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護衛依頼2

-1-

 ルハイマーと旅を始めて3日めの夕刻、コアントの村に到着した。

 彼の話ではこの村から商売を始めるそうだ。

 村長宅に泊まった時に、村長にいくばくかの出店料を渡して許可を貰い、翌日の朝から村の一角で露店を開くのが恒例らしい。

 俺も朝からルハイマーと一緒に露店に品物を並べ、店番をすることになった。

 売り物は主に食料品と生活雑貨。

 食料品は、生姜や唐辛子などの香辛料が主体で、後は蜜漬けの果物や干し果物が少し。

 生活雑貨は、布や糸、針の他、包丁やナイフ、鉈や斧、鋸といった金属製品が多い。

 こういう、大きな街から離れた村では金属というか鉄製品が慢性的に足りないらしく、金属製品は結構いい値で売れるそうだ。

 ちなみにやっと仕入れたという水飴は、よほど強い希望がなければ出さないらしい。

 村で売るよりも目的地の街で売った方が高く売れるんだってさ。

 あとは、低級~中級の傷ポーションと、解毒のポーションが少し。

 村には大抵、薬草に詳しい人間が一人はいるものだが、即効性のあるポーションを作るとなると高度な知識が必要なため、街に住む魔法使いか錬金術師が作った物に頼るしかない。

 たまに変わり者の魔法使いが村はずれに住んでいて、生活費を稼ぐのにポーションを作っていたりするのだが、そういう場合は優先的に買い取るようにしているそうだ。

 便利だからね、即効性の万能薬は。ただ、値が張るのが難点だけど。


 以上の品ぞろえを見ると、爆発的な需要はないが、確実にそこそこ売れる品物を選んでいるように思えた。

 ま、そうでもしなきゃ行商なんてやってられんと思うしね。

 ちなみにここで仕入れるのは、干した山菜と毛皮、薬草だそうだ。

 この村で採れた干し山菜は今回の交易ルート全般で少しずつ需要があり、薬草は最終地点の街で大きな需要がある。

 毛皮は他の村で売ってもいいし、街に持って行けば高く売れる。

 こういうのを見てると、冒険の片手間に行商人の真似事をするのも悪くないと思ったりする。

 遠出するようなときはちょっと考えてみるか。


 そして村の中央広場で開店時間となった。

 初めのうちは物珍しさからそこそこ人が来たが、まぁなんというかある程度予想できる品ぞろえなので、やがて冷やかしの人の波は消えていった。

 それでもぽつぽつと売れたのは、底堅い需要があるからか。

 あと店番をしていると、品物を見に来た村人から

「何か面白いものはないか?」

 と聞かれることもあったが、生憎持ち合わせがないと断らざるを得ないのはちとつらかった。

 実際、手持ちで売りに出せるのは保存食セットくらいだしね。

 屋敷に戻れば水精鋼とか水精大亀の甲羅の欠片とかあるんだけど、持ってきたところで売れるとは思えんし。

 逆にどういうのが欲しいかと尋ねたら、少し悩んだ末に端切れでいいから珍しい魔物の毛皮が欲しいという答えが返ってきた。

 全身毛皮にするほどの予算はないから、毛皮の端切れで服の縁取りをしたいそうだ。

 なるほど、そういう用途もあんのね。

 あとは……珍しい食い物か。用意できるとすれば魔物肉あたりかのぅ。

 ま、次の機会にと覚えておきましょう。

 そんな感じでぽつりぽつりとモノが売れたり持ち込まれたりで、平和な1日は過ぎていった。


-2-

 翌日、1/5ほど中身が入れ替わった荷車を引いて、コアントの村を出発した。

「ここから先はちょっと森が深くなるので警戒をお願いします」

 ルハイマーがそう注意してきたが、俺らにとっちゃ森が深い方がやりやすいのよね。

 樹精のイツキがいるお陰で、森の中のことは手に取るようにわかる、と答えると、ルハイマーは納得したように頷いた。

 そして森の木々が太く、濃くなり、周囲が徐々に陰ってくる。

「ディーゴ、この先に緑小鬼と犬小鬼の混成がいるわ」

 その時、イツキが警告を発した。

「数はどのくらいだ?」

「緑小鬼が3、犬小鬼が5ね」

「了解。ルハイマーさん、この先に緑小鬼と犬小鬼がいるそうなのでちょっと片付けてきます」

「何匹ですか?」

「合計8匹ですね」

「お二人だけで大丈夫ですか?」

「まぁ雑魚なんで、ぱぱっと片づけてきますよ」

「じゃあここで待ってますので、終わったら戻ってきてください」

「了解です」

 ルハイマーにそう言い残してイツキと先へ向かう。

 歩きながらイツキに詳細を探ってもらうと、前方と左右の3か所に分かれて潜んでいるらしい。

 前方にいる犬小鬼2匹が囮で、左右にいる緑小鬼と犬小鬼3匹ずつが本命かな。

 とりあえずまっすぐ道なりに進んで、魔法の射程範囲に入ったところで左右に隠れている本命に杭の魔法をぶち込む。

 犬小鬼の方はイツキの魔法で3匹すべてが倒され、緑小鬼の方は1匹だけが瀕死の状態で道に出てきた。

 それを見た正面の犬小鬼は踵を返して逃げ出したが、それを見逃すほど人間できてない。

 瀕死の緑小鬼はイツキに任せ、逃げ出した犬小鬼2匹を後ろから戦槌で殴りつけて決着がついた。

 ……魔法を使うとホントあっけねぇな。

 そんなことを考えながらルハイマーの所に戻る。

「倒してきたので進みましょう」

「もうですか?」

「俺らにとってはこんなもんです」

 そんな感じでテクテクと進む。

 途中、魔狼の群れがいたら退治し、豚鬼の小集団がいたら蹴散らし、人間の野盗4人組も倒し、と、特に苦戦することもなく旅を続ける。

「しかし確かに森が深くなってから、魔物や野盗が増えましたね」

「このくらい街から離れると騎士団もめったに巡回に来ませんからね。魔物と盗賊たちのやりたい放題ですよ。森の中に逃げられたら騎士団では追跡は難しいですし」

「あー、確かに」

「ですから、村の中には近くを拠点とする盗賊団に食料なんかを融通する代わりに魔物から守ってもらう、という手段をとっているところもあるそうですよ?」

 ふーむ、そういう処世術もあるのか。

 そういうのを聞いちまうと、野盗=悪と決めつけて一律に討伐するのもなんだ、と思っちまうなぁ。

 無論襲ってくる奴は返り討ちにするが、こっちから攻め込む場合は事情の一つも調べた方がいいのかもしれんな。


-3-

 その後も旅と行商は順調に続き、荷車の中身を売りながら鍛冶屋のある村では鉄製品を仕入れ、魔術師のいる村ではポーションを仕入れと少しずつ荷車の中身は入れ替わっていった。

 途中、出店の条件に金銭ではなく水飴を要求してくる村長もいたが、それでもルハイマーによれば予想の範疇だそうだ。

 そして目的地のソルテールの街を目前に控えた今の荷車の中身は、虎の子の水飴以外はほとんど途中の村で仕入れた物品に置き換わっていた。

 ディーセンで仕入れたものがほとんど捌けたので、ルハイマーの表情も明るい。

 今後の予定を尋ねたら、ソルテールの街で5日ほど仕入れに費やしたのち、今度は東へ向かうそうだ。

 ちなみに俺はソルテールの街は初めてなので、待ち時間の間に幾つか街のことを教えてもらった。

 それによるとソルテールは七千人ほどの街で、近くに良質の塩鉱山があり岩塩が主な産出品になっているそうだ。

 惜しむらくは街の経済が塩鉱山に頼りきりになっているので、他のめぼしい物産はないとのことだった。

 ただ、消費都市として周辺の街や村から品物が集まるので、その中には掘り出し物があるかもしれない、と助言を受けた。

 うーむ岩塩か……生活の必需品だが、交易の品に選ぶにはちょっとな……。

 土産代わりに何か面白いものがあったら買って帰るか。

 そんなことを話し合っていると、ついに順番が来た。

 ディーセンからの行商人とその護衛ということで手続きを済ませ、門の中に入る。

 契約では護衛はここまでだ。

「ディーゴさん、長旅お疲れさまでした」

「ルハイマーさんこそ」

 そう言って握手を交わす。

「お陰で楽に旅ができました。ディーゴさんのおかげです」

「なに、こちらこそいい勉強になりました。水飴や村々で仕入れた品が高く売れること、願ってます」

「ありがとうございます。では、これが報酬の半金貨12枚です」

「確かに。じゃ、サインをお願いします」

 ルハイマーから報酬を受け取り、冒険者手帳を差し出す。

 ルハイマーがそれにさらさらと書き込む。

「じゃあこれはお返しします。では、これで失礼します」

「ええ、ルハイマーさんもお気をつけて」

 互いに手を振って、ルハイマーを見送った。

 ……さて、今夜の宿を探さんとな。

 村ならともかく街ならば冒険者の酒場もあるだろう。


 途中で道を何度も聞きながら、目指す冒険者の酒場にたどり着いたのは日も大分傾いての頃だった。

「綿帽子亭」という、なんかメルヘンな名前の看板をみて、扉を開ける。

「いらっしゃい、見ない顔だね。泊りかい?」

 カウンターの奥から店主らしい中年の女性が声をかけてきた。

「今さっき依頼でこの街に来たんだ。泊りと朝夕の食事を頼めるかな」

 そう言って冒険者手帳を差し出す。

 女将は黙って手帳を受け取ると、中身を確認する。

「……5級冒険者のディーゴだね。個室なら1泊銀貨5枚、大部屋なら銀貨3枚。食事は別料金で夜が半銀貨6枚から、朝は半銀貨4枚からになるけど、いいかい?」

「ああ、個室で2泊頼む」

 頷いて半金貨1枚をカウンターに置く。

 女将は半金貨をしまうと、鍵を渡してきた。

「部屋は107号室だ。夕食はすぐに食べるかい?」

「そうだな……その前に風呂入りたいんだが、この宿にあるかい?」

「ウチにはないねぇ。でもウチを出たら右に行って、交差点2つ過ぎたところに共同浴場があるよ」

「そっか。じゃあ、まず風呂行ってくるから、その後で夕食頼むわ」

「あいよ。入浴料は半銀貨2枚だからそれだけ持ってきな」

「わかった。ありがとう」

 鍵を受け取り、部屋で荷物を下ろして武装を解き身軽になる。

 手ぬぐいと入浴料をもって共同浴場に向かったが……ここ蒸し風呂なんだな。

 気分的には湯船に浸かりたかったんだが、まぁ仕方あるまい。


 風呂に入ってさっぱりしたところで、酒場に戻って夕食を頂く。

 岩塩の街ということで、岩塩プレートで焼いた肉野菜の定食がお勧めらしいので頼んでみたら意外にもかなりイケた。

 ……ふむ、土産に岩塩プレートでも買って帰るか。

ちょっと残念なお知らせです。

今まで週3回更新してきましたが、書き溜めていた分に更新が追いついてしまいました。

申し訳ありませんが、次回より不定期更新とさせていただきます。

一応、週イチ火曜日を更新日にする目標でいますが、ちと確約できないので。


読んでくださっている皆様には申し訳ないのですが、ご了承のほどお願いいたします。

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