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自給自足生活あれこれ

-1-

 水瓶を作ろう。


 洞窟生活もそこそこ軌道に乗り始めたころ、ふとそんなことを思いついた。

 今までは水はその都度近くの小川に行っていたのだが、いい加減面倒くさくなってきていた。

 大きな壺というか瓶を作ってそこに水を貯めておけばいいじゃないか、というわけだ。

 それなら雨が降って川が濁っても大丈夫だし。

 それに食器類はあるものの洗面器などの大きな鉢が欲しいと思っていた。

 だったらまとめて作ってしまえ―、となったわけだ。


 てなわけでまずは土探しから。

 ……といっても焼き物に適した土なんて見当がつかないので、適当なところを掘って粘土を取る予定。

 というわけで洞窟の近場をざこざこと鍬でほじくり返すこと2時間。ようやく粘土らしきものが取れました。

 それからさらに時間をかけて粘土をかき集め、いよいよ器づくりが始まった。

 正直言うと粘土集めだけですでに面倒くさくなっていたんだが、せっかく掘った

粘土はさっさと使わないとね。

 乾くと固くなるし。


こねこね

こねこね

こねこね

 いかん、水瓶を作るには粘土が足りない。

 結構集めたつもりなんだが。

 仕方なくまた粘土を掘り出して継ぎ足し継ぎ足し瓶を作り、夕方になるころにはなんとか形にすることができた。

 はー、ろくろがないから時間がかかったが、それでも陶芸家は大変だな。と、しみじみ思う。


 続けて洗面鉢と水汲み用の中壺を作る。

 これまた粘土が大量に必要だが仕方ない。

 何度かの失敗を経てとりあえず形にすることはできた。

 芸術的には……うーん……6点といったところか。

 100点満点でだけどな。

 いいんだよ昔から美術は点数低かったんだよ水が漏れなきゃそれでいいじゃんチクショウめ。


 で、だ。形ができたから次は乾燥だが……日干しがいいのか陰干しがいいのかよくわからん。

 ついでに乾燥期間もよくわからん。

 日干し煉瓦ってのがあるから外のほうがいいのかもしれんが、あれは確か雨の少ない乾燥地帯の工法だった気がする。

 ……乾燥中に雨が降ることも考えて洞窟の中で陰干しにしとくか。

 4~5日も干せば乾くだろう。


10日後


 乾燥に予想以上の時間がかかったが、とりあえず乾いたようなので焼くことにする。

 ちなみに乾燥中にヒビが見つかり追加で粘土を張り付けたりしたので芸術性はさらにランクダウンした。

 いいんだよ(略

 乾燥させた土器を中心に薪を積み上げ、火をつける。

 どのくらい焼けばいいのか見当がつかんが、目標は一昼夜。

 そのくらい焼けば文句はなかんべぇといったところだ。

 燃え上がる炎が途切れないように、土器にまんべんなく炎が回るように薪をくべて回る。

 薪の乾燥までは手が回らなかったので結構煙が出る。

 ……煙いはずだよ生木が燻る、ってか。

 どっかで聞いたことのある軍歌を思い出しながらぼんぼんと薪を追加していく。

 結構熱いぞ。さすがにこの体に熱耐性はついてないか。

 ふさふさの毛がよく燃えそうだしなぁ……。

 などとつまらないことを考えながら一晩が明けたところで、集めていた薪が尽きてしまった。

 ペース配分を間違えたようだが……まぁ土器も赤くなるまで焼けていたし大丈夫だろう。多分。

 あとは1日おいて熱を取って完成だな。


 と思っていた時期がありました。

 いや、一番でかい水瓶は何とか形になっていたが、水汲み用の小さい土鉢はでかいヒビが入って使い物にならなかった。

 薄くしすぎたのか、それとも乾燥が足りなかったか?

 考えてもわからないのでとりあえず別の方法を考えることにした。

 ふむ、洞窟の奥には寝床代わりに今まで仕留めた獲物の皮が置いてある。

 適当に噛んである程度鞣しておいたので、少しは柔軟性はある。アゴがえらい疲れたが。

 服に使うつもりだったがこれを縫い合わせてバケツにしよう。

 針と糸もあるしね。

 んなわけで、チクチクと裁縫をして革バケツ完成。

 土鉢よりもこっちのほうがいいかもしれん。軽いし。

 鞣しが甘くてちょっと水が漏るが、しみ出る程度なのでそのまま使うことにした。


 さてこれで少しは文明的な生活になったかな、と。

 寝床は少し薄くなったがな。


-2-

 土器を作った翌日、ねぐらの洞窟近くを探索していたら、リンゴっぽい果物がなっている木を見つけた。

 齧ってみたらえらく酸っぱい。

 しかし酸っぱい果物は嫌いじゃないし、ビタミンCが摂れるかもと思ったので数個もぎ取ったところでふと「シードル」という単語を思い出した。

 バイトしていた居酒屋の店長が酒好きで、いろいろな酒を取り寄せて飲んではうんちくを語ってくれたっけ。

 それに影響されて酒造りの本なんかも読んだっけなぁ……。

 その時の記憶によればシードルとはリンゴから作る発泡酒で、アルコール度数は……えーと多分ビールくらい。それほど強くなかったはず。

 肉とクレソンの食事も悪くはないが、やはりここは潤いが欲しいところ。

 てなわけでシードル作りに挑戦することにした。


 シードルの作り方は至って簡単。

1、リンゴを絞って果汁を貯める。

2、蓋のできる容器に入れて常温で保存する。

3、味見をしつつ時々かき回し、アルコールの風味が出てきたら完成

 以上!

 だったはず。確か。うろ覚えだけど。

 本当は酵母とか温度管理とか密閉容器とか必要なんだろうが、そんな高度なことは無理。

 それにつらつらと記憶を手繰ってみれば、シードルも結構歴史のある飲料だった筈。

 そんな時代に酵母がどうとかやってるとは思えないので、上のやり方で作れないことはない……と思うんだ。多分。きっと。恐らく。

 腐った果汁になる可能性があることは否定しない。


 瓶の前に陣取り、リンゴもどきを片手ずつ交互に握りつぶして絞り、瓶に果汁を貯めていく。

 おろし金で摩り下ろしてから布で濾したほうが果汁が集まると思うんだがそもそもおろし金持ってないしね。

 それに虎男のスペックなら割と簡単にリンゴもどきが握りつぶせるってのもある。

 どんだけスペック高いんだこの肉体。

 そしてリンゴもどきを30個ほど握り潰し、瓶の2/3ほど貯まった果汁をかき混ぜつつ放置すること2週間。

 果汁の匂いにアルコールの匂いが混じり始め、なんとか酒らしいものができた。

 もっとも、密封してないので炭酸はなく発酵も甘いので、飲んだらちょっと酔えるような気がするリンゴジュースだけども。

 これをさらに放っておけばリンゴ酢ができるはず。

 と言いたいところだけど、その前に全部飲み干してしまいました。てへ。


 いやだって久しぶりの酒だよ?気分につい流されて、一杯もう一杯と飲んでいくうちに気が付けは瓶は空っぽになってました。

 ま、また作ればいいや。

 まだリンゴもどきはなってたはずだから。

 なんて余裕をぶっこいていた自分を殴りたい。

 再度のリンゴ酒つくりを目論んでリンゴもどきのなっていた木を目指すと、そこにはほとんど実が落ちた木がありましたとさ。

 落ちている実も8割ほどが何らかの形で食われてた。

 うーむ、酸っぱかったからまだ熟してないと思っていたんだが、このリンゴもどきはあの酸っぱさで完熟状態だったんだな。

 考えてみりゃ野生のリンゴ(もどき)が日本の店で売ってるような甘さの訳ないか。


 仕方がないので無事そうな実だけを拾い、木からももぎ取ってねぐらに帰ることにした。

 幸い別の方向に探索範囲を広げてみたら、同じような数本の木を見つけたのでこれも根こそぎ確保。まとめてねぐらにため込んだ。


 そして1/3ほどを握りつぶして再びシードル作りに回し、残りはそのまま保存することにした。

 さすがに全部を一度にシードル作りに回すほど飲んべじゃないよ。

 ……最終的には全部飲むことになるかもしれないけどな。


-3-

 今日は冷たい雨。


 熾火をかき回して火を熾したのち、湯を沸かして麦を一掴み放り込む。

 焼き乾かしておいた鹿肉もいくつか加え、少量の塩で味をつけた水っぽい雑炊をすする。

 肉の備蓄はまだあるが、ひき割り麦と調味料が心もとない。

 またどこかで行商人でも襲われてないかなと物騒なことを考えながら、今日の予定を考える。


 とはいえ雨が降っているので出かける気にもなれない。

 こういう日は酒でも飲んで寝ているのが一番なのだが、あいにくシードルは仕込みの途中でまだ酒になってない。

 さてどうやって今日一日の暇をつぶすか……と外を見たら、ススキの穂が雨に打たれて揺れているのが見えた。

 ……久しぶりにアレでも作るか。


 小学校の時に習ったことを思い出し、雨除けの毛皮をかぶってススキを刈りに出かける。

 ススキの穂は火口としても使えるが、今回作るのは別の物。

 目につく限りのススキを刈ってきて雨を払いざっと乾かしたのちに、20本ほどを束ねて糸で縛る。

 折れないように注意しながら180°折り返し、これまた糸で縛ればススキの丸い玉ができる。

 出来上がった玉を囲むようにまたススキを配して糸で縛り、初めに作った穂の玉の下にどんぐり型の穂の玉を作る感じでふくらみを持たせつつまた糸で縛る。

 上の玉の部分に木片を丸く削って作った眼と、ひし形に削って作ったくちばしを取り付ければススキのミミズクの完成。となるわけだ。

 ……いや、耳(羽角)がないからススキのフクロウだな。

 ちょいと不恰好だが、30年ぶりくらいにしては上手くできたほうだと思う。

 意外と覚えてるもんだ。


 それからは別のフクロウを作ったり形がイマイチでばらしたりを繰り返し、最終的に7個ほどのフクロウを作り上げた。

 って、暇はつぶせたがこんなに作ってどうすんだ俺。

 ……しゃーない、ねぐらの入り口にでも飾っとくか。


 そしてその夜。

 ふと何かの気配がして目が覚めた。

 獣でも入り込んできたか?と布団代わりの毛皮にくるまったまま、ねぐらの入り口を見る。

 すると、小さい人形みたいな何かが何体もいて、それぞれ両手を上に伸ばしてぴょこぴょこと動いていた。

(…………?)

 じっと目を凝らすが、入口から差し込む月明かりが逆光となり、その小さい人形みたいなものの詳細が分からない。

 しばらく観察していると、その小さなイキモノは、入口の壁を登ったり、肩車をしたりして、一所懸命上に行こうとしているらしかった。

 はて何かあったっけ、と視点を動かすと、昼間に作ったススキのフクロウが飾ってあった。

 どうやら正体不明の小人たちは、そのフクロウを狙っているらしい。

 ……まぁ元手はタダだし、暇つぶしで作ったもんだし、欲しいようならくれてやるか、と寝床から起き上がり入口に向かって歩く。

 するとこちらの気配に気づいた小人たちは、わーっと蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまった。

 それでもまぁ、フクロウが欲しけりゃまた戻って来るか、と飾っていたフクロウ7体を全部取り外して、地面に置いてやる。

 そしてまた寝床に戻り、敷いてある毛皮の中に潜り込んで目を閉じた。


 翌朝、寝起きのぼーっとした頭で昨夜のことを思い出す。

 昨日の小人たちはあのあとフクロウを回収しに来たのかな、と入り口を見ると、地面に置いたフクロウ7体は全部なくなっており、代わりに焦げ茶色の泥団子というか土団子というか、そんな感じの丸い石が転がっていた。


 ……礼のつもりか知らんが、義理堅いことで。

 内心ニヤリとしながら焦げ茶の丸い石を拾うと、お客さんがいるのならまた今夜あたり暇見てフクロウを作るか、と外のススキを眺めた。

 元々こういう細工は嫌いじゃないしね。

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