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対赤大鬼戦

-1-

 と、その前に、だ。

 土の精霊石を使って、赤大鬼の進行方向に深さ10mほどの落とし穴を掘り、イツキに頼んで草木で蓋をしてもらう。

 もちろん底には先を尖らせた石の杭を立てておいた。

 見え見えの落とし穴だが、頭悪いって言ってたし、一匹くらいかかればいいんだが。


 赤大鬼がある程度まで近づいたところで、アーレルがさっと右手を上げる。

 それが合図となりビン、ビンビンと弦音がして矢が赤大鬼に飛んでいく……んだが、命中したのは3本ほどで、しかも大した傷になってないっぽい。

 うわぁ弓があまり役に立ってねぇ。

 むしろ刺激したことで赤大鬼3匹は雄たけびをあげて向ってきた。

 仕方なくこちらも討って出る。

「イツキ!」

〈はいはーい〉

 イツキの声に合わせて、両脇の木々から矢と化した枝が赤大鬼たちに襲い掛かる。

「ぐがぁあああああ!」

 これも大した傷にはなっていないが、一層頭に血を登らせた赤大鬼がさらに足を速める。

 その瞬間、先頭の一匹が落とし穴に落ちた。そしてすさまじい絶叫が上がる。

 馬鹿だ。こいつらほんまもんの馬鹿だ。

 あまりの知能の低さに少し気が抜けたが、気を取り直して残りの赤大鬼を見る。

 残りの2匹は落とし穴の縁でたたらを踏んで踏ん張っていたが、体勢を取り直すと落とし穴を左右に避けて向かってきた。


 こちらも槌鉾を構えて駆け出し、左の赤大鬼に向かう。

 右側の赤大鬼には弓の第2射が飛んで行った。が、やっぱりあまり効果が上がってない。

 タイミングを見計らって右手で振りかぶった槌鉾を左の赤大鬼に斜めに振り下ろす。

 狙った膝に命中し、ぐきゃりとオーガの膝が変な方向に曲がる。

「がぎゃあああ!」

 悲鳴を上げて倒れる赤大鬼の頭に追加の一撃を振り下ろし、矢に射られている右の赤大鬼に向かう。

 両手を上げて掴みかかってきた赤大鬼の顔面に、今度はアーレルの魔法が命中する。

「ぐぎゃっ!?」

 思わず顔を覆い、足の止まった赤大鬼の腹に渾身の横殴りを叩き込むと、赤大鬼はたまらず尻もちをついた。

〈ディーゴさん!赤大鬼の傷は再生します!早くとどめを!!〉

 再び槌鉾を振りかぶり、今度は両手を添えて大上段から振り下ろす。

 赤大鬼は両腕を上げて防ごうとするが、虎男の馬鹿力なめんな、とばかりに力と勢いを込めて腕ごとへし折る。

「げぎゃああ!」

 そしてがら空きになった頭に4度5度と槌鉾を叩きこむと、赤大鬼は動かなくなった。


 そういえば1匹目は、と見ると、前衛3人が寄ってたかって剣や槍を突き立てとどめを刺していた。

 鎧を着た中年男が苦労して赤大鬼の首を切り落とすと、射手たちから歓声が上がった。

 残るは落とし穴に落ちた1匹だが、そぉっと落とし穴をのぞき込むと、底に設置した何本もの杭に貫かれてこと切れているのが分かった。

 これで3匹、どうやら無事に集落を守り切れたようだ。


 前衛組3人のところに歩み寄り、にっと笑って拳を突き出す。

 前衛組もそれぞれ拳をひと当てすると歯を見せて笑い返した。

 ともに集落を守った連帯感がそこにあった。

〈ディーゴさん、大丈夫ですか?〉

 アーレルが駆け寄ってくる。

《おお、なんとかなったぜ》

 アーレルの心配を一言で済ますと、赤大鬼の死体を指さした。

《ところでアレはどうするんだ?》

〈首を切り落とした後はバラバラにして燃やします〉

《使えそうなものとかはないのか?》

〈赤大鬼のですか?皮は丈夫ですけど、好きこのんで使う人はいませんね。首は討伐部位なのでしかる場所に持っていけば報奨金が出ますが〉

《なるほど》

 小説とかでよくある魔石なんかはないみたいだな。

〈ともあれ、ディーゴさんのお陰で何の被害もなく赤大鬼が倒せました。私からもお礼を言いますよ〉

《ま、このくらいしか役に立たんからな》

 そんな会話を交わしていると、集落のほうから人が集まってくる。みんな笑顔だ。

 口々に何か言ってくるが、早口なのでよく分からない。曖昧に笑ってごまかしていると、エレクィル爺さんとハプテス爺さんがやってきた。


-2-

 その日の夜はちょっとした宴になった。

 集落の広場に葡萄酒の酒樽が幾つも据えられ、肉や野菜が豪快に焼かれ参加者たちにふるまわれている。

 戦いに参加した面子は主賓として、大きな焚火の前に座らされて次々と酒を注がれていた。

 特に俺が、だけど。

 この一件でどうやら俺は集落の人たちからやっと「味方」認定をされたらしい。

 次から次へとやってきては笑いながら酒を注いでいく。

 飲みかけを差し出すのは失礼なのでこちらも酒を空けて受ける。

 するとまた新しい酒が注がれて……なんだこの無限ループ。

 特に前衛で戦った鎧のおっちゃんが酷い。

 言葉もわからないのに話しかけてきては一人がははと笑って

乾杯(トラース)!」

 ときたもんだ。

 って、婆ちゃん孫っぽい子を連れてどした?

〈この子もディーゴさんみたく強くなれるように、だそうですよ〉

 おー、そうかそうか。でも俺みたいに人外になっちゃだめだぞー?頭なでなで。

 あらら、ちょっとびっくりしたか?ほらほらほほ肉びろーん。変な顔だろー。

 ぶわっはははと隣のおっちゃんが笑う。老婆も笑う。子供もはにかんだように笑う。

 いつしか宴もたけなわとなっていた。


「……知らない天丼……でもねぇな。宿か」

 翌朝、寝起きながらも小粋なジョークをかまして起きようとしたら、割れるような頭痛と強烈な吐き気が襲ってきた。

 昨夜の酒のお陰でしっかりと二日酔いにかかったらしい。

「……水」

 テーブルの上に置いてあった壺から、水をラッパ飲みする。ぬるい水だが、すこぶる美味い。

 もう一杯お代わりを、と井戸端に向かおうと扉を開けると、アーレルと出くわした。

〈こんにちはディーゴさん。具合は……かなり悪そうですね〉

《ああ、完全な二日酔いだ。どうやら飲みすぎたらしい》

〈大分注がれてましたからねぇ〉

《水飲んだらひとっぷろ浴びてくるわ》

〈それがいいですね。大分臭いますよ〉

〈じゃ、ごゆっくり〉

 アーレルと別れて井戸に向かう。……というか昨夜アーレルも結構飲んでたよな?主賓として唯一の魔法使いとして。

 なんで平気なんだ?


 そろりそろりと移動して井戸に着く。別に忍び足の練習をしているわけではなくて、単に歩く時の振動が頭に響いてくるからだ。

 井戸端に着くと釣瓶で水をくみ上げごくごくと喉を鳴らして飲む。ああ水がうめぇ。

 時間的には昼少し前か。大分寝過ごしたな。

 ……解毒の魔法とか使えたら一発で楽になるんだろうか。

 仕方ないのでべろべろの神様に密かにすがっておく。どうかっ!この二日酔いをっ!頭痛と吐き気をっ!なんとかしてくだせぇ!!

 水分補給して幾分頭痛も楽になった(気がする)ので、部屋に戻り手拭いをひっかけて風呂に向かう。

 昼間っから風呂に入れるのは湯宿の特権だぁね。

 服を脱ぎ、かけ湯をして温めの風呂にそろそろと浸かる。僅かに頭の痛みが増した気がするが、それでも風呂は気持ちがいい。

 ホントは二日酔いに風呂はよくないらしいが。

 水で濡らした手拭いを頭に乗せ、首まで湯につかってると、昨夜の酒が徐々に抜けていくような感じがする。

(大酒はしばらくやめておくか……しかし出てきた酒は葡萄酒オンリーだったな。蒸留酒とかないのかね?)

 二日酔いと戦いながらも、だらだらとこちらの世界の酒事情に思いを馳せる。

 好物:酒、趣味:飲酒とはいかないまでも、酒は結構好きだった前世を思い出す。

(ま、折を見て訊いてみるか。ないなら自分で蒸留するって手もあるしな。

土魔法を使えば蒸留器も作れるだろうし……作るとしたらどんなのがいいかな……)

 などと考えていると扉が開いてエレクィル爺さんとハプテス爺さんが入ってきた。

「こんにちはディーゴさん」

「コンニチハ」

「二日酔いと聞きました。具合はどうですか?」

「マダ、頭、スコシ、イタイ」

「随分飲んでましたからのぅ」

 二人がかけ湯をして湯に入ってくる。

「昨夜は人気者でしたね」

「オカゲデ、ノミスギタ」

「それは止むをえませんな」

 二人が笑う。

「しかし、ディーゴさん、あれほど強い、思いません、でした」

「俺も、ソウオモウ」

「コノカラダ、1ネン、ナル。マダ、ゲンカイ、分からない」

 緑小鬼(ゴブリン)程度なら無双もまだわかるが、赤大鬼(オーガ)を瞬殺とかどうなってんだこの体、と思うよ。

「そういえば、ディーゴさん、なぜ、この付近にいたのですか?」

 ああ、言われて見ればまだ話してなかったっけ。

「この近く、温泉、ワイテル。ソコ、住んでた」

「目が覚めたの、モット、北。でも雪降った。南行く、暖かい思った」

「ソノトキ、この村、見つけた。周りサガシテ、温泉、見つけた」

「その言い方じゃと、まるで温泉があったからここにいるような気がするのう」

 ハプテス爺さんが苦笑しながら口をはさんできた。

「結構、正解」

「はっはっはっ、ディーゴさんは温泉が好きですか」

「温泉、トイウカ、風呂、好き」

「シバラク、風呂、入らない。ケガワ、虫、湧く。困る」

「なるほど、それは重要ですな」

 笑いをこらえながらエレクィル爺さんが頷いた。

 いや、ホント死活問題なんだよ。この毛皮で野外生活してると虫が、ね。

「ソウイエバ」

「?」

「ここ、蒸気、風呂、ない」

「蒸気風呂?ああ、蒸し風呂ですか?」

「タブン、そう。ムシブロ」

「あれ、フツカヨイ、効く」

 ホントは二日酔いにはサウナもよくないらしいが、大汗かいて水かぶるのが気持ちいいんだよ。

 脳の血管切れそうになるけどな。

「言われてみればこの集落にはありませんな」

「小さな集落ですからフェウ、bjkxqw?」

 ああいかん、理解が追い付かない。

 困ったような顔をしてると、エレクィル爺さんが説明してくれた。

「集落、小さい。蒸し風呂、作る、お金、おそらく、ない」

 なるほど。予算の都合か。

「大きい、もの、いらない。俺の故郷、一人、用、蒸し風呂、あった」

 秋田の玉川温泉にあった箱蒸し風呂を思い出しながら答える。

「ほほう、一人用の蒸し風呂ですか?」

「そう。一人、座って、入る、箱、作る。コウ、首、だけ、出す」

「箱、中、湯気」

 浴槽に腰かけて身振り手振りで説明する。ああ、語彙が足りなくてもどかしい。

「作り、簡単。あとで、図、描く」

「ハプテス、分かりましたか?」

「雰囲気は理解しました」

「ディーゴさん、ここの主、私、親しい。後で、説明、願う」

「分かった」


 その後、宿の主とアーレイを交えて箱蒸し風呂の説明をし、完成した箱蒸し風呂がアクセントになるのはまた別の話。

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