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閑話 失敗した結婚生活1

今回と次回は、ちょっと毛色が変わって口調の荒い「下品」な話になります。

性的表現も入りますので、読み進める中で「あ、これは駄目そうだ」と思ったら、

容赦なくブラウザバックしてください。

-1-

「お願い信じて!愛してるのはあなただけなの!!」

 そう言って泣いてすがる妻を、無言のまま乱暴に振りほどいて立ち去った。


「ちっ」

 嫌な夢を見た。

 頭を振って夢の残渣を振り払うと、寝酒の蒸留酒に手を伸ばす。

 ぬるい酒精を飲み込むと、意に反して当時のことが思い出されてきた。

 あれは結婚生活4年目のことだった……


 いつのころからか、夜の生活を拒否されるようになった。

 夫婦の会話が必要最小限となり、妻が携帯を手放さなくなった。

 家事が手抜きになり、夕食にスーパーの総菜が増えた。

 妻の服装や化粧が派手になった。


 一つ一つは、ともすれば見過ごしがちな些細な変化だが、ここまで揃うとさすがに違和感が拭えない。

 そう思った俺は、ときどき覗いている巨大掲示板に書き込んでみることにした。


「……という具合なんだが、皆の意見を賜りたい」

 回答はすぐに来た。どんだけヒマなんだおまいら。

 でも今は、その回答の早さがありがたい。

「そりゃクロだ」

「わかりやすい変化だ。嫁さん他に男ができたな」

 言われてみたが、そんなものかと急には信じられなかった。

 しかし過去スレをいくつか読んでみたが、不倫・浮気の場合にこのような変化が出るケースが多いようだ。

 お互い好きあって一緒になった妻が裏切るとは信じがたいが、実際に変化は目の前で起こっている訳だしと掲示板のアドバイスを元に妻の生活を追ってみることにした。


 妻の衣装箱を調べ、車にGPSを仕掛け、家と車にICレコーダーを忍ばせた。

 気づかれぬよう妻の携帯を盗み、ロックを外し、メールの転送設定もかけられたのは運が良かった。

 妻よ、警戒感なさすぎだ。


 掲示板の意見は黒一色だったが、自分が惚れた妻がそんなことするはずがないという、根拠のない希望にすがっていたい気持ちもあった。

 しかし結果は、黒。

 妻にはどこかの間男がおりましたとさ。

 衣装棚からは俺が見たこともないセクスィーな下着が見つかりました。

 駅二つ離れた所のラブホが行きつけらしいです。

 ハートと淫語にまみれた妻と間男のメールを見たときには死にたくなった。

 車の中やアパートの居間でおっぱじめる音声を拾えた時は、乾いた笑いしか出なかった。

 どんだけサカってんだお前ら。

 しかも俺の独身時代の貯金から300万も勝手に引き落としていやがった。

 事ここにいたり、俺はさらなる証拠固めと、間男の正体を探るために興信所に妻と間男の調査を依頼した。


 ここまで証拠が揃っている上に、妻の行動はこちらに筒抜け、出張トラップという支援も可能とあっては興信所としても大変やりやすいらしく、2週間の連続調査が5日ほどのピンポイント調査で結果が出てしまった。

 こちらとしても早く結果が出るのはありがたかった。

 妻の不倫を知りつつ何食わぬ顔で過ごすというのは、思った以上にストレスがたまるもんだ。

 そして興信所から報告書が上がってくる日、報酬と引き換えにそれなりの厚みのある報告書を受け取ると、その場でざっと目を通した。

「奥さん、クロでしたね」

 興信所の職員が同情するように呟いた。

「まぁ、頼んだ時点で予想は付いていましたし」

 苦笑いを返しながら、足りなかった情報である間男の素姓が書いてある項目を探す。

 ……ふむ、間男は妻の勤め先の上司で妻子あり、と。よくあるパターンだ。

 って、コイツ婿養子か。虐め甲斐はあるにしても中小企業の課長じゃ金はあまりむしれそうにねーな。

 ちっ、どうせなら開業医とか社長辺りとデキてくれれば、千万単位でむしれたものを。


「それで、今後はどうされますか?間男の資産状況でも調べますか?別料金になりますが……」

 ふむ、それはちょっと魅力的な提案だが……

「いえ、それは結構です。その代わり、離婚に強い弁護士を紹介してもらえませんかね?」

 個人的に弁護士にコネはねーんだよな。飛び込みで依頼するより、こういうところから紹介してもらったほうが確実だろうし。

 それにあまり時間もかけてられない事情が出てきた。

 妻から転送されてくるメールで知ったのだが、なんか妊娠してるらしいですよ俺の妻。

 妻とはここ1年以上夜の生活はないので、当然それは俺の子ではない。まぁ間男の種だろうな。

 んで妻はそれをどうする気かと言うと、酔って無理やりヤられたことにして俺の子として生み、親子関係を確立させた後DVを捏造して養育費と慰謝料をがっぽり頂きつつ離婚するつもりだそうだ。

 そして間男と結婚。人生バラ色って魂胆らしい。

 計画に穴はあれども、こんなこと企んでる時点でもう駄目だと悟った。

 俺の愛した妻は既に死んだ。

 そこにいるのは俺を裏切り財産を狙う女狐もしくは雌豚だ。

 ふざけるな、計画に乗り気の間男ともども、徹底的に叩き潰してやる。

 そう思う事で、なんとか前に進めるような気がした。


 掲示板には相談に乗ってもらった者の義務として現状を報告し、今後の行動を相談する。

 本音を言えば、雌豚も間男も金属バットで物理的に〆てやりたかったのだが、掲示板でそれは悪手だと制止された。

 安っぽいヒューマニズムが理由なら聞き流すつもりだったが、法律を味方に家族バレ職場バレさせたほうがダメージがでかいと諭され、弁護士を雇うことを勧められた。

 うん、実は弁護士はもう雇ってんだよね。

 ネットで浮気関係の記事を読みあさり、巨大掲示板でアドバイスを受けつつ弁護士と相談を重ねる。

 興信所から紹介されたおばちゃん弁護士は、差し出された数々の証拠を見てこれなら楽勝と太鼓判を押してくれた。

 ただ、事が落ち着くまでは巨大掲示板への書き込みは控えるようにと釘を刺された。


-2-

 それでいよいよ前哨戦。

 雌豚と間男は、ホテルから出てきたところを興信所の面子と一緒に確保した。

 呆然とする雌豚から自宅のカギと各種カードを取り上げ、実家に帰るよう命じた。

 間男はこちらが夫だと知ると、青い顔をして俯いたまま、小声で何か謝罪のようなものを繰り返していた。

 その場で義両親と間男の実家に電話をかけ、現状の連絡と後日内容証明が届くことを通告した。

 双方とも初めは信じられない風だったが

「ホテルから出てきた二人をその場で確保しました」

 と言ったら、諸々納得したようだ。

 そしてその場で解散。雌豚が何か言いたそうにしていたが、あえて無視した。

 どうせ大したこと言ってこないだろうし、この場で何かを決めたりしないようにとの弁護士の指示もあったし。


 そして前哨戦はこちらの完全勝利で終わったわけだが、雌豚のインターバルのメール攻勢が凄まじかった。

違うの。

誤解なの。

彼とはそんな関係じゃない。

あの時が初めてだったの。

ごめんなさい。

もうしません。許してください。

お願い話をさせて。

許されないことをしてしまいました。

すべて話します返事ください。

 ……とまぁ、上記の内容がホテル確保の当日、別れたすぐあとから怒涛のようにメールで送られてきた。

 面白いのが、全部話す、ごめんなさいと謝罪している直後にあれは誤解で何かの間違いだと、取り繕うような内容を平然と送ってくる支離滅裂っぷりに、結構追い詰められてんなと一人ニヤニヤさせてもらったことか。

 無論こちらからは一通も返事をしてはいない。

 雌豚の言い訳に一つ一つ冷静にツッコミを入れたい気持ちはあったが、面倒くさいし。

 ただ、四六時中携帯が雌豚からの着信でうなりっぱなしなので、新しい携帯を買う羽目になったのは予想外の出費だった。


 ホテルで色キチ2匹を確保・放流した翌日は、有給とって会社訪問と洒落込んだ。

 赴く先はもちろん間男と雌豚2匹の勤務先。会社凸ってやつだ。

 事前に総務部長と間男の上司にアポを取り、興信所のレポート持参でご訪問。

 これで訪問先の会社が俺の会社の下請けだったりしたら楽しいことになるんだが、生憎そこまで俺に都合よく世間は廻っていなかった。ちっ。

「〇〇課の間男と雌豚の不倫の件で来ました、柳葉大悟と申します。総務部長と上司の方をお願いします」

 プレハブみたいな事務所の2階に行き、受付嬢が見つからなかったので手近な女性社員に要件を話して呼び出してもらう。

 あえて周りに聞こえるように元気よく色キチ2匹の名前を出したのも計算のうち。

 しーんと静かになった事務所で二人を待つ。

 ほどなく頭の薄い男性と小太りの男性がやってきた。

 頭の薄いほうが総務部長で、小太りのほうが上司だそうだ。

 お互いに挨拶をして、応接室に移動する。


 この時点で総務部長と上司はこちらに対して警戒感バリバリだったが、色キチ2匹の会社まで敵に回すつもりはないので、具体的な要求は何もしない。

(本音は色キチ2匹を即座にクビにしろ、くらい言いたいが)

 いぶかる二人に興信所のレポートを渡し、現在御社の社員2名とこれこれこーいう揉め事が持ち上がっておりまして、つきましては色キチ2匹の突発的な休みなど御社にご迷惑をおかけすることになりますが、ご了承願います。

 無論これは色キチ2匹と当方との個人的な問題でありますので、御社に対してなにかしら要求するような真似はいたしませんのでご安心ください。

 てな内容を、あくまで下手に出ながら説明する。

 総務部長と上司はこちらからは何も要求しない、といった時点であからさまにほっとした態度を見せ、ウチの社員がご迷惑をおかけします、と謝罪までしてくれた。

 本日は色キチ2匹は急な休みを取っているが、事実確認を早急に行い、事実であればしかるべき処分を下してくれるそうだ。

 ……これで間男の出世は遠くなったな。これが外聞重視のお役所や信用第一の金融系だと飼い殺しになるんだが、機械系の中小企業じゃあまりきつい処分はくだされめぇ。

 もっとも、就業時間中にホテルに行ってる写真もあるので、就業規則違反をどれだけ重く捉えるかで変わってくるが。

 ともあれ、色キチ2匹には総務部長と自分の上司に不倫とその不始末の報告という、恥ずかしい思いをしてもらおうか。


 それと並行して弁護士事務所から義実家と間男自宅に内容証明が発射される。

 色キチ2匹に対する俺の初めての意思表示というやつで、2人に対する俺の希望する制裁内容がつらつらと書いてある、本格交渉への第一歩というやつだ。


 まず雌豚に対してだが、離婚と、使い込んだ俺の貯金300万の返還、財産分与の放棄に加えて慰謝料を300万程請求しておいた。

 財産分与の放棄というのは、早い話が「結婚してから貯めた資産は普通離婚時に折半するが、今回はテメェにゃビタ一文渡さねぇ」

 という意味だ。

 雌豚は正社員の事務職で働いているので、それなりに稼ぎはある。子供が生まれたときや将来買うであろう一戸建てのためにせっせと貯めていたので、貯金もそれなりの額にはなっている。

 それをそっくりそのまま追加の慰謝料としていただいてしまおうという算段だ。

 そして本命の慰謝料300万だが、財産分与の放棄でむしれる財産次第では、もっと額を下げても良かったのだが、托卵計画があまりにも悪質なのと、間男とのやり取りで随分と俺のことをコケにしてくれてたのでそれの意趣返しが入っている。

 あとは、腹の子供のDNA鑑定(これとにかく大事)と、ストーカー予防のための接近禁止罰則50万を盛り込んでおいた。


 間男に対してはもっとシンプルで、慰謝料500万と接近禁止の罰則50万のみにとどまった。

 もっといろいろ吹っ掛けてやりたかったが、いかんせん攻撃材料が少ない。

 まぁそれでも、婿養子に500万なんて金はまずすんなりと用意できめぇと踏んでの要求だ。

 あと接近禁止を入れたのは、ときどき斜め上の行動をとるやつがいるから。

 逆恨みして嫌がらせとかしてくるケースも少なくないらしいし。

 念のためにセ〇ムにも加入しといた。またいらん出費だ。


 そして内容証明の最後に1文。「話があるときは弁護士を通せ」と入れておいた。

 結果から言えばほとんど意味はなかったけどな。

 数日して内容証明が届いた辺りから、雌豚に加えて間男からのメール攻勢が始まったからだ。

 間男の言い分としては、一緒にホテルに入ったがやましいことはしていない。

 雌豚から受けた仕事の相談に乗っていただけだ。

 とのことだが……ラブホで仕事の話をする奴なんか当方聞いたことございません。

 つーか、ラブホじゃないけど車の中でギシアンしている画像と音声という証拠あんだよね。

 まぁこちらも丸っとスルーしたまま、第1回目の話し合いが弁護士事務所で設けられた……んだが、これからが大変だった。




―――あとがき――――――――――――――――――――――――――――――

 出張トラップというのは『○○日は出張だから帰れないよー』と嘘ついて、疑わしい配偶者を油断させる手段の一つです。

 自分の職業によっては使えないこともありますが、巨大掲示板では割と一般的な手段で、浮気や不倫でラリってる(サカってる)相手は結構な確率で相手と密会します。

 そりゃ邪魔ものがいなくなるわけだからね。

 そこを興信所の人とかに尾行してもらって、密会の証拠をゲットするわけですね。

 もしくは、関係者を引き連れて、ギシアン真っ最中の現場にカメラもって突撃かましたり。


 『配偶者(恋人)が浮気・不倫してるようだけど、いつ相手と会ってるか分からない』という場合にどうぞ。

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