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街への接近

-1-

 村人たちの反応で、自分の立ち位置は何となく予想がついた。

 お世辞にもあまりいい立ち位置とはいえなさそうだ。

 あの反応からして、俺はおそらく魔物枠に入るんじゃないだろうか。

 それでも、目覚めた場所で見た死体の状況から、頭に耳のついた獣人がいるのもまた事実なわけで。

 若い頃に読んだファンタジー小説やコミックの記憶を引っ張り出してみるに、獣人がいるなら俺のようなケモケモした種族もいてもいいんじゃないかと予想をつける。


 それに村ってぇのは得てして閉鎖的で、よそ者に厳しい。

 ここみたいな人口密度が低そうな所で、戦争があったりゴブリンやオークが闊歩してるような危険な世界なら、人の移動はあまりないんじゃなかろうか。

 ならば人の多くいる場所を目指してみるのも一つの手段なわけだ。

 群れを成して追いかけられる可能性は否定しないが、このまま村を訪ね歩いても意味はないように思える。

 そんなわけで、今度はもうちょっと大きな街を目指してみることにした。


 まずは大きな街道を目指さなければならない。

 なにせ今いる道は、林道がちょっと貧弱になった程度の道だ。自然が豊かでご飯の獲物(動物)には困らなそうだが、行き来する人間がそう多いとは思えない。

 というわけで、街道に沿ってひたすら南下すること4日、ようやく遠目に街らしき集落が見える場所までたどり着いた。

 しかし人目を避けつつ狩りをしながら移動するのがこれほど大変だとは思わなかった。

 人を遠目に認めれば街道から離れてやり過ごし、動物の痕跡を見つけては森に分け入って獲物を追いかけまわしたまには道に迷ったりとなかなかスムーズにいかなかった。

 虎男の体だから不整地を走り回るのも何とかなったが、人間の体だったらこうはいくまい。

 しかもメタボ気味の以前の体では。

 まぁ、人間だったらここまでいらん苦労をしなくてもよかったのかもしれないが。


 ともあれ、街を遠目に認める地点で座り込んでひとり作戦を練る。

 無論、街道からは距離をとってね。

 しばらく考えてみるが、どうも初対面の相手に警戒感を抱かせない、いい案が思い浮かばない。

 仕方なくまたのんきな歌を歌いながらゆっくり近づいてみることにした。

 村の時はうまくいかなかったが、どうもこれよりいい方法が思いつかん。


-2-

 俺としては最大限に努力して警戒心をなくそうと試みていたのだが、結論から言えばやっぱり上手くいかなかった。

 身を隠しながら街をぐるっと一巡りして、一番人のいなさそうなところから接近を試みる。

 同じように街に向かう旅人や行商人たちに愛想よく手を振ったりしてみたが、悲鳴を上げて我先へと街への門に殺到された。

 異常を察したらしい兵士がこちらの姿を見つけるにあたって、騒ぎが大きくなるのが目に見えて分かった。

 このまま近づくのはちょっとやばそうな気がしたので、その場で立ち止まって様子を見る。

 門の上にある回廊に弓を持った兵士が並び、門の前では殺到する市民や旅人を守るように兵士たちが現れ、一斉に槍を構える。

 ふーむ、なかなか練度が高そうじゃないか。

 なんて暢気に構えていたら、なんか微かに焦げ臭い匂いに気が付いた。

 んー?槍兵の他にまた兵士が出てきたぞ?なんか棒みたいのをこちらに向けて構えてんな。

 ……まさか火縄銃か!?

 気づいた時点で身をひるがえし、脱兎のごとく逃げ出した。

 剣や弓なら何とかなろうが、銃はやばい。

 案の定、少し遅れてバン、バンと発砲音が聞こえてきた。

 幸いどれも当たらなかったが、久しぶりに冷や汗をかいた。

 しばらく走って街が見えなくなったところで一息つく。

 銃があるのはちょっと計算外だった。剣と魔法の世界じゃねぇのか?

 でも火縄銃なら付け入るスキはあるか。

 ライフリングの存在は不明だが、初撃をかわしてしまえばこの虎男の瞬発力なら肉薄できる。

 そうなりゃあとはやりたい放題………じゃなくて、だ。

 攻め入るわけじゃないんだからやりたい放題はしなくていいんだよ。


 でも火縄銃なら装填に早くても10~20秒はかかるはず。となると今は次弾を装填中……いや、たぶん装填は終わってるな。

 隙を作ってなんとか近寄れねぇかな、と街のあったほうに目を凝らしてみると、砂塵が上がって騎兵と思しき兵が姿を現した。

 って、俺一人にそこまでするの!?

 一人ツッコミをいれると、荷物を担ぎなおして慌てて駆け出す。

 すれ違う人間が慌てて横に避けたり逃げ出すのを見て、気分はすっかり凶悪犯。

 そして街道を走っていたんじゃジリ貧だ、と道から横にそれる。

 森の深いところに行けば、とりあえず馬は追ってこれまい。

 これで仕切りなおすことができるか・・・と思っていたら犬の吠え声が聞こえてきた。

 猟犬まで用意か! 用意周到だな!!

 とりあえず追ってくる犬を気にしながら森の中に分け入る。

 藪漕ぎをしているうちに犬に追い付かれてしまったが、これがまたうっとうしいことこの上ない。

 3匹の犬がけたたましく吠えながら、かわるがわる足を噛もうと狙ってくる。

 ガウッ! とこちらが吠えて脅したところで、ちょっと下がって距離をとるだけで逃げる気配はない。

 こちらが駆け出すとまた後ろに回って足を噛もうとしてくる。

 足を止め槌鉾を抜いて犬を先に始末しようとすれば、距離をとってぐるぐる回りながらけたたましく吠えるだけ。

 強靭な虎男の体だ、噛まれたところで食いちぎられるようなことはないと思うが、傷を負うかもしれないし狂犬病が怖い。

 どうせ狂犬病ワクチンなど打ってないだろうから。


 藪は抜けたので全力疾走すれば犬を引き離せるが、離れれば匂いを追ってきてるようで、しばらくすれば吠え声がやってくる。

 幸い人間のほうはかなり引き離したと思っていい。

 馬では入れないようなところを走ってきたからな。

 しかしどうしたもんかね、犬とスタミナ勝負をするのははっきり言って面倒くさい。

 犬を撒くには水に飛び込むのが手っ取り早いが、街に来る途中にそんな大きな川は流れてなかった。

 それに今は山というか森の中。尚更川から遠い。

 食い物をばらまいてみるかと一瞬思ったが、せっかく苦労して仕留めた肉でもったいないし、これだけ狩りに慣れているということは、当然そのあたりの訓練もされているだろう。食い物ごときで撒くことができるとは思えない。


 考えながら走っていると、枯れ川と思しき場所に出た。おそらく雨の時だけ水が流れるのであろう。

 そこでふと思いつき、枯れ川の底の小石をいくつか拾って掌に収める。

 そして向かってくる犬に思い切り投げつけた。


ギャウンッ!!


 何発かが命中し、1匹の犬が倒れる。よし、どうやら上手くいきそうだ。

 人間の力じゃ打撲程度にしかならないだろうが、虎男の馬鹿力だと話は別らしく、倒れた犬はそれきり動かなくなった。

 残り2匹も場所を変えて石礫で始末し、やっと一息つく。

 こりゃ街に近づくのは命がけと思ったほうがいいな。また作戦を練り直さにゃならん。

 犬の死骸に一瞥をくれると、森のさらに奥へと足を進めた。


-3-

 もう十分だろう、というところまで森に分け入り、水袋の水を一口飲んでため息をつく。

 ぶっちゃけ街に近づいただけでここまでされるとは思わなかった。

 こりゃ本格的に俺は魔物枠っぽいな。しかもかなり凶悪な。


 まぁしかし、それでも分かったことがある。

 銃があるのに弓もあるってことは、銃はそれほど高性能化してないってことだ。

 目覚めた場所での死体の装備から、皮鎧や金属鎧が一般的。これは肉弾戦が主流であることがうかがえる。

 そして遠目に見た街の様子は、石造りの城壁。厚みはそれほどなかったように思える。大砲も一般的じゃないんだろう。

 騎兵が出てきた点と、これまで見てきた徒歩の旅人の様子からして内燃機関はまだ、と考えられる。

 蒸気機関のほどは分からないが、街の様子からして煙はほとんど見えなかった。

 ゆえにこれも未登場の可能性が高い。

 ……よかった、スチームパンクは専門外だったんだよ。

 だからと言って中世西洋ファンタジーも専門とはいいがたいけどな。

 くぅ、時代小説ばかりじゃなくてファンタジー物ももっと読んでおけばよかった。


 っと、話がそれた。

 つまり、これらのことから考えるに科学はそれほど発達してない、ということだ。

 とはいえ、火縄銃は今の俺には十分脅威だ。あんなのに撃たれた日には痛いじゃ済みそうもない。

 回復魔法が使えればまた話が違ったんだろうが、あいにく俺は魔法は使えないしそもそも魔法が存在するかも分からん。

 傷の手当の手段がヨモギによる血止めくらいしか思いつかない今、銃創は何としても避けたい。

 体にめり込んだ銃弾を短剣で穿り出すなんて芸当、考えただけで鳥肌が立つ。

 それに先込め式の銃ってのは得てして口径が大きくなりがちだからな、ヘタしたらそこで人生が終わって敷物にされちまうかもしれん。

 人里への接近は、今まで以上に注意して行う必要がありそうだ。

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