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オイルマッチあれこれ1

―――前回までのあらすじ――――――

完成した新装備だが、慣れるまでに少し時間が必要そうだ。

早く使いこなせるようになるべく稽古を続ける最中に、すっかり忘れていた事案がやってくる。

――――――――――――――――――

-1-

 新装備による稽古を続ける日々が続く。

 ユニはユニでランク7の依頼をこなしている。このペースならもうすぐランク6に上がれるだろう。

 そんなある日、鍛冶ギルドから注文していたオイルマッチ500個が出来上がったと連絡が届いた。

 ……しまった。忙しさにかまけて、売り出すには事前に諸々準備が必要だったことをすっかり忘れていたわ。

 ともあれ、忘れてた準備は順次やるとして、とりあえず品物を受け取りに鍛冶ギルドに向かった。


「こんちは」

「おう来たな。注文を受けてたオイルマッチ500個、確かに出来上がったぜ」

 顔を見せた鍛冶ギルド副長のサヴァンが、そういって木箱を指さした。

「すまんね。代金はいくらになった?」

「金貨で22枚だな。今回は1回目だからちっと割高になった。すまん」

 そう言ってサヴァンが頭を下げる。

「そのくらいなら想定内だ。じゃあこれが代金な」

「まいど」

 財布から金貨を数えて机の上に乗せると、サヴァンがそれを確認しながら受け取った。

「今回ので鋳型は作ったから、次からはもうちっと安く早く作れると思うぜ」

「なら追加注文で同じ500個頼もうか」

「いきなり追加かよ。まぁこっちとしちゃ有難いが」

「領主様ン所に見本を持ってったら200個納入しろと言われてね。売り出すにしても在庫300じゃちと心もとない」

「ああ、まぁ確かにな……目端の利いた商人なら、在庫全部買い上げるとかやりかねん」

「初めは街中への普及を目指すから個数制限はかけるけどな」

「そうしてくれると助かるぜ。追加分はいつまでに欲しい?」

「無理せん範囲で早めに入れてくれりゃいいよ。こっちも売り出すにあたって準備が必要なんでね」

「分かった。じゃあまた出来上がったら連絡を入れる。来月の中盤前には連絡できると思うぜ」

「よろしく頼むよ」

 そう言ってお互いに握手を交わし、借りた荷車に荷物を積み込むと、油の開発を頼んでいたガーキンス氏の所に向かった。


 通りをいくつか通ってガーキンス氏の所についた。

 ……なんとなく家の周りがさっぱりしているような?前はもうちょっと荒れ……いや、無頓着だった気がするが。

 扉を叩いて訪いを告げると、中から見知らぬ中年女性が顔を見せた。

「こちら、ガーキンスさんのお宅……で良かった?」

「はい。そうです。先生に何か御用ですか?」

「ああ、俺はディーゴってもんだが、先生がいるなら俺が来たと伝えてくれるかな?」

「ディーゴさまですね、少々お待ちください」

 中年女性はそういうと、奥へと消えていった。

「おおディーゴ様。よく来てくれた」

 それから間もなくしてガーキンス氏がやってきたが、こちらもなんかこざっぱりとした格好をしているし顔の肌艶も良くなっている気がする。

「まぁここで立ち話もなんだ、話は奥でしようか」

「じゃ、お邪魔します」

 奥の部屋に通され、小さな卓をはさんで腰を下ろすと、先ほどの女性が湯気の立つカップを二つ持ってきた。

 女性はガーキンス氏と俺の前にそれぞれカップを置くと、一礼して部屋から出ていった。

「……あの女性は、新たに雇われたのですか?」

「うむ。領主様から精製油について大口の注文が入ってな、幾分余裕ができたので知り合いの紹介で身の回りの世話をしてもらうのに雇ったのだ」

「なるほど。道理でいろいろさっぱりしてると思いました。顔の色つやも良くなってますよ」

「やはりそうか。今までは男所帯で研究優先だったから色々と行き届かなくてな。温かくて旨い飯が3食出てくるありがたみを噛みしめておるよ」

「でしょうね」

 そう言って笑いあう。

「して、今日の用件は精製油かな?」

「ええ。鍛冶ギルドに注文していた500個が出来上がったので、それと併せてそろそろ売りに出そうかな、と」

「なるほどな。確か大瓶で10本ほど在庫があったはずだ。あとで用意しよう」

「ありがとうございます。ところで、精製油はどんな形で売り出す予定ですか?決まっているならそれに合わせようと思っていますが」

「うむ、領主様にはとりあえず指定のあった瓶で納入させてもらう予定だが、一般に売り出すにはちと量が多すぎてな……。ディーゴどのに何か腹案はあるかな?」

「そうですね、あまり大量に使うものじゃないですから、3~4回の補充ができる量と考えてこのくらいの大きさで、丈夫な物がいいと思います」

 そう言って10セメトほどの大きさを手で示す。

「ふむ、そうだな。初めは手軽にポーション瓶で済まそうかとも考えておったが、実際に使おうとするといろいろと問題が出てきてな」

 ガーキンス氏の言葉に頷いて見せる。確かにポーション瓶はそれなりに流通しているのだが、投げても使えるように結構割れやすく作ってあるうえに同じ容器の使いまわしだと誤飲の可能性もある。

 形状的にも中身を少量注ぐのに適した形ではない。

 雑に扱っても壊れず漏れず、少量を注ぎやすい燃料の保存容器といえばジッポオイルの缶が理想的なんだが、あの注ぎ口はこちらの世界じゃ再現できん。

 次に思いつくのは醤油さしだが、これはこれで漏れないようにもうひと手間加える必要がある。

 そんなことを考えていると、ガーキンス氏が尋ねてきた。

「ディーゴどのは確かガラスを扱う店に伝手があったと記憶している。その店に頼むことはできぬか?」

「まぁ頼むことは可能ですが、あそこも今はちょっと忙しいと思うんですよね。月にどのくらい必要でしょうか?」

「今の生産量からみて200もあれば賄えるのではないか、と試算しておる。ワシも使ってみたが、オイルマッチの燃料容器に精製油を満たせば、日常使いでも1ヶ月はゆうに持つ。

 初めのうちは瓶が足りなくなろうが、その場合は精製油だけ量り売りすればよかろう、と思ってな」

「燃料だけの量り売りですか、それも手ですね。容器の方は懇意のガラス店に話をしてみます。ただ、他の店を紹介されるかもしれませんので、結果は報告しに来ますよ」

「すまんがよろしく頼む」

 その後、幾つかの取り決めをして精製油を代金と引き換えに受け取り、ガーキンス氏の家を後にした。

 んじゃ、次は領主様のところかね。


「こんちは。寒いね」

「おおディーゴ様。領主様になにか御用ですか?」

 領主の館の顔見知りの門番に声をかけると、笑顔で返してきた。

「うん、領主様が忙しいなら執事さんでも構わんのだけど、以前に領主様から注文を受けてたオイルマッチ200個を納品しに来たんだ」

「そうでしたか。でしたら裏口に回ってもらった方がいいですね。すぐに人を向かわせますよ」

「了解。んじゃそっちに回るよ」

 荷車を引いて裏口に回ると、そこにはすでに執事が待っていた。

「お待ちしておりましたディーゴ様。オイルマッチ200個を納品に参られた、と伺いましたが」

「うん。今日、鍛冶ギルドで500個受け取って来てね、そのまま持ってきた。どこに運べばいいかな?」

「それほど大きな箱ではございませんね。1箱につき100個入りでしょうか?」

「そうだね。2箱の納入になる」

「それでしたらこちらの者に運ばせます」

「ガーキンス氏の所の精製油はあるかな?」

「すでに一部が納入されております」

「なら大丈夫だね。使う人にはくれぐれも精製油しか使わないよう注意してくれるかな。それ以外の油を使うとダメになるから」

「かしこまりました。代金はいかがいたしましょう?」

「一応、1個当たり半金貨5枚で売りに出す予定でいるけど、納入分は半金貨3枚でいいや。いつも好き勝手させてもらってるから、身内価格ということで」

「ありがとうございます。でしたら後日金貨で60枚を届けさせます。少々お待ちいただけますか?今、受け取りの書類を用意します」

 執事はそういうと、筆記具と紙を取り出してさらさらと何かを書き込んだ。つーか何でも持ってるのねこの人は。

「お待たせしました。代金を届けに行った者にこの紙を渡してください」

「了解」

 渡された紙を見ると、オイルマッチ200個を受け取ったことと、代金として金貨60枚を支払うことが書かれ、隅の方に執事の物らしいサインも書かれていた。

 あとは執事が呼んだ他の使用人にオイルマッチの箱2つを渡して、ここでの用事は終了となった。


 さて次は……カワナガラス店かなと思ったが、その前にやらなきゃならんことを思い出したので、屋敷に戻ることにした。

 やらなきゃならんことというのは、オイルマッチの説明書と注意書きを作ること。

 売るにあたって説明書の方はなくてもなんとかなるかと思うが、注意書きだけは付けなきゃならん。

 オイルマッチにはガーキンス氏のところの精製油しか使えないし、それ以外の油は絶対に使うんじゃねぇぞと念を押さなければ、他の安い油を使おうとする奴が確実に出てくる。

 1個売るたびにイチイチ説明なんぞしてられんので、付属としての説明書は必須だ。

 しかしここで一つ問題が出てくる。

 この世界の住人の識字率は決して高くない。比較的文字に触れることが多い都市の住人でも、仕事に関する単語や数字なら読めるがそれ以外はからっきしという人間は少なくない。

 農村に至っては識字率はもっと下がる。

 つまり、文章で書いた説明書をつけても読めない人間が一定数居る。それじゃ説明書の意味がない。

 というわけで、苦手な美術の描画技術を駆使して取扱説明書と注意書きをなんとか絵らしきもので描き上げた。

 絵に合わせて文章も入れておくのは忘れない。

 あとはこれをもとに版画形式で紙に印刷すればいい。

 まぁ版木を作る時に絵の方はもうちっとマシに描き直してもらうしかないな。

 意味が通じりゃそれでいいんだし。

 ……だが、版木を作ってもらうのは木工ギルドに頼むにしても、印刷はどこに頼みゃいいんだ?印刷所なんて聞いたことねぇんだが。

 木工ギルドに頼むときに聞くか。んなもん個人でやれとか言われたらまた手間が増えるな。


 説明書と注意書きの図柄に大苦戦をしたので、ひとまず形になったのは夜もかなり遅い時間だった。

 明日は木工ギルドとカワナガラス店を訪問だな。

 あとは売り方をどうするかも決めんといかんか。俺のところで直接売るか、どこかの店に頼むか……。

 そんなことを考えながら、この日は眠りについた。

――― 一筆啓上作者より ――――――

4月4日に誤字報告を頂きました。

単純な書き間違いでしたので、すぐに修正させていただきました。

ご指摘、どうもありがとうございました。

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