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毒を使う緑小鬼6

―――前回までのあらすじ―――

森の中で緑小鬼たちを見つけて、拠点と黒幕、そしてバックらしい存在は確認した。

しかし、注意していたにもかかわらず村人10人が森に入り込んだことを村長の手紙で知る。

―――――――――――――

-1-

 子供を含む10人もの村人が森に入り込んできたことで、予定を変更せざるを得なくなった。

 本来なら冒険者の応援を待って、大勢で一気に殲滅をしたかった。それが一番リスクの少ない方法だからだ。

 だが、村人が森に入ったとなると話は変わってくる。

「イツキ、ユニ、状況が変わった。村の連中が森に入ってきた」

「え?」

「なにそれ、村長の話を聞かなかったの?」

「まずガキ大将含めた4人の子供が姿を消して、それを探しに親6人が村長の制止を振り切って森に入ったと手紙に書いてある」

「それって拙くない?」

「大変拙い。村のもんが緑小鬼と出会ったら、ほぼ確実に犠牲者が出る。イツキ、まずはガキ大将どもを探してくれ。ユニ、飛ばすから変身は解いていいぞ」

「おっけ」

「わかりました」

 イツキが周囲を探り始めると同時に、ユニが着ていた外套を脱ぐ。

「ディーゴ様、すみません。背中のボタンを外してください」

 ユニがそう言って背を向けてきた。ユニの布鎧は翼が出せるように背中が開く構造になっていて、普段はボタンで留めてある。

「よし、外したぞ」

「ありがとうございます」

 そう言ってユニが変身を解く。角、翼、尻尾ありの淫魔モードだ。翼で空を飛べることによって、移動速度が上がる。

「……見つけた。南南西の方角ね。でもこのまま進むと子供たち、緑小鬼の群れとぶつかりそう」

「まじか。……仕方ねぇ、初めに緑小鬼の群れを潰すぞ。案内頼む」

 イツキの言葉に少し考え、方針を決めると、南南西に向けて走り出した。


 森の中を俺とヴァルツが駆ける。少し遅れてユニも飛んでついてくる。

「ディーゴ、少し左に軌道修正」

「あいよ。あとどのくらいだ?」

「まだ先ね」

「子供らとの接触は?」

「……もうちょっと急いだほうがいいみたい」

 拙いやんけ。

「ヴァルツ、ユニ、ペース上げるぞ」

 駆ける足に力を込める。

 そうしてしばらく駆け続けて、やっとイツキが念願の声を上げた。

「いた!緑小鬼4、魔狼1!正面!!子供はまだ!!」

「よしヴァルツ行けっ!!」

 ぐん、と姿勢を低くしてヴァルツが飛び出す。少し遅れて俺も戦槌を手に群れに襲い掛かった。

 ……結果、ヴァルツが魔狼を、俺が緑小鬼を2匹、イツキとユニが緑小鬼を1匹ずつ仕留めて、短い戦闘は終わった。

「皆ご苦労、ユニもよくやったな」

 ヴァルツとイツキを労いつつ、ユニに声をかける。前回と違って、今度はちゃんと緑小鬼を倒せたからな。

「はい。ありがとうございます」

 ユニが若干こわばった顔ながらも頭を下げた。ま、これは慣れるしかあるめぇ。

「イツキ、子供らは?」

「もうすぐそこよ」

 俺の問いにイツキが薮を指さすと、しばらくして子供の声が聞こえてきた。

「だからこっちから音がしたんだって!」

「ちょっと待ってよ早いよ!!」

 声とともにガサガサバキバキという大きな音がして、目の前の藪が割れて子供たちが姿を見せた。

「いた!ほらこっちで合ってただろ!!」

「あ!緑小鬼が死んでる!!」

「なぁ、これ全部冒険者さんがやっつけたのか!?」

「うわなにこれ、気持ちわりー」

 好き勝手に騒ぎまくるガキ……もとい、子供たちに、俺は無言で順番に拳骨を落とした。

 ガキ大将と思しき長剣を下げたのには、心持ち強めに落としてやった

「いってーな!なにすんだよ!!」

 ガキ大将が頭を押さえながら文句を言ってきやがったので、胸ぐらをつかんで持ち上げつつ顔が触れる直前まで近づけた。

「森に入るな、と村長は言ったはずだよな?」

 ガキ大将の目を見据えつつ、低い声で話しかける。

「で、でも俺たち、緑小鬼が戦ってるとこ見たことないし……」

「自分が見たけりゃ村長の言いつけを無視してもいいのか?」

「でも、でも……」

 ガキ大将の声が小さくなる。我ながら大人げないとは思うが、コイツがすべての元凶だからな。

「ガキの冒険ごっこはこれで終わりだ。あとは村長にこってり絞ってもらえ」

 そこまで言ってガキ大将を下ろすと、村に向かって歩き始めた。しかし子供らがついてこない。

「なにしてんだ、村に戻るぞ」

「え、でも、まだ緑小鬼が残って……」

 いるんでしょと言いかけたガキ大将の言葉をさえぎるように言い放つ。

「村に戻るぞと言ったんだ。首に縄付けて引きずっていかれたいか?」

 その言葉に、渋々ながら子供たちがついてきた。

「イツキ、スマンが次は大人たちがどの辺にいるか探ってくれ」

「それならここからもう少し西ね。3人ずつの2組だけど、そんなに遠くないわ。ただ、あまり遠くないところに緑小鬼の群れもいるわね」

「……そっちもか。じゃあ案内頼む」

 イツキに頼んで動き出したところで、ふと思い出してユニを見たが、ユニはいつの間にか人間の姿に変わっていた。

 良かった、子供らに本来の姿は見られてはいないようだな。


 子供たちを引き連れているので走るわけにもいかず、じりじりしながら森の中を歩いていたが、悪いことは重なるものだ。

 緑小鬼の群れが大人たちの存在に気付いたらしい。

 移動する方角を村人たちの方に変えて移動速度も上がったとイツキから聞き、連れていた子供たちに命令を出した。

「お前らを探しに出た親たちが緑小鬼に襲われそうだ。倒しに行ってくるからここを動くな」

 子供らが小さく頷いたのを見て、群れを倒しに向かう。

 今度の群れは緑小鬼のみの構成で4匹らしい。

 イツキとユニには魔力と弾を温存してもらい、俺とヴァルツだけで4匹を仕留めた。

 そのまま大人たちと合流し、待機させていた子供たちの所に連れて行ったが、幸い子供たちは言いつけを守ってちゃんと待機していた。

 まぁここで逃げていたら追いかけて全員蔓草でぐるぐる巻きにして親に引き渡していたけどな。

 子供たちと合流したその場で父親の鉄拳が飛んで大説教が始まるところだったが、そんなのは村に戻ってからやれと全員を黙らせた。

 そして全員に聞こえるように声を張り上げる。

「村長に伝言だ。群れの数は80程度と予想。群れを束ねているのは人間二人と緑小鬼将軍と思われる」

 そこまで言うと場がざわめいた。無理もない、こんなのに攻め込まれたら、村そのものが滅ぶ。

「はいはいはい、まだ伝言には続きがあるぞ」

 そう言って再び全員を黙らせると、話を再開した。

「本来なら街からの応援を待って、大勢の冒険者で一気に緑小鬼どもを殲滅するつもりだったが予定が変わった。俺達はこの後、森の中の群れを全部潰したうえで応援を待たずに緑小鬼の拠点に強襲をかける。

 これだけの人数差がある以上、討ち漏らしも出てくるしそもそも俺たちが勝てるかどうかも分からん。最悪の事態を想定して準備しておくよう、くれぐれも村長に伝えてくれ」

「これから攻め込むって、そんな無茶だ。あんたたち3人と1頭しかいないじゃないか」

 村人の一人が声を上げると、他のものも同調するように声を上げた。

「そんな無茶をしたくねーから、くれぐれも森に入らないよう村長に頼んでおいたんだけどな」

 低い声で言いながら、一同をじろりと睨みつける。ガキ大将たちだけじゃなくて、村長の制止を無視して森に入ってきたお前らも、俺から見れば同罪なんだぞ。

 事情は分かるし同じ立場なら俺も同じことをしたと思うが、だからと言ってお咎めなしというわけにもいかん。このくらいの皮肉は言わせてくれ。

「ここで細かいことをぐだぐだ説明する時間もねぇ。俺たちが生きて帰れたら幾らでも説明してやるから、とにかく今はすぐに村に帰ってくれ」

 そう言って村人たちを追いやると、イツキとユニに向き直った。

「……という訳だ。大幅に予定が狂うことになるが、これから森の中の群れを全部潰しに行く。夕方までに片づけるぞ」

「それは分かったけど、理由は説明してくれるんでしょうね?」

「移動しながら解説してやる」


-2-

 森の中を、別の緑小鬼の群れに向けて移動しながらイツキとユニに予定変更の説明をする。

「まず応援を待てなくなった理由だが、さっき緑小鬼の群れを潰したことが原因だ。食い物探しに出た群れが帰ってこなかったら、普通の人間なら冒険者の介入を考える」

「でも群れを潰したことが原因なら、4人組を助けたときも潰したじゃない?」

「ああ。確かにそうなんだが、なぜか連中はあまり気にしていないようだった。ただあの時は討伐の証拠になる耳を切り取る暇もなく、死骸もほったらかしで急いでディーセンに戻った。それを見透かされたかどうかは知らんが、とにかく前回は運よく見逃された。

 しかし今回は2回目だし群れも2つ潰している。これも見逃してもらえると期待するのは楽観が過ぎるだろう」

「それもそうね」

「だから、向こうが警戒して準備万端整える前に、先手を打ってこっちから攻め込む。先に森の中の群れを潰すのは、少しでも数を減らすためだ。今拠点にいる4~50匹と戦っている最中に戻ってこられると厄介だ」

「それでも4~50は残っているんでしょ?ちょっと無謀過ぎない?」

「全部を一度にまとめて相手するつもりはない。幸い拠点の廃鉱の入り口は広くない。真っ先に入口を塞ぐなりして少しずつ相手するようにするさ」

「もしあの廃鉱に他の出入り口があったら?」

「状況次第だが、入口を完全に塞ぎはしない。少し隙間を開けて、1匹ずつくらいなら出られるようにするつもりだ。要は相手を分断できればそれでいいんだ。1~2匹が通れる隙間が目の前にあるのに、50匹全部がそれを使わず揃って別の入り口に移動するなんてことはなかろう」

「そう、そこまで考えてるなら別にいいわ。考え無しの勢い任せな突撃だったら止めてたけど」

「まるで俺がいつも考え無しに動いているような言い草だなおい。これでも慎重派なつもりだったんだが?」

「今回はいつになく無謀な方法をとったから、ちょっと心配になっただけよ」

「ま、そういうことにしとくか。他に聞くことは?」

「あたしの方は特にないわ」

「ユニはなんか分からんことはないか?」

「……あの、今回は緑小鬼と一緒に人間が二人いるんですよね?積極的に村を襲うという訳でもないし、どういう目的があるんでしょう?」

「それについては俺も分からん。群れに食糧を供給するバックもいるらしいし、もっと大きな目的の為に今は力を蓄えている最中なのかもしれん」

「もっと大きな目的、ですか?」

「それについては皆目見当もつかん」

「万が一ですけど、援助を受けて単に引きこもって平和に暮らしているだけの可能性は……?」

「それはないな」

 それならそれで後味の悪い結果になるんだろうが、その可能性は言下に否定した。

「平和に暮らしてる連中なら、4人組の冒険者を毒の武器で襲ったりはせんよ。襲われたのがゴロツキみたいな冒険者なら自衛のためという可能性もなくはないが、あの4人はまともそうだったろ?」

「そうですね」

「それにさっきもだが、緑小鬼どもは明らかに子供と大人の集団に向けて武器を手にして移動していた。決して友好を目的に接触を図ろうとしたんじゃない。ヤツらは人間に害意を持っているが、今は何らかの理由でそれを抑えているだけだ」

「分かりました」

「今回は数が多い。ユニにも働いてもらうから、今のうちに肚くくっとけ」

「はい」


 その後、森の中に残っている3つの緑小鬼の群れを大急ぎで潰し、夕刻、陽が沈み切る前に拠点の前に到着することができた。

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