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防具屋に行こう

-1-

 冒険者の酒場の石巨人亭でランチを堪能したのち、勧められた武器と防具の店へと向かう。

 初めて向かう、武器と防具の店!ってことでなんとなく足取りが軽いのは気のせいか。

 言われたとおりに石巨人亭から北へ3ブロックほど歩くと、職人街に入ったようで、物音やら怒鳴り声やらが普通に聞こえてきた。

 職人の成果の品物を見物しながら歩いていくと、武器屋と防具屋が隣り合った店を見つけた。

 なるほど、ここがドワンゴとゼワンゴの店ね。

 まずは鎧を、ということで防具屋の方に入ってみる。

「こんちは」

「……らっしゃい」

 カウンターの奥からひげもじゃのおっさんが不愛想に返してきた。

 ……ふむ、丸々太ったビア樽体形。まさにドワーフだ。

「石巨人亭の亭主に紹介されて鎧を見繕いに来たんだが……」

 と、ランチの時に書いてもらった紹介状を差し出す。

「なんじゃ、あの熊親父の紹介かい。どれ……」

 ドワンゴはひったくるように紹介状をとると、その場で開いて読み始めた。

 その間に、そこそこ広い店内をぐるっと眺めてみる。

 ……あっちに並んでるのが軟革鎧(ソフトレザーアーマー)で、その反対側に並んでるのは硬革鎧(ハードレザーアーマー)か。

 ふむ、鋲を打ったり小札を縫い付けたりと、革鎧の防御力を上げるのにいろいろやってんだな。

 見たところ鎖帷子(チェインメイル)板金鎧(プレートアーマー)はないみたいだな。革鎧の専門店か?

「素人だが将来有望な上客、と書いてあるが予算はいくらじゃ?」

 そんなこと書いてあるんかい。

「武器と合わせて金貨10枚ってとこかな」

「なるほど確かに上客じゃ。あの親父にはあとで礼を言わんとな」

 いや、つーかさ、客の前で上客上客言うのはどうよ?と思ったが、空気を読んで黙っておく。

「お前さん、鎧を作るのは初めてか?」

「ああ、今まで野良着で何とかしのいできた。でも本格的に冒険者やるならまともな装備が欲しくてね」

「どういう鎧が欲しい?と言ってもここにあるのは革鎧と布鎧だけじゃが」

「へぇ、布の鎧なんてのもあるのか。服と何が違うんだ?」

「ほれ、そこに吊り下がってるじゃろ。生地と糸に丈夫なものを使っておるし、生地と生地の間に綿を詰めておる」

「ほぅ。触ってみても?」

「構わんぞ」

 許可が出たので手に取ってみると、確かに厚手の丈夫そうな生地がキルティング状に縫われている。

 ちょっとした刃物くらいなら防げそうだし、衝撃にも強そうだ。

「たかが布と馬鹿にしちゃいかん。体力に自信がなかったり、隠密行動する奴なんかには結構人気があるんじゃ。燃えにくいように生地を処理してあるから、若干だが炎にも強いしの」

「とはいえ、後衛用の鎧じゃな」

 だろうね。丈夫そうだけどこれ着て最前線で敵と切り結ぶとなるとちと不安だな。

 値段は……ほとんどが銀貨で半金貨でも1~2枚のが多いね。

 その隣にあるのは、柔らかい革鎧だ。軟革鎧とでもいうべきか?

「隣にあるのは軟革鎧じゃな。なめした革を鎧の形に仕立てておる。布鎧よりずっと丈夫じゃぞ」

 あーうん。革のライダースーツ丈夫だもんね。アスファルトですっ転んでも平気とか。

 でも、布鎧は長袖ばかりだったけど軟革鎧は袖があるのとないのと半々くらいか。

 袖がないのはベストみたいな感じだね。

 触ってみた感じは厚みの割に結構柔らかい。

「ウチの軟革鎧はモルモっちゅう皮革取り用の動物からとった皮革を使っとる。牛や馬より革が厚くて、その分防御力も期待できるんじゃ」

「へぇ。魔獣の毛皮なんかでも作ったりするのか?」

「あるにはあるが、お前さんにゃまだ早いわい。そういう鎧は材料を持ち込みできるようになってから頼むんじゃな」

「そりゃごもっともで」

 ドワンゴ親方の指摘には苦笑いするしかなかった。そりゃ冒険者なりたての人間が高級装備に身を固めてたら妬み嫉みの上に「なんだアイツ」と後ろ指さされるに違いない。

 しかし値段は半金貨数枚か。思ったより安いな。供給が多いからか?

「そして反対にあるのが硬革鎧じゃ。油で煮て固くした皮革を使っておる。柔軟性はなくなるがその分防御力は上がっとるぞ。雑な作りの鎖帷子よりはこっちを買う方が得じゃな」

 言われて触ってみると、確かにガッチガチに固い。軽く叩くと、コツコツという硬質の音がした。

「硬革鎧は鎖帷子と並んで冒険者に使われとる鎧じゃな。かなりの固さを持っておるし、その割に軽くて金属鎧のような音もせん」

「それに鉄よりも加工が容易じゃからな、ワシら職人も遊ぶ余地が出てくる」

 言われてみると、革鎧には結構な彫刻が施されてる。

「金属の鎧でそれだけの飾りを入れるとなると値段が跳ね上がるからの。ま、格好つけたところで魔物相手では意味はないがの」

「まぁ確かに。でもこういう遊び心は俺も好きだよ」

 精緻な彫刻をなぞりながら答える。浅く彫って彩色してあんだね、これ。

「そう言ってくれると職人としても嬉しいわい」

 ドワンゴ親方がそういって破顔した。

「……奥にあるのは補強された革鎧かい?」

「ああ。硬革鎧では心もとないが金属鎧は着たくない、着られないちゅう奴が買っていくんじゃ。鎧としてはちとマイナーな部類に入るの」

 うん、一昔前のゲームじゃ革鎧(レザーアーマー)の次は鎖帷子(チェインメイル)だからな。

 環金鎧(リングメイル」)とか小札鎧(ラメラーアーマー)鱗鎧(スケイルメイル)とか見るようになったのは割と最近のことだし。

 ゲームによっては鎖帷子に金属片を縫い付けてたりするが、こっちでは革鎧に金属片を縫い付けているようだ。

 主に大怪我を防ぐためのものだな。

「さて、お前さんはどんな鎧がいい?」

「そうだな……」

 顎に手を当てて少し考え込む。ここで悪い癖がちょっと頭をもたげた。

 生来のマイナー志向がうなり始めたのだ。メジャーとマイナーなら躊躇いなくマイナーを選ぶ、ちょっと困った俺の癖。

「初めてだから、軟革鎧……に金属片で補強した奴がいいな」

「……なかなか渋い選択をするの。大抵は硬革鎧を選ぶんじゃが、初回から補強を頼むやつは珍しいわい」

 鎧の知識はゲームだけどちょびっとあるんでね。

「して、軟革鎧を選んだ理由は?」

「まだ鎧そのものに体が慣れてない。まずは柔らかい鎧で体のどこらへんに負荷がかかるか、どう動けるか知ってから固い鎧を選んだ方がよかんべ、と思ったのさ」

「それに駆け出し冒険者の相手なんぞ緑小鬼か犬小鬼あたりだろ、そこまで重武装は必要ねぇかな、と」

「まぁおおむね正解じゃな。見てくれの割に知恵はあるようじゃな」

「ひでぇ言い草だなおい」

「ま、そのガタイなら力はあり余っとるじゃろ。一番厚い革でも大丈夫そうじゃな」

 ドワンゴはそう呟くと、奥からポケットのたくさんついた革のベストを持ってきた。

「ほれ、まずはこれを羽織ってみぃ」

「というか、まだ鎧下が届いてないんだが?」

「これはお前さんがどれだけの重さに耐えられるか見るだけじゃ。寸法は後でとる」

「なるほど」

 頷いてベストに腕を通す。ちと小さいがまぁ仕方あるまい。

「ちょっと屈め。ポケットに重りを入れたいが手が届かん」

「ああ、すまん」

 腰をかがめると、ドワンゴは慣れた手つきでポケットに鉄片と思しき重りを入れていく。

「これが一番厚い革を使ったときの軟革鎧の重さじゃ。まぁ問題ないとは思うが、ちょっと動いてみぃ」

 そういわれて、少し店内を歩き回ってみる。飛んだり跳ねたりしてみたが、全く支障はないようだった。

「やはりな。ではこれから補強の分の重りを入れる」

 だんだんとベストが重くなってくる。

 ある程度の所でドワンゴの手が止まった。

「これが一般的な補強をした時の重さじゃ。これは軟革鎧に鉄の小札を縫い付けた場合じゃな」

「まだいけるな」

「どんな補強が望みじゃ?」

「鉄の細長い板をこう、包帯みたいにぐるっと回して取り付ける感じにできんかな?帯金鎧(バンデットアーマー)っつーのかな」

「できんこともないが、それは普通鎖帷子につけるもんじゃぞ?」

「そこをあえて軟革鎧で」

「まぁそれをやると鎖帷子並に重くなるが……お前さんなら大丈夫か。一応重りで確認はするぞ」

「よろしく」

 そういって身をかがめると、ドワンゴがどんどん重りを追加していく。む、結構な重さになるんだな。

「これでどうじゃ?」

 ……ふむ、重いっちゃ重いがまだ大丈夫だな。飛び跳ねてみても……と、着地の際にずしっと衝撃が来るか。

「その重さで飛び跳ねるのはちと無茶じゃな。もうちっと軽くするか?」

 様子を見ていたドワンゴがちょいちょいと重しを取り除く。

 そんなこんなを5~6回繰り返し、まぁ納得のいく重さが見つかった。

「あとは寸法じゃが、鎧下ができるのはいつじゃ?」

「10日後くらいかな」

「ならその日を最終調整日にしようかの。それまでは仮寸法で進めるぞ」

 そういってドワンゴ親方は踏み台を持ってくると、慣れた様子で寸法をとり始めた。

「仮寸法とは言え2~3回は調整に来てもらうことになる。とりあえずは3日後にまた来い」

 あっという間に採寸を終えたドワンゴ親方が踏み台を片付けながら注文を出す。

「わかった。ところでここはブーツとグローブはやってるかい?」

「革と布製ならな」

「じゃあそれも見繕ってもらおうか。革製のやつで」

 この2つはさっくり決まった。なめし革のロングブーツと篭手代わりのグローブで、合わせて半金貨1枚。

「代金は今払えばいい?」

「〆て金貨2枚と半金貨3枚も貰うところじゃが、紹介じゃから半金貨1枚はまけてやる。今回は手付として金貨1枚も払ってくれたらええ。残りは最終調整の日じゃ」

「……思ったより安いな」

「元になっとる軟革鎧なんぞ金貨1枚でおつりがくるわい。鉄の板を結構使うからこの値段になったんじゃ。これでも革鎧としてはかなりの高級品じゃぞ」

「そんなもんか。じゃ、金貨1枚払っとく」

 そういって財布から金貨を取り出して手渡す。

「うむ、確かに」

 と、受け取ってドワンゴの手が止まった。

「おい、この金貨は使えんぞ」

 へ?

「え、贋金?」

「そうではない。この金貨は古代文明期の金貨じゃ。ウチじゃなくて好事家か両替商に持っていけ。これ1枚で現在の金貨25枚くらいになる」

 まじか。所持金増えた。

「まったく、そんなことも知らんのか。というか、どこで拾ってきたんじゃ」

「昔探索した森の迷宮で確か2枚だったかな?あと銀貨も数枚」

 心当たりを思い出しながら答える。

「銀貨の方は今も普通に使える。使えんのは金貨だけじゃ」

「なるほど」

「現在の金貨と比べてみるとほれ、大きさも輝きも違うじゃろ?迷宮とかで見つかる古代文明期の金貨は金の質がよくてな、お触れでそういう取り決めになったんじゃ」

「ほーん」

「まぁ価値のあるもんじゃからな、間違えんように大事にしまっとけ」

「わかった。わざわざありがとう」

 ドワンゴ親方の正直さに礼を述べると、代わりの金貨を渡して店を後にした。

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