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毒を使う緑小鬼12

―――前回までのあらすじ―――

捕らえた男からアモル王国非正規部隊による市内同時襲撃の計画が判明した。

大恩あるカワナガラス店も標的となっている可能性があると聞き、ディーゴたちは名乗りを上げる。

―――――――――――――

-1-

 カジノを出てからまた乗合馬車を捕まえて屋敷に戻り、使用人のポール、アメリー、ウィルに数日だがカワナガラス店に泊まり込む予定であることを告げる。

 理由を話そうかとも思ったが、話したところで不安を煽るだけなので用件だけにとどめておいた。

 そしてそのままカワナガラス店に向かうと、店内にいた店員にハンドサインを送っていつものように裏に回る。

 裏口の扉を叩くと、モイラが顔を出した。

「おやディーゴ様。ユニ様と虎まで引き連れてどうしたんだね?」

「うん、ちょっと用事があって来たんだ。エレクィルさんかカニャードさんはいるかな?あと職人頭のベントリーさんも」

「ああ、3人ともいるだよ。大旦那様の部屋に集めるかい?」

「頼めるかな」

「分かった。ちょっと待っててな」

 そう言い残してモイラが中に引っ込むと、しばらくしてまた顔を出した。

「大旦那様がどうぞ、ってよぅ。旦那様と職人頭さんもすぐに来るだ」

「ありがとう。すまんね」

 モイラに礼を言って、ユニと一緒にエレクィル爺さんの部屋に行く。ヴァルツは裏口で待機だ。

 訪いを告げて部屋の中に入ると、笑顔を浮かべたエレクィル爺さんとハプテス爺さんがいた。

「やぁディーゴ様とユニさんようこそ。カニャードとベントリーもすぐに来ますので、まずはおかけください」

「どうも」

「では、失礼します」

 俺とユニが椅子に腰を下ろすと、エレクィル爺さんが尋ねてきた。

「お二人で来られたとなると、お屋敷の方で何かございましたか?」

「いえ、屋敷の方は至って順調です。3人とも頑張ってくれてますよ」

「そうですか、それはようございました」

 エレクィル爺さんがそう言ったとき、カニャードとベントリーが入ってきた。

「こんにちはディーゴ様。なんでも私どもにも話があるそうで?」

「なんかまた面白いものでも思いつきましたかい?」

 カニャードとベントリーが笑顔を浮かべつつ腰を下ろす。

「……なら良かったんですけどね、残念ながら厄介ごとです」

 そう答えて軽くため息をつくと、カワナガラス店の4人が表情を改めた。

「お話を聞かせてもらえますかな?」

「はい。ちょっと長くなるのですが……」

 エレクィル爺さんの求めにそう前置きすると、緑小鬼討伐の依頼から始まっている一連の事件を話してきかせた。

「……なるほど。つまりアモル王国の非正規部隊の人間が、ごろつきを率いてウチの店を襲いに来るかもしれない、と、そういう訳ですな?」

「ええ。こちらの店が標的になっているという証拠はないのですが、可能性は高い、と冒険者ギルドや衛視隊の上の方は見ているようです。

 他にも何軒か商家の名前が挙げられて、他の冒険者や衛視たちと分担することになったのですが、こちらの名前が出たので手を挙げることにしました」

「そうでしたか。どうもありがとうございます」

 そう言ってカワナガラス店の4人が頭を下げる。

「いえ、私としても皆さんに害が及ぶのだけは絶対に避けたいと思ってますので。迷惑かもしれませんが、しばらくこちらで寝起きさせて頂ければ、と」

「迷惑だなんてとんでもない。皆さんが寝泊まりして控えていて下さるなら、心強い限りです」

 4人がそう言ってくれたので、厚意に甘えてカワナガラス店で寝泊まりすることになった。


 そして実際に襲撃があったときの対処を全員で話し合う。

 と言っても、基本は店や隣接する工房の外での迎撃になる。壊れ物ばかりの店内で乱闘するわけにもいかないし、大きな炉に火が燃え盛っている工房での戦闘も危険だ。

 なので、動きがあったらすぐに俺とイツキ、ヴァルツが外に出て店と工房の出入り口を魔法で塞ぐことにした。

 ユニは家の3階から精霊筒で狙撃しつつ俺たちの援護。

 カワナガラス店とその工房は、大通りと、大通りに並行して走る裏通りの2本の道路に挟まれた形で建っている。工房は2階建てだが店兼住居は3階建てだ。

 大通りに面した出入口は、店の玄関と工房の玄関、工房の資材搬入口の3か所。裏通りに面した出入口は店の勝手口と工房の勝手口がそれぞれ1か所ずつ。

 襲撃の際にはこの5か所を塞げば、とりあえず侵入は防ぐことができる。

 窓はこの世界ではまだ高級品のガラス窓だけど、腰高窓であまり大きくもないので割られることはあっても侵入はされにくかろう。

 それに窓は大通りに面した正面だけで、場所も玄関の隣なので気付かず侵入される恐れもない。

 客と店員と職人はその場で集まって待機。慌てて外に出ないよう店主のカニャードと職人頭のベントリーに指示してもらう。

 まぁ今回は事前に火事騒ぎが起きることが分かっているので、急に襲撃されてどたばたすることはなかろう、というのが全員の共通した考えだった。

 厄介なのは客や店員や職人の中に内通者が紛れ込んでいる場合だが、店員と職人については心配しなくていいとカワナガラス店の4人に言われた。

 店員や古株の職人たちは身元がしっかりしている人間ばかりだし、最近新たに雇った職人見習いたちはいずれも住み込みで、工房の2階で寝起きしているうえにこのところの忙しさもあって仕事の後に外に飲みに行く、と言ったこともないそうだ。

 それでも念を入れて、襲撃があったときはベントリーや信用できる古株の職人たちがそれとなく彼らを見張ることで双方合意した。

 それに出入口は魔法で塞ぐから、外からはもちろん中からも開かなくなるし。

 ただ、居合わせた客が内通者だった場合はどうしてもカニャードや店員たちの出番になるので、武器にと木製の刺又5本を魔法で作って渡しておいた。

 店員の訓練までやってる暇はないが、まぁ複数で相手をすればなんとかなるだろう。


-2-

 そしてカワナガラス店に泊まり込むこと3日目、事態は動いた。

 昼食を終えての食休み中、エレクィル爺さんとハプテス爺さんを相手に雑談がてら日本のガラス事情を思い出しつつ話していると、街のあちこちに一定間隔で設置されている連絡用の小さな鐘が打ち鳴らされる音が聞こえてきた。


カンカーン、カンカーン、カンカーン……

カンカーン、カンカーン、カンカーン……


「どうやら始まったようですな」

 エレクィル爺さんが表情を改め、外を見ながら呟く。

 2回続けて鐘を鳴らすのは火事の合図で、それを1~4回繰り返すことで火元との距離を知らせる。江戸の街にあった半鐘のようなシステムだ。

 繰り返す回数が多いほど火元が近いことになる。今回は3回なので、火元は比較的近いが即座に避難しなければならない距離でもなさそうだ。

「では俺は外に出ます。打合せ通りユニは3階へ。イツキはヴァルツと一緒に裏口に回ってくれ」

「わかりました」

「おっけー」

 二人に指示した後、意識を集中してヴァルツに裏口に回るようイメージを送る。

 了解したようなイメージが戻ってきたので、愛用の戦槌を手に店の中を通って玄関の外に出た。

 通りすがりに店内の様子を見たが、3人の店員とカニャードがそれぞれ居合わせた客に説明をしているようだった。

 見た感じ客の中に長剣などの武器を持っていそうなのはいなかったので、内通者が盛大に暴れる心配はしなくてもよさそうだと秘かに胸をなでおろす。

 店の外に出て、出入り口すべてを魔法で塞げば迎撃準備は整った。

 火事を知らせる鐘はまだ鳴り続けているが、繰り返される数は3回のままでそれから増える様子もない。

 空気は乾いているものの風はほとんど無風に近く、延焼についてはそれほど心配しなくてもいいだろう。

 今頃は駆けつけた衛視たちと消防団が犯人探しや現場の整理、消火に当たっている筈だ。

 襲ってくるとすれば裏か表か、それとも同時か……。

 そんなことを考えながら玄関横で待ち構えていると、大通りの向こうから10人くらいの集団が駆けてくるのが見えた。


「どけやオラァ!」

「とっとと失せろ!ぶっ殺すぞ!!」

 口々に叫びながら通行人を追い散らしてやってきたガラの悪い集団をみて、思わずため息が出た。

 ごろつきを集めたといっても、曲がりなりにも主導してんのは国の非正規部隊だろ?もうちっとマシな面子というか、スマートなやり方があったんじゃねぇの?

「んだこりゃあ?扉が茨で覆われてっぞ?」

「構うこたねぇ、斧持ってるやつ!茨ごと扉をぶち破れ!!」

 俺が横にいるというのにそんなことを言い出したので、ごろつきの一人に無言のまま戦槌をフルスイングで叩きつけた。

 戦槌は横にして面積の広い部分でぶん殴ったので、致命傷にはなってない……筈。手応えからして背骨か腰骨くらいは折れたか砕けたかしたけど。

 戦槌で殴られたごろつきがヘンな体勢で2人ほど巻き添えに吹っ飛んだことで、ようやく集団も俺に気付いたらしい。

 ひときわ体格のでかいのが俺を指さして叫ぶ。

「てっ、テメェなにしやゴブヒャ」

 台詞の途中でユニが撃った精霊筒の礫が、容赦なくでかいのを黙らせた。

「「バンテルさん!!」」

 ごろつきたちが一斉に声を上げる。その瞬間にもユニの精霊筒が一人また一人とごろつきを沈めていく。

 全く空気を読まないユニの援護攻撃がちょっと頼もしい。

 初めのうちは、上から目線と気のきいた台詞で、挑発の一つもしてやろうかと思っていたが、ユニのせいで気が変わった。

 こんな奴らと問答するのも面倒臭ぇ、と、俺も無言のまま戦槌を振り回してごろつきどもに襲い掛かった。

 結果、ユニが6人を仕留め、俺が5人を倒して襲撃者は一掃された。

 この騒ぎを聞いてイツキとヴァルツが裏から駆けつけてきたが、その時にはすべて倒し終わったあとだった。雑魚過ぎるぞこいつら。

 ともあれ、血みどろの11人を大通りに転がしておくわけにもいかないので、何度も往復して全員を裏庭というか中庭に運び込む。

 うん、俺の方は(少しだけ)手加減したんだけど、ユニの精霊筒は手加減ができんからね。

 しかも3階から撃ち下ろしたから、どうしても命中箇所が頭に偏って、弾けたというか割れた柘榴をイメージしてもらえればなんとなくわかると思う。

 11人を運び込んだ頃には、イツキが魔法の壁を解除した裏口からユニも姿を見せていた。

「おう来たな。じゃあこの死んでる3人の魂、ちゃっちゃと回収しとけ」

 3人の死体を見て青い顔をしているユニに指示する。まぁ緑小鬼の経験はあっても人間となるとまた違うからな。死体を見て戻さないだけ上等だ。

 それに今回は6人も倒している。俺としてはよくやったと手放しで褒めてやりたい気分だ。

「え、でも……」

「なんだ、死んでちゃいかんのか?」

 躊躇するユニに尋ねる。実際、俺も魂をどうやって回収するのか知らんし。

「いえ、死んでても時間が経ってないなら回収できますけど、いいんですか?」

「構わんよ。そのためにお前さんを加えたんだからな」

「……わかりました。じゃあ、魂を回収します」

 ユニがそう言って死体の一つの胸に両手を乗せると、少しして死体から白い靄というか霧のようなものが浮かび上がった。

 ユニは浮かび上がった白いものを両手ですくうように集めると、そのまま両手で包み込み玉のようにして自分の胸に吸い込ませた。

「これで回収できました」

「ふむ、そうやって回収するのか。初めて見たわ。んじゃ、残り2人もやっちまってくれ」

「はい」

 ユニが頷いて2人目に取り掛かる間に、俺は生き残りの1人の傍に腰を下ろした。こいつは俺が戦槌でぶん殴った奴なので、骨は砕けてるだろうし呼吸も浅く早くなっているが、まだ息はある。

 こいつには聞きたいというか、確認したいことがあるんだよね。

「襲撃の面子は11人で全員か?」

「うる……せぇ……!誰が、てめぇげああああ!」

 生き残りが変な声をあげたのは、俺が生き残りの指をつまんで折ったせいだ。大恩あるカワナガラス店を襲ったんだ、死にさえしなけりゃ遠慮はしねーよ。

 ポキ、ポキ、ポキ、ポキ……と、5本の指を折ったところでもう一度尋ねた。

「襲撃の面子は11人で全員か?」

 5本の指をそれぞれありえない方向に曲げた上で全く同じ言葉を繰り返すと、生き残りは涙を流しながらがくがくと頷いた。

 ふむ、それならもう表の扉を塞いでる壁は解除してもよさそうだな。

「んじゃ、表の壁を解除してくるわ」

 イツキとユニとヴァルツにそう言い残して表に回ると、3ヶ所の壁を解除して店の中を覗き込んだ。

 中にいた面々が不安そうにこちらを見てくる。

「お騒がせしました。外の方は無事に片付きましたんで。あ、店員さん2人借りていいですか?」

 俺の言葉にホッとした表情を浮かべたカニャードが、店員2人を俺に寄越した。

「(小声で)井戸からバケツで水汲んできてくれんかな?あとブラシも。外が血で汚れてんだ」

 寄ってきた店員2人に頼むと、2人は頷いて奥へと消えていった。

「お客さんがたはすみませんが、もうちょっと待っててください。外を片付けますので。すぐ済みますから」

 愛想笑いを浮かべて頭を下げると、中にいた客たちも表情を和らげて頷いた。


 その後、店員2人と急いで大通りの血を洗い流して店の方は通常営業に戻ってもらった。

 現場検証?やらんでしょ、多分。予想されてた襲撃を指示に従って撃退しただけだし。まぁ言われたら謝っとくわ。

 併せて工房にも顔を出して、襲撃を撃退したことを伝えておいた。こっちも通常業務に戻るだろう。

 後は衛視隊に連絡して死人と怪我人を引き取って貰って、冒険者ギルドに報告して、こっちにもう一度顔を出せば一段落かね。

 火事の規模がどうだったかは知らんけど、今は鐘の音も止んでるところを見るともう鎮火したと思って間違いはないな。


 ふー、おかしいな。初めはユニの練習を兼ねた、ただの緑小鬼討伐の依頼だったんだけどな?

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