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猫祭と衛視たち

―――前回までのあらすじ――――

アモル王国への架空請求で盗賊ギルドの協力を取り付け屋敷に戻ったディーゴ。

しかし戻った屋敷では衛視たちが待ち構えていた。

―――――――――――――――


-1-

「名誉市民ディーゴ、衛視隊本部までの同行を命ずる。抵抗すると為にならんぞ」

 用事をすませて屋敷に戻ったら、待ち構えていた衛視たちに捕まった。

 思い当たる節はある。というか、昨日の一件しか考えられない。

 今にして思い返せば、さすがに百舌鳥の早贄(アレ)は少しばかりやりすぎた気がしないでもない。ほんの少しだけな。

 あの時は大分腹に据えかねていて、悪魔が下りてきていたんだよ。

 とはいえ、1から10まで手を下したのは俺なので、とても言い訳はできんわな。

「わかった。大人しく従おう」

 頷いて正面の衛視に、護身用の鉈と名誉市民の小剣を手渡した。これで俺は完全に非武装となる。

「うむ、いい心がけだ。その態度に免じて、縄は打たずにおいてやろう」

 鉈と小剣を手渡したことでこちらに抵抗の意志がないと分かり、衛視がふっと表情を緩ませた。

「感謝する。ただ一つだけ、衛視隊本部に行く前に頼みたいことがある」

「内容次第だな。言ってみろ」

「本部に行くのを少し遅らせて欲しい。昨日の件で協力してくれた者たちがいて、夕方から彼らをもてなす約束をしている。

 協力を頼んだ本人が感謝の席にいないというのは、さすがに失礼が過ぎるんでな。なに、それほど遅くまではかからんだろうよ」

「参考までに聞くが、その協力してくれた者たちとは誰だ?」

「この辺りに住んでる猫たちだ」

「ふざけるな!!」

 たちまち顔を真っ赤に染めた衛視に一喝された。ま、普通はそうだわな。

「冗談に聞こえるだろうが、事実なんだよ」

「ではなにか?お前は猫と会話できると言うのか?」

「いくらこんな見てくれでもさすがに猫との会話は無理だ。だが、人語を話す猫が知り合いにいてな、その猫に仲介を頼んだ」

「人語を話す猫ぉ?そんなもの聞いたことがないぞ!」

「ならば実際に会って話してみるといい。もう少しすれば姿を見せるはずだ。取り調べで調書を書くのだろうが、実際に自分の目で見れば納得も行くだろう」

 冷静に反論する俺に、衛視が少し困ったように視線を動かした。俺の後ろに移動した2人の衛視とアイコンタクトを取っているのだろう。

「俺の証言の裏を取るのに、その猫の話も必要だろう?もてなしの席に同席しても構わんし、もてなしが終われば俺は素直にあんたらについていく。取り調べにも素直に応じると約束しよう。

 一刻を争う事情があるなら話は別だが、そういう訳でもなかろう?本部に戻るのが数時間遅れたところで特に影響はないと思うがな」

「…………」

 俺の提案に、衛視はしばらく俯いて考えていたが、やがて腹を括ったように顔をあげた。

「分かった。では我々もこの場に残って、その人語を話す猫とやらからも話を聞こう。本部にはその後で同行してもらう。いいな?」

「それで結構。では、俺の方は猫たちのもてなしの準備を始めさせてもらうぞ」

 後ろを塞ぐ衛視たちが脇にどいたのを見て、俺はユニを始めとする使用人たちに準備開始の指示を出した。


 猫たちに出すメニューは、茹でた鶏肉と生の鶏肉、そしてチーズがメインだ。それにユニが思いついて買ってきたウサギ肉が少し加わる。

 大鍋に湯が沸かされ、羽をむしられ内臓も抜かれた鶏が投入される。

 ある程度火が通ったら鍋から上げ、肉をむしって骨を取る。むしった肉は猫たちが食べやすいように、さらに小さくむしられる。

 生の鶏肉も骨を取り去り肉を一口大に刻む。こちらは数が多いし包丁さばきが必要なのでユニが担当した。

 ちなみに俺は数の少ないウサギの解体と水の準備。ウィルとアメリーが茹で鶏を担当し、ポールはひたすらチーズを刻んでもらう。

 イツキ?一人で既に初めていやがりますよ。そんなペースじゃ終わるまでもたんぞ。酒の方が。

 ヴァルツはお客様の方なので、ただよう肉の匂いにそわそわしている。

 各人が作って出来上がったものは、ユニが肉と一緒に買ってきた皿代わりの大きな葉に乗せて地面に直置き。ウチにそれだけの大量の皿はないしな。

 ただ、水を入れる容器だけは買ってきたものを使った。

 40枚ほどの葉皿を置いた辺りで、開け放っている門の所にアルゥが猫を引き連れて姿を見せた。


「ディーゴ、来たぞ」

「おう、腹っぺらしを引き連れてきたな?」

 20を超える猫を引き連れてきたアルゥの前にかがみ、挨拶を交わす。

「昨日見た数より幾分少ないようだが?」

「なに、他の猫への声かけに回っておるよ。じきに合流しよう」

「そうか。じゃあアレだ。礼の口上なんか長々と聞きたくねぇだろうし、小難しいことは一切なしで、もう来た者から好き勝手に始めてくれ。足りなくなったらお代わりもあるからな」

 俺の言葉をアルゥが通訳して後ろの猫たちに伝えると、猫たちはにゃごにゃご言いながら弾かれたようにそれぞれの葉皿に突撃していった。

「では我も頂くとしようか」

 そんな猫たちの様子を見てアルゥも腰を上げる。

「すまんがそれはちょっと待ってくれ。昨日の件で衛視たちが来ててな、アルゥからも話を聞いた方がよかろうと待っててもらってんだ」

「なんだそうなのか。では話を先に済ませてしまおう」

 アルゥはそういうと、現場を見て固まっている衛視3人の所にとてとてと歩いて行った。

「お初にお目にかかる衛視どの。我は双尾猫のアルゥと申す」

 衛視たちの足元に座り、彼らを見上げながらアルゥが名乗る。

 しかし衛視たちは固まったままだ。

「……本当に、猫が喋ってる」

「出まかせじゃなかったのか……」

「尻尾が二本?」

 そんな3人を見上げたまま、アルゥが首を傾げた。

「どういうことじゃ?」

「喋る猫がいるというのが信じられなかったのさ。はいはいはい!気を取り直して、双尾猫のアルゥが挨拶してくれてんぞ」

 ぱんぱんと俺が手を叩いて3人を我に返らせる。

「このアルゥはな、猫は猫でも双尾猫という幻獣なんだ。人語くらい普通に喋るぞ」

「……そうだったのか。いや、失礼した。話で聞いただけではとても信じられなかったが……」

「まぁ我らの数は少ない故、知らぬのも仕方なかろう」

 アルゥがさもありなんと頷くのを見て、衛視たちはそれぞれ腰を下ろして目線を下げた。

 幻獣であるアルゥに対してのことだが、礼儀を心得てるね。高圧的な衛視も多いもんだが。


 衛視たちがそれぞれ名乗り、俺も加わったことで昨日の件の聞き取りが始まった。

 アルゥとしては別に隠すことも誤魔化すこともないので、衛視からの質問に聞かれるままに答えている。

 アルゥと俺が知り合った切っ掛けや、今はミットン診療所に世話になっていることから始まり、アジトへの突入の様子を話すと衛視たちから苦笑いが漏れた。

「猫だけでなく鼠もか……。人質を取られた時は相手の意表を突くのが常道とはいえ、さすがにそれだけの猫と鼠に乱入されたら連中も驚いただろうな」

「お陰で制圧が捗ったよ」

 俺が口をはさむと、衛視は一転して渋い顔になった。

「そこで止めておいてくれれば良かったんだがな」

「ディーゴよ、おぬし一体何をしたのじゃ?」

 アルゥが俺に尋ねたとき、ユニと3人の使用人がそれぞれ飲み物と料理を持ってきた。

「お話し中に済みません。簡単なものですけど、よろしければ皆さんで召し上がってください」

 そう言ってアルゥの前に小皿の料理と水盆を、俺と衛視たちの前に大皿の料理とカップを差し出した。カップの中身は葡萄酒のお湯割りか。

「おおユニどの、すまぬな。これはウサギ肉のチーズ掛けか?」

 アルゥが鼻をひくつかせながらユニに尋ねる。

「はい。少し冷ましてありますからすぐに食べられますよ」

「それはありがたい」

「衛視の皆さんとディーゴさまにはこちらを。鶏肉と根菜の焼きものです」

「や、我々は」

 衛視たちが遠慮するのにかぶせるように、俺が会話を引き継ぐ。

「なに、周りが食べているのにウチらだけお預け状態ってのもナンでしょう。コイツの料理の腕はちょっとしたもんですし、この辺りとはまた違う味付けをするんで話のタネに遠慮なくつまんでください。アルゥもそろそろなにか腹に入れたいでしょうし」

「うむ。我は少し食べさせてもらうぞ。この香りを前にお預けはいささか酷ゆえな」

 アルゥがそう言って皿の料理を口にした。

「ふむ、美味い。ウサギ肉を食べるのは久しいが、このチーズのソースがたまらぬ」

「ふふ、ありがとうございます。それと改めてですけど、アルゥさん、昨日はどうもありがとうございました」

 ユニがそう言ってアルゥに頭を下げる。

「なんの、ディーゴが出した条件につられただけのことよ。それもこの料理で十分元が取れたわ」

「お代わりは幾らでも用意しますから、足りなくなったら言ってくださいね」

「うむ、その時は願おう」

 アルゥの言葉に、ユニたちがぺこりと頭を下げて去っていく。

 その後は少しの間、無言で料理をつまむ時間が続いた。

 衛視たちも料理を口にして初めは驚いたような顔をしていたが、その後のペースを見るにどうやら気に入ったようだ。


「で、話が止まったが、ディーゴは何をやらかしたんじゃ?」

 食べるのに一段落したアルゥが再び尋ねる。

「アジトの連中を全員串刺しにして人間案山子(カカシ)にしたのだ。しかも首まで切り落としてな」

「2階にいた10人全員が案山子にされていた。シーツなどで一応隠されてはいたが……凄惨という言葉さえ生ぬるい光景だった。

 邪神への生贄の儀式かと思ったぞ」

「首の方は探したが見つからなかった」

 そう言って衛視たちがそれぞれ俺を睨む。睨まれた俺は視線を逸らすしかない。

「……ディーゴよ、そんなことをしておったのか。腹に据えかねたのは分かるが、それはいささかやりすぎだぞ」

「そう。いくらなんでもやりすぎだ。おまけに現場に13人もいて息のある者が一人も残っていない」

 呆れたようなアルゥの言葉を衛視が引き継ぐ。

「誘拐の現行犯と、被害者の身内という関係を考慮しても、その範疇を大きく超えている。お咎めなしという訳にもいかん。

 衛視本部で詳しい話を聞いた後、領主様の裁きを受けてもらうことになる」

「まぁ、仕方ないわな。覚悟はできてるよ」

 ユニの料理をつまみながら答える。確かに少しやりすぎたとは思っているが、別に反省はしていないので。

「その物分かりの良さを、できるならやらかす前に発揮してほしかったな」

 そう言って衛視が大きくため息をついた。


 そんな中で猫たちの祭は続き、存分に腹を満たした者から三々五々と帰っていく。

 ねぐらに帰る猫たちがそれぞれ律儀にアルゥに挨拶をしていく様は、見ていてちょっと可愛い。

 最後まで残って料理をがっついていた大きな猫が、腹肉をたゆんたゆんと揺らしながら帰っていくのを見送ったアルゥがこちらに向き直る。

「では、皆も帰ったようなので我もそろそろお(いとま)しよう。馳走になったな」

「なに、こっちこそ手を貸してくれて感謝している。俺はこれから衛視本部にしょっ引かれていくが、ウェルシュとエルトールによろしく言っといてくれ」

「承知した。では衛視どのらも、我はこれで失礼する」

 アルゥがそう挨拶して夜の闇に消えていくと、残っているのは俺達人間?組だ。

「じゃあユニ、スマンが後は任せる。ウィルとアメリーとポールはユニの指示に従うように。困ったことがあったらカワナガラス店を頼れ。いいな?

 イツキとヴァルツはユニのフォローを頼む」

「はい」

「「「わかりました」」」

 それぞれが頷いたのを見て、俺は衛視たちを振り返った。

「んじゃあ、衛視本部にお願いしますわ」


 ディーセン名誉市民ディーゴ、3の月17日、逮捕。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうせ捕まえても結果的に死罪ではあったんだろうがね。 私刑を行ったからオコなの。
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