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目覚めは死体の中で

-1-

 目が覚めたら虎男(とらおとこ)になってました。


 落ち着け、落ち着くんだ俺。まず30数えよう。1、2、3、4、5……

 ……29、30。よし落ち着いたな?

 俺の名前は柳葉大悟(やなぎばだいご)、41歳バツ1の社畜。

 ここまではいい。


 昨日は仕事が終わってコンビニ寄って、晩飯買って帰ってから食って風呂入って酒を飲みつつちょっとネットで調べものしたあと、布団にもぐって寝た。これもヨシ。


 で、だ。


 なんで起きたら天井がなくて原っぱの真っただ中に居やがりますかときたもんだ。

 ウチのアパートは閑静な住宅街の中にあるんだぞ。迷子とか夢遊病にしても程があるだろ。

 そして我が身は全身ふさふさで黄色と黒の見事なタイガーストライプ。

 ついでに長い尻尾つき。

 ぽっちゃりメタボディーだった体が締まった筋肉と硬い腹筋に変わっているのはちょっと嬉しいが、ごっつい爪はちょっと余計だな。

 しかし、なぜこうなったのかは全く心当たりがない。

 変な儀式をした覚えはないんだが?


 そうか、これはきっと夢だ。夢に違いない。昨夜ちょっと飲みすぎたんだ。

 もう一回寝れば目が覚めてアパートの部屋に戻ってるはず。

 夢の中で二度寝すると起きたときに眠りが足りない気がしてきついんだよなー。

 目覚まし時計がちゃんと仕事をしてくれりゃいいけど。

 しかし俺、ひそかに変身願望なんてあったのかな。


 じゃ、おやすみなさい。

 って、寝られるわけがねぇよ!

 なんなんだこの周りに転がっている死体の山は!

 しかもどの死体もいろいろぶちまけてる18禁グロな死体ばかりじゃねぇか!!

 そこまで分かった時点でもう頭が拒否反応を起こして、その場で盛大に吐いた。

 こんなところには居られねぇ、と、転がるように逃げだして何かを踏みつけ死体に蹴躓(けつまづ)いてすっ転び、立ち上がろうと手をついたらねちょりとした何かを掴んでまた吐いて、と、半狂乱になりながらなんとか死体のない一角にたどり着く。

 地べたに両手両膝をついた絶望のポーズでしばらく息を整えていると、視界の端に小さな花が一輪だけ咲いていることに気が付いた。

 普段なら気にも留めないどころか気付くこともなく踏み潰してしまいそうな、指先程度の小さな花。

 白い4枚の花弁の中央に雄しべと雌しべらしきものが密集している、形としてはありふれた花だが、死体が散らばり異臭が漂うこの場では、拝んで感謝したくなるほど尊いものに見えた。

 その場に座り直してじっと花を見続けることで、自分でも驚くほど気分が落ち着いてくるのが分かった。


 呼吸を整え、目を閉じたり空を見上げたり花を眺めたりを繰り返してゆっくりと覚悟を決める。

 ここで花を眺めていてもなにも進展せんからな。

 とにもかくにも現状を認識せにゃならん。訳も分からずいきなりの修羅場だったが、それでも一輪の花のおかげで拠り所というか逃げ場はできた。

 精神的にヤバくなったらまたここで花を見れば落ち着ける。

 改めて回りを観察できるように覚悟が決まるまで結構な時間を要したものの、お陰で気分的にも落ち着いたし吐き気も大分収まった。

 ……まぁ、吐きたくても胃の中はもう空っぽなんだが。

 覚悟が決まるとゆっくりと振り返り、まずは散らばる死体たちを観察する。

 死体たちが身に着けているのは、西洋風の剣や槍や弓や鎧。うん、どうやら俺は過去かファンタジー世界に来ちまったらしい。

 この身が虎男ということを勘案すれば、たぶん後者だろう。

 今の俺みたいな生き物、ゲームや漫画、小説の中くらいでしか見たことがない。

 しかしこの死体の数……少なく見積もっても数百はあるんだが、戦争でもあったのかね?

 どうやらあまり平和な世界じゃなさそうだ。


-2-

 そして次に所持品チェック。

 ごわついた厚手のキルティング状の生地のシャツで、金属製の胸当てに腰のポーチが2つ。

 靴はちょっと雑な作りの皮と木でできたサンダル。

 ポーチの中身は……水? 革製の水筒か。それと金貨が3枚、銀貨が8枚、銅貨が11枚。

 硬貨のデザインに見覚えはなし。いや、ここでメイプルリーフ金貨とかだったらさらに混乱が増すところだが。

 ただこの服、腹のあたりに穴が開いててかなり出血した跡が残ってる。鎧も少しひしゃげてる。

 鎧を脱いで腹を確かめてみるが、傷は残ってないし、痛みもない。

 何が何やらわけわからん。

 しかし、これからどうするよ……?

 地面に座りなおして思案に暮れる。

 とりあえず分からないことだらけだが現状は認識した。

 次はこの先どうするか、であるが……どうするにしてもまったくアテがない。

 まずは人里を探すしかないが、どの方向にどれだけ行けば人里があるのかまったく見当がつかない。

 これだけの人数の死体があるということは、そう遠くない場所に拠点となる砦とか集落とかそういったもんがあるとは思うのだが、少なくともこのまま動き出すのは自殺行為だろう。

 ……心情的には一刻も早くここから逃げたいのだけど。


 準備のアテはないこともない。でも物凄くやりたくない。しかしやらねば生き延びられない。

 かなり長いこと迷った末に、周りにある死体を漁ることにした。

 スマン、俺が生きるために、あんたらの品を使わせてもらうぞ。

 合掌して、しばし黙祷をささげてから死体に歩み寄る。


 なるべく損傷の少ないものを選んで漁るが、これがなかなか精神的にくる。

 死体の状況から死んだのは昨日今日のことだと思うが、既にどの死体にもハエがたかり始め、早いものには既にウジが湧いていたりする。

 耐え切れずに何度か戻したが、必要量が確保できるまではと心を無にして漁り続けた。

 でもやっぱり精神的にくる。手とか足とかがぬちゃりというかねちょりというか、まぁそのなんだ、鳥肌立ちっぱなしの時間でございました。できれば今すぐ逃げ出したい。


 そして死体を漁っていて気づいたことだが、死体は人間以外にもゲームで見たような魔物っぽいのがかなり混じっていた。

 豚っぽい頭のオーク? らしきものや、緑色のゴブリン? ぽいもの、犬頭のコボルド? のようなものが人間に混じって倒れていた。

 死体の位置や体格、損傷具合から想像すると、強さ的にはコボルド<ゴブリン<オークの順に強くなっている……と思われる。

 コボルドやゴブリンは割と一撃でやられているのだが、オークに関しては結構傷だらけだったりするからね。

 確かにオークはでかいしなぁ。170~80はあるんじゃなかろうか。

 実物は見たことないが、体格だけ見れば中~重量級相撲取りといい勝負なんじゃなかろうか。

 それと、散らばっている死体の配置からするに、多分この3種の混合部隊と人間が戦ったものと思われる。

 勝敗のほどはよくわからんが、たぶん人間勢が勝ったんだろう。そう思いたい。

 でも死体が埋葬されずにそのままということは、勝っても辛勝あたりじゃないかと予想をつける。

 死体を漁りながら俺と同じような虎男(獣人?)の死体も探してみたが、こっちは発見できなかった。

 その代わり、頭に猫耳やら犬耳やらついた人間の死体はぽつぽつ見つかった。


 で、戦利品というか収穫だが、やはり魔物よりも人間の方がいいものを持っている。

 魔物のほうはあったとしても銅貨が少し、銀貨なぞ滅多に見つからないが、人間のほうは最低でも銅貨に銀貨、小さな金貨が入っていることもあった。

 それに加えて干し肉や堅いパンのようなもの、脱穀した麦や乾燥豆といった保存食らしきものを持っているのは人間側だけだった。

 また、血の臭いを早々に嗅ぎ付けたのか、鳥のような生き物や山犬のような生き物まで集まり始めてきていたのでそれらを追い払うのに武器も失敬した。

 つか、遠目に見たけどこっちの鳥ってくちばしにプテラノドンみたいなギザギザの歯がついてるのな。肉食系だからかもしれんけど。

 まぁ、山犬については武器を使うまでもなくちょっと大声を出せばすぐに逃げたのだが。


 そうしてかき集めたのが

 保存食 約5日分

 貨幣  金貨(大)2金貨(小)10銀貨(大)80銀貨(小)116銅貨35

 ロープ代わりの手綱 3本

 鍋代わりの鉄兜(ヘルメット) 1個

 火打石セット 2つ

 皮製の水筒 3つ

 毛布代わりのマント(外套?) 1枚


 着ていた鎧の替えもどうしようかと思ったのだが、ちょうどいいサイズの胸当てがなかったので持っていくのは止めにした。

 先のことが分からない以上、身軽でいるに越したことはないからな。

 集めたこれらをこれまた剥ぎ取ったマントに包んで風呂敷状に背負い、腰に丈夫そうな大振りの短剣と手頃な重さの槌鉾(メイス)をぶら下げて、ようやく戦場を後にする決心がついた。

 ちなみに何故、剣ではなくて槌鉾を選んだかというと、本音を言えば俺も剣を使いたかった。

 しかし落ちている剣を持って振り回した感じ、どーにも軽すぎて心もとない上に作りが甘いというか雑というか、馬鹿力のド素人による蛮用にはちょっと耐えられそうにない気がしたからだ。

 いや、この虎男の肉体ってスペック高いのよ。刀身を掴んで思い切り力を込めたら折れちまったし。

 ならば槍を……とも思ったが、落ちている槍を見るに剣以上に作りが心もとない。

 結局、武器として一番丈夫そうな総鉄製の槌鉾を選ぶことになったわけだ。

 刃がない分、振り回してぶん殴ればいいだけだから、扱いも簡単そうだしね。

 貨幣については頑張ればもっと集まったのだろうけど、食料を優先して集めた都合上、時間的にそろそろ怪しくなってきた。

 まだ陽はあるとはいえそろそろ夕刻、寝床のことを考えればなるべく早くここを離れたい。

 こんな死体だらけの中で夜を明かすのはさすがに御免こうむる。

 幾分慣れたとはいえ、そこまで心臓は強くない。


 立ち去り際にもう一度合掌して黙祷をささげると、南と思われる方角に向けて軽く走り出した。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 41歳がひっひっふーとか言ってんの? (絶叫)って、小説とスレッドを混同させないで。 書き始めでガキテンションなのは解るがもう少し落ち着いて。
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