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毒を使う緑小鬼11

―――前回までのあらすじ―――

現時点で報告するところは報告した。

だが早速冒険者ギルドから呼び出しがかかる。どうやら動きがあったようだ。

―――――――――――――

-1-

「5級冒険者のディーゴだ。招集を聞いて来た」

 冒険者ギルド支部に到着し、受付に声をかける。

「お疲れ様です。代表者の方だけ2番の会議室にどうぞ」

「わかった。ユニとヴァルツはここで待機な。依頼板でも見ながら時間を潰しててくれ」

 一人と一頭にそう言い残すと、案内板を見ながら2番の会議室に向かった。

コンコン

「ディーゴ、来ました」

「入ってくれ」

 中から許可が出たので、扉を開けて中に入る。

 会議室の中には8人の男女が既に待っていた。

 一人はさっき別れた風の牙のゴーフェル、もう一人は冒険者ギルドの副長。隣にいるのはギルド長か?

 後は衛視隊関係者と思われるのが一人と、騎士団関係と思われるのが一人。

 残りの4人は冒険者か。人間で、俺が知らない顔となるとこの支部で活動している冒険者たちだな。

「遅くなったようですいません」

 軽く頭を下げつつ、席につく。

 俺が席についたのを見計らって、ギルド長らしき人物が口を開いた。

「急な招集に集まってくれて感謝する。アモル王国の非正規部隊の連中が、この街で騒動を起こす計画が今朝方に判明した。

 ついてはそれを未然に防ぎ、被害を最小限に抑えるために集まってもらった。これはディーセンの行政府からの正式な協力要請であり、騎士団副団長のビステル氏と衛視隊長官のスーマ氏も同席している」

 その言葉に、それぞれビステル副団長とスーマ長官らしき人物が頷いてみせた。

「ではスーマ長官、早速ですが判明した計画の説明をお願いします」

「うむ」

 スーマ長官が頷いて話しだした計画は


1、街からある程度離れたところにある村を、手懐けた緑小鬼どもに大々的に襲わせて騎士団と常駐の兵士を街の外におびき出す

2、騎士団と兵士が外に出て緑小鬼どもを捜索している最中に、街に潜むアモル王国の非正規部隊の連中が火事騒ぎを起こし、衛視たちの目を引き付ける

3、騎士団と兵士が外出し、衛視たちの目が火事騒ぎに集中している隙を見計らって、裕福な商家と水飴製造所に襲撃をかけて金品を奪い技術者を連れ去る

4、潜入している非正規部隊の総数は不明。だが、金で雇ったごろつきも計画に加えるらしい

5、襲撃の標的となっている商家は判明していない。また、街の中にあると思われる非正規部隊の拠点も判明していない


 といった内容だった。

「……だが、村を襲撃する予定だった緑小鬼どもについては考えなくていい。そいつらはそこの虎男のディーゴ殿たちが片付けてくれた。今回の計画が発覚したのも、彼らが緑小鬼どもと同行していた男を生かしたまま捕らえて衛視に引き渡してくれたおかげだ」

 スーマ長官がそう言ったおかげで、一同の俺を見る目が、感心したような驚いたような、そんな感じで少しばかり良くなった気がする。

「では今後の我々の動きを説明する。計画は判明したものの、非正規部隊の拠点が掴めていないことから罠を張ることにした」

 スーマ長官の次に口を開いたのは、ビステル副団長だ。


1、基本は通常運行を装うが、衛視と兵士は非番の者も招集し、私服で街中を警戒させる

2、村が大規模な襲撃に遭ったと噂を流しつつ、一部の騎士と兵士たちを慌ただしく門から出陣させる

3、出陣させた部隊は街の外で隠れて展開し、外からくると思われる非正規部隊の協力者を捕縛殲滅する

4、あえて火事騒ぎを起こさせるが、通常は避難のために開け放つ門を今回はすべて閉じて、人の出入りを止める

5、冒険者はリストに挙げた商家を襲撃から守ることに専念する


 上記の内容をビステル副団長が説明する。

 ふむ、相手にコトを起こさせて水際で防ぐ作戦か。まぁ拠点が分からん以上はそうするしかないか。

 門を閉じるのは非正規部隊やごろつきたちの逃亡を防ぐためだな。

 しかし守るべき商家がどのくらいあるのか……。

 そんなことを考えていると、後ろの黒板に副ギルド長が水飴製造所と商家の名前を書きだした。

「これが、襲撃が予想される商家の一覧だ。平たく言えば、景気が良くて金をもってそうな所の一覧だな。誰がどこを守るかはこれから話し合って決めるが、水飴製造所だけは騎士殿たちと一緒に3級冒険者のウィリオンたちが入ってくれ。ここは襲撃がほぼ確実な上に、一人たりとも技術者を連れ去られるわけにはいかん、もっとも重要な場所だ」

「分かった」

 ウィリオンと呼ばれた男性が頷いた。

「後はそれぞれが自由に決めていい。守るべき商家の数の方が多いが、足りないところは衛視と兵士を派遣させる」

 言われて黒板を見ると、書かれた商家は7軒あった。でも冒険者チームは俺含めて4組しか残ってないのよね。

 さてどこを担当すべぇか……と、名前を見てみたら、なんてこったカワナガラス店とカジノの本店セオドリク商会が書いてあるやん。

 こりゃ手を挙げるしかないわな。

「いきなりで悪いんですが、カワナガラス店は俺たちに担当させてもらえませんか?そこは色々と世話になってて、家族同然の付き合いのあるところなんで」

 セオドリク商会も心配っちゃ心配だが、あっちは剣闘士の娘さんたちの他に教官とブルさんも動員できるしな。俺達が行かなくても戦力的に問題はあるまい。

 むしろ俺たちが押しかけて、うっかり活躍して出番とか奪っちまったら、しばらく恨まれる。

 それに優先の度合いで見たら圧倒的にカワナガラス店の方が上だ。

「わかった。ディーゴたちはカワナガラス店だな。他の者で希望するところはあるか?」

 ギルド副長の言葉に他の冒険者からも希望が出て、あっという間に7軒中の4軒が決まった。

「ふむ、決まったのは以上だな。残りの3軒は衛視と兵士でカバーしよう」

「あー、ちっといいですか?」

 話を締めようとしたギルド副長を、手を挙げて制する。

「なんだ?」

「セオドリク商会ですけど、あそこにはあまり大人数は送らなくてもいいと思いますよ?腕利きを10人くらい抱えてますから」

「そうなのか?……ああ、言われてみりゃその通りだな」

 そう言ってギルド副長がニヤッと笑った。ま、ギルド副長くらいなら会員制カジノの剣闘士たちのことは知ってるよね。客として来たのは見たことないけど。

 セオドリク商会はむしろ手薄にして襲ってもらった方が、剣闘士の娘さんたち的に良さそうな気がするんだよな。

 王者のタリアとか喧嘩娘のクレアとか超筋肉のボニーとか、好戦的な面々にとってはたまらないシチュエーションだろうし。

「ならセオドリク商会に送る人数を減らして、他に振り分けるか」


 そんな感じで話し合いはさくさくと進み、細かいことを詰めたにもかかわらず思っていたより短時間で終了した。

「あの、ちょっと質問なんですが、なんでこの時期にアモル王国は手を出してきたんでしょうか?」

話が一段落したところで、冒険者の一人が誰にという訳でもなく声をあげた。

「ふむ……首謀者ではないから正確な所は分からんが、捕らえた男の自供からある程度予想はつく。まぁ一言で言えば、嫉妬と危機感だろうな」

 冒険者の問いにビステル副団長が答えた。

「隣のアモル王国とは商人が普通に行き来しているが、だからと言って特別に友好的というわけでもない。

 そしてこの街は現在、右肩上がりの好景気だ。隣としてはそれが面白くないのだろう。景気がよければ税収が増え、税収が増えれば軍備に回す予算も増える。そして予算が増えれば軍備は強化される。……それを隣がどう思うかは説明せんでもわかるだろう」

 ビステル副団長の説明に冒険者全員が頷いた。

「それと、アモル王国は『特徴がないのが特徴の国』と言われているだけあって、これと言った特産品がない。

 それ故にこの街で作られ景気をけん引している水飴、その製法が欲しいのだろう。これが自分の所でも作れるようになれば、生み出される利益はウチを見れば明らかだ。

 しかし水飴の製法は超のつく機密事項だ。頼んで教えてもらえる見込みがないなら盗んでしまえと考えるのは想像に難くない」

 ……えっと、それってつまり俺の思い付きが発端というか切っ掛けだったりする?

 ビステル副団長の説明に内心で冷や汗が流れる。そこまで影響が広がってるとはちょっと考えてなかったよ。

「他に何か質問はあるか?」

 そんな俺の心配をよそにビステル副団長が皆に尋ねる。誰からも手が上がらないのを見て、ビステル副団長は大きく息を吸い込んだ。

「では、各人の奮闘を期待する。いわれなき手出しをしてきた連中を許すつもりはない。存分に痛い目に遭わせてやれ!」

「「「応!!」」」

 ビステル副団長が力強く宣言して、会議は解散となった。


「お疲れ様ですディーゴ様。お話はどうなりましたか?」

 会議室を出た俺たちに、ユニが待ちかねたように話しかけてきた。

「アモル王国の非正規部隊が黒幕で、街に混乱を起こした隙に主だった商家を同時に襲う計画らしい。俺たちはカワナガラス店を守ることになった」

「あのお店も襲われる対象なんですか?」

「どの店が襲われるかははっきりせんが、景気が良くて金を持ってそうな所の一つにあの店が挙がった。他にもそういった商家はあるが、そっちは他の冒険者たちや衛視や兵士が担当する」

「分かりました。お世話になってる皆さんに被害が出ないよう頑張ります。これから向かうのですか?」

「その前にちょっと寄り道だ」

 ギルド支部の外に出て流しの馬車を拾うと、倉庫街にある会員制カジノに向かった。


-2-

 入口の所で、大興行の日当を貰いにきたついでにトバイ氏と話がしたい、と言づけたら会ってもらえることになった。

「おうディーゴ。大興行の時はご苦労さん。これが日当な」

 そう言ってトバイ氏が差し出してきた金貨を数えながら受け取った。でも今日の本題は別なんだよね。

「で、なんか話があるようなことを聞いたが?」

「まぁ話というか根回しみたいなもんで、じきに本店から話が来ると思うんですが……」

 そう前置きして、ギルド支部で決めたことをざっくりと話して聞かせた。

「なるほどね。そんなキナ臭ぇことになってんのか。話は分かった。いつでも剣闘士たちを派遣できるよう準備しておこう」

「よろしくお願いします」

「ちなみにお前たちはウチには来ないのか?」

「いやぁ、教官とブルさん含めて腕利きが10人以上もいるのに、俺らが加わったところで戦力過剰でしょ?それに、変に出しゃばってうっかりタリアとかの出番を奪いでもしたら、それこそ後が怖いんで」

「あっははは、そりゃ確かにそうかもな」

 トバイ氏の質問に肩をすくめながら答えると、トバイ氏は納得したように笑った。

「今回はもっと手薄で狙われそうな所があるので、そっちに回ります」

「わかった。剣闘士たちにはそう言っとくよ。ところで……」

 トバイ氏はそこで言葉を切ると、俺の隣で座っているヴァルツに目をやった。

「初めて見るが、その虎はお前さんの使い魔か?」

「ええそうです。ヴァルツって呼んでます」

 そういやトバイ氏にはまだ見せてなかったっけ。

「そうか。一つ提案なんだがそいつを試合に……」

「遠慮させていただきます。こいつまで引きずり込まんでください」

「ダメか。猛獣と女剣闘士の対決ってのも盛り上がりそうな気がするんだがな」

 トバイ氏が残念そうにため息をつく。まったく、試合が盛り上がるならなんでもありだなこの人は。というか猛獣なら俺やブルさんで我慢してくれよ。

「コイツが本気で戦ったら、娘さんたちの肌が傷だらけの血塗れになりますぜ?爪とか牙は刃引きできないんですから」

 そもそも刃引きの武器を使って流血試合をしないのがここのウリじゃなかったっけ?

 だからと言って爪を出さない肉球虎パンチでは、ヴァルツに勝ち目はないし。

「……まぁそうかもしれんが、タリアあたりなら喜んで試合させろと言ってきそうな気がするんだよな」

「その辺は寮で既に手合わせを済ませてます。前に連れて行く機会があったので」

「なんだそうだったのか」

 引きずり込む理由を潰されたトバイ氏が、名残惜しそうにヴァルツを見る。まぁ漆黒の虎ということで迫力もあるし、いいもん食って手入れもされてるから毛並もつやつやだし、体格的にも見栄えがいいから試合に出せば映えそうなのは俺もよく解る。

 古代ローマの剣闘試合でも猛獣と剣闘士の試合があったというし、実際に出せば盛り上がると思う。

 でも身内を差し出してやるほどの義理はねーよ。

「まぁ気が変わったらいつでも言ってくれ。で、話は以上か?」

「そうですね。今回はそれだけです」

「わかった。わざわざご苦労だったな。本店の方でも倉庫警備とかで護衛は雇っているが、話が来ないようならこっちから打診してみよう」

「その辺りはお任せします。じゃ、俺はこれで」

「おう。次の試合はまだ決まってないが、近くなったら使いを出す。でもまぁ今月は試合はなしと思っていいぞ」

 トバイ氏の言葉に頷いて、会員制カジノを後にした。


 んじゃ、次は屋敷経由でカワナガラス店だね。


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― 新着の感想 ―
[一言] 隣国はめんどくさい奴らだな(汗)
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