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ディーセン出発

―――前書き――――

新章に入りました。

これより約1年間の旅暮らしが始まります。

――――――――――

-1-

 そしてディーセンを発つ日がやってきた。

 今日までにやることは全て終わらせ、各方面への挨拶回りも済ませた。

 領主とカワナガラス店には、昨日顔を出して今日の出発を告げてある。

 開門前だというのに人でごった返す中を振り返れば、旅装束に身を包んだ一同がいる。

 荷車を引いているが、乗っている荷物はかなり少ない。

 俺とユニの旅道具一式の他は、ウィル、アメリー、ポールの旅行用鞄がそれぞれ一つずつと毛布が3枚、あとは塩漬け肉や野菜、香辛料などの食品類に加えて鍋釜などの調理器具が積んである。

 ついでにオイルマッチの在庫分50個程度も積んであるが、量としては些細なものだ。

 当初は3人の布団も持っていく予定だったが、居候として厄介になる身分であまり上等の物を持参するのは気が引ける、とウィルたちが遠慮したためだ。

 まぁ確かにウチで使ってる布団は結構こだわって作らせたいい物だからね。

 食品類と調理器具は止むを得ずの持参だ。

 大市が開催される前後は旅人の往来も多く、宿泊先となる村落で幾つもの隊商や旅人がかち合う。

 数人程度の旅人なら代価次第で寝床と食事を用意してもらえるが、数十人規模に牛馬まで加わるとなると、さすがにそこまで用意してもらうのは無理だ。

 結果、村の中の空き地に泊まらせてもらう許可だけもらって、寝床と食事は自分で用意するということになる。

 大抵は保存食頼みになるのだが、ウチの場合は荷車の積載量に余裕があったので、旅先でまともな食事ができるよう生鮮食品を積むことにしたわけだ。


 やがて開門の時刻になり、街の門が開くと人の波がゆっくりと動き始めた。

 大市の間だけ大幅に増員して対処している係官に冒険者手帳を見せ、2~3の質問に答えて問題がなければ無事に街を出ることができる。

 普段はもうちょっと緩いが、今はアモル王国を相手に貿易規制がかかっているのでこのやり方なんだそうだ。

 これが商人で積み荷を積んでいたりすると、もう少し厳しく調べられることになる。

 ただ俺たちの場合は領主から話が行っているのか、冒険者手帳を見せただけのほぼノーチェックで出ることができた。

 街を出ると、まずヴァルツが先頭に立ち、次に荷車を引いた俺。俺の右手にウィル、左手にユニ、荷車の後方にアメリーとポールが控える。

 歩くペースとしては結構遅めだ。馬車や馬引きの荷車、足の速い行商人らにどんどん追い抜かれるが、あまり気にしない。

 宿泊予定の村で村長宅に世話になるのであれば、気を使って少し早めに到着する必要があるが、今回の旅は寝床も食事も自前なので、多少到着が遅くなっても問題ないからだ。

 寝床なんざ魔法ですぐに作れるしな。

 そんな事情で、のんびりゴトゴトと荷車の一行は進んでいく。

 街の外とはいえこの辺りはまだ人通りも多く、魔物や野盗の襲撃もまず起こらない。

 ピクニック気分で街道を進み、もうすぐ陽が沈もうかという時間に宿泊予定の村に到着した。


「こんちは」

 村の入り口で立ち番をしていた、見覚えのある村人に声をかける。

「やぁ、虎の旦那じゃないか。荷車引いて引越しかい?」

 向こうも俺に見覚えがあるらしく、気軽な様子で返してきた。

「引っ越しというか、今回は大所帯の旅でね。一晩世話になりたいんだが、大丈夫かな?」

「見ての通り旅人が多くてね、村長の所に泊まるのは無理だが空き地ならまだ残ってるよ」

「わかった。じゃあ空き地の方に移動しよう。村長の所にはあとで顔を出すよ」

「悪いね、そっちは頼むよ」

 村人の許可が出たので荷車を引いて村の中に入り、適当な空き地に腰を落ち着けることにした。

 魔法を使って少し大きめの草葺シェルターを作り、中に荷車を運び込む。

 ユニたちにとっては見慣れたシェルターだが、ウィルたちにとっては珍しいらしい。中に入るときょろきょろとあたりを見回していた。

「今夜はここで寝ることになる。中で火を焚くことはできんが、壁に手をかざせば入口ができて自由に出入りできるから、メシの支度を始めてくれ」

「あの、ディーゴ様。これも魔法なんですよね?」

 指示を出す俺にアメリーが尋ねてきた。

「ああ、樹の精霊魔法の一つでな。野営の時によく使うんだ。雨風も凌げて下草もあるから居心地は悪くないだろ?」

「そうですね。まるで草の絨毯の上にいるみたいです」

「まぁ2~3日しか持たないのが難点だが、1泊だけなら問題はねぇからな。じゃ、俺はちょっと村長のところに行ってくる」

 皆を残して村長の家に向かい、一夜の宿の許可を得る。本来ならここで幾らかの心づけを払うところだが、お互い見知った者同士、村の住人の家の幾つかを直すことで話がまとまった。

「こんなことを頼んで快く引き受けてくれるのはディーゴさんだけですからな」

 そう言って笑う村長と別れて、教えられた村人の家を訪問し、補修が必要な個所をちゃちゃっと直して回る。この辺りはセルリ村で散々やっているので慣れたものだ。

 直した家の住人からお礼代わりに春の山菜や乾燥野菜を少し分けてもらい、シェルターの所に戻ると、なんか旅人らしいのが数人、ユニと話していた。

「おう、今戻ったぞ」

「あ、ディーゴさま、お帰りなさいませ」

 ユニに声をかけると、集まっていた旅人たちが一斉にこちらを向いた。

「……ウチのモンになにか用か?」

 俺の質問に旅人たちは顔を見合わせていたが、一人が頷いて尋ねてきた。

「この草のテントはおたくが作ったのか?」

「まぁそうだが、それがどうかしたか?」

「そうか。……あー、初対面の相手にこんなことを頼むのもなんだが、俺たちの分も作ってもらえないかな?もちろん代金は払う」

「まぁ旅の者は相身互いだ、構わねぇっちゃ構わねぇが、幾つ必要なんだ?」

 そうして聞いたところによると、2~3人用の小さめの物が3つ、6~7人用の中くらいの物が1つ、10人くらい入れる大きな物が2つ欲しいらしい。

 ……そのくらいなら全部作ってもまだ余裕はあるな。

 疲れ具合から判断して十分イケそうだと思ったので、大きなものから順に作っていくことにした。

「草よ木よ、群れ集まりて雨風をしのぐ仮屋となれ」

 そんな感じで魔法を使うと、地面から草や蔓がシュルシュルと伸びてドーム状のシェルターを形づくった。時間にして3分も掛かっていない。

「大型となるとこんなもんだが、ここは誰が使う?」

「では私どもが」

 少し身なりの良さそうな男が名乗り出た。

「じゃあ使い方を説明するから全員集めてくれ」

 そう言って人を集めてもらうと、実際にシェルターを使う人間を登録する。登録された人間なら、壁に手を当てれば勝手に入り口が開く仕組みだ。

 中に入った者たちは一様に下草の柔らかさに驚いていた。

「こんな便利な魔法があるんですね。樹の精霊魔法ですか?」

「そうだ。ただ、2~3日しか持たんから、あくまで急場しのぎにしかならんが」

「いやいや、それでもすげぇよ。この下草ならそのままごろ寝でも熟睡できそうだ。俺なら避難小屋や安宿の虱だらけの寝床よりこっちを選ぶぜ」

 護衛らしい戦士風の男が話に交じってきて、居合わせたものが笑いあう。

 やはり旅を生業とする者だけに、虱だらけの寝床は誰もが経験済のようだ。

 あとはわいわいがやがやと移動しながら、頼まれた分のシェルターを作って回った。

 代金は元手がかかってないので銀貨1枚でいいと言ったら喜んで払ってくれたよ。


 一通りのシェルターを作り終えて自分の所に戻ると、ユニが指揮して始めていた食事の準備が終わるところだった。

 メニューは塩漬け豚と根菜のシチューに山菜とチーズの焼き物、それと黒パンだ。

 野営の食事にしてはかなり豪華だが、まぁまだ街から近いし生鮮食品が使えるならこんなもんよ。

 用意された食事を美味しく頂き、片づけを済ませればあとは寝るだけだ。

 本来なら交代で見張りの一つも立てる所だが、村の敷地内だし荷物類はすべてシェルターの中に収めている。

 そしてシェルターは緑小鬼程度の襲撃ではビクともしない。

 見張りを立てて睡眠時間を削ることもあるまいと全員で集まって眠りについた。


-2-

 そして翌朝、朝食を済ませて村長に礼を言い、村を後にしたわけだが……同行者が一気に増えていた。

 5人組の冒険者が1組と単独の行商人が3人、護衛込み8人の隊商が1組にこれまた護衛込み11人の隊商も1組という、都合27人が次の村まで同行することになった。

 どうやら昨晩のシェルターでの寝心地が予想以上に良かったらしい。

 朝食の準備の為に井戸端でがやがややってるときにそんな話が出て、昨晩シェルターの世話にならなかった者たちまで加わったせいだ。

 その一方でシェルターの世話になりつつも今日から別の街道に逸れてしまう一団もいて、名残惜しまれつつも別れを告げたりした。


 それでも都合30人を超える集団が、にぎやかに街道を進む。

 位置的にそろそろ騎士団の巡回範囲から外れ、野盗や魔物の襲撃を警戒し始める頃合いだが、一行に緊張の気配はない。

 30人を超える集団が相手では襲う側も相応の頭数が必要だし、冒険者や隊商の護衛から斥候も複数人出ている。

 それに虎のヴァルツが加わっているのだから、まず奇襲されることはないだろう。

 更に言うなら、冒険者2組に隊商2組の護衛と、戦闘可能な人間は半数の15人を超え、冒険者ランク3の戦士までいるので戦力的にも申し分ない。

 赤大鬼が複数出ようと無傷で撃退できそうな陣営だ。

 そんな具合なので、お互いに気の合った相手を見つけて雑談と情報収集に余念がない。

 ウィル、アメリー、ポールの3人は隊商の御者や護衛の若い連中たちと話がはずんでいるし、ユニはなぜか冒険者の神官らしい女性と意気投合している。

 しかしイツキさんや、せがまれて歌う代わりに酒を貢がせるのはどうかと思うぞ。あと何故そこで演歌ばかりをチョイスする?

 俺は冒険者のリーダーや隊商の隊長らから最近の情勢とか話を聞いているものの、バックに「哀しみ本線オホーツク」とかが流れてると違和感が半端ないんだが。

 それとイツキを取り巻いてるヤローども。鼻の下のばしつつ俺のツレを露骨にナンパすんな。食うぞ。


……そんな感じで(俺だけ)若干の波乱を含みつつ、2日目の村に到着した。

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