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ランク昇格

-1-

「おめでとさん。街の外での依頼を10回こなして、ランク5に昇格だ」

 配達の依頼から帰ってきて冒険者手帳を差し出すと、亭主がそんなことを言った。

「やっとランク5に昇格か。長かったような短かったような……」

 その言葉を聞いてため息をつく。

 俺の考えではもうちょっと早くランク5に上がってる予定だったんだけどな。

「まぁこんなもんだと思うぞ。むしろ兼業ながらよくこの期間でランク5に上がれたってのが俺の感想だ」

「そんなもんかね?」

「そんなもんだ。まぁここまでは大抵の人間がなれるからな、上を目指すならここからが本番と思った方がいい」

「わかった。肝に銘じよう」

「じゃあ、いつも通りこの紙2枚と新しい冒険者手帳に書いてくれるか」

「あいよ。って、ランク5になると手帳の文字が赤くなるんだな」

 差し出された2枚の紙と、冒険者手帳を見て呟く。

「ああ。ランク5からは冒険者として中堅どころとみられるようになる。依頼にも慣れてきて気が緩みがちになるのもこの辺りだな。ランク5で大怪我をしたり命を落としたりする奴も少なくないんだ」

「そうなのか?」

「ランク5になると、野盗の討伐や隊商の護衛なんかの依頼も入ってくる。つまり対人戦が増えてくるわけだ。今までの緑小鬼なんかとは勝手が違うから、その違いに慣れないまま大怪我をする奴が多い」

「それに脅すわけじゃないが、野盗の中にも化け物みたいな強さのやつもいる。ウチらとしてはそういうのはもっと上のランクに振り分けているんだが、新参の野盗集団だと漏れも出てくる。ま、手に負えないと分かったら依頼失敗になっても退却する決断が求められ始めるランクだな」

「でも依頼失敗となると違約金が発生するんだろ?」

「それを飲み込んだうえで退却を決断するのも、冒険者として生き残っていくうえで必要なことだ」

「なるほど」

「ところでお前さん、稽古の方は続けているか?」

「なるべく行ける時に行くようにはしてるし、毎日もそれなりに素振りとかしてるが?」

「結構結構。才能や身体能力だけの我流で行き詰るのもこの辺りだからな。ちゃんとしたところで稽古を受けられる余裕があるならそうした方がいい」

「ああ、今後もそのつもりだよ。っと、ほい、書き終わったぜ」

 そう言って亭主に2枚の紙と冒険者手帳を返す。

「あいよ。……ふむ、今回も変更はなし、か。それで「大いなる感謝を込めて」と書かれたのが……」

 亭主はそう言いながら、古い冒険者手帳をめくっていく。

「ふむ、これだけか。結構多いな。評価としてはまぁまぁ上等な冒険者、ということになるな。何かコツでもあるのか?」

「この面相だ、でかい看板背負って生きてるようなもんだからな。品行方正を心がけてたらそうなった」

「なるほどな、そりゃごもっともだ」

 亭主は頷いて手帳に追加文を書き足していく。

「ほれ、待たせたな。これが新しい冒険者手帳だ」

「あいよ。確かに」

 新しい冒険者手帳を受け取り、無限袋にしまい込む。

「さて、んじゃランク5になってランク6と何が変わるか説明するぞ」

「おう」

「まず、受けられる依頼の種類が増える」

「ふむ」

「具体的には、さっき言った隊商の護衛と、小さな遺跡や迷宮の探索が加わってくる」

「ふんふん」

「それと討伐依頼だが、ランク6では緑小鬼が精々だったが、ランク5からは豚鬼(オーク)の集落の討伐も入ってくる」

「あー、あれな」

「なんだ、戦ったことあるのか?」

「人里に入る前に何度か」

 過去の記憶を引っ張り出して答える。色々食ったが、亜人型の魔物はちょっと食う気になれなかったんだよな。

「なら問題ないな。迷宮探索も確かやったことあったよな?」

「森の迷宮だけどね」

「洞窟や遺跡はまた勝手が違うから、依頼を受けるその時に教えてやるよ」

「そうしてくれると助かる」

「それで隊商の護衛だが、これは主に国内を行き来する比較的短距離の隊商を護衛してもらうことになる。それと、護衛に当たっては他の冒険者と組んでもらうこともあるからそのつもりでな」

「ふむ。今までは単独だったが、他のパーティーとの協調性も試される、ってことか」

 まぁ一匹狼を気取るつもりはないから特には構わんな。

「そういうこった。まぁお前さんのことだから心配ないとは思うが、護衛中に仲間割れなんか起こすなよ?」

「分かったよ。ところで、護衛対象に怪我させちまった場合はどうなるんだ?」

「その場合は満額じゃなくて、いくらか差っ引かれた報酬が支払われることになるな。具体的には治療費だ」

「なるほど」

「あと、護衛依頼だと前払い金が払われるときがある。前にも言ったと思うが、前払い金を貰ったうえで依頼失敗すると、前払い金倍返しになるから気をつけろ」

「了解」

「それと依頼についての最後になるが、ランク5から指名依頼が来るときがある。依頼人から「こいつに依頼を受けてほしい」っつー指名だな」

「……あれ?俺、ランク6でも親父さんに結構指名されてたぞ?特にあの診療所からの依頼」

「あれは俺が吟味したうえでお前さんを指名したんだ。この指名依頼は、依頼人が直接冒険者を指名してくるんだ」

「……あんま変わらん気がするが」

「いや、指名依頼ってのは冒険者個人やパーティーを名指しで依頼してくるから、幾分報酬が高くなる。依頼人はそれを承知の上で、多めに金を払ってでもその冒険者に頼んでくるんだ。報酬は増えるが、相応の結果が期待されると思った方がいい」

「なんか面倒くせぇな」

 期待されると必要以上に頑張っちゃうのが社畜の性だからな。そういうのとは距離を置いていたかったんだが。

「なにを言うか。冒険者にとって指名依頼ってのは、お得意さんを掴んだのと同じことになるんだぞ。だから指名依頼はなるべくでも受けてやれ。それと、こなした指名依頼の数も高ランクに昇格するための査定条件の一つだからな」

「へいへい」

 やっぱりそうなるのね。

「依頼についてはそんなところだ。何か質問は?」

「いや、今のところはないな」

「じゃあ次は義務についてだ」

「義務なんて発生するのか」

「ランク5からな。といっても大したことじゃない。大規模な討伐とかで冒険者ギルドが動員をかけることがある。そういう場合はちゃんと参加しろ、ってことだ」

「因みに参加しないとどんな罰則がある?」

「軽いものは罰金、次いでランク降格、一番重いのは冒険者資格はく奪だな」

「ちなみに俺は名誉市民でもあるから、そっちでも動員がかかった場合はどうすればいい?」

「それは名誉市民の方を優先してくれ。その時にこっちに一報入れてくれるとなお助かる」

「わかった。なるべくこっちに一報入れよう。まぁ、動員なぞかからないのが一番なんだが」

「それについては心配するな。ここ20年くらい動員がかかったことはない。それに内容も一番新しい記録で豚鬼の大集落が出来たときくらいだからな」

「そんな事件があったのか」

「ああ。あの時は豚鬼の上位種である王とか将軍とか出てきて大変だった。街に被害はなかったが、討伐隊はそこそこ犠牲者が出た」

「はー。大変だったな」

 確かに豚鬼の大集落じゃ、犠牲者も出るだろうな。なにせ豚鬼は脂肪と筋肉の塊だからなぁ。

「おうよ。俺もランク3冒険者として参加したが、なかなかの激戦だったぞ。っと、話が逸れたな。ちなみに動員がかかっても免除されるケースがある」

「というと?」

「ほかの街にいる場合と妊娠している場合、怪我や病気で療養中の場合だ」

「そら動員がかかっても参加できんわな」

「ただ、それでも妊婦や怪我人はともかく他の街から駆けつけてくれると、ギルドの印象が良くなるから、出来れば参加願いたいところだな」

「まぁ理屈は分かるが、そんな他所の街から駆けつけて間に合うもんなのか?」

 現代日本みたく、電話や無線があるわけじゃなし。情報が届くだけでも数日かかると思うが。

「長期にわたる場合と、特別な騎獣を持ってる場合に限るな。竜とか天馬とか乗ってるようなら、他所の街にいても間に合うだろう」

「……いるのか?そんなの」

「今はいないな。噂では王都の冒険者ギルドに天馬乗りがいるらしいが、詳しいことは分からん」

「竜に乗ってる冒険者は?」

「この国にはいないと思う。ただ、どこぞの国には竜騎士がいるという話だから、その国だったらあるいはいるかもしれん」

「そっか。でも俺は竜や天馬に乗るのは御免こうむりたいね」

「高いところが苦手か?」

「まぁそんなもんだ」

 空を飛べる魔法とか命綱とか、そういった保険もなしに生身で空なんか飛びたくねぇっすよ。

「そうか。お前さんならなんか面白い騎獣を連れてきてくれると思ったんだがなぁ」

「そればっかりはこの先の依頼次第だな」

「それともう一つの義務だが……まぁしばらくはないと思うが、国外に出る場合は一報入れてけ」

「ああ。まぁそれは礼儀としてするつもりだが……なぜランク5から?」

「ランク6以下はまず国内から出ない上に、何かあったときの戦力としてアテにならんからだよ。ランク5からは一応戦力として頭数に組み込まれる。そういう理由だ」

「なるほど」

「あとこれは依頼でも義務でもないんだが、ランク5になるとタイムリミットがなくなるのは前に説明したな?」

「ああ。ランク7と6だと一定期間依頼を受けないと資格がなくなるっつーあれだな」

「そうだ。だが、ギルドとしては依頼を受けなくても年に一度は顔を出してほしい。これは記載事項に変化がないかの確認だな。これは義務じゃなくて努力目標なんだが……ランク5になるとぱたりと依頼を受けるのをやめて幽霊化する冒険者も一定数居てな。まぁ仕方ないっちゃ仕方ないんだが、ギルドとしては頭の痛い問題なんだ」

 身分証代わりに免許証持ってるペーパードライバーみたいなもんか。まぁ、免許証の方は害はないけど、有事の戦力が関係してくる冒険者資格の方はちょっと問題だな。

「ま、お前さんなら大丈夫だとは思うが、記憶の片隅にでもとどめておいてくれ」

「わかった」

「説明は以上だ。何か質問はないか?」

「ランク5は何回依頼を受けたらランク4に上がれるんだ?」

「20回だな。ランク5の依頼を20回成功させると、ランク4に上がれる。結構大変だぞ」

「そうみたいだな」

「ほかに何か質問はないか?」

「んー、特にはないかな」

「じゃあ話はこれで終わりだ。何か依頼でも受けてくか?」

 亭主が依頼板を指しながら言う。

「いや、明日は稽古にあてたい。この間寝込んでから、どーも体がなまってる気がしてな、早いとこ復活させたいんだ」

「なんだそうか。じゃあ、明日はせいぜい体をいじめてこい」

「そうするよ。じゃ、お世話様」

「あいよ」

 亭主にひらひらと手を振って、店の外に出る。


 ……俺もやっと中堅どころか。どこまで行けるかわからんが、まだ先は長そうだな。

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