次の街に向けて
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色々と有意義だった遺跡調査を終えた翌日は、例によって休日を決め込んだ。
なんとなく街の中をぶらついてはみたものの、どうも見るべきところは見終わってしまったっぽい。
そろそろ次の街に移動するか?と尋ねたら、ユニもイツキも賛成したので、次の依頼を最後にこの街を発つことにした。
依頼板に貼られた中から、手っ取り早くこなせそうな廃屋の取り壊しの依頼を引き受けると、大車輪で依頼をこなして翌々日にはウィータの街を後にする。
……いや、この依頼を受けるにあたって話を聞いてみたのだが、どうもいわゆる「売れ残り依頼」だったらしい。
取り壊す対象は、住人が死亡して無人となった一軒家。
依頼人は、生前の住人に金を貸していたという商人。死後に家を譲り受ける約束で金を貸していたというが、そこに突然現れて相続の権利を主張する元住人の血縁者。
しかもその血縁者の背後にはまた別の商人がいて、さらに加えるならばどっちの商人も評判的にちょっと後ろ暗いところがありそうだとのこと。
……完璧に泥沼案件なこの依頼、迂闊に手を出せば後々揉めることは確実なので、報酬がそこそこいいにもかかわらず地元の冒険者たちは手を出さなかったそうだ。
しかし、さっさと街を出る俺達にはあまり関係がない。
ややこしい事情に深入りはせずに、「俺たちは商人から依頼を受けただけのただの解体屋。裏の事情など一切知りません」といった体を押し通し、揉め事が本格的になる前に街を出てしまえば問題はなかろう、と判断した。
借用書は改ざんされてないのか、とか、血縁者は本当に血がつながっているのか、とか、気になる点は幾つかあるが、そこをつつくと底なし沼にはまり長滞在を強いられかねない。
イツキやユニらと話し合って、大車輪で2日で解体をすませて上機嫌の依頼人から割増の報酬を貰い、晴れて今は旅の人となったわけだ。
次の目的地は「城塞都市」と呼ばれるシタデラの街。
横断皇路上にあるこの街は、呼び名の通りかなり大きな城塞都市らしい。
とーちゃん冒険者の手記によると、有名な特産品はないようだが比較的腕のいい武具職人が集まっているとのこと。
ふむ、ならば滞在先の雰囲気次第ではシタデラで水精鋼の武器を作ってもらうのもありかもしれん。
ディーセンでは、自分の冒険者ランクの低さと入手経路の関係から水精鋼を使えずにいたが、旅先ならば入手経路などどうとでも誤魔化せる。
いつまでも鉱石のまま抱えていても荷物にしかならんしな。
そんなことを考えながら、徒歩でいけば9日先のシタデラを目指す。
しかし今歩いているこの横断皇路、帝国が威信をかけて作ったというだけあって整備のされ具合が違う。
道幅は普通の馬車4台が横に並べる程度の幅があり、石畳ではないが砕石を敷き詰め固めた舗装がしてある。
道の両脇には排水溝も掘られ、雨の日の水はけもよさそうだ。
さらに5キラトエム(5km)くらいの定間隔で雨風がしのげる程度の避難小屋と休憩場所となる広場が設けられている。
広場では適度に植えられた樹木が木陰を提供してくれる。気温の上がりつつあるこの時期、風の通る木陰で一休みできるのはありがたい。
そして避難小屋4つから5つおきに、今度は「駅」といわれる有人の宿泊施設が建っている。
駅には地元領主の兵が4~6人程度常駐しており、それ以外に5室20人くらいが泊まれる程度の宿泊棟がある。
宿泊棟の中にある売店では、在庫はそう多くなく街に比べると若干割高ではあるものの、飼葉や保存食、ポーション類の他、馬車や荷車の補修部品を扱っている。
隣接している厩舎では連れてきた騎獣を休ませられるだけでなく、2~3頭の替えの馬も繋がれている。
ちなみにこの馬は基本的に伝令用だが、一般市民でも事情次第では有料で貸し出してもらえるそうだ。
要はこの駅という施設は、旅の途中でトラブルに遭っても何とかここまでたどり着ければ、一息つけて態勢を立て直せる拠点という意味がある。
あとは行政機関が各地に走らせる伝令用か。
様々な知らせを持って走る伝令は、事故やトラブルを避ける意味で目的地までは駅にしか立ち寄りを許されないらしい。
そりゃまぁ、時には機密情報を持って走る伝令が、居酒屋で酔っ払いの喧嘩に巻き込まれたとか、安宿で寝ている間に荷物を盗まれたとかあっては色々と問題だからな。
多分こっちの方が本来の目的だと思う。
そしてこの横断皇路は、道中の護衛が必要ないくらいに治安がいい。
「横断皇路上で商人が野盗や魔物に襲われて損害を受けた場合は、その土地の領主が損害額を補填する」ことが、帝国法で決まっているからだ。
それ故に土地の領主たちは横断皇路の治安維持に力を入れざるをえない。
街道の治安が良くなれば、商人を始めとする人々の移動も増え、途中で立ち寄る街や村に金を落とす。
街や村に落とされた金は税収となり、領主の所に集まりその一部は帝都に届く。
また、道中の護衛が必要無くなれば、値段に上乗せされていた護衛代が無くなり若干とはいえ物価が下がる。そしてそれは商品の流通の後押しとなりこれまた税収の増加に繋がる。
まぁ全てがそう上手くいくわけではなかろうが、横断皇路を往来する隊商や行商人の数を見るに、このやり方は相応の成果を上げているように思える。
……お陰で、護衛依頼にありつけなかった俺たちは経費自腹で歩いているわけだが、それは単なる我儘・僻みと思うことにしよう。
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そんな感じで特にトラブルもなく旅は続く。
いや、宿を借りた途中の村で雨に降り込められ、1日余計に滞在することになったのがトラブルといえばトラブルか。
先を急ぐ旅なら雨でも先に進むところだが、別に1日2日を急ぐ旅でもないしな。
雨の間は、ヴァルツは昼寝、イツキは飲酒と昼寝、ユニは繕い物、俺はとーちゃん冒険者の手記や魔物図鑑を読んで過ごした。
久しぶりにのんびりした時間を過ごせた気がするが……イツキさんや、もうちょっと飲酒のペースを落とせ。
まったく、酔わない酒飲みってのはペースが速くて困る。
雨上がりの横断皇路も、舗装された道はぬかるみとは無縁で快適に旅をすることができた。
そしてウィータを出発して10日後、城塞都市といわれるシタデラの街に無事到着した。
―――あとがき――――
今回は話のキリが中途半端で文字数が少ないため、もう1話投稿します。
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