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街に向けて

-1-

 赤大鬼(オーガ)襲撃の日から十日と数日が過ぎ、エレクィル爺さんとハプテス爺さんが帰る日がやってきた。

 当然俺も帰路に同行する。そういう約束だしね。

 一方、今まで言葉を教えてくれたアーレルはここに残るらしい。

 聞けばこの集落でそこそこの役についてる人だった。

 てっきり湯治客だと思ってたよ。

 名残惜しいが、エレクィル爺さんの体調がいい以上はこれ以上湯宿に居てもあまり意味はないし。

 赤大鬼討伐以来、住人や湯治客たちが何くれとなく話しかけてくれるので居心地はいいんだけどね。

 宿から見ても1ヶ月くらいの長滞在の客。うちの一人は毎食2~3人前は食う大食漢。

 出発の時は主と女将の他、従業員総出で見送られた。

 それとアーレルからの餞別として、金貨30枚と村長の名の入った紹介状を頂いた。

 金のほうはエレクィル爺さんに世話になる以上さしあたっては必要なかったんだが、これから必要になるし赤大鬼討伐の謝礼と、かつてエレクィル爺さんとハプテス爺さんを襲った冒険者の代金も入っているからと半ば強引に押し付けられた。

 そして3人は旅の人になった。


 湯宿の集落からエレクィル爺さんたちの住んでいるディーセンという街までは、二人の足で8日ほどかかるそうだ。

 本当ならもっと早くつけるそうなのだが、野宿を回避するために途中の村で早めに休んだりするのでこのくらいになるらしい。

 ま、確かに老人二人に野宿はきつかろうな。

 ……だけど、なんか旅慣れてませんか二人とも。

 二人とも老人とは思えない足の速さでサクサク進んでいく。荷物は一番馬力がある俺がまとめて背負ってはいるがそれでも早い。

「ディーゴさん、疲れてはいませんか?」

「俺は、ダイジョウブ」

「でも二人、足早い。オドロイタ」

「ほっほ、こう見えても昔は行商で鳴らした口でしてね。空身の旅ならこの程度は軽い物です」

「それよりもディーゴさんや、荷物は重くないですかな?」

「全然問題ない。軽いモノ」

 背負い袋をひとゆすりして答える。見た目にはぺったんこだけど、無限袋に2人の荷物が入っているので、俺の荷物と併せればそこそこの目方になる。

 俺が無限袋持ちであることは早い段階でアーレルと二人に教えていた。無限袋は不完全なものであっても珍しいらしく3人には結構うらやましがられた。

「今日の目的地はサルナゴの村です。夕方前には付きますよ」

そんなことを考えていると、エレクィル爺さんが声をかけてきた。

「わかった」

 ……とはいえ、無事に村に入れるかはちょっと疑問なんだが。

「でも、ダイジョウブか?」

「といいますと?」

「俺のこと、村人怖がる。それ、心配」

「それなら大丈夫でしょう。サルナゴの村は湯宿の里の隣の村ですからな、ディーゴさんのことはもうサルナゴの村人は知っているとみていいでしょう」

「噂話は思うより早く広まるものです」

ハプテス爺さんが頷く。

「それに紹介状もございます。なぁに、心配はいりませんよ」

 エレクィル爺さんが胸を叩いて請け負った。

 俺としては今までが今までだけに、どーも不安が拭いきれないんだけどね。


-2-

 黙々と歩いているのも退屈なので、これから世話になるディーセンの街について聞いてみた。

 街の人口はおよそ1万程度。周囲に農村があり、それを含めると正確な数字は不明。

 春と秋に10日ほどぶっ続けで大きな市が立ち、そのときにはかなり街中が混雑するらしい。(具体的な数値は不明)

 領主はディーセン伯爵。名前は世襲とのこと。領主としての評判はそこそこ。

 ちなみにディーセンの街はオーバンド帝国の領地になるらしい。帝都はディーセンの街から乗合馬車で二週間ほど。

 ディーセンのおもな産業は農業。ただ、ディーセンに限ったわけではなく大多数の都市の産業が農業。そして林業。

 おもな農作物は小麦とジャガイモ。むぅ、芋チート発動で食糧事情改善だぜフゥーハハハァーは発動できんか。

 酪農も少々やっているが、輸出するほどでもないそうだ。

 また、街中にはそれぞれ職業ごとにギルドがあり、エレクィル爺さんたちの店もガラス職人ギルドに属しているそうだ。

 んで、冒険者もまた冒険者ギルドがあり、ディーセンにはギルドの支部があるとのこと。

 冒険者ギルドは本部、支部、酒場の3段階に分かれており、ディーセンより小さな街には支部ではなく酒場が存在するらしい。

 なお、本部はガルト王国の王都にあるらしいが、エレクィル爺さんとハプテス爺さんは行き方までは知らないとのことだった。

 宗教に関してはかなり緩いっぽい。一応、天界・現界・冥界にそれぞれ神がいるという話で、それぞれの神を祀る3大宗教が今のところ一番影響力が高いとか。

 獣人の割合はあまり高くなく、50人に一人いれば多いほう。ただし俺みたいなケモケモした獣人はいないらしい。

 獣人に対する差別は表向きはないことになっている。実際は些細なことながら差別はあるらしい。残念ながら。

 身分は貴族、名誉市民、1級市民、2級市民、奴隷があり、この順番に偉い。

 貴族はディーセン伯爵家の他に2家。アーブソエル子爵とラズリー男爵がありそれぞれ内政と軍事を受け持っている。

 名誉市民とは多大な功績があった市民がなれるもので、一代限りとはいえ貴族に準じ、他所の国に行っても一目置かれるらしい。

 1級市民はある程度の財産を持つ市民で、いわばブルジョワ層。2級市民はいわゆるコモンピープル。一番数が多い。

 エレクィル爺さんのところは1級市民らしい。

 奴隷は読んで字のごとく。犯罪奴隷、借財奴隷、戦争奴隷の3種類がある。

 犯罪奴隷は市民が犯罪を犯して奴隷に落とされた身分。借財奴隷は税金や借金が払えなくなって落とされた奴隷。

 戦争奴隷は戦争時の捕虜という分類らしい。

 ただし犯罪奴隷は一定期間で、借財奴隷や戦争奴隷は相応の額を支払えば解放されるらしい。


 てな感じで話を聞いていると、森が開けて麦畑が見えてきた。

「森が切れましたね。間もなくサルナゴの村ですよ」

 エレクィル爺さんが指差す先に、粗末な杭で囲われた村が見えてきた。

 さすがに武器は持ってないが、村の入り口で男衆が7~8人不安そうにこちらを見ている。

「こんにちは、皆さん」

 エレクィル爺さんが声をかけると、男衆の間にほっとしたような空気が流れた。

「おお、誰かと思ったらエレクィルさんとハプテスさんじゃないか」

 顔見知りらしい男衆の一人が声を上げる。

「一か月ぶりくらいになりますかな」

「また一晩厄介になりたいのですが、村長はおられますかな?」

「はぁまぁ村長はいますが、そちらの方?は?」

「私どもと湯宿の里の恩人でしてな、ディーゴさんと申します」

「ディーゴです。よろしく」

 エレクィル爺さんの紹介に、笑顔を浮かべて名乗る。

(スゲェ、本当に獣なんだな)

(言葉通じるのかよ)

(赤大鬼2匹を一瞬で倒したっていうぞ)

 男衆の間からひそひそ声が上がる。

 んー、なんかむず痒い。注目されるのは湯宿の里で慣れたつもりだったが、基本的に見られて悦ぶ趣味はないからなぁ。

 そうこうしているうちに村長と思われる老人がやってきた。

「やぁやぁエレクィルさんハプテスさん。お早いお着きで」

「お久しぶりですサテュールさん。また一晩ご厄介になりたいのですが、構いませんかな?」

「ええ、ええ。何もない村ですがゆっくりしていってください。そちらの方が噂のディーゴさんですな?」

 と、こちらを見てきたので挨拶を返す。

「ディーゴです。よろしく」

「これはどうも。私はこの村の村長をしておるサテュールと申します」

「サテュールさんや、ディーゴさんはまだ言葉を覚えている最中でしてな、たどたどしいのは勘弁して下され」

「なるほどなるほど。いやしかし赤大鬼をあっという間に倒せる方が護衛とは剛毅ですな」

「それにはいささか事情がありましてな」

 エレクィル爺さんがなれ初めをざっと説明する。

「ほほう、お二人の命の恩人がこちらのディーゴさんでしたか」

 サテュールが納得したようにうなずいた。

「おお、お客人を立たせたままですっかり話し込んでしまいましたな」

「前回泊まっていただいた家が空いとりますので、またそちらで結構ですかな?」

「ええ、よろしくお願いしますよ」

 村長に先導されて、空き家の一つに荷物をほどく。

 土壁草葺きの空き家は、時々手入れがされているのか、なかなかきれいな建物だった。

 ふむ、間取りは2部屋か。暖炉というかかまどのある大部屋と、寝室か物置かわからない小部屋が一つ。

 独り者にはちょうどいい家だが、家族で暮らすとなるとちょっと手狭な気がするな。

 これがこちらの世界の一般的な家なのかね。

 一泊だけとはいえ準備はある。水瓶に水を満たし、竈に火を入れる程度だが。

 いや、家の中がちょっと湿気っぽいのよ。空き家によくある現象だぁね。

 竈に火を入れてしばらくすると、家の中が暖まりそれにつれて湿気も消えていく。

 湯を沸かし、白湯を飲みつつくつろいでいると、村長が夕食ができたと呼びに来た。

 ハプテス爺さんが村長に心付を渡すと、4人連れだって村長の家に向かった。

 メニューは黒パン(雑穀入り?でなんかねっとりした食感)に豆と脂のスープ(ベーコンらしきものがちょっと入ってた。塩味)、ぬるい自家製エール(苦酸っぱい穀物酒?)という、正直あまり美味いとは思えない内容だったが、心のこもったもてなしという雰囲気は十分伝わった。

 まぁ、湯宿の食事と一般農家の食卓を比べちゃ、ね。

 食後、出された白湯を飲みつつ旅のあれこれやディーセンの街の話などをしているうちにその日の夜は更けていった。

 翌朝、借りてた家の中を片付け、村長に暇乞いをして出発する。

 次の村には夕方には着くらしい。


 そんな感じで旅をつづけ、残り6つの村でも紹介状のお陰で特に問題なく……でもないが受け入れてもらえた。

 空き家がなかったので、老人二人は村長宅に泊まり俺だけ納屋で干し草ベッドという扱いもあったが、それでも一人のころ石や弓で追われた身としては格段の進歩だろう。

 この様子ならディーセンの街でも、一揉めあるにしても入れてもらえるかなーと楽観視していたが、そうは問屋が卸してくれなかった。

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