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蔓草の病3

-1-

「お帰りなさいませ。首尾はいかがでしたか?」

「大見得切って出てった割に申し訳ない、今日のところは時間切れだ」

「そうでしたか。ここの森は意外と広いですからな、腰を据えてじっくりやってください」

「そういって貰えると助かる」

「そうそう、ツワングが森の中でお世話になったそうで、お礼の品を預かってますよ」

 そう言えばそんなこと言ってたっけ。

「えーと、ああ、これでしたな。蜂を生きたまま蒸留酒に漬けた蜂酒と言いまして、毎日少しずつ飲めば滋養強壮に効果があるそうですよ。口に合わないようでしたら売っても構わないと言ってました。蒸留酒より高値で売れるそうです」

 ああ、マムシやハブの蜂バージョンね。そういや栃木の湯西川(だったか?)では、スズメバチを蜂蜜に漬けたものが売ってたな。

「蜂酒か。それは初めて飲むな。寝しなにちょいと味見させてもらおう」

「ささ、お腹も空かれたことでしょう。男やもめの料理ですがお召し上がりください」

 そう言って村長が指し示した先には、具沢山のスープや山鳥のグリル、付け合わせの山菜などが並んでいた。

「これはご馳走だな。遠慮なく頂きます」

 村長の厚意に感謝し、料理を堪能すると満ち足りた気分で床に就いた。


 そして翌朝。

「おはようございます」

「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」

 居間に行くと、村長が声をかけてきた。

「ええ。布団まで用意してもらってどうもすいません」

「はっは、この村は来客も多くてですな、この程度はどうってことはございませんよ」

「そうですか。でも毎回村長が相手するとなると大変じゃありませんか?」

「まぁこの村はたいして揉め事もなく、半分これが村長の仕事みたいなことになっておりますからね。それに、お客様をもてなして色々話を伺うのが私の趣味みたいなものなんですよ」

「なるほど」

 それで昨夜はディーセンのことを色々聞かれたわけか。

「さ、朝食の用意が整ってますので、お召し上がりください」

 まだ湯気の立つ厚切りベーコンとオムレツを指して村長が笑いかける。

「朝からこんなご馳走、申し訳ない」

「なに、うちは薬のおかげで裕福ですからな、この程度は」

 ふーむ、そういう物なのか。以前いたセルリ村も、このくらい裕福になればなぁ。

「それと昨日言い忘れたのですが、毎年の魔物退治で使う大松明がありますので、よろしければ持って行ってください」

「ありがとうございます」

 大松明か、植物相手なら鉈よりましかもしれんな。

 朝食を終え、大松明を受け取ると再び森へと向かった。


-2-

 そして昼過ぎ、なぜか俺は吸血蔦ではなく森で出会った爺さんの孫を探していた。

 何でも薬草を一緒に採りに来ていたが、あちこち移動しているうちにはぐれたらしい。

 その狼狽えっぷりがあまりにも可哀想に見えたので一緒に探すことにしたのだが……この孫とやらがえらい癖者だった。

 イツキにも探してもらっているのだが、とにかくちょろちょろちょろちょろと落ち着きがなくて、あっちこっちに移動しまくっている。

 まるでこっちのことが見えていて、わざと逃げているのかと勘繰りたくなるほどの動きっぷりに、こっちのイライラも微妙に溜まってきていた。

 もうあたり一帯に迷いの森の魔法でもかけて閉じ込めてやろうかと思い始めた矢先、イツキが朗報を持ってきた。

「ディーゴ、あの子供、木に登り始めたわ」

「よっしゃ、急ぐぞ爺さん」

「は、はい」

 息が切れ始めた爺さんを連れて、目的地の木に急ぐ。あそこは3回くらい探した場所だが。


「この木だな」

「そうよ」

「爺さん、この木の上の方にいるってよ」

「エットー!降りてくるんじゃ、エットー!!」

 爺さんが声を張り上げる。しばらくすると、木の上から子供がおりてきた。

「じいちゃん!」

「エット!あれほどワシのそばを離れるなといったじゃろが!」

「ごめんよじいちゃん」

「あ、あんたもしかして冒険者か?すげー!本物の武器だ!それにもふもふー!!」

「こ、これエット!」

 腰にぶら下げた戦槌や鎧をべたべた触る子供を爺さんがたしなめる。

「まぁまぁ、見つかって良かったじゃないか」

「すまんですのう。ところでエット、お前、何しとったんじゃ」

「この木の実が美味そうだったから食ってたんだ」

 そう言って手を開いて見せる子供。うん、つやつやの赤い実が美味そうに見えなくもない。

 それを聞いた爺さんが、さっと表情を改めた。

「この木の実を?幾つじゃ。幾つ食ったんじゃ!?」

「えーと、両手の数だけ!」

「なんてことを……この木の実は食べすぎると毒なんじゃ!エットみたいな子供が10個も食べたら死んでしまうぞ!」

「ちょっと待て、それ大ごとじゃないか!?」

「すぐに手当てせにゃならん!ディーゴさん、すまんですがワシらはすぐ戻ります」

「ああ、急いでな」

「ほれエット、来るんじゃ」

「うん。じゃあ冒険者さんばいばい!」

「今度は爺さんのいう事ちゃんと聞けよ」

 子供にそう返すと、爺さんと子供はわたわたしながら帰っていった。


「やれやれ、とんだ時間を食っちまったな」

「そうね、今日中に見つかるかしら?」

 イツキとそんな会話を交わしながら探索を再開する。

 が、結局この日も吸血蔦は見つからなかった。


「ただいま戻りました」

 村に戻って、村長に声をかける。

「お帰りなさいませ。その様子ですと、今日も空振りだったようですね」

「その通りです。力が足りず申し訳ない」

「いえいえ、話はリード爺さんから聞きました。ずいぶんとご迷惑をおかけしたようで」

 リード爺さん?ああ、あの迷子の爺さんか。

「お礼がしたいと申してましたから、夕食後あたりにまた来ると思いますよ」

「そうですか」

「さ、今日は去勢鳥を〆ましたのでたんと召し上がってください」

「去勢鳥か。話で聞いたことはあるが食べるのは初めてですね」

「ほっほ、そうでしたか。お口に合えばよいのですが」

 村長は人の好い笑みを浮かべると、居間へと誘った。


 去勢鳥のローストも根菜のシチューも大変美味しゅうございました。

 特に去勢鳥のロースト、脂が甘くて旨いのなんの。メシ食って感動するなんて久しぶりだよ。

 自宅……は無理にしてもセルリ村あたりで養鶏できねぇかな。

 ……なんてことを村長と笑いながら話し合ってみたが、去勢の手術が難しいことと、飼育期間が長くなることから、それなりにゆとりのあるところでないと手が出せないらしい。

 むぅ、残念だ。実に残念だ。(大事なことなので2回言いました)

 そんな感じでくつろいでいると、誰かが玄関のドアをノックした。

「たぶんリード爺さんでしょう。開いてますよ」

 と、村長が答えると、昼間の老人が中に入ってきた。

「邪魔するぞい。おお、ディーゴさん、昼間は随分とお世話になりましたのぅ」

「なに、一緒に駆け回っただけで大したことはしてないよ。ところでお孫さんの容態は?」

「手当が早かったのでもう大丈夫ですじゃ」

「そりゃよかった」

「それで今日は、昼間のお礼代わりにこの森の薬草についてお教えしようと思いましてな」

「ほう?」

「ここの森の薬草はちと扱いが難しゅうてですの、薬草に詳しい者でないと大したものは採れないんですじゃ。

 聞けばディーゴさんはリグノスを買いに来られたとのこと。ならばお医者様にも伝手はございましょう。

 これからお教えする2つの薬草は、お医者様ならいくらかで引き取っていただけるでしょう」

「そういう事なら有り難い。なにせ今回の依頼、大金が動く割に報酬が安くてね」

 そう言うと一同から笑いが漏れた。


 そうして始まった薬草のレクチャーで、ササバミとリスタ茸というものを教えてもらった。

 両者とも今の時期が旬の薬草で、ササバミはかゆみ止めの薬に、リスタ茸は整腸剤になるそうだ。

 そりゃ確かに冒険者が好んで採取する薬草じゃないわな。

 明日、見かけるようなら採っておこう。

 その後は、リード爺さんを交えた村長と3人で、よもやま話をして夜を過ごした。


-3-

 翌朝のメニューは、ベーコンチーズエッグとサラダとヨーグルトだった。

「なんかこうも毎日豪華なメニューだと恐縮です」

 つーか、ここに世話になってから毎食メニューが違うんだよな。

 セルリ村にいたときはパンにシチュー、プラス肉かチーズが少しといった毎日似たよなメニューだったが(これでも恵まれてる方らしいbyハプテス爺さん)、裕福な村は違うね。できることならセルリ村もこのくらいまで持っていきたい。

 連泊してるのに2日続けて同じメニューを出してきたどこぞの旅館(in日本)には、このOMOTENASHIの心を見習ってほしいぜ。

 海っぺりでも山の中でもマグロの刺身だしときゃ喜ぶってもんでもねーぞ昨今は。

「いえいえ、ディーゴさんには魔物退治をお願いしているわけですからな。朝食をしっかり召し上がっていただいて力をつけていただきませんと」

「ありがとうございます。今日こそは決着をつけたいですね」

 村長の気持ちに感謝すると、用意された朝食を美味しく、そして残さず頂いて、三度森へと向かった。


「よし、昨日一昨日で大分歩いたからな、今日はまだ歩いてないところを中心に攻めるぞ」

「また村の人に何か頼まれなければいいけど」

「……言ってくれるな。俺もちょっと気にしてんだから」

 2度あることは3度ある、ってね。まぁ、それならそれで村長の美味い飯がまた食えるから楽しみではあるんだが。

 ともあれ、そういう方針で決めたのでまだ歩いていないところを中心に探索を進めていく。

 道すがらササバミを見つけたので忘れずに摘んでおく。

 サクサク歩いたおかげで、昨日リード爺さんと会ったところまでたどり着くのに時間はかからなかった。

「昨日はここで引き返したんだよな」

「お孫さんを探しにね」

「うし、こっからはちょっと注意深く進んでくぞ」

「了解」

 と、気合を入れて進むと、間もなく一面の花畑に出た。

「へぇ……森の中にこんな場所があるなんてね」

 知らない人が見ればただの花畑だが、ここで一昨日聞いたツワングの話を思い出した。

「そういや北東の隅に毒の花畑があるって言ってたな。多分ここがそうか」

 かがみこんで咲いている花を観察すると、確かに花のすぐ下に丸いものが見える。

「これを踏みつぶすとダメだって言ってたわね」

「そうだな……。イツキ、この花、ちょっと除けられないか?」

「そのくらいならできるわよ。ちょっと待っててね」

 そう言ってイツキが腕を振ると、もこもこと花が動き出し真ん中に一筋の道ができた。

「上等上等。これなら楽に進めるな」

 両脇によけた花を踏みつぶさないように、花畑を横切ることに成功した。


 さて、そろそろ吸血蔦が出てきてもいいころなんだが……。

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