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毒を使う緑小鬼 後日譚

―――まえがき――――――

依頼が片付いた後の、いわゆる御礼回りの話です。

―――――――――――――

-1-

 エランドとクランヴェルを相手に報告会を終えた翌日は、借りていた荷車の返却の為にディーセンの街を出発した。

 一応武装はしているものの、ユニの作った弁当持参で荷車を引く気楽な旅だ。

 途中の村で一泊し、その翌日の夕方にはまだかなり早い時間にセグメト村に到着した。

 すっかり顔見知りになった村人たちに挨拶して、そのまま村長の家に向かう。

 玄関の扉を叩くと、村長が顔を見せた。

「おお、ディーゴさんとユニさん。戻ってこられましたか」

「なんとか決着がついたというか、私の手から離れましたんでね、借りてた荷車を返しに来ました。どうもありがとうございました」

「いえいえ、お役に立てたようでなによりです。……で、そちらの品は?」

 荷車に乗っている袋を見て、村長が尋ねてきた。

「頼まれていた品ですよ。木こり用の斧と砥石と、鍋です。水飴も手に入ったので、壺で2つほど買ってきました」

「そうでしたか、どうもありがとうございます。では、品物は納屋の方に移動しておきましょうか」

 村長に案内されて、納屋で荷物を下ろしていると、品物と一緒に買ってきた布に村長が気が付いた。

「ディーゴさん、その布は?」

「ああ、古着も分けてもらいましたからね。その分です。古着を出してくれたおかみさんたちで分けてください」

「なんだか申し訳ないですな。でも、いいのですか?」

「緑小鬼が80匹近くと緑小鬼将軍までいましたんで、冒険者ギルドや騎士団から追加の報奨金が出たんですよ」

 そう言って笑って見せると、村長も納得したように頷いた。


 その夜は村長の家に泊めさせてもらったが、夕食はかなり量が多く、豪華なものになった。

「古着の代わりに新品の布だなんて、なんだか却って得しちまったねぇ。じゃあ、夕食のおかずに一品持っていくよ」

 村長がおかみさん連を呼んで俺が持ってきた布を渡すと、おかみさん連はそう言って料理を一品ずつ持ってきてくれたからだ。

 料理をつまみにエールを飲りながら、ディーセンで起きたことの顛末を村長に話して聞かせた。

「なるほど、そんな事態になっていたのですか。ややもするとこの村も緑小鬼に襲われていた可能性もあったわけですな」

「かも知れませんね。まぁ早い段階で気が付いてよかったですよ」

「ですが、本当に戦争にはならないのでしょうか?」

 村長がそこを心配する。位置的にこの村が戦場になることはないだろうが、戦争となれば兵士や後方支援として男衆が駆り出される可能性は高い。

 戦費を捻出するために新たな税が課せられるかも知れないし、兵士の食糧として村の備蓄を供出するよう命令が来るかもしれない。

 村長としてはやはり気になるのだろう。

「冒険者ギルドの副長と、たまたま帝都から来ていた偉い司祭様の予想では、二人とも戦争にまではならないだろうという認識でしたよ」

「そうですか。ならばその通りになることを願うしかありませんな」

 村長としてはまだ不安を払拭しきれないようだったが、とりあえずこの話は終わりになった。


 村長の家に泊まった翌朝、出発前に共同墓地へと足を向ける。

 新しい墓標に手を合わせ手短に報告をすますと、俺たちはセグメト村に別れを告げてディーセンへの帰路についた。


-2-

 ディーセンに戻って顔を出したのは、ミットン診療所だ。

 初っ端に標の星の二人を担ぎこんで以来ご無沙汰だったが、思い返せばここで毒を調べてもらってアモル王国の名前が出た影響はかなり大きい。

 礼も含めて今回の件を話しておこうと思ったわけだ。

「うぃっす。久しぶり」

 玄関を入り、受付にいたエルトールに声をかける。

「ああディーゴさん、お久しぶりです。体調でも崩しましたか?」

「いや、体調は問題ない。例の毒を使った緑小鬼の一件な、ようやくケリがついたから報告に来た」

「そうでしたか。わざわざありがとうございます。じゃあ、診察室で話を伺いましょうか」

「別に急ぎでもないから、診察が終わるまで待っててもいいが?」

 待合室の中を振り返って提案する。待合室の中には5~6人の患者らしき人間が順番を待っていた。

「んー、その方がゆっくり話せると思うんですけど、ちょっと今日は忙しいんですよね。これからも追加で増えそうな気がしますし」

「なるほど、じゃあ仕方ないな。なら話も手短に済ますわ」

「お願いします。2番の診察室に入ってください。あとツグリさん、すみませんがちょっとの間受付をお願いします」

 呼ばれたツグリ婆さんが受付に入るのと入れ替わりに、エルトールが受付を離れる。

 俺もそれを見て2番の診察室へと入った。

「忙しいところすまんね」

「いえ、私たちも気にはなっていましたから。じゃあ、お願いします」

 エルトールに促されて、今回の件をざっと話して聞かせた。アモル王国の非正規部隊が絡んでいたことは予想していたようだが、ごろつきが大挙して街の商家などを襲撃したことに話が及ぶと、なぜか納得したような顔を見せた。

 それが少し気になったが、エルトールは何も言ってこない上に手短に話すつもりだったので、気にはしつつもスルーしておいた。

「……なるほど、アモル王国のそんな企みが進行していたわけですね。何はともあれ、街や周辺の村に被害が出なくて良かったです」

「まったくだ。という訳でだな……」

 そこで話を切ると、机の上に財布から取り出した金貨を2枚、乗せた。

「これは?」

「毒の鑑定料だ。ここで毒を調べてもらってアモル王国の名前が出たから、早め早めに動いて企みを潰すことができた。その礼も入ってる。大した額じゃないが、収めてくれ」

「そうでしたか。でしたら遠慮なく受け取らせていただきます」

 エルトールが頭を下げて、金貨をしまい込んだ。

「じゃあ、俺の話は以上だ。時間を取らせて済まなかったな」

「いえいえ、こちらこそお礼まで貰って却って恐縮です」

 互いに挨拶をして、俺たちが診察室を出ようとすると、エルトールが寄ってきて小声でささやいた。

「すみませんがディーゴさんだけちょっと残ってください。別件でお話があるんで」

「?」

 よく解らないまま曖昧に頷くと、ユニとヴァルツだけ診察室の外に出した。

「済まんがもうちょっと話が残ってた。ちょっと外で待っててくれ」

ユニとヴァルツにそういうと、診察室の中でエルトールに向き直る。

「で、話というのは?」

「ディーゴさん個人に指名依頼を出したいんですよ。3日後に石巨人亭で会えませんかね?」

 エルトールが声をおさえて尋ねてきた。

「まぁそれは大丈夫だが、ユニやヴァルツがいたらまずいのか?」

「ヴァルツはともかくユニさんはちょっと。内容は長くなるので、詳しい話は石巨人亭でします」

「分かった。時間は朝がいいか?」

「いえ、夕食の時分のほうが有難いですね」

「了解。じゃあその頃に顔を出すわ」

「すみませんがお願いします」

 そう言って頭を下げるエルトールに頷いて返すと、診察室を出てユニたちと合流した。

 ふむ……ここからの依頼は随分と久しぶりだが、どんな依頼になることやら。


-3-

 そして最後は冒険者ギルドの支部だ。

 セシリー達のパーティー標の星に会うのが目的だが、もしかしたらギルドの副長から話は聞いているかもしれんな。

 まぁそれならそれで手間が省けていいんだが。

 ……あっちこっちに似たような内容を説明して回ったので、いい加減説明に疲れてきてんのよ。

 でも、関わっておきながらその後の報告も説明もなしに放っておかれると、しばらく寝つきが悪くなるのは俺も同じだしな。

 支部の広間に標の星の姿が見つからなかったので受付に尋ねてみると、今日は依頼を受けて街の外に薬草の採取に出ているそうだ。

 どうやら毒の後遺症もなく本調子に戻ったようだな。

 時間的にもうそろそろ戻ってきてもいい頃だ、と聞かされたので、そのまま広間で時間を潰すことにした。

 なんとなく支部での依頼にどんなものがあるのか気になったので、依頼板の前に移動して貼ってある紙を眺める。

 護衛、採取、討伐の依頼がほとんどを占めるのは石巨人亭と同じだが、支部だとランク3とかランク2あたりのパーティーが対象の高難易度依頼もそれなりにあるようだった。

 石巨人亭じゃ、ランク3の依頼はともかくランク2の依頼なんて見たことねえもんな。

 依頼の内容も、聞いたこともない素材?の採取とか、鉱山跡に棲みついたらしい亜竜(ワーム)の討伐とか、まぁ今の俺達ではとてもじゃないが手が出せないような内容ばかりだった。


 そんな感じで時間を潰していると、標の星の面々が戻ってきたことにヴァルツが気が付いた。

「ディーゴたちじゃないか」

「よぅ、依頼ご苦労さん」

 声をかけてきたセシリーに手を挙げて返す。

「支部に来るなんて珍しいな。緑小鬼の件か?」

「そんなところだ。話は聞いたかもしれんが、一応俺たちの間でケリはついたんでな。それを伝えに来た」

「そうだったのか。わざわざ悪いな。ちょっと待っててくれ、今日の成果を報告してくる」

「おう」

 カウンターに去っていく一行を見送ると、また依頼板に目を戻す。

 支部ということで持ち込まれる依頼が多いせいか、紙の古くなっている塩漬けっぽい依頼もぽつぽつあるようだ。

 ……というかさ、2年前に出された採取依頼なんてもう剥がして捨ててもいいんじゃね?依頼を出したほうも忘れてんじゃねーの?

 しばらくして標の星の一行が戻ってきたので、酒場の方のテーブルに場所を移す。

 うん、人間ばかりの支部の中に虎が2頭もいるとさすがに目立つな。

 あちこちから視線を感じながらも酒場の円卓に腰を落ち着けると、セシリーに尋ねた。

「今日の依頼の方はどうだった?」

「ああ、なんとか目標数は集めることができた」

「別に魔物とも出くわさなかったし、遠足みたいな依頼だったわ」

「なら結構なことじゃねーか」

 セシリーの言葉を補足するアニタに笑いかけた。

「で、ディーゴたちの方はどうなったんだ?ギルドの副長からはケリがついたとは聞いたんだが」

「ああ、まぁそうなんだがな。そっちが知ってるのは、確か俺たちが衛視隊本部の協力要請を受けたところまでだったよな?」

 標の星の面々が頷いたのを見て、その後に起きた火事騒ぎとごろつきの商家襲撃を話して聞かせた。

「……という具合でな、事態はもう俺たちの手を離れたし、今回巻き込んだあちこちへの報告も終わったしで、今回の件はこれで終了だ」

「なるほど、わかった。しかし、ただの緑小鬼討伐がここまで発展するとはな……」

 セシリーがそう言ってため息をつく。他の面々も同じように頷いている。

「まぁ冒険者なんて稼業は、予定外が当たり前だからな。いい経験になったんじゃねーのか?」

「そうれはそうだけど、実際は置いてきぼりを食らった感じでちょっと悔しいってのも本音ね」

 キャロレッタがそう漏らす。

「なら腕を磨くことだ。実力がついてランクが上がれば、自然と頼られるようになる。嫌でも大事件が向こうから寄ってくるぞ」

「……それはそれでちょっと遠慮したいかも」

 アニタの呟きに一同から笑いが漏れ、毒を使う緑小鬼の事件は決着した。

―――あとがき――――――

次回更新は1月5日、朝10:00の予定です。

―――――――――――――

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[一言] 明けましておめでとうございます。今年も楽しみにしています。
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