表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/227

帰り道の死闘

-1-

 翌朝、少しのんびり目に起きたので、朝食を軽くすませて酒場を出た。

 とりあえず買うのは岩塩プレート。それと何か面白そうなもの。

 のんびり目に起きたとはいえまだ朝の段階。ならば午前中にはほぼ売り切れる、生鮮食品から見て回るのが一番だろう。

 というわけで、やってきました青物売り場の一角へ。

 とりあえず通りの端から順番に店を覗いていくのだが……なんか品ぞろえはディーセンと変わり映えしないね。

 珍しい作物とかあるかと期待していただけにちょっとがっかり。

 季節の果物をいくつか買い込んだだけで済ませた。


 次は魚売り場だが、ここもあまり変わり映えせんな……。

 ということでここもスルー。

 次は食肉売り場に向かう。生肉は同じ品ぞろえだろうが、加工品で何かないかと思ってのことだ。

 すると思ったとおり、塩漬け肉やらハムやらが結構豊富に並んでいた。

 幾つか店を巡った結果、一番客の多い店でうまそうなハムを3本仕入れてみた。

 2本は持ち帰るけど、1本は帰りの旅の途中で味見するつもり。


 この辺りで昼を回ったので、適当な食堂に入って昼食をとる。

 多くは言わない。ただ「ハズした」とだけ言わせてもらおう。

 たまにはこういう事もあるわな。あの店は「入っちゃいけない店」リストに加えとこう。

 口直しの果物をもぐもぐしながら、今度は雑貨屋を見て回る。

 ここで岩塩プレートを見つけたので4枚購入。帰ったらユニに使ってもらおう。

 あと、この街には塩の公売所というところがあり、調味料としての岩塩はそこで手に入るとのことだった。

 公売所というと、領主あたりが管理してるのかね。……まぁこの街の唯一と言っていい産業だし、塩と言えば重要な戦略物資のうえに生活必需品だし、日本にも昔専売公社なんてのがあったし、と諸々考えて納得する。

 そんな感じで岩塩の公売所に足を向けたが……なんというかその規模に圧倒された。

 俺の屋敷が2つ3つ入りそうな建物がデデン、と建っており、かなりの人が出入りしている。

 商人らしき人もいれば、ごく普通の市井のおかみさんらしき人もいる。

 大きく張り出した屋根の下では、隊商の馬たちに畳半畳くらいの岩塩の板を括り付けていたりする。

 ……へぇ、荷車に積むんじゃなくて、馬の背に布か何かをかぶせて、岩塩の板を直接括り付けるんだ。

 そんな様子を見ながら公売所の中に入ると、10や20では効かない数のカウンターが設置されており、それぞれに客がついていた。

 かと思えば、一角にやけに人の多いコーナーがあるなとみてみれば、そこは見本のコーナーだった。

 どうやら塩の味見もさせてくれるらしいので、5級から特級までの塩を味見させてもらった。

 うん、グルメじゃないので良くわからんが、5級は家畜用とのことで土などの混ざり物が多くちょっとじゃりじゃりする。

 一方、1級や特級にはそれがない。

 どうせならと奮発して、特級塩を1kgほど買うことにした。これが銀貨で4枚だって。特級の割に手頃な値段なのね。

 まぁ塩1kg四千円と考えればいい値段なのだが、蜂蜜とか胡椒とかの値段に比べると……ねぇ?

 ま、ユニならうまく使ってくれるだろう。


 その後も街を巡ってみたが、特に目を引くような掘り出し物は見つからなかった。

 綿帽子亭に戻り、夕食をとって眠りにつく。

 明日はディーセンに向けて出発。6~7日の旅になるからね。


-2-

 そしてソルテールの街を出発して旅を続けること4日、野盗以外の魔物には何回か襲われたが、いずれも問題なく撃退できた。

 森の中で休憩所として切り拓かれたちょっとした広場で、一人昼食の黒パンとソルテールで買ったハムを咀嚼していると、歩いてきたソルテールの方角から武装した男たちに守られた馬車がやってきた。

 なぜ冒険者と言わず武装した男、といったのかは、なんか全体的にガラが悪く剣呑な雰囲気を漂わせていたからだ。

 4頭立ての馬車は大きく、各所に鉄を使った頑丈な作りで、なかなか財力のある商人の物に見えなくもなかった。

 彼らもここで休憩をとるのか、と思ったが、10人ほどの一行はこちらを無遠慮にじろじろ眺めただけでそのままさっさと行ってしまった。

〈なにあれ、なんか感じ悪いわね〉

 俺の目を通して様子を見ていたイツキが呟く。

《まぁな、しかしなんの集団だろ。隊商とかの商人にしちゃ、護衛の雰囲気が剣呑すぎる》

 食後の一服をつけながらイツキに答える。まぁ旅人の全部が全部仲良しこよしなんて事はないから、ああいう連中もいるのだろうと割り切ることにはしたが、気分が悪いのは同感だった。

 一服を終え、火の始末を念入りにして再び歩き始める。

 しばらく進んでいくと、周囲を警戒していたイツキが声を上げた。

〈ディーゴ、さっきの馬車が道の脇に止まってるわ〉

《何かに襲われたか?》

〈そんな感じじゃないみたい。どうする?〉

《どうするったって、行くしかあるめぇ。道はこれしかないんだから》

 イツキにそう答えて進んでいくと、イツキが言った通りさっきの大きな馬車が道の脇に止まって、護衛らしい男たちが馬車の下を覗き込んでいた。

 近づいていくと、こちらに気付いた男たちが手を上げて挨拶してきた。

「よぉ、さっきも会ったな」

「何かあったのか?」

 挨拶につられて話しかける。

「どうも馬車の車軸の調子が悪くてな。ちょっと調べてるところさ。あんた冒険者だろ?良ければちょっと見てくれないか?」

「冒険者っつっても馬車に詳しいわけじゃねーんだけどな」

 その場に荷物を下ろし、馬車の下を見ようと屈みこむ。

「車軸に何か噛んだんじゃないか?」

 そう言ってさらに奥をのぞき込もうとしたとき、

〈ディーゴ!〉

 イツキが鋭い声を発して魔法を使ったのが分かった。

「なんだ……!?」

 とっさに振り替えると、胸に木の杭を突き立ててあお向けに倒れる男の姿があった。

 男は槌鉾を両手で大きく振りかぶっていた。

「なにをする!?」

 腰の戦槌を外し、馬車を背に男たちに尋ねる。

「クソッ、精霊憑きなんて聞いてねぇぞ?」

「それだって9対2だ!構わねぇ、囲んで痛めつけろ!殺すなよ!!」

 男たちはそれには答えず、それぞれ武器を構えて襲い掛かってきた。

「それが答えか!」

 事情は分からんが、俺が狙われてることは分かった。

 なら遠慮はいらんな!!

 トンと足踏みをして、地面から細く短い杭を何十本も突き出させる。土杭の魔法の簡略版だ。

「ぎゃっ!」

「ぐぁっ」

 杭を踏み抜いた男たち3人が悲鳴を上げてうずくまる。

 その間にもイツキが木杭の魔法を使って襲撃者たちの数を減らす。

 魔法で傷を負った者に駆け寄り、4人に止めを刺したところで声がかかった。

「お前らどけ!俺がやる!!」

 そう言って姿を見せたのは、男たちの頭目らしい痩身で背の高い男だった。

「ドルファーさん……」

 男たちが呟いて場所を空ける。代わりに出てきたドルファーという男は、歩き方からして結構な手練れと見受けられた。

《イツキ、こいつは俺が引き受ける。残りの雑魚の始末と馬車の足止めを頼む》

〈わかったわ〉

 イツキが頷いたのが分かり、直後に広範囲に木の杭が降り注いだ。それに応じて、あちこちから男たちの悲鳴が上がる。

「……てめぇ!」

 ドルファーが表情を険しくして吐き捨てると、長剣を構えて襲い掛かってきた。


 一味をまとめているだけあってさすがにドルファーは強かった。

 速い剣はハナやタリアで経験済だが、修羅場をくぐり血を吸ってきたらしい剣は、侮れない迫力と鋭さを備えていた。

 鎧のおかげで胴体への傷は免れているが、鎧に守られていない腕や太ももは何度も切られ、服に血がにじむ。

「くっそ!!」

 蛇のように襲ってくる剣先をいなし、弾き、逸らしながら反撃の機会をうかがう。

「おらぁ!」

 そんな矢先にわき腹に蹴りが飛んでくる。鎧のおかげで息が詰まることはなかったが、それでも体勢が崩れた。

「もらった!!」

 頭への振り下ろしを寸でのところで両手で受け止める。

 そのまま力勝負に持ち込まれそうになったところを、下からの頭突きをかまして距離をとる。

 これで少し間合いが開いたので、その間に呼吸を整える。

 拙いな、コイツかなり強いわ。

 ふと弱気な考えが脳裏をよぎるが、すぐにそれを打ち消す。弱気を吐けば力が萎える。

 こういう場合は空元気でもハッタリでも、イケイケでいくしかない。

 だがまともにやって勝てるとも思えない……ちょいと小細工を使ってみるか。

 俺はちらりと戦槌を見ると、ドルファーの顔に向かって攻撃を繰り出した。

 突き、薙ぎ、振り下ろしとドルファーの顔を狙って執拗に攻撃を繰り返す。

 だが、ドルファーは苦もなくそれをかわし、弾き返す。

 そんな矢先、不用意に繰り出した片手突きの戦槌にドルファーの剣が絡みつき、捻り上げられる。

 その瞬間、俺の戦槌は上方向にもぎ飛ばされていた。

 普段なら握りの部分につけた革紐の輪に手首をくぐらせて、こういうケースを防いでいるのだが、今回は急いで武器を手にしたため、輪っかに手首を通す暇がなかった。

 武器を失った俺の左肩に、勝ち誇った顔のドルファーの剣が間髪入れず鎧を抜けて突き刺さる。

 痛みに目の前がスパークするが、この瞬間を待っていた。

 肩に刺さった剣をそのままに、動きが止まったドルファーの内股を思い切り蹴り上げる。

 片足が浮き、思わず仰け反ったドルファーの髪を掴み、引き下げながら顔面に渾身の膝蹴りを叩き込んだ。

「ガァッ!?」

 鼻血をまき散らしながらドルファーが悲鳴を上げる。無論髪の毛は掴んだままだ。

「ぉおお……らぁあ!!」

 更にもう一度、肩の痛みをこらえてドルファーの顔面に膝蹴りを見舞う。

 その衝撃でドルファーの髪の毛がブチブチとちぎれ、顔面を血まみれにしたドルファーが後ろに吹っ飛んだ。

 左肩に剣を刺したまま、倒れたドルファーに歩み寄る。

 顔の半分が潰されたドルファーは、俺の見ている前で断末魔のけいれんを起こし、動かなくなった。

「ハァ、ハァ………………グッ!!」

 勝利の興奮が収まらないうちに、左肩に刺さった剣を強引に引っこ抜く。

 置いておいた荷物の無限袋から傷ポーションを全部取り出し、半分を飲みながら肩の傷口に全部振りかけた。

 肩の傷から痛みが消え、ようやくここで一息つくことができた。

「……肉を切らせて骨を断つとはよく言うが、実際にやるもんじゃねぇな」


 さてイツキの方はと見てみると、男たち全員を杭だらけにして倒したうえで、馬車の車輪に蔦を絡ませて動きを止めていた。

「イツキ、ご苦労さん」

「ディーゴ、終わったの?って傷だらけじゃない!」

「でかい傷はポーションで塞いだ。まぁ大丈夫だ」

「そう……ならいいけど」

「襲ってきた奴らはこれで全部か?」

「そうね、全部含めて10人てところね」

「そっか。ならいいんだが……こいつら、なんで襲ってきたんだ?」

「あたしに聞かないでよ」

「それもそうか。よし、馬車の中を調べるぞ」

「でも馬車の扉に錠前がついてるわよ?」

「俺が倒した奴がカギを持ってるかもしれん」

 イツキにそう言ってドルファーの死体を調べると、腰の革袋の中から鍵束が見つかった。

 馬車の扉の錠前に、鍵束の鍵を差し込む。3本目の鍵で錠前が開いた。

 錠前を取り除き、扉を開けて馬車の中を覗き込んだ俺は、中に意外なものを見つけて言葉を失った。

次回は31日の更新を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ