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城塞都市シタデラ

―――まえがき――――

本日2回目の投稿です。

次週からは通常運転になります。

―――――――――――

-1-

 およそ10日の旅を経て、次の目的地であるシタデラの街に到着した。

 その名の通り城塞を中心に広がる街で、なだらかな丘の上にある城塞は、横断皇路の南側に隣接する形で位置し、遠くからでも分かるほど城壁は高くそして長く、防御用の櫓の数もまた多い。

 下を見れば城壁の外にも街は広がっており、それを取り囲むように土塁や空堀、柵や板塀が配置されている。

 城壁と土塁の格差を見るに、恐らく城壁外の街は後世になってできた物なのだろう。

 ただ流石に横断皇路をまたぐ形では街は広がっていないようだ。

 外側の街のさらに外にある入場口に並んで順番を待つ。

 凶悪そうな見た目の人外(俺のことね)がこれまた大きな虎を連れている、ということで、冒険者手帳だけでは通してもらえず名誉市民の短剣とディーセン冒険者ギルドの紹介状を見せてようやく街に入れる許可が貰えた。

 なかなか審査厳しいな、この街。

 入口で審査を受けつつ冒険者ギルドの場所を聞くと、城壁の中にあると答えが返ってきた。

 土塁の内側の街に入り、言われたとおり城壁の中を目指す。

 雑多というか無秩序な街並みだが、城壁の門に続く大通りを歩いていく分にはそれほど気にならない。

 道すがら、店先に並んでいる商品などを眺めて回るが、夕方も近いとあってはその日の目玉商品は軒並み売れており、並んでいるのは売れ残り系ばかりとあまり芳しい結果ではなかった。

 夕食も近いから露店で何か食うわけにもいかんしな。

 とにかく、暗くなる前に冒険者ギルドに顔を出して今夜の宿を決めちまおう、と、意見が一致したので、足を早めて冒険者ギルドに急いだ。


「そこの虎!ちょっと止まれ!!」

 城壁の外の街を抜け、城塞を囲む水堀に渡された跳ね橋を渡ると、城壁の内側に詰めていた衛視たちに呼びとめられた。

 他の人間はスルーなんだが、俺だけ呼びとめられたのでやれやれと内心思いつつ衛視たちに歩み寄る。

「見ない顔だが、冒険者か?身分を証明するものは持っているか?」

「ご指摘通り冒険者だ。今さっきこの街に着いて、冒険者ギルドに向かうところでね」

 そう答えつつ、冒険者手帳と名誉市民の短剣、紹介状の3点セットを呼びとめた衛視に手渡す。

「ふむ、ディーセンのランク5の冒険者のディーゴか。名誉市民の短剣も本物だな。紹介状も……ほぅ、ギルド長のお墨付きか」

 3点セットを受け取った衛視はその場で確認し、納得したように頷くと渡したものを返してきた。

「特に問題はなさそうだな。通っていいぞ」

「どうも。ちょいと聞くけど、城壁の出入りにもチェックが必要なのか?」

 返されたものを受け取りながら衛視に尋ねる。

「大多数は呼びとめたりはしないがな、アンタみたいに露骨に怪しいのは別だ。城壁の中は官公庁があるし貴族、金持ちが結構多く住んでる。そんな気はないと思うが、揉め事は起こすなよ?」

「了解。品行方正を心がけよう」

 そう言ってニヤリと笑うと、衛視もつられてニヤリと笑って返した。


 跳ね橋の城門をくぐり、大通りを北に向かうと目指す冒険者ギルドが見えてきた。

 前のウィータの街の冒険者ギルドも大きかったが、このシタデラの街のギルドもまた大きい。

 中に入り受付に用件を伝えると、8番のカウンターを案内された。

 併設されている酒場を横切ると一瞬静かになったが、すぐに喧騒が戻る。まぁ毛色の変わったヤツが来たな、といったところか。

「いらっしゃいませ、冒険者ギルドにようこそ」

 若干顔を引きつらせながら、カウンターの職員が声をかけてきた。

「先ほどこの街に着いたディーゴとユニってもんだ。挨拶代わりの顔出しと尋ねたいことがあってきた」

 そう言って俺とユニの冒険者手帳を差し出す。

「拝見します」

 職員が手帳を受け取り、中をぱらぱらと見る。最後の備考欄のページを見て一瞬動きが止まったが、その後は何事もなかったように手帳を返してきた。

「確認しました。どうもありがとうございます。それで、お聞きしたいこととは?」

「ああ、さっきも言ったがこの街には着いたばかりでな、俺らが泊まれるような宿屋でいいところがあったら紹介してほしいんだが」

「そうですか。ディーゴさんたちはどの程度の滞在を予定してますか?数日程度の短期とそれ以上の滞在で変わってきますが」

「まだ確定しているわけじゃないが、数日ってことはないだろうな。で、滞在期間が違うと何が変わるんだ?」

「滞在期間が短い場合には、当ギルドや冒険者の店に泊まっていただくことをお勧めしているのですが、それ以上の滞在では街の宿を取っていただいた方がなにかと好都合ですので」

「なるほどな」

「ではちょっと説明させていただきますね。この街の冒険者関係の施設は合わせて4つあります。

 一つは当ギルドですが、残り3つは冒険者の店です」

 職員はそこまで言うと、机の中から地図を取り出した。

「当ギルドの位置はここ、城壁内のやや北側に位置します。そして3つある冒険者の店の一つ『大砂鹿亭』がここ、城壁内の南門のすぐそばです。

 残り2つは城壁の外にありまして、一つは『渡る風亭』といって城壁外の西側に、最後の一つは『猫枕亭』で街の東側城壁近くになります」

「ふむ」

「基本的にギルドと各宿に値段的な差はないのですが、それぞれ在籍する冒険者の傾向が異なります。ディーゴさんたちでしたら猫枕亭がお勧めですね」

「というと?」

「当ギルドは比較的ランクの高い冒険者が多く常駐していまして、募集している依頼もランク4以上を対象にしたものが多くなります。

 大砂鹿亭は地元出身や古くからの常連冒険者が多く、ディーゴさんたちのような旅の冒険者はあまり歓迎されません。

 渡る風亭は旅人もよく迎えてくれますが、人間の冒険者だけで固まりがちです。

 その点、猫枕亭は旅人も歓迎ですし人間以外の種族も分け隔てなく扱ってくれます」

「それを聞くとランク5で人外、旅人の俺には猫枕亭以外はない、ってことか」

「はい……どうしてもそうなってしまいます」

 申し訳なさそうに職員が頭を下げる。

「まぁ事情は分かった。ならこれから猫枕亭に向かうわ」

「すみませんがお願いします。お勧めの宿は猫枕亭の店主が詳しいですが、安いからと『一本柳亭』を選ぶのだけは避けてください。

 そこに泊まった冒険者が装備品とか財布を盗まれたという報告が何件か届いているんです」

「……そんな営業妨害的なこと、おおっぴらに言っていいのか?」

 半ば呆れながら職員に言うと、職員は困ったような顔をしてみせる。

「確かにここで言うべきことではないのですが、折角この街に来てくれた方を揉め事に巻き込むわけにもいきませんから。

 それにここで注意しても、安さにひかれてその宿を選ぶ人も少なくないんですよ。被害に遭いさえしなければ、普通の宿の半額以下で泊れてしまうので」

「ああ、なるほどな……」

 金と安全を秤にかけて、金の方を選ぶ人間か。どこにでもいるんだな、そういうのは。

 でも俺はそんな博打は御免こうむる。宿代を切り詰めるほど困ってないし。

 そんな職員の気遣いに礼を言うと、冒険者ギルドを出て猫枕亭に向かうことにした。

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