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リベンジ剣闘士

-1-

 それから4日間は、ギルドの稽古所でみっちり対人戦の稽古に励んだ。

 まぁ3~4日稽古に励んだところで急激に強くなるわけでもないが、次の試合のために努力はしておきたかった。

 なにせ負けられんしな。

 教官の方もその理由を汲んでくれて、立ち合い多めで細かいところまで指導してくれた。

「お前が負けるとただでさえ少ない稽古生がさらに減る」

 と、教官は笑いながら言ってたが、実際問題笑ってはいられないだろう。

 くっ、また背負う看板が増えた気がする。


 試合当日、以前渡された契約書その他をもってカジノに行く。

 契約書の内容は、まぁ一般常識だったのでここでは特に触れない。

「おおディーゴ、来たな」

 支配人室でトバイ氏に会う。相変わらず机に座って書類仕事をしていたが、なんか今回は書類の量が多い。

「前回もらった契約書にサインしたので持ってきました」

「おう」

 書類を差し出すとトバイ氏が受け取り、その場で確認した。

「……うむ、漏れや間違いはないな。おめでとう、今日からディーゴもここの剣闘士だ」

「よろしくお願いします」

 そう言って握手を交わす。

「さて本来なら俺が剣闘士たちの所に連れていきたいんだが、ちょっと書類仕事が溜まっててな。ミレイア、代わりに頼む」

「かしこまりました。ではディーゴ様、こちらへ」

 ミレイアと呼ばれた美人秘書に連れられてカジノの外に出る。


「これから剣闘士たちの寮兼稽古場に向かいます。ディーゴ様は日頃稽古はどちらで?」

「冒険者ギルドの支部で銀貨5枚払って半日見てもらってる」

「そうですか。剣闘士の稽古場ですと専門の教官が無料で見てくれますので、よろしければご利用ください」

「わかった。ところでその寮ってのは遠いのか?」

「いえ、もう間もなくつきます。あの屋敷がそうです」

 そう言ってミレイアが指さした先には、結構な大きさの屋敷が建っていた。

 ふむ、俺の屋敷よりは若干小さいか。……って、ウチの屋敷が広すぎるんだよな。

 そんなことを考えながら門の前に立つ。中からは女性の気合いの声が聞こえてくる。どうやら稽古中らしい。

 ミレイアが門を開けてくれたので中に入ると、屋敷の前の庭で10人ほどの女性がそれぞれ得物をもって稽古に励んでいた。

「ディーゴ様はここでお待ちを」

 ミレイアがそう言い残して、集団に向かう。そして教官らしい女性に話しかけると、女性たちは稽古を中止して教官を先頭にこちらに歩いてきた。

「あんたが新しく入った剣闘士のディーゴか」

 引き締まった体の教官が声をかけてきた。

「ええ、今日から正式に剣闘士になったディーゴです。よろしく」

「あたしは教官のベネデッタだ。ここじゃ気取った敬語はいらないよ」

「そうか、わかった」

「ところであんたは初めてみる種族だが……人虎(ワータイガー)か?」

「いや……あまり大っぴらには吹聴してもらいたくないんだが、獣牙族っつー悪魔だ」

 ヒュゥ、と集まった女性たちの間から口笛が聞こえた。

 あの、幾人かは肉食獣が獲物を見る目つきになってますが。

「へぇ、悪魔がなんで剣闘士に?」

「まぁ話すと長くなるからざっくり言うが、俺は日頃冒険者やってんだが、依頼を受けてカジノで客寄せも兼ねた門番をやったら、そこの姐さんに試合を吹っかけられてね。衆人環視の前であっさり負けたもんだから、俺の冒険者としての評価がだだ下がりなわけよ。んで、名誉挽回のために再戦をと支配人に頼んだらこうなった」

「タリア……」

「タリアさん……」

 女性たちの目がタリアに集中する。が、当の本人はどこ吹く風だ。

「ま、悪魔とはいえ、魂と引き換えに願いをどうこうとか、そういうサービスはやってないから、普通の人間と同じように接してくれ」

 そして今いる剣闘士として、一人ひとり紹介してもらった。


ヴィアンナ……主に片手剣を使うチーム「花組」のエース。得物は長剣と丸盾。

エミリー……「花組」のメンバー。得物は曲剣。

ジュディス……「花組」のメンバー。得物は刺突剣と左手用短剣。

フォンフォン……「花組」のメンバー。得物は柳葉刀。

タリア……片手剣以外の武器を使う「月組」のエース。現王者。得物は両手剣。

パメラ……「月組」のメンバー。得物は槍。

ラチャナ……「月組」のメンバー。得物は両手棍。

ボニー……「月組」のメンバー。得物は2丁斧。

クレア……「月組」のメンバー。得物は手甲などの暗器。


「……あれ?数的に花組が一人足りないようだが?」

 紹介を終えてふと疑問を呈すると、ハナという小剣使いが今日の俺との試合のために既にカジノ入りしているそうだ。

 しかしこうしてみると、きつめ系から癒し系までタイプの違う美形が揃ってるなとちょっと感心した。

 なるほど、こんなおねえちゃんたちが、肌も露わな衣装で戦うならば人気も出るわ。

 若干一名、ボディービルダーも真っ青な超筋肉に包まれた男前がいるのは脇に置いとくとして。


 お互いの顔合わせが済んだところで、ミレイアと俺は再びカジノに戻る。

 試合は深夜、日付が変わるころの予定だが、暇な今のうちに対戦相手との挨拶も済ませておこうという算段らしい。

 ただその前に、カジノ内を歩いていると衣装係の人間に捕まり、先日警備員の時に着たフンドシパンツとサンダルの試着を頼まれた。

 仕方ないのでミレイアにはちょっと待ってもらい、控室で衣装に着替える。……ふむ、前着た時よりも安定感が増してる気がする。これなら試合中にずり落ちる心配もなさそうだ。

 また平服に着替えるのも面倒なので、そのままの衣装で今日の対戦相手であるハナに会いに行く。

「ここが女性用の控室です。普段は男子禁制なので注意してください」

「あいよ」

コンコン

「ハナさん、いますか?」

 ミレイアが扉をノックすると、中から返事が返ってきた。

「いるよー。なに?」

「今日の対戦相手で、新しく剣闘士になったディーゴ様を連れてきました。中に入っても大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ」

「では失礼します」

「お邪魔するよ」

 ミレイアと一緒に中に入ると、ちみっこい女の子が小剣の手入れをしていた。

「ディーゴ様、彼女が今日の対戦相手であるハナs」

「もふもふだ―――――!」

ズムッ

「ぐふぅっ」

 女の子は小剣を放り投げると、いきなりタックルしてきた。

 タックルしてきたのは子供サイズなので、さすがに押し倒されるようなことにはならなかったが、腹にもろに喰らってちょっと息が詰まった。

 まぁそれはいい。いやあまり良くないが、その後がいかん。

「ふかふかー!ねぇねぇ!これどうなってるの!?地毛?地毛なの?」

 とばかりに、腹から胸から喉からをワッシャワッシャとかき回される。

「ちょ、ま、少し、落ち着け、にゃふっ」

 いかん変な声でた。

「んー、いいにおーい」

 果ては胸毛に顔をうずめてくんかくんかされる。

「おーけー嬢ちゃん、ちょっと落ち着け」

 女の子の脇の下に手を突っ込んで、抱き着いてきた子供を無理やり引きはがす。

「えーと、あんたが今日の対戦相手のハナ、でいいのかな?」

「そうだよ。あなたがディーゴ?」

「ああそうだ。今日から正式に剣闘士になった。よろしく頼む」

「うん!よろしくね!そうだディーゴ。今日の試合、賭けしない?」

「賭け?内容にもよるが」

 というか、初対面でこれかよ。物おじしない子だな。

「あたしが勝ったらディーゴは椅子になって!ディーゴが勝ったら美味しいご飯奢ったげる!」

 椅子?椅子ってなんだ?

「ディーゴがまず椅子に腰かけて、その上にあたしが乗るの」

 ああ、抱っこ椅子か。まぁその程度なら。見たところちっちゃいし、乗せたところで軽かろう。

「いいだろう。その賭け乗った」

「やたっ!約束だかんね!」

「おう」

「……じゃあハナさん、ディーゴ様。顔合わせはこれで終わりということで」

「わかった。じゃあディーゴ、また会場でね!」

「ああ、お手柔らかに頼むよ」

 ぶんぶんと手を振るハナを残して、控室を後にした。

「ではこれで剣闘士たちとの顔合わせは終了です。ディーゴ様は時間まで控室で待機しておいてください」

「警備の方はどうする?」

「……そうですね、なら、折角ですから開場から3時間程お願いします。そのくらいならば試合にも支障はないはずですから。ブル様の方には私からも言っておきます」

「わかった。色々ありがとう」

 俺が礼を述べると、ミレイアはにこりと笑って去っていった。


-2-

 じゃあ、開場時間まで待機だな、と男性用控室に向かうと、部屋の中にはブルさんがいた。

「よぅ、ディーゴじゃないか。どうしたんだ?」

「いろいろあってね、俺もここの剣闘士になった。今日は俺のリベンジマッチなんだ」

「なんだそうだったのか。じゃあ、今日から同僚だな」

「ああ。よろしく頼むよ」

 そう言って改めて握手をかわす。

「ただ俺の場合、他にもいろいろ肩書があるんで試合に出るのは1~2か月に1度の割合なんだ」

「ああそうか、冒険者だもんな。で?話は変わるが今日の対戦相手は?」

「さっき会ってきたが、ハナっていうちみっこい子だ」

「ああ、ハナか」

「試合ったことがあるのか?」

「何度もあるぜ。見ての通り小さくてパワーがないから、その分スピードで翻弄してくる。リング内を縦横無尽に駆け巡ったり飛んだり跳ねたりとせわしないぞ」

「なるほど」

「それもあるが、体ごとぶつかってくる突きは強力だ。それには気をつけろ」

「突きじゃないが、さっき顔合わせをした時に出合い頭にタックルされたよ。もふもふだーって」

「はっはは、ハナらしい」

 ブルさんはそう言って笑った。

「ところで武器はどうするんだ?この間みたく槌鉾で行くのか?」

「戦槌が使えないんだ槌鉾で行くしかないな。使い方がちょいと違うが、まぁなんとかなるし」

「そうか。槌頭にかぶせる保護用の革袋はちゃんと固定しとけよ。あと寸止めは習ってきたか?」

「4日だけだがみっちり習ってきた。まぁ正直言うとまだ不安だが」

「4日じゃそうだな。まぁ無理しない程度に寸止めしてやれ。一応相手はうら若き女の子なんだからな」

「努力しよう」

「ああそうだ、試合に出るというなら警備はどうする?」

「開場から3時間だけやってくれと言われた。申し訳ないが途中で抜けることになる」

「それは構わんよ。3時間もすれば入場も落ち着くころだ」


 そんな感じでブルさんとだべっていると、いい時間になったので警備の仕事に向かった。

 あ、だべってる最中にミレイアがブルさんを探しに来たので、こっちで話はしておいたと言い戻ってもらった。

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