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毒を使う緑小鬼5

―――前回までのあらすじ―――

緑小鬼たちが使っていた毒から、どうも黒幕がいるらしいことが判明した。

助けたパーティー「標の星」には冒険者ギルドへの報告と応援を頼み、ディーゴたちは黒幕の正体を探りに森に入る。

―――――――――――――

-1-

 森に入ってしばらく進んだところで、イツキレーダーを発動してもらった。

 木や草などの植物を通して魔物や動物、水場などを教えてもらう、大変便利なスキルだ。

 ただ、植物の感覚を通して大まかなイメージで情報を得るので、魔物の名前のような細かいところまでは分からない。

 緑小鬼のように、上位種や派生種が多いとなると、その特定までは無理だ。

 まぁ魔物の名前なんて人間が勝手につけた物なので、森の木々や草がそれを知らないのは仕方のないことだろう。

 それでも、森の中で相手の位置と動きが分かるというのは大きなアドバンテージだ。

「……やだ、結構多いじゃない。こんなにいたの?」

 しばらくしてイツキが呟いた。

「どんな感じだ?」

「うーんと、魔狼も含めた3~6匹の群れが4か所に散らばってるわ。群れ同士の距離が大分離れてて、群れの中でも離れたり集まったりしてるから、多分食料を集めているのかも」

「そうか、しかし冬の森の中に食い物になるものなんてロクにあるめぇ」

「食べられる木の実はなくても動物はいるわ。ディーゴがお年寄り二人に拾われる前は、どうやって過ごしていたのかしら?」

「……それもそうだったな」

 エレクィル爺さんたちと出会う前は、イツキのレーダーをフル活用しながら狩猟生活で冬を越したんだっけ。

「まぁそれは一旦脇に置いといて、だ。それぞれの群れがどっちからきてどっちに向かっているか、わかるか?」

「行先は結構バラバラね。紙を用意してくれるなら、大体の位置と向かってる方角を教えてあげるわ」

「了解」

 荷物袋から木紙と筆記用具を取り出し、平らな所に広げる。

「セグメト村がここで、今俺たちがいる場所をここだとすると、1つ目の群れの位置はどの辺だ?」

「それは大体この辺りね。この方角に進んでいるわ。数は4匹で魔狼が1匹混じってるわ。次の群れはこの辺り。こっち方向ね……」

 そんな感じで4つの群れの位置と進行方向、数と種類を書き出した。

「ふむ、なるほど」

 幸い、今のところそれぞれの群れが向かっている方角に人里はない。いや、ないわけではないが、距離的に無視できる程度に遠い。

 群れ同士の距離のばらけ具合と、互いにカブることのない進行方向から察するに、4つの群れはおそらく同じ集団から出発したもの。

 ならば、夕刻には4つの群れが戻ってきて合流する可能性は高い。

「よし、一番数の少ない群れを追うぞ。ただし手は出さずに後をつけるだけだ」

「その場で倒さないの?」

「まずは総数というか群れの大きさを知りたい。それに恐らくだが、この4つの群れの中に黒幕はいるまい」

「どうして分かるんですか?」

 ユニが不思議そうに尋ねてきた。

「あの毒を作るには専門知識が必要だし、そういう奴は頭も回る。それを緑小鬼に当てはめるなら、結構な経験を積んだ将軍格か、下手すりゃその上の君主格もありうる。

 そんな個体が自ら先頭に立って食料探しをすることはねーよ。仮に黒幕が緑小鬼じゃない別の魔物だったりしても同じことだ。緑小鬼を下っ端として使ってるならそいつらにさせるだろうさ」

「なるほど、そうなんですね」

「んじゃ、それなりの距離をとりつつこの群れの後を追うぞ」

 標的としたのは緑小鬼のみの3匹の群れ。魔狼は耳と鼻が利きそうなので、それがいる群れは避けた。


 そして群れを尾行すること数時間。食料集めを終えたらしい群れが、来た道を引き返し始めた。

 イツキレーダーを頼りに距離をとっているので、気配や物音で気付かれる恐れはないが、やはり尾行というのは気を遣う。

 しかも後をつけている間に日が沈み、森の中はすっかり暗くなってしまった。

 俺とヴァルツは夜目が利くし、イツキは精霊なので夜も関係ないが、問題はユニだ。

 淫魔という種族で夜に強そうなのに、夜目は利かないらしい。

 お陰で追跡速度が落ちて群れとの距離が開いてしまったが、それでもなんとか緑小鬼たちの拠点と思しき場所にたどり着くことができた。

 暗い中、夜目を通してみた感じでは、低山のふもとに空いた洞窟というか廃鉱らしいところが拠点らしい。

 なるほど、洞窟の中じゃイツキの植物レーダーには引っかからんわな。

 そのうえ、見張りがいる穴の入り口付近の結構な面積は、木が切り倒されたのか元から生えていないのか、土が露出している。

 それじゃ尚更わからんわ。

 でもまぁ拠点が見つかったのでそれはそれでよしと考えを切り替え、拠点から少し距離をとる。

 森の木々の隙間を縫って差し込む月星の薄明かりを使って、村長宛てに現時点の情報として緑小鬼たちの拠点の大まかな位置を書き、群れの総数および黒幕はいまだ不明なことを手紙にしたためた。

 翌朝もう一度手紙を出すが、動きがあったら朝を待たずに手紙を出すことも追記しておいた。

「んじゃヴァルツ、村長の所に頼むぞ」

 書いた手紙をヴァルツの首に括り付けながら頼むと、ヴァルツはこくりと頷いて音も立てずに夜の森に消えていった。


 ヴァルツを待っている間に、保存食で食事を済ます。

 ユニがいるし拠点からそれなりの距離をとってるとはいえ、見張りの最中に料理をこさえていい匂いをふりまくわけにもいかんしな。

 同じ理由でタバコも吸えないのがいささか不満だ。

 退屈すぎるのと寒さを我慢して時間を潰していると、深夜になってヴァルツが戻ってきた。

「ご苦労。メシ済ませたら寝てていいぞ。明日の朝また行って貰うからな」

 そう言ってヴァルツの食事を用意してやると、首に手紙がついていることに気が付いた。

 手紙を外して星明かりの下で苦労しながら読んでみると、報告に対する感謝の言葉と、こちらが指示した通り村人への注意を行ったことが書いてあった。

 ふむ、これでとりあえず村の方は大丈夫かな。明日にでも黒幕が確認できればいいんだが……。

 村長からの手紙をしまうと、魔法で草葺のシェルターを作った。さすがに真冬に野天で夜を明かすのはしんどいわ。

 火は焚けないが、風と霜は防げるので集まって眠ればなんとかなるだろう。

 イツキに蜂蜜酒1本で見張りを頼み、ユニやヴァルツと身を寄せ合ってその日は眠りについた。


 そして翌朝。

 シェルターの中とは言えさすがに寒かったので、シェルターを片付けたのちに小さな焚き火を熾し、それぞれに白湯を飲んで体を温める。

 イツキの報告では、夜の間に動きはなかったそうだ。

 引き続き動きを探ってもらいながら、朝食の保存食を用意する。

 さて、昨日の様子なら今日も何組かは食料調達に出るはずだから、そいつらの行き先を見てからヴァルツを朝の報告に出すか。

 そんなことを考えながら干し肉を噛んでいると、今日は5つの群れが森に入ったと報告が来た。

 さらに少し遅れて、十数匹の群れが森に入ったらしい。ちと数が多いな。

 急いでそのことを手紙に書き、ヴァルツに託すと十数匹の群れを追いかけることにした。

 結論から言えば、これは水汲み部隊だった。

 はじめ見たときは、樽を積んだ荷車を引いていたので意味が解らなかったが、川につくなりその樽に水汲みを始めたので、これはこれで問題ないかと拠点の方に取って返した。

 次いで拠点から出てきたのは30匹超の本隊と思しき群れ。

 意外だったのは、群れに人間が二人混じっていたことだ。

 20代~30代と思える男二人が、緑小鬼隊長よりも大きな、人間とさほど変わらない大きさの緑小鬼と歩いている。

 あの大きさだと、緑小鬼隊長の上位種の緑小鬼将軍だな。

 2人と1匹の雰囲気では、同格かもしくは人間の方が立場が上っぽい。どうやらこいつらが黒幕か。

 人間二人は幾分薄汚れてはいるものの野盗っぽい雰囲気ではなく、一人は上等そうな革鎧と長剣を身に付けていた。

 もう一人は鎧ではなく丈夫そうな服を着ているが、杖も武器も持っていない。正体が良くわからん。

 緑小鬼将軍も革鎧だが、こちらは要所が鉄板で補強されている。手にしているのはまだ新しさの残る両刃の戦斧だ。

 将軍とは言え緑小鬼風情が用意できる品じゃない。人間二人が融通したのか?

 ……しかし行先が分からんな、村でも襲いに行くのか?と探っていると、樹々の開けた広場で群れが立ち止まった。

 気づかれたか?と思ったが、どうもそうではないらしい。何かを待っている風だった。


 しばらくその場で様子を見ていると、やがてロバに引かれた荷車が2台と、商人風の男一人がやってきた。

 街道から外れたこの場所にわざわざやってくるとは、ただの商人とは思えない。緑小鬼側の協力者か?

 やってきた商人風の男は、待ち構えている緑小鬼の群れに驚く様子もなく、目の前で荷車の覆いを外した。

 緑小鬼将軍が何かを命じると、緑小鬼たちがわらわらと荷車に群がって荷物を下ろし、背負い担ぎ始める。

 その間に商人風の男は、緑小鬼側の男二人に話しかけて何かを手渡した。

 話の内容が分からないのがもどかしい。

 やがて緑小鬼たちの荷下ろしが終わり、荷物を担いだ者から三々五々と帰っていく。

 残ったのは空になった荷車2台とそれを引くロバ2頭、人間の男3人と緑小鬼将軍だ。

 男たちはしばらく何か話していたようだが、話が済んだのか商人風の男はロバと荷車を引いて戻っていった。

 少し遅れて、男二人と緑小鬼将軍も拠点に向かって踵を返した。


 拠点に戻った2人と1匹だが、見ているとなんと拠点の前で酒盛りを始めた。

 なるほど、あの荷車の荷物は追加の食糧だったわけか。確かに7~80匹の群れがこの時期、狩猟採取だけで食料を賄えるとは思えん。

 村の2つ3つ襲っているなら解るが、今のところは家畜が2回襲われただけだ。

 しかし、緑小鬼どもに食料が追加で届いたとなると、それを支援してる輩がいるわけだよな。あの商人風の男のがそれ本人とは思えんし。

 ……なんかますます厄介になってきたな。緑小鬼に黒幕がいて、その黒幕に更にバックというかスポンサーがいるわけ?

 拠点を見張りながら、今後の行動を考える。

 まず緑小鬼の総数だが、食料探しに出た5組の数が合わせて20ちょっと、水汲みが10ちょっと、さっきの荷車が30なんぼで合計すると端数を繰り上げて70くらいか。拠点に残った留守番もいると考えて80は超えると見たほうがいいだろう。

 それに人間の男2人と緑小鬼将軍が1匹。

 ……うむ、これだけの数を一度に相手するのは俺達だけでは無理だ。しかもそれぞれが毒を使うしな。

 ヴァルツにゃ手間かけさせるが、戻ってきたら応援を呼びにとんぼ返りしてもらおう。

 さてどう言った文面にしようか……と、考えていると、村長に手紙を託したヴァルツが戻ってきた。

 よしよし、ご苦労。と顔と頭をわしわしして労ってやる。

 するとまたヴァルツの首に手紙がついているのに気が付いた。

 たぶん村長からだな。報告の礼ならいちいち手紙を出さんでもいいのに、と苦笑しつつ手紙を開き、文面に目を走らせるとその内容に思わずうなり声が漏れた。


 村のガキ大将と取り巻き3人が朝食後から姿を消したらしい。しかもガキ大将に至っては、父親の長剣を持ち出している、と記されていた。

 更に具合の悪いことに、姿を消したガキ大将の親たちも、村長の制止を振り切って森に入ったそうだ。その数は父親4人と母親2人。

 子供を含めた合計10人の村人が、緑小鬼が多数うろつく森の中に入りこんだ。

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