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襲撃者たちの置き土産4

―――前回のあらすじ―――

襲ってきた違法な奴隷商を返り討ちにして5人の奴隷を保護したディーゴ。

保護した5人の中でウィル、アメリー、ポールの3人を使用人として雇うことにしてユニに丸投げし、

身内のいるマドリーンとエイミーを送り返すために、再び旅に出る。

―――――――――――――

-1-

 用事を全て済ませた翌日、旅支度を整えて石巨人亭に顔を出した。

 すると、朝食をすませて同じように旅支度を整えたエイミーとマドリーンが待っていた。

「準備はできてるようだな、じゃあ行こうか」

「「はい」」

 二人が元気よく頷く。そりゃそうだ、これから身内の所に戻れるんだからな。

 ただ、二人とも武器を何も持ってないので、1.2トエム程の長さの杖を魔法で作って二人に渡した。

 まぁこれは武器というよりも、犬脅しというか歩行を助けるストックみたいなもんだが、何もないよりはましだろう。

 最終目的地はエイミーが住んでいたラシド村。ディーセンからは片道およそ13日の距離になる。

 途中、ソルテールの街の先にあるガルドウ村というところでわき道に入り、マドリーンが住んでいたというソーウィン村に寄り道するので片道15~16日程度の旅になるだろう。

 暑い盛りの旅になるうえ、女子供連れだ。日射病に気を付けてゆっくりと行きますか。


 途中何度も小休止を挟みながら、初めの宿であるトマム村に到着した。

 村長に宿を乞いに行くと、村長は俺たちのことを覚えていて、親元に帰るという二人を我がことのように喜んでくれた。

 村長宅で心づくしの夕食を頂いたのち、エイミーとマドリーンの足を診る。

 買ったばかりの靴だから靴擦れができてないか、心配だったからだ。

 幸い二人とも足に異常はなく、翌日も無事に旅が続けられそうだった。


 その後も順調に旅は続き、ソルテールの街、ガルドウ村を経由してマドリーンの故郷のソーウィン村に到着した。

 村の入り口でマドリーンが村人たちとの再会を喜んでいると、話を聞きつけたらしい村長とマドリーンの祖父母が駆けつけてきた。

「マドリーン!」

「おじいちゃん、おばあちゃん!」

「まぁまぁ……よくぞ無事に戻ってきてくれたよぅ……」

 抱き合って再会を喜ぶ3人を眺めながら、やってきた村長に事情を説明した。

「……なるほど、違法な奴隷商に捕まっておりましたか。いや本当に、ありがとうございます」

「なに、俺も襲われたんで返り討ちにしたらこうなった、というだけですから」

「とはいえ、わざわざ送り届けていただいて感謝の言葉もございません。どうぞ、今夜はこの村にお泊りなさってください」

「でしたらディーゴさんはうちに泊まってください。おじいちゃんもおばあちゃんも、ディーゴさんにお礼が言いたいといってますから」

「わかった。ということです、村長。今夜は彼女の所でお世話になります」

「そうですか、でしたら明日の朝は必ずうちに寄ってくだされ。マドリーンを送り届けてくれたお礼をしますでな」

「わかりました」

「じゃあディーゴさん、エイミー、うちはこっちです」


 マドリーンに連れられて行った先は、そこそこ大きな板造りの家だった。

「野盗に襲われたと聞いたが、母屋は無事だったんだな」

「はい。牧場と母屋は少し離れてますから。あの時の野盗は牧場と家畜だけ襲いに来たようなんです」

「なるほどな」

「ささ、ディーゴさま、立ち話もなんですからどうぞ中へ」

 老夫婦に促され、家の中に入る。

 食堂兼居間らしい大部屋に通されると、マドリーンと老婆は食事の支度の為に台所に引っ込んだ。

 となると、老爺、エイミー、俺の3人が居間に残されることになる。

「ディーゴさま、この度は本当にありがとうございます」

 席に着くなり、対面に座った老爺が深々と頭を下げた。

「まぁ、成り行きというのもありますから、それほどお気になさらずに」

「いえ、それでもディーゴさまは孫の命の恩人でございます。息子夫婦が野盗に殺された今は、孫のマドリーンがわしらの心の支えでございました」

 そんな感じで繰り返される老爺の礼にやや辟易していると、食事の用意を整えた老婆とマドリーンが台所からやってきた。

「おじいちゃん、ディーゴさんが困ってるでしょう?ごめんなさい、ディーゴさん。おじいちゃん話がくどくて」

「ディーゴさま、大したものではありませんが、どうぞ召し上がってくださいな」

「ありがとうございます。これは美味そうだ」

「さ、エイミーちゃんもお腹が空いたでしょう?たんと召し上がってくださいな」

「おばあちゃんありがとう!」

 そしてそれぞれが食前の祈りを捧げ、用意された食事に手を伸ばす。

 息子夫婦の忘れ形見のマドリーンが無事に戻ってきたことで、食事は和気あいあいと進んでいった。

 塩漬け豚やベーコンも旨いが、牧場というだけあって自家製というバターとチーズが絶品だった。

 食事が終わりこくりこくりと船をこぎだしたエイミーを寝かしつけると、居間には老夫婦とマドリーン、俺の4人が残った。

 これからのことを話し合うためだ。

「おじいちゃん、おばあちゃん、牧場の方はどうなったの?」

「マドリーンが帰ってきたのは嬉しいのじゃが、息子夫婦がいなくなってしまった今、もう牧場を続けるのは難しいのう……」

「家畜もほとんど連れ去られてしもうた」

「幸い土地だけはあるで、慣れないが畑でも耕して暮らそうかと思っとる」

「それでね、おじいちゃんおばあちゃん。あたしから話があるんだけど……、こちらのディーゴさんの所で働いてみない?」

「は?」

 訳が分からないといった顔をする老夫婦。

 そんな二人に、マドリーンの言葉を引き継いで説明した。

「実は俺は冒険者をやってますが、ディーセンの街の名誉市民も兼ねてましてね。街に結構大きな屋敷があるんですよ」

「そうなの。あたしもちょっと見たけど、すっごい大きなお屋敷なの」

「それで今、家のことをしてくれる使用人を探していましてね。見ての通り俺は冒険者なんで、屋敷をどうしても空けがちなんです。

 今までは一人に任せていましたが、留守の間、家を守ってくれる人がどうしても複数必要なんですよ」

「今回、一緒に捕まってた5人のうち、行く当てのない3人もディーゴさんが雇ってくれたのよ」

「住み込みで給料は一人あたり月に半金貨5~7枚くらいお出ししようと考えてます。今すぐでなくても構いませんので、3人でよく話し合ってみてください。結果が出たら、ディーセンの街の俺のところまで手紙をくださると助かります」

「そうですか……色々考えてくださってありがとうございます」

「なに、礼ならお孫さんに言ってください。初めに言ってきたのは彼女ですから」

「マドリーン……すまんなぁ……」

 そう言って老爺が涙ぐむ。

「それと、これは皆にも渡しているのですが……」

 と、財布から金貨を10枚取り出してテーブルの上に置いた。

「ディーゴさま、このお金は?」

「違法奴隷商を返り討ちにして身ぐるみ剥いだのを売り払ったら、それなりの額になりましてね。連中からの詫び金と思ってください」

「それにしてもこんな大金……」

「なに、私の財布から出してるわけじゃないんですよ。諸々売り払って得たお金から出してるだけです。ですから遠慮なくお納めください」

「重ね重ねありがとうございます」

「じゃあ、すみませんが私はこれで床に就かせてもらいます」

「あ、じゃあディーゴさん、こちらへどうぞ」

 マドリーンに案内されて、その日は床に就いた。


 翌朝、老夫婦とマドリーンの見送りを受けて出発し、村長の家に立ち寄った。

 村長の家では丁重に礼を述べられたのち、せめてものお礼にと、特産のチーズをいくつか頂くことになった。

 これで後はエイミーの故郷のラシド村へ行くだけだ。


-2-

 途中、チェルダムの街でひと悶着あったが、なんとか誤解がとけてラシド村につくことができた。

 いや確かに種族が違う子供連れだけどさ、誘拐犯が馬鹿正直に門の入り口に並ぶわけないやん。

 エイミーが一生懸命説明してくれたのと、冒険者手帳と身分証明の短剣のおかげでなんとか事なきを得たが……チェルダムの街の衛視にちょっと不信感を持ったぜ。


 まぁそんなこんなで無事にラシド村についたのだが、ここでも別の意味で大変だった。

 エイミーの無事な帰宅に喜んだ両親とこれまた喜んだ村長に放してもらえず、結局徹夜で飲み明かすことになったからだ。

 お陰で滞在が1日延びてしまったのは仕方あるまい。

 ヤだよ徹夜で飲んだ翌朝に、一睡もせずに酒が残ったまま1日歩くなんて。

 アルコール度数の低いエールとはいえ、一晩中飲んでりゃそれなりに残るんだから。

 ただこのラシド村、割と標高の高いところに位置しているらしく、気温が全体的に低めなのは良かった。

 そのせいか井戸の水も結構冷たく、そこで冷やされたエールが美味かったのも飲み明かす一因だったかもしれない。

 送り届けた翌日は村長に頼んで、酒抜きもかねてエイミーに連れられて村の中をあちこち散策させてもらった。

 この村は100人に満たない小さな村で、小さな畑と山の恵みに頼って自給自足で生きているような感じだった。

 大人衆は忙しく仕事をしているが、子供はまだ遊び盛りらしく、街からやってきた珍しい生き物(俺のことね)にくっついてきて最終的には4人の集団になった。

 仕舞には

「ディーゴさんに秘密の場所教えてあげるー」

 と、子供4人に連れられて森の中に入ることになったが、そこでエイミーたちに教えてもらったのが秘密の石清水だった。

「ここの水、しゅわしゅわしてうめーんだぜ」

 しゅわしゅわ?

 子供の一人に言われて少し飲んでみると、舌で弾ける懐かしい感覚。炭酸水の湧き水だった。

 しかも冷たくて結構旨い。

 げっぷを出しながらも、子供たちと交代でこころゆくまで炭酸水を楽しんだ。

 くぅ、時間経過のない無限袋があれば汲んで持って帰るのに。革製の水袋じゃ、あっという間に炭酸抜けちまうぜ。

 持って帰れたならば焼酒をこの水で割って飲んでみるんだが。

 炭酸水を教えてくれた礼に、子供たちに干し果物を配ったら喜んでくれた。

 ちなみにここは村の子供たちが代々受け継いでいってる秘密の場所だそうだ。いいね、そういう場所は。

 その後は子供らに従ってあちこち探検して回った。

「ここは角虫がよく獲れるんだぜー」

 と、木を指さして言うので、魔法を使ってちょっと木を揺すってやったら、ぼとぼとカブトムシが落ちてきたのは笑った。

 こっちにもいるのね、カブトムシ。ちょっと形違うけど。

 その後も子供らとあちこち遊びまわり、夕方になったので解散した。

 なんか久しぶりに子供の頃の夏休みに戻った気がしたよ。


 そして翌朝、村長をはじめとする皆に見送られてラシド村を出発した。

 んじゃ、ディーセンに帰りますか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 金属やガラスの内部からの高圧に耐えられる容器が有れば、天然炭酸水を売ったりも出来るんだろうけれどなかなか技術的に大変だよね。
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