフグリ?」
「なにそれ」
「なんかちっちゃい青い花」
「へー、でも私にはサザンクロスあるし」
「いやなんの対抗意識」
目があった。すぐそらすも、ずんずん近くに来る。
『あのーここの行き方わかりますか』
い、いきなり聞いてくる!?
『え、あ、あのみせてく』
言う前にもうメモは差し出されていた。あの地図は大雑把だし、てっきり地図のメモかと思ったら、
『あの、これ住所ですよね』
『はい』
『あれ見て住所の場所わかりましたか』
『いいえ』
ですよねー。いや何のために見てたんだ地図。ここら辺の道を覚えたかったとか?てか駅員に聞けばよかったのでは、っていやいや、話しかけられたのが自分なんだから自分がなんとかすべきだ、うん。
『えっと、ググりますね』
『う、うん?』
それからググって、場所がわかり、冒頭の咳払いへ続く。
半分ほど歩いてきただろうか。
かなり大きい振りをしているのでなんとなく伝わっていると思うが、この方ものすごく、か、美人なのである(最大限の抗い)。もう二次元に魅了されて3年ほど経つが、現実にこれほど、ドキドキすることはそうそうない、人生で1番のドキドキかもしれないまである。
「学校帰りだけど、そこは誰の家なの…ですか」
「んーと実家かな」
その歳で実家かー、同じ歳なのに一人暮らしかー、いや寮かもしれない、なんかこの制服見たことある気がするけど、どこのだろう(制服に興味ない派)。
「そういえば名前聞いてなかったけどなんていうの…。」
「私は…あかり」
「珍しい苗字ですねー」
「名前だよ!」
軽快なツッコミが飛ぶ。
「えんどうあかり」
「あれさとうは」
「それは…か、友達」
「か、友達?かってなに?」
「秘密リー、木を隠すなら森の中、友達だよ、彼氏だよ、兄貴だよ、叔父だよ、塩だよ」
よくわかんないけど多分彼氏いるーーーーーー。
「カビーんって顔してるね」
「ガビーん」
いやガビーんってなに。(秘密リーもなに)
「はぁー懐かしー」
「田植え手伝ったりしてたんですか」
「いやー昔はここらで走り回って遊んでたなーって田んぼに足突っ込んで怒られてたなー」
僕は小学生からインドアを貫き通しているから、外で遊ぶことはほとんどなかったけど、こんな美人と会えるなら、幼馴染になれるかもしれなかったんだとしたら、外で遊んどきゃよかったなー。
「もうそろそろです、えんどうですよね」
「えんどうを探せーー」
ピンポーン
特に苦労なく見つけることができた、というか近くに来たら、思い出したのか、ささっと自分で家までたどりついた。ん?近く、あれ、学年が同じと言っていたから、一度も帰っていないとして、約1年半、1年半で、家を忘れるか?それに
「あんま近くにいたら見えないよ」
「えーでもこっちも見えないよ」
「家の中からしか見えないよ」
「”はい”」
ひと呼吸置いてスピーカーから声が聞こえる。彼女はまだカメラを覗こうとしているので、多分モニタにはどアップの顔が写ってるだろうけど。
「”誰ですか”」
ほらやっぱり、近すぎて、誰だかわかってないじゃん。
「ほらちょっと」
ガチャ
ドアが開く。
「あ、すみません、道案内してて」
「誰のだい?」
「え」
「あんた1人しかいないのに誰を案内するんだい?」
「は?」
ひ、ひとりじゃないだろ。
「えっと、あかりさんを」
「んっ」
中から出てきたおばあさんは少し驚いただろうか。
「駅から案内してきて」
「一体なんの冗談なんだい娘の名前まで出して」
「え?」
「誰から聞いたんだか知らないけど、あかりってのは家の娘だよ多分、まあ20年以上も前に死んじまったけどね」
「え!?」
僕はいつのまにかインターホンの前から姿を消した、彼女を探す。
「年寄りだって忙しんだ、邪魔しないでおくれ、日が沈む前には帰りなよ」
そう言い残し、彼女のお母さん?は家に戻る。
「どこだ」
周りを見渡すけど見当たらない、駅?公園?とりあえず、駆け足で来た道を戻る。
「あ!いた」
さっきの園芸邸で花を眺めていた。
「ねえ、あかりさん」
「おっ、名前で呼んじゃう」
「う、あのいくつですか生まれ」
「私17だよ」
「いやそうじゃなくて平成?」
「ああ、昭」
「「ワーーー!!」」
「…ただいまー」
どうしたー元気ないぞーと、父さん、今日はパーティーよと、母さん。それどころではない僕。
彼女は多分、そういうことなんだろう。駅員に聞かなかったのも、聞けなかっただけで、聞きたくなかったわけじゃなかった、だから僕に聞いた。多分それだけなんだろう。あのどこかで見たことあるような制服、通ってる学校の旧制服なことを今更思い出す。もしかしたらあの言葉も田舎の風景ではなく、遠くに見える建物のことだったのではないかとも思う。
生まれを聞いた後、怖くなり走り出したいのを抑えて、振り返らずに帰ってきた。彼女はどうなっただろうか。まだ見ているだろうか、あの花を。それとも家に戻ったのだろうか。
そういえば父さんがあかりさんと同い年だ、学校も自分と一緒なのは知ってるからなんか、知ってるかもしれない。
「父さん、えんどうあかりっていう人知ってる?」
「えんどうあかりちゃんね、懐かしいなー、当時の彼女だったんだよ、めちゃめちゃ可愛いのさー、だけど事故で亡くなっちゃったんだよね、あー、うん、あー、話したいな久しぶりに、せっかくハロウィーンだし、お化けに紛れて会いに来てくれないかなーってなに笑ってるんだ、あかりちゃんがどうしたっていうんだ」
「秘密リー、木を隠すなら森の中、同級生、実は俺の彼女、ユーテューバー、キャラクター、実家に帰りたいお化け」
ジャンル分けって難しいですね。このジャンル書くぞーで書いた方が楽かもしれないですね。