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新たな拠点

-1-

 森の迷宮を後にしてから2か月余りが経過した。

 あれから西へ東へとふらふらしつつ南下を続け、今は火山のふもとの森で露天風呂に浸かっている。

 距離的にどれほど移動したのかは不明だが、南に下るにつれ気温も上がってきて雪の心配はなさそうだと判断したからだ。

 レイシーンたちと別れる際に簡単な共通語を教えてもらっていたので、それを頼りに人里への接触を試みたのだが、やはりというかことごとく全敗に終わった。

 石を投げられ、矢を射かけられ、火縄の匂いを感じて慌てて逃げ出したことは数知れず。

 この世界は俺のようなケモケモした種族には相当に優しくない世界らしい。

 なんだよ頭に猫耳やら犬耳やらくっついた獣人ぽい市民だっていたろうによー。

 ケモレベル1~2が普通にいるなら、3~4がいてもいいじゃんかよー。

 差別に対する謝罪と賠償を要求しちゃうぞちくしょうめ……って畜生は俺か。

 人間辞めててすいません。

 笑えない冗談は脇に置いといて、これまでの経験でようやく悟った。

 初対面の村や街にいきなり世話になろうとするのは相当難しい、と。

 それにどうもこの身体の持ち主(種族)は、相当に人間に恐れられているっぽい。

 この世界は、ゲームやファンタジー小説でよくある魔物や獣人が闊歩する世界だが、レイシーンが教えてくれたようにやはり俺は魔物扱いなのだと改めて思い知らされた2ヶ月だった。

 以前はどこかで問題なく受け入れてもらえるかも、と、少しばかり楽観視していたが、魔物や野盗から助けた相手に土下座されて命乞いをされては考えも変わるというもの。

 ここは腰をすえて実績を積み、「人間に無害な魔物」と分かってもらうことから始めようと考えたわけだ。

 「ピキー!ボク悪いスライムじゃないよ」作戦とでも名づけたものか。

 アレみたく可愛くはないけどな。


 ……で、なぜ露天風呂かというと、ここの近くに湯治場らしい集落があったのでイツキに頼んで周囲を探ってみたら自噴している温泉を見つけたからだ。

 早速魔法で浴槽を作って、近場の川から水も引いてきてちょうどいい湯加減に塩梅した後、久しぶりにどっぷりと肩まで浸かっている次第というわけだ。

 あー久しぶりの風呂は癒される。

 対面ではイツキも気持ちよさそうに湯に浸かっている。

 半透明なのにぷかぷか湯に浮いてるというのはなぜだ。

 あえて何が、とは言わないが。

 植物に温泉はいいのかと訊いたところ、精霊と植物は違うわよと何言ってんだコイツ的な目で見られた。

 ちなみにあまりに久しぶりなもんで、いつの間にか毛皮に入り込んでた小さな虫が結構な数浮いてきたのには少し凹んだが、逆を言えばそれだけさっぱりしたということだ。

 浮いてきたゴミや虫たちを押し流しつつ、これからのことを考える。

 前の洞窟からおよそ4ヶ月、そろそろ新しい拠点を作るのもいいかもしれない。

 旅暮らしも飽きたし。


 というわけで、ここが拠点にふさわしいかのチェック開始。

1、近くの集落までは徒歩でおよそ5時間。虎男の足で急いで走って1時間ちょい。ちと集落に近い気がしないでもないが、まぁこの距離なら猟師と山菜採りくらいしか迷い込んでくることはあるめぇと判断。

2、治安は……火山に火竜はいなかった。イツキにじっくりと探ってもらったが、ゴブリンとかの集落も発見できず。

3、日当たりはあまりよくないが、薪で木を切り倒す予定なので問題なし。

4、水場は近場に川がある。集落の上流なので水質的にも問題はない……筈。

5、食料は……何とも言えんが落葉樹林なので針葉樹林よりかは獲物は多いはず。ちなみに鳥は多い模様。

6、間取り……は自分で作るので問題ないな。

 まぁなんとかなるだろう。

 だってここには温泉があるしな!!


-2-

 さて、温泉に浸かってさっぱりした後は拠点となるねぐら作りだ。

 前回のねぐらは洞窟だったが、今回は近くに都合のいい洞窟がない。つーわけでイチから作ることになる。

 そこで取り出だしましたるは土の精霊石。これさえあれば土建築はお手の物だぜフゥーハハハァー。

 間取りは……広めの1ルームでいいや。基本的に寝るだけだし、誰かが訪ねてくるわけでもなし。

 部屋の真ん中に囲炉裏切って、収納棚を作りつけて、密閉式の食料庫作って、屋根は……草葺きでいいか。

 と、1時間とかけずに無事にねぐらが完成した。

 草葺のシェルターというのも考えたが、あれは数日おきに魔法をかけなおす必要があるので、一度建てたらあとは手間いらずの土建築になったわけだ。

 シェルターだと中で火も焚けないしね。

 水は温泉近くの川から、魔法で土を固めた石製の樋で引き込んだ。

 魔法で井戸を掘ってもよかったんだが、いちいち汲み上げるのも面倒くさいなと思い水道管方式にした。


 ねぐらの周りのことが片付いたら、周囲の探索を開始する。

 動物や魔物はイツキの索敵で場所が分かるが、山菜などは自分で探さないと分からないし、それ以外にも自分の目で確かめておきたいことは多い。

 ……ほら、こんな近場にユリが群生してる。さっそく根元を掘ってユリ根を集める。

 何せある程度食料に余裕がないと、何をするにも始まらないからだ。

 特に燃費の悪いこの虎男の体では。

 ……しかしついユリ根なんぞ掘り集めてはみたものの、どうやって食うんだろう。

 ユリ根なんて高級食材、食ったことなんてないよ。

 茶碗蒸しに入れると美味いらしいけど、茶椀蒸しなんて作れんしな。

 とりあえず焼いてみたら、芋みたいなほくほくした食感がなかなかイケた。

 んん、久しぶりのデンプンうめぇ。さすが高級食材。

 しかし調味料が欲しいな。最後まで残っていた塩は2ヶ月くらい前に使い果たしたので、今は水煮か素焼きで食事をしている。

 どこかに塩の採れる場所があればいいんだが。

 ここはひとつ落ち着いて、優先順位を書き出してみるか。


住居の確保・・・これは済んだ

住環境の改善・・・これもできるところはやった

食料の確保・備蓄・・・優先度高

調味料(塩)の確保・・・優先度中~低

薪の確保・・・優先度高

見回りルートの確立・・・優先度低

通行人の救助・・・優先度低

ボロくなってきた衣服の新調・・・優先度低というかたぶん無理

同じくボロくなってきたサンダルの新調・・・優先度中


 ふむ、ざっと思いつくとこんな感じだが、まずは食糧の備蓄と薪の確保が最優先と判明した。ま、当たり前だな。

 明日からしばらくは1日おきに猟と樵生活か。

 本当言えば、薪は2年くらい乾燥させた方がいいんだが贅沢は言っていられめぇ。

 煙いのを我慢すればいいだけだ。

 食料の備蓄がそれなりにできたら、塩の探索。合間を縫って見回りルートの確立と衣服&サンダルの新調だな。

 心情的にはとっとと見回りルートを確立させて通行人の救助に回りたいところだが、衣食住の3原則から外れる仕事だからな、まぁ止むを得まい。

 正直に言うと塩の確保も優先度を上げたいんだが、生肉食ってればとりあえずの塩分は取れそうだし。


-3-

 寝床もできたことで本日は食糧探し。

 イツキの力で柔らかい草を集めて乾燥させて寝床にしてるけど、毛皮が欲しいです。掛布団的な。

 あと生肉が食いたいです。

 備蓄の関係から食事量を抑えているので、結構腹が減ってる。ユリ根があるので最悪の餓死だけは避けられそうだが保存のききそうなユリ根は極力大事にとっておきたい。

 てなわけで、イツキレーダー、出番です。

〈はいはい。……って、結構近くに緑の小鬼がいるわよ〉

《みどりのこおに?魔物か?》

〈そうね。どうする?〉

《魔物だったら倒しておくか。案内頼む》

〈わかったわ。こっちよ〉

 イツキに案内されて向かうと、そこには文字通り緑色をした醜悪な面相の小人が7匹いた。

 ゲキャゲキャと騒ぎながら風上へと移動している。

《ゴブリンてやつだな。いわゆる雑魚だが、7匹いるのはちょっと面倒だな》

〈放っておく?〉

《いや、あの方角には街道がある。・・・仕方ねぇ、片づけるぞ》

 一つ息をつくと風下に回り込み、徐々に距離を詰める。

 ゴブリンたちは追跡者に気づかず、呑気にゲキャゲキャ騒いでいる。

 100m……50m……40……30……20……

《今だ!》

 7匹のゴブリンに向けて、イツキの魔法の小枝の矢が降り注ぎ、俺の魔法の石礫が襲い掛かる。

「ゲギャ!ギャ!!」

 イツキの矢でハリネズミのようになって倒れるのが2匹、俺の石礫で倒れたのが2匹。

 残りは3匹。だが、どれも傷を負っている。

「ガァァアウ!!」

 止めをさすため、槌鉾を構えて雄たけびを上げる。

 こちらに気付いたゴブリンが警告の声を発するより前に、ゴブリンたちに襲いかかった。

 一匹目の脳天に槌鉾を振り下ろす。前を向いたままのゴブリンの頭が爆ぜてくずおれる。

 血振りをすることもなく踏み込み、2匹目に向けて横なぎに薙ぎ払う。

 胴にまともに食らった2匹目が血反吐を吐きながら吹っ飛ぶ。

 慌てて最後の一匹のゴブリンが体勢を整えようとするが、遅すぎる。

 槌鉾を握ったまま裏拳を叩き込むと、虎男の力が強いのかゴブリンの骨が弱いのか、顔を半分に潰されて吹っ飛んでいった。

「ふぅーっ」

 戦い済んで大きく息を吐く。むしろ一方的な蹂躙に近いが何はともあれ決着がついた。

〈片付いたみたいね〉

《まぁな》

〈ちょっとやりすぎたかしら?〉

《いや、こんなもんだろ》

 槌鉾に血振りをくれると腰に戻す。ついでに手についた返り血も近くの葉っぱで拭きとる。

 俺が人間だったら、討伐部位とかを切り取って少しは金になるんだろうが、絶賛サバイバル中の虎男の身じゃーな。

 しかたなく死体を漁ってみるがめぼしい物はなし。強いて言うなら、棍棒が薪の代わりになるくらいか。

 魔法で穴を掘り、ゴブリン7匹を放り込んで埋め戻す。

 何とはなしに手を合わせて、その場を後にした。


〈どうする? 次の獲物でも探す?〉

《いや、今日はもういいや。血の匂いで獣も逃げっちまうだろう。風呂入って干し肉食って寝る》

 こうして、新拠点での生活が始まった。

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