表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/227

襲撃者たちの置き土産2

―――前回のあらすじ―――

行商人の護衛依頼を終えてディーセンに戻る途中、馬車を含むガラの悪い一行に突然襲われる。

なんとかこれを退けたが、襲ってきたのは違法な奴隷商だった。

結果、積み荷として馬車に乗っていた奴隷5人を連れて、ディーセンに帰還する。

5人の話を聞いてディーゴはどう動くのか?

―――――――――――――

-1-

「さて、食うもん食って腹も落ち着いたことだし、今後のことを話し合おうか」

 食事を終えた5人を前に、俺がおもむろに口を開いた。

「お前さんたちには3つの身の振り方を用意した。ただ、事前に言っとくが別にこの3つに縛られなくてもいい。自分なりに思い描いている道があるなら、それを言ってくれ。俺にできる範囲で協力するつもりだ。

 まず1つ目は、親や親類、知人などを頼り元居た所に帰ること。この場合は俺か信頼できる冒険者を護衛につける。護衛の代金は俺が持つし、違法奴隷商からの迷惑料として金貨10枚渡そう。

 そして2つ目は、このままディーセンに残って俺に雇われること。実は俺は今、家の使用人を追加で探しててな。家の家事と保守全般を住み込みでやってもらいたいんだ。まぁこれについては後で細かい条件を詰めることになるが、迷惑料の金貨10枚に加えて、給料として月に半金貨5枚出そうと考えてる。

 最後の3つ目は、どこにも頼らず自力で生きてくことだ。ぶっちゃけて言えば金貨20枚貰ってこの場でハイサヨナラ、という道だ」

 そこまで一気に言って、焼酒を少し口に含む。

「無論、これは俺一人が考えたことだから、他に何かいい方法があるなら言ってくれ」

 そう言って一同を見回すと、黙って話を聞いていたウィルが口を開いた。

「あの、ディーゴさんはどうして俺たちにそこまでしてくれるんですか?一人当たり金貨10枚とか20枚とかって、大金ですよ?それってディーゴさんの持ち出しですよね?」

「ん、いや、ぶっちゃけそうでもないんだ。男どもから身ぐるみ剥いだら金貨30枚くらいになってな、その他にあの馬車と馬も売り飛ばすから、総合的には結構なプラスになる筈なんだ」

「でも普通なら、あたしたちのことなんて衛視に渡して終わり、ですよね?」

 マドリーンが疑問を口にする。

「金がないならそうするけどな、幸い俺はその程度の金がある。同じ違法奴隷商に襲われた身だ、まぁ俺の自己満足と思ってくれ」

「自己満足だなんてそんな……すごく助かります」

「おうちに帰りたい、って言ったらディーゴさんが連れてってくれるの?」

 果実水を両手で持って、エイミーが訊いてくる。

「できればそうしたいが……ちなみにエイミーのいた所はどこだ?」

「ラシド村ってところ!」

「ラシド村……聞いたことないな。オヤジさん、ラシド村ってどこ?」

 振り返ってカウンターのおやじさんに尋ねる。

「ラシド村?そりゃ結構遠いな……ソルテールのさらに先の、チェルダムって街の近くの村だな。ここからだと半月はかかる」

「そうか、でも半月なら何とかなるかもな」

「ラシド村がどうかしたのか?」

「この子がそこから攫われてきたんだ」

「そういうことか。送り返してやるつもりか?」

「当人にその気があるなら、だが?」

 そう言ってエイミーを見る。

「パパとママに会いたい」

「だそうだ。送ってやるしかあるめぇよ」

「ふっ、お人よしめ」

「誉め言葉、と受け取っておこう」

 オヤジさんの言葉に、そう笑って返すとテーブルの5人に向き直る。

「ほかに何か質問は?」

「あの、ディーゴさんに雇われるとしたら、どういった仕事で、何人くらい雇ってもらえるのでしょうか?」

 アメリーが口を開いた。

「掃除、洗濯、料理といった家事一般と、俺がいない間の家の保守だな。今は一人で回してくれてんだが俺の家は無駄に広くてな、さすがにちょっと楽させたくて人を探してたんだ。ちなみに希望者は全員雇うつもりだ。仕事は今いる使用人……ユニってんだが……が教えてくれる」

「そうですか」

「あの、送ってもらうとしたらいつくらいになるのでしょうか?」

 マドリーンが手を上げて訊ねる。

「その場合は悪いが2~3日待ってくれ。俺も半月ぶりに拠点に帰ってきたんだ、色々用事が溜まっててな。それまではここに泊まっててくれて構わない」

「分かりました」

「さて、他に何かあるかな?」

 5人を見回したが、特に何もなさそうだった。というか、ポールは既に船漕いでるし。

「まぁ今すぐに答えを出せとは言わんよ。皆で話し合うなりして、明後日の朝までに決めてくれ」

「「「はい(わかりました)」」」

「んじゃ、それまでの小遣いとして一人銀貨10枚ずつ渡しとく。これで何か欲しいもの買っとくといい。

オヤジさん、この5人の料金は俺にツケといて」

「あいよ」

「じゃあ今日の所はこれで帰るが、困ったことがあったらそこの熊耳のオヤジさんに言うといい」

「はい。色々ありがとうございます」

 それぞれが頭を下げるのを見て、俺は石巨人亭を後にした。


-2-

 翌日、違法奴隷商が乗っていた馬車と馬を、商人ギルドに売りに行った。

「ほうほう、これは立派というか、頑丈そうな馬車ですな」

 話を聞いて出てきた商人ギルドの職員が、馬車を見て声を上げた。

「違法奴隷商が使ってたもんだけど、売れますかね?」

「それでしたら問題ありません。このような鉄で補強した頑丈な馬車、しかも4頭の馬付きとあらば、ちょっと手直しすればすぐにでも買い手が付きますよ」

「なら良かった」

「馬車の中を改めても構いませんか?」

「ええ、構いませんよ。というか俺もしみじみ中を見てなかったな」

「では一緒に見てみましょうか」

 職員と一緒に馬車の中に入る。

「ほうほう……ふーん……なるほど……」

 職員は天井を触ったり壁を調べたりと熱心に見ている。

 一方俺はというと……壁の端に書かれた恨み言とか名前を見つけてしまって、ちょっと気分が落ち込んだりしていた。

「ところでディーゴさん、この馬車から荷物など下ろしましたか?」

「……そういや奴隷商どもの荷物は下ろしてないですね。捕まってた人を下ろしたくらいです。それがなにか?」

「いえね、ディーゴさんが前の持ち主の荷物を下ろしていないのであれば……荷物が少なすぎるのですよ」

「そんなもんですか?」

「そういうものです。それにこの馬車ですが、外から見たときと中に入った時で床の高さがかなり違います。これはきっと隠し棚がありますよ」

 職員はそういうと、床を丹念に調べ始めた。

 少しの時間があって、職員が声を上げた。

「ありました、ここです。ここの板を持ち上げると……」

 そう言って職員が板を持ち上げると、確かに中には追加の荷物があった。

「ありましたね」

「ええ。この荷物、どうします?」

「とりあえず全部出しましょう」

 そうして荷物を運び出すと、保存食や予備の武器、ロープや油、松明などが収められていた。

 そして一番奥にあった袋。

「ディーゴさん、これ、重いですよ」

「どれ……確かに重いね」

 よっこらせと持ち上げて外に出し、中身を確かめてみると……半金貨と金貨、大白金貨がぎっしり入っていた。

「荷物はそれで全部です。何が入ってました?」

「カネガギッシリハイッテマシタ」

 思わず平坦な口調になる俺。

「まぁよくあることですね。前の持ち主が違法奴隷商とのことですから、なんとなく予想はついてました」

「あの、この金は……」

「もちろんディーゴさんの物です。良かったですね、ひと財産ですよ」

「……デスネ」

 そんなものかと思いながらも、なんか実感がわかない。

 そんなことはお構いなしに職員は馬車を調べ続け、結構な時間が経ってやっと査定が終わった。

「お待たせしました。この馬車の査定ですが、馬車そのものが金貨30枚、荷馬4頭がそれぞれ金貨7枚で合計金貨51枚になります」

「そうですか、ありがとうございます」

「取り出した荷物の方はどうしますか?」

「家の方に運んでもらえますか?これは一人で運べる量じゃないんで」

「わかりました。小僧と荷車を手配しますのでちょっとお待ちください」

 そうして手配してもらった荷車に、馬車から運び出した荷物を全部乗せて屋敷に戻った。

 予備の武器以外は、どれも旅で使うものだしね。使いまわしさせてもらうよ。


 小僧と一緒に屋敷に荷物を運び込み、駄賃を渡して帰ってもらう。

 早速袋の金勘定を始めたいが、その前にちょっとやることがある。

 というわけで、違法奴隷商と馬車から回収した武器をまとめて無限袋に放り込み、えっちらおっちらと武器屋に持ち込んだ。

「こんちわ」

「おやディーゴさんいらっしゃい」

「また買取なんだが、構わんかな」

「よほど変なものでない限り歓迎しますよ」

 ここの店員にはもうすっかり顔を覚えられて、冗談を言われるまでになってきた。

「今回はちょっと量が多いんだ」

 そう言ってガチャガチャと武器を取り出す。

「ほうほう、今回は確かに大量ですね」

 積み上げられた武器を見て、店員が笑う。

「まぁほとんどが量産品だと思う。ただ、こいつはちょっと気を付けて見てもらいたいかな」

 最後に取り出したのが、ドルファーから回収した長剣だ。

「分かりました。じゃあこれから査定しますので、ちょっと待っててください」

 店員がそう言って武器を査定している間、ぶらぶらと店内を見て時間を潰す。

 別に刃物を買う予定はないが、こういう物は見ているだけで楽しい。

 手の届かない上の方には、ミスリルや精霊鋼製の武器が置いてある。

 値段は……大白金貨がウン十枚とかウン百枚とかそういうレベルなので手が出せないが、見ているだけでも目の保養になる。

「ディーゴさん、査定終わりましたよ」

 しばらく刃物を眺めていると、店員が声をかけてきた。

「おう」

 頷いてカウンターに行く。

「えーと、ナイフが8本で半銀貨8枚、小剣が4本で銀貨2枚と半銀貨4枚……」

「面倒くさいから合計でいいよ」

「そうですか?では量産品の武器の合計が全部で銀貨29枚と半銀貨7枚になりますが、今回数が多いので半金貨3枚におまけしときます」

「うん、ありがとう」

「それと、こちらの長剣ですが、銀製ではありませんが結構いい品ですので半金貨5枚で買取させていただきます。ですから〆て半金貨8枚ですね」

「了解」

 店員がカウンターに並べた半金貨を受け取る。

「しかし今回は大量でしたね。豚鬼の小集落でも討伐しましたか?」

「いや、違法の奴隷商に目をつけられてね。返り討ちにしたらこうなった」

「そうでしたか。それは災難でしたね」

「ああ、危うく珍しい奴隷にされるところだったよ」

「ディーゴさんなら高値が付きそうですものね」

「まったくだ。今後は注意しないとな。じゃ、お世話さん」

「はい、どうもありがとうございました」

 店員の見送りを受けて、武器屋を後にした。


 うむ、あれだけの武器をまとめて売ったから荷物が軽いぜ。

 あとは屋敷に戻って金勘定だな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ