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毒を使う緑小鬼7

―――前回までのあらすじ―――

森に入り込んだ村人10人は、犠牲者を出す前に村に帰すことができた。

だがお陰で大幅に予定が狂い、緑小鬼の群れに3人と1頭だけで強襲をかける羽目になった。

―――――――――――――

-1-

 驚いたことに、拠点前での人間二人と緑小鬼将軍の酒盛りはまだ続いていた。

 なんていうかこう、あまりにも警戒感なさすぎじゃね?

 しかも鎧を着てる方は潰れたらしく寝てるし。

 その周りを給仕役らしい緑小鬼が4匹うろちょろしているが、見た感じ武器は持ってなさそうなので、脅威にはなるまい。

 緑小鬼の群れの大半が廃鉱の中に籠っているうえ、強敵っぽいのも酒が入っている。今以上の好機は訪れないだろう。

(んじゃ、作戦を説明するぞ)

 拠点が見える物陰に隠れながら、車座になって話を始める。

(まず、イツキが寝ている男を蔓草で拘束。その後すぐに起きている方の男の相手を頼む。できれば殺さず無力化したいが、難しそうなら殺しても構わん)

(了解)

(同時に俺が廃鉱の入り口を魔法で塞いで、緑小鬼将軍に行く。ヴァルツは俺と一緒に緑小鬼将軍の相手をしてくれ)

「がる」

(ユニは雑魚の緑小鬼4匹の相手を頼む。陰から落ち着いて狙えば大丈夫なはずだ。気づかれたらヴァルツをフォローに向かわせる)

(はい)

(状況が変わればその都度指示する。んじゃ、行くぞ)

 3……2……1……とタイミングを合わせて、俺とイツキの魔法が同時に発動した。

 廃鉱の入り口が石壁によって完全に塞がれ、寝ていた男が蔓草で地面に縫い付けられる。

 俺、イツキ、ヴァルツが飛び出すと同時に、ユニの射撃で緑小鬼の1匹が倒れた。

「なんだ貴様らはぁ!」

 酒器を投げ捨てた男と緑小鬼将軍が立ち上がり、戦斧を手にした緑小鬼将軍だけがこちらに向かってきた。反応速いな。

「ゴァァアアア!」

 雄叫びを上げる緑小鬼将軍と、俺たちの虎コンビが接敵する。

 振り下ろされる戦斧を戦槌で弾き返した隙に、ヴァルツが相手のふくらはぎに爪で一撃を入れる。

 幸いにして戦斧に毒は塗られていないようだし、力も俺の方が上っぽい。想像してたより大したことない?

 こりゃ一人でも平気かな、と、ちらりともう一人のイツキの相手を見ると、何やら詠唱している?あいつ魔法使いか!?

「全員、男を最優先で潰せ!!」

 離れているユニにも聞こえるように、大声で変更指示を出す。

 だがその直後、男の魔法が完成した。

 洞窟を塞いでいた石壁が、一瞬光って消滅する。あいつ、俺の魔法を打ち消しやがった。魔法の腕は俺より上か?

 状況を追えたのはそこまでだった。とにかく今は目の前の緑小鬼将軍を速攻で倒すしかない。

 俺には及ばないものの、無視できるほどの弱さでもないしな。

 幾度か武器を打ち合わせつつ、タイミングを見計らって振り回される戦斧を真っ向から受け止めると、戦槌を捻って絡ませる。

 戦槌を手前に引いて相手の体勢が崩れたところに蹴りを入れて、戦斧を強引にもぎ飛ばした。

 後は無手になった緑小鬼将軍に、3度4度と力任せに戦槌を叩きつけると勝負はついた。

 それで戦況はどうなった、と魔法使いの男を見ると、イツキ、ヴァルツ、ユニの集中攻撃で、立ってはいたが大分やられているようだった。

 あれなら時間の問題か。じゃあ入口の方はどうだ、と見て眉をひそめる。

 襲撃に気付いたらしい緑小鬼が、武器をもってばらばらと姿を現し始めていた。

 こうなると魔法を使って壁で入り口を塞ぐことはもうできない。

 さてどうするか……と少し悩んだところで、ちょうどいいものを持っていたのを思い出した。

 蜥蜴人から貰った宝、麻痺毒を吹き付ける骸竜の牙笛だ。こんな早くに出番があるとは。

 無限袋から牙笛を取り出し、大きく息を吸い込むと向かってきた緑小鬼たちに向けて吹きつけた。

 シューッともフーッとも言える音とともに赤黒い霧が牙笛からブレスのように吹き出し、緑小鬼たちを包む。

「グギャ?」

「ガ……」

 霧に包まれた緑小鬼たちは、胸をおさえてバタバタと倒れていった。……すげぇなこの牙笛。使い減りしないというなら強力すぎるぞ。

 その後は2回ほど、出てきた緑小鬼に麻痺毒の霧を吹きつけたところ新手の出現はなくなった。

 倒し切ったか警戒されたか。ま、トドメ刺しながら数えて判断するか。

 その頃にはイツキたちの戦闘も終わってこちらに集まってきたのだが……

「ごめん。逃げられたわ」

「がるっ」

「すみません……」

 それぞれが頭を下げた。

「3人を相手にしてまだそんな余力が残ってたのか?だとするとかなりの手練れだな」

「いえ、そうじゃないんです」

 俺の呟きをユニが否定してきた。ん、手練れじゃないのか?

「巻物を使われたのよ」

「……巻物か、それじゃしょうがねぇな。乱転移の巻物なら持ってたとしても不思議はねーか」

 イツキの補足に納得した。


 ここでちょっと説明をする。

 この世界、一瞬で離れたところに移動する瞬間移動の魔法が存在し、一般的に転移魔法と呼ばれている。

 ただし、街から街を繋ぐような長距離の転移魔法は大変高度な上消費する魔力も莫大で、有事の際に熟練の魔法使いが数を揃え、儀式を行って発動させるのが一般的だ。

 その代わり、移動する距離が短ければ短いほど難易度も下がり消費魔力も少なくなる。

 更に転移先を指定しない「乱転移」であれば、さらに難易度と消費魔力は下がる。

 100トエム(100m)以内の乱転移の魔法であれば、中級の魔法使いなら普通に覚えていて使えるし、携帯や装備が可能な魔導具に封じられたものが見つかることも多い。

 そして魔導具の一種である巻物は、ある程度の魔法を1回限りで発動できる魔導具の一種であり、幾つかの種類の巻物は魔術師ギルドや魔導具を扱う店などで作られ売られている。

 もっとも初歩的な礫魔法が封じられた巻物でも金貨相当の値段なので、気軽に多用はできないが、いざというときのお守り代わりに持っている冒険者は多い。

 特に短距離の乱転移の魔法が封じられた巻物は、戦闘からの緊急離脱用として中堅クラス以上の冒険者には結構な人気商品だ。

 ただし、乱転移の場合は転移先は運任せなので、発動させたもののすぐ目の前に転移して終わるという、という悲劇(喜劇)も十分にありうるが。


 話を戻そう。

 ……どうやらあの魔法使いも、お守りとして持っていた短距離の乱転移の巻物を使ったのだろう。

 逃げられたのは痛いが、革鎧の男の方は確保できているので致命的というほどでもないか。

 とにかくこいつは早急にディーセンに連れ帰って、事情を吐かせる必要があるな。

 やっと目が覚めたのか、拘束されたまま口汚く罵りの声を上げている男に歩み寄ると、その口にぼろ布を突っ込み猿轡を噛ませて黙らせた。

 うるさいうえに舌を噛まれると捕らえた意味がなくなるし。

 そのうえでイツキに更に厳重に蔓草で拘束してもらい、麻痺させた緑小鬼の群れの始末に取り掛かった。

 重なり合って倒れている緑小鬼を引きずって移動させてひっくり返したうえで、喉に戦槌の穂先を刺してトドメを刺していく。

 ユニにこの作業をさせるのはまだ早いし、ヴァルツは数が数えられんし、イツキだと魔法を使うことになるしで、結局全部俺が止めを刺すことになった。

 トドメを刺した数は雑魚も隊長も全部ひっくるめて39匹。拠点にいるのは50匹程度と予想してたので、10匹ちょっと足りない計算になる。

「ん?そう言えば酒盛りの給仕役だった緑小鬼が4匹いたな、あれはどうなった?」

 思い出したことをユニに尋ねる。

「2匹は倒しましたが、その後魔法使いに目標を変更したので……」

「森に逃げたか?」

「はい。すみません」

「いや別に構わん。そう指示したのは俺だしな。……前もって迷いの森の魔法をかけときゃ良かったか。まぁ2匹くらいは勘弁してもらおう。でもまだ少し数が足りんな」

「拠点の中に残ってるのかも?」

「かもな。……ふむ、じゃあ俺とヴァルツで穴の中に入る。イツキとユニはここで男を見張っててくれ」

「わかったわ」

「はい」

 頷いた二人を残し、ヴァルツを連れて廃鉱の中に足を踏み入れた。


-2-

 暗い廃鉱の中を、松明の明かりで照らしながら進んでいく。

 俺もヴァルツも夜目は利くが、今回は残敵の掃討だけでなく証拠探しも兼ねているのであえて明かりを用意した。

 幸い坑道の中は立って歩ける程度の高さが確保されていて、俺の背でも腰をかがめる必要はない。

 左手法に従って坑道を行ったり来たりしながら探索を進める。

 坑道の中は緑小鬼たちが少し手を加えたらしく、ところどころ新しい木材で補強されていたり、居住区として掘り広げたらしい広間があったりした。

 そんな中、緑小鬼の拠点には珍しい椅子とテーブルのある部屋に行き当たった。おそらくここが男たちの部屋だろう。

 テーブルの上にはランタンが置かれ、壁際にはハンモックが吊るされている。

 ランタンに火を入れ、松明と併用しながら部屋の中を捜索すると、ゴミ入れと思しき袋の中から何枚かの羊皮紙が見つかった。

 その場でざっと目を通してみたが、計画は順調とか、食料を増やしてくれとかいったぼんやりした内容しか書かれておらず、計画の内容とか個人名といった具体的なことは特定できなかった。ただまぁ、こういう事をするのは他国か他領の非正規ないわゆる工作員だろうな、とあたりは付けられた。毒のことと合わせれば、おそらく隣国のアモル王国の関係者だろう。

 ……それにしても管理が甘いぜ。普通、非正規の通信文書や指令書なんてのぁ読後即焼却が基本なのに、ゴミ袋に突っ込んでいるんだからな。

 まぁ羊皮紙ってのは燃えにくいから、後でまとめて燃やそうと思っていたのかは知らんけど。

 苦笑いを浮かべてゴミ袋に残っていた羊皮紙をまとめて荷物袋に突っ込むと、探索を再開した。

 ある部屋では、緑小鬼の非戦闘員らしい雌?や子供がいて、身を寄せ合って震えていたが、禍根を残すわけにもいかんので全員にトドメを刺した。

 牙笛を使って麻痺させたうえで喉を突いて殺したので、苦痛はなかった……と思いたい。

 そしてその近くにあったのが……いわゆる『繁殖室』だ。

 何処からか連れてこられたらしい女性4人を盾に緑小鬼5匹が襲ってきたが、事情を悟った女性の一人が最後の力を振り絞り自らの命を捨てて緑小鬼に抵抗してくれたため、ヴァルツの働きもあって全部倒すことができた。

 だが、当の女性は毒の短剣で腹を深くえぐられ、帰らぬ人となった。

 残りの3人の女性も、状況は酷いものだった。痩せこけて傷だらけの上、話しかけても表情はうつろで反応もなく、自分から動くこともない。

 3人の女性は、すでに壊れていた。

 それでも生きている以上は何とかしたい。

 一人ずつそっと抱きかかえて外に運ぶ。運ばれてきた女性を見てイツキは眉をひそめ、ユニは顔を青ざめさせた。

 ユニが急いで湯を沸かし、女性たちの顔と髪を拭う。湯で薄めたポーションを、体力回復の為に少しずつ飲ませてやるのを見て最後に残っていた勇敢な女性の亡骸を運び出した。

 時刻は夜も遅くなっていたが、事態は急を要する。手紙に群れはひとまず倒したことと、捕まっていた人たちを運ぶための荷車の派遣を要請する旨を書いて、ヴァルツに託した。

 ヴァルツと荷車が戻ってくるまでに時間があるので、本来なら捕らえた男に尋問の一つもするべきだったのだろうが、怯える緑小鬼の雌や子供を殺したことと、捕まっていた女性たちの惨状もあって、精神的にかなり消耗していた。

 おっつけ応援に来るであろう追加の冒険者たちへの引継ぎ内容を、半分現実逃避しながらあれこれ考えていると、やがてヴァルツが数人の村人と荷車を引き連れて戻ってきた。

「冒険者さん、村長から群れは倒したって聞きましたが……?」

 村人の一人が心配そうに声をかけてきた。

「ああ、一段落はついた。死骸はそこらに転がってるとおりだ。何匹かには逃げられたが、ほぼ片付けた」

「そうですか」

 村人がほっとしたような声を出した。

「皆に来てもらったのは、緑小鬼どもに捕まってた人を運んでもらうためだ。俺達だけじゃどうにもならんのでな。毛布は持ってきてくれたか?」

「ああ、言われたとおり持ってきた」

「じゃあ貸してくれ」

 村人から毛布を受け取ると、うつろな顔で座り込んでいる女性たちを一人ひとりくるんで荷車に運んだ。

 女性の亡骸も、毛布にくるんでそっと荷車に横たえてやる。名前も出身も分からない相手だが、村長の許しが得られるならば、こんな誰も来ない森の中ではなく、たまには人も訪れるであろう村の共同墓地に葬ってやりたかった。

 拘束した男はやや乱暴に荷車に放り込んだ。

「冒険者さん、その男は?」

「今回の黒幕の一人だ。こいつはディーセンの官憲に引き渡す。縛ってはいるが、妙な動きをしないよう見張っててくれ」

「わかった。絶対に逃がさないように見張っとく」

 村人がそう言って憎々しげに男を睨みつけた。


 そして一行は、重くなった荷車を引いて元来た道を戻り始めた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 女性の被害者もいたか~……死んだ女性が生きてたら何か聞けたかもしれないね。
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