7.カールの懺悔
公園にあるジャンキーのたまり場は、警察官たちに包囲されている。
カールは意識を失う寸前に緊急発信をビルたちにした。ビルたちはアンジェラに事情を説明して、ナットを救出する為、地元警察のジェイ・ヒィンチ刑事たちの協力を得ていた。
ジェイ刑事は、馬人族である。ただアンジェラの自分たちへの忠告に不満だ。軍用の戦闘装備を着けた男が出てきたら、ビルたちに任せてほしいと言われてもジェイ刑事は納得できない。
ここはジェイ刑事たちが管轄している地域なのだ。実際に戦闘武装を着けた者の戦いを見たアンジェラとは違う。
ジェイ刑事が言う。「動きが速いやつが出てきたら、まず俺たちがやる。いいな。」
戦闘装備を着けたヨツオ、八重子、ビルに言う。ここは、ジェイ刑事たちの管轄である。
ジェイ刑事には、よそ者に頼る事は考えたくない。しかし、軍用の戦闘装備を相手にする事が難しいことも
事実だ。
ビルは仕方なく言う。「最初はどうぞ。」
ジェイ刑事がスピーカーで言う。「誘拐事件の調査にきた。おとなしく捜査に協力しろ。」
テントの中から銃撃が起きる。
たちまち銃撃戦が始まり、大柄の黒ずくめの男、ワニ族のケネスが現れる。ジェイ刑事たちが銃撃するが速くて当たらない。
ケネスは警察官たちを振り切って包囲の外に出る。
ジェイが言う。「出番だ。」
短槍を持つヨツオと鎚を持つビルが追いかける。
もう一人の男、ロンも警察官たちの包囲を振り切って外に出る。これは八重子が追う。
ケネスを追うヨツオに、ケネスは煙幕を投げつける。そしてまだ戦闘装備の操作に慣れていないビルを一撃で吹き飛ばす。
次に、ケネスはヨツオに青竜刀で斬りつける。
ケネスが言う。「殺す。」
ケネスの足の先に出た刃物をヨツオは片手で持った盾で防ぐ。
ケネスは、両手からも刃物を出してヨツオを攻撃する。
ヨツオも各所に防具を着けており、ケネスの刃物を防御する。
しかし、ケネスは攻撃で、ヨツオは防御である。ヨツオが押されて後ろへ下がる。
ケネスが言う。「所詮、人でしかない存在。」
ケネスが青竜刀でヨツオに斬りつける。その直後、ケネスは頭部に後ろから攻撃される。
ケネスが後ろを振り向いた時、パルが戦闘装備で鎚を持って攻撃していた。
実は、パルは公園のある場所に潜んでおり、そこへヨツオが誘導したのだ。
戦闘装備をしているのは、三人と考えていたケネスは、ビルを倒した後、ヨツオだけに注意を向け油断した。
ケネスが、頭部に攻撃を受けるがそれでも、まだ戦う。
パルが言う。「化物。」
ヨツオが言う。「その通りだ。」
通常は、頭部にあれだけの衝撃を受ければ、意識を失うはずだ。
ヨツオが短槍で前から攻撃し、横からパルが鎚を振る。
しかし、二人がかりの攻撃でも、ケネスは倒せない。
ケネスが叫ぶ。「死ね!」
ケネスがヨツオに青竜刀で斬りつける。
その時、ケネスの後ろからビルが現れ、ケネスの首に杭を鎚で打ち込む。血が吹き上がりケネスが倒れる。
ケネスが言う。「まさか、あの薄のろが。」
ケネスが信じられない目でビルを見つめ倒れる。
ヨツオが言う。「以前のビルなのか?」
ビルが死ぬ前までは、ビルはヨツオと戦闘装備を着け、十分に練習していた。そして、ある薬を血に取り込むと運動能力が上昇する存在になり、人を越えた怪物になる。そんな薬を創る組織にビルはたどり着く。そしてその怪物を倒せる方法は、大量に出血させる方法だ。ビルはそこで、大量に出血させる方法として首に杭を打つやり方をヨツオと相談していた。
だからヨツオは、死ぬ前の記憶が戻ったと思った。しかし、ビルは倒れ、そのまま再び意識を失う
その時、ビルの意識の中には、ビルであった意識、つまり死ぬ前にヨツオと相談していたビルの意識と、ビルの肉体に転生したマコトの意識が対面している。
ビルの意識が言う。「もっと戦闘装備を使えるようにしないと、また、死ぬことになる。」
マコトの意識が聞く。「あなたが、復活してこの肉体を使えないのか?」
ビルの意識が言う。「難しいな。今はとりあえずマコトの意識がないから動かせるが、本来は幽霊みたいな存在だからな。」
マコトの意識が聞く。「どうすればいい?」
ビルの意識が言う。「八重子に相談しろ。」
マコトの意識が更に詳しく聞く前にビルの意識が消える。
ワンに逃げられて戻った八重子にマコトの意識を持つビルが、情況を説明する。
カールは、救出された後、教会に行く。
ジャンキーのたまり場には、もうナットはいなかった。
カールは、神にナットの無事と一日も早い発見を祈る為、誰もいない教会の中を進む。カールが教会に入るのは、結婚式以来のことだ。カールが進む途中にステンドグラスの廊下がある。
そのステンドグラスに、人々に追われた娼婦が、イエシユアによって救われる場面がある。
その時、カールがまだ子供だった頃に、母親に言われた言葉を思い出す。罪人は願い事をする前にまず懺悔してからでなければ、神様は願いをお聞きにならない。
カールは、ステンドグラスの中にいるイエシユアの前でひざまずく。
カールが言う。「私は、自分の娘に無視されるほど、くずの人間なのですか? そこまで娘に酷いことをしたのですか?」
カールの問いかけに答えはない。
カール自身にも分からない。カールは、そもそも自分に自信が持てなくなってジャンキーになってしまった。
でも、カールが変わらなければ娘が戻りたくても、戻れない。
暫くすると、パルが現れ、カールに近づく。
カールがパルに言う。「ナットは、俺を見ても何も言わなかった。俺はそんなに酷い父親なのか?」
カールは、ナットを救出する為に変わろうとしている。
パルが言う。「行動を変えない懺悔は、言い訳と同じ。」
ナットが聞く。「俺には、懺悔の資格もないのか?」
パルが言う。「それは、ナットに聞きましょう。」
ナットはまだナットを救出していないことを思い出す。
カールが言う。「そうだな。まず救出だ。」