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可愛いあの娘は〇〇〇

-1-

 とりあえずお互いの素性がはっきりし、悪魔っ娘のユニを家政婦として屋敷に置くことが決まったので中断していた引っ越しが再開された。

 とは言っても、荷物と言えば荷車一つ。エレクィル爺さんやハプテス爺さんの荷物はカワナガラス店に持ち込むので俺の荷物自体はかなり少ない。

 加えて事前の屋内掃除はユニが完璧にこなしてくれていたせいで、2時間とかからずに終わってしまった。

「早いですね」

「元々荷物持ってねぇしなぁ」

 老人2人を引き取りに来たガラス店の一同を見送ると、残るのは俺とユニの2人だけになった。

「んじゃ、これから家具屋廻るか」

「これからですか?」

「本格的に注文つけんのは明日だが、寝床くらいは今日中になんとかしねぇと拙いだろ。年頃の娘を床でごろ寝させるつもりはねぇよ。俺もベッドで寝たいしな」

「はい」

 というわけで向かったのが、エレクィル爺さんに勧められた家具屋。


「い、いらっしゃいませ」

「邪魔するよ。ちょいと急ぎでベッドを2つ欲しいんだが……」

 ちょっとひきつった顔の店員に、事情を話して急ぎでベッドの注文をする。

「カワナガラス店の大旦那様のご紹介ですか、ありがとうございます」

 事情を聴いて商売人の顔になった店員が店主を紹介しますと奥に引っ込んだ。

「お待たせしました。この度はご用命ありがとうございます。私、店主のオブサードと申します」

「初めまして。ディーゴってもんだ。こっちは使用人のユニ。よろしく頼みます」

「ベッドを2つ急ぎでご入用と伺いましたが」

「ああ。今度市内に引っ越してきたんだが、空き家に家具が何もなくってね。とりあえず今日中に寝床が2つ欲しいんだ。凝ったものは必要ないから、丈夫なやつを見繕ってほしい」

「なるほどなるほど。ディーゴ様、身長をお測りしてもよろしいですか?」

 店主の言葉に頷くと、店主はメジャーを取り出して俺の身長を測った。

「ふむ、この身長でしたらうちにも在庫がございます。今日中にお届けして組み立てられますよ」

「そいつはありがたい」

「お届け先はどちらになりますか?」

「えーと、木の葉通りの……5番地だったか?しばらく空き家になってた屋敷だ」

「おお、木の葉通りですか。高級住宅街ですな。失礼ですがディーゴ様は1級市民ですか?」

 店主の目がきらりと光った気がした。

「いや、この間、名誉市民を拝命したばかりだ。屋敷は貰いもんでな」

「なんと、それはおめでとうございます」

「あまり実感ないけどな」

 店主の言葉に苦笑して返す。

「名誉市民を拝命して屋敷を拝領したとなりますと、ベッドばかりでなく他の家具も必要ではありませんか?」

「まぁな。そこで相談なんだが、今後家具一切はこちらに任せたい。その代わりちょいと勉強しちゃくれないか?なにせ名誉市民になったばかりで予算があまりねぇんだ」

「ええ、ええ。お任せください。ではどうでしょう、名誉市民となりますと格式もそれなりに必要となってまいります。ご注文のベッドですが在庫にあるのは実用一点張りの物でして、いささか装飾が寂しゅうございます」

「いやまぁ別にそのあたりは拘らないんだが」

「いえいえ、そういうところも見られるのが名誉市民でございます。ではこうしましょう。今日のところは仮のベッドをお運びいたします。しばらくはそれを使っていただいて、その間にこちらでふさわしい品物をご用意させて頂きます」

「寝床二つの予算はちょっと厳しいんだが?」

「いえ、仮のベッドの分のご料金は頂きません。その代わり、部品の使いまわしが利くものをご用意いたします。ふさわしい品物ができ次第、仮のベッドはこちらが引き取るということでいかがでしょう」

「ふむ、それなら悪くないな。たださっきも言ったように予算があまりないんだ。家具1式全部が一度に必要なわけじゃなく徐々に買い揃えていく形をとりたい」

 最終的に揃えることになるんだろうが、客間の家具なんか優先順位低いしな。

「かしこまりました。私どももそちらの方が都合がよろしゅうございます」

「じゃあさっそくで悪いが、荷物を運んでもらえるかい?」

 大分傾いてきた陽を見上げて店主に頼む。

「かしこまりました。ではしばしお待ちください」

 そういって店主が引っ込み、店の奥にあちこち指示を出す声が聞こえると、店の中ががぜん騒がしくなった。

「ディーゴ様、私のベッドはそれほど豪華なものでなくても……」

 店の中の様子を見ながら、ユニが控えめに声をかけてきた。

「俺もそのつもりなんだが、店の中の様子を見た限りはそうも言っていられめぇ。まぁ手持ちの金が金貨で80あるから当面急ぎで暮らしに窮すなんてことはないはずだ」

「お金持ちなんですね」

「小金持ちってところだ。余裕はあるが油断はできねぇな」

 そこまで言ったとき、店主が戻ってきた。

「ディーゴ様、ユニ様、お待たせいたしました。用意ができましたので案内をお願いできますか?」

「わかった。んじゃ、いくか」

「はい」

 店主に別れを告げ、ベッド2台分の資材を積んだ荷車を先導して屋敷に戻る。

 途中寝具屋に寄り道して、布団一式も購入した。こちらはずっと使うので、がさがさ音がする安い藁布団ではなくちょっと重いが温かい羊毛布団を買った。

 ちなみに羽毛布団は受注生産になるそうだ。

 まぁいいけどね。羽毛布団は軽すぎて寝てる間に蹴飛ばしてどっかやっちまいそうだし。


 そして帰宅後、職人さんたちがベッドを組み立てている間、こっちは明日以降の買い出しの品をリストアップしていく。

 台所用品、調理器具、什器に始まり、食堂の家具、応接室の家具、書斎の家具、浴室用品、各居室のカーテン、燭台、日用品等々、ユニと話し合いながら書き出していく。

 こうして並べてみると、結構物入りだな。手持ちの金の半分くらいは吹っ飛びそうだ。

 あと、ユニに魔界で何か便利なものはないかと聞いたところ、水道代わりに使っている、魔力で水を生み出す水の魔石と魔力で冷気を生み出す氷の魔石があるというので買って持ってきてもらうことにした。

 そうこうしているうちにベッドの組み立てが終わり、職人さんたちにはチップを渡して帰ってもらう。

 そして俺とユニの2人だけが残されることになる。

「んじゃ、メシ食って風呂入って寝るとするか。明日はいろいろ動かにゃならんからな」

「はい」

 で、ユニを連れて近場の食堂で食事を済ませたんだが、値段の割に味はイマイチだった、と言っておこう。


-2-

 そして夜。

 広い風呂にのんびりつかりながらこれからのことを考える。家具も揃えなきゃだが、冒険者ギルドにさっさと登録もせんとなー、とか考えていると

キィッ

 と、扉に開く音がして誰かが入ってきた。

 って、ユニしかいねーじゃん。

「あー、ユニ。俺がまだ入っているんだが?」

 後ろを見ずに注意を促す。

「はい。ディーゴ様のお背中をお流ししようかと」

 いやいやまてまて。それなんてエロゲだ。それとも読者サービスか?

「悪いが間に合ってる。そういう気遣いはいらんから」

「ですが、あの……私、これくらいしかお役に立てることができなくて……」

 とかいわれても、風俗店じゃあるまいし、初めて会った娘さんにいきなり背中流させるほど神経太くねぇよ。

「……まぁいいや。そのまま後ろ向いて出てけというのもなんだ、とりあえず湯船に入れ。ちと聞きたいこともある」

「はい。じゃあ……失礼します」

そういってユニが俺の隣に体を沈める。ちらりと見たが、薄い湯浴み着の上からでもわかる大平原。

イツキレベルとは言わないが、もーちょっと胸があったらなーと思ったり思わなかったり。

「広いお風呂って気持ちいいですね」

「まぁな。湯をためるのがちょっと面倒くさいが」

「でもディーゴ様がやったやり方だと早くお湯になりますよね」

「まぁ、料理のやりかたをちょっと流用しただけだ」

うん。風呂を沸かすにあたって、ちょっと変わったことをやったからな。

竈で湯を沸かすのと同時に、石や鉄塊も一緒に焼いておき、それを湯船に放り込む方法なんだが……屋外の露天風呂ならともかく、屋内の風呂でこの方法をとるやつはあまりいないだろう。

 浜鍋なんかで良くとられる方法だ。

 まぁそれは脇に置いといて、だ。

「これは単純な好奇心で聞くんだが、タイザってのと昔ナニがあった?」

「あ、はい。昔、タイザ様に助けてもらったことがあるんです。私、ちょっと特殊なうえに落ちこぼれで、いじめられっ子でしたから」

「ふむ。落ちこぼれっていうのは?」

「私、あまり魔法が使えないんです。お掃除とかお料理とかの生活魔法はなんとかなるんですけど、他の淫魔が使うような攻撃魔法とか幻影魔法とかはさっぱりで……」

「ふーむ、相性的なものなんかねぇ」

「あの、驚かないんですか?」

「いや別に?俺は魔法のないところにいたからなぁ。むしろ掃除だの料理だのに魔法を使うってだけで驚きなんだが」

「でも、料理魔法なんて魔界じゃ結構な人が使えますよ?」

「いやここ魔界じゃないし。しかし料理魔法っつーと、『ソルトブレス』とか奥義に『手打ち麺の技』とかあったりすんの?」

「?なんですか、それ」

「いや、忘れてくれ」

 さすがに某漫画の技はないわな。

 その後も湯船に浸かったまま、色々と魔界の話を聞かせてもらった。

「それじゃディーゴ様、私はそろそろこの辺で……」

 頃合いを見てユニが湯船から立ち上が……ろうとしてよろけた。

「うぉっと!?」

 いきなり倒れそうになったので、慌てて抱き留める。

「す、すみません。ちょっとのぼせたみたいで……」

「驚かさねぇでくれ、心臓に悪い。……長話して悪かったな」

「いえ、いいんです。色々お話しできてうれしかったです」

 そういって目を閉じるユニ。なんつーか、初対面の相手をここまで信頼できるもんかね、いや、タイザという下地があるからこその信頼なのか。

 女性は苦手だがこの程度ならまぁ……と抱えたまま立ち上がろうとして違和感に気付いた。

ん?

んんん?

 薄い湯浴み着が濡れて肌に貼り付いているお陰で、布越しにもユニの体形がはっきりわかる。

 ……ナニカヨケイナモノツイテマセンカ?

 って、こいつ男じゃん!!

 落としそうになるのを慌てて抱えなおす。

 そーか特殊ってこういう意味だったんか。なら胸が大平原つーのも納得だぁな。

 これは何て言うんだっけ。オカマ、ニューハーフ、女装……なんか違うな。さしずめ男の娘と言った方がしっくりくるか。

 それにしてもうまく化けたもんだ。全然気づかんかったわ。

 しかしなんだな、むしろ同性と分かったことで、ヘンな間違い起こさずに済むなとほっとしている俺がいるってのもなんだか。

 当人にしかわからん悩みとかあるんだろうし、まぁここは触れずにおいてやるか。

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