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毒を使う緑小鬼3

―――前回までのあらすじ―――

毒を使う緑小鬼の集団に襲われているパーティーを助けたディーゴたち。

怪我人をディーセンのミットン診療所に担ぎ込んだが、使われていた毒の強さが少し気にかかる。

―――――――――――――


-1-

「セシリー!アニタ!」

 診察室に入ると、女魔法使いがベッドに駆け寄った。

「ええと先生、二人の具合は……」

 神官がエルトールに尋ねる。

「毒の方は2本目の解毒ポーションで完全に抜けました。ただ、毒を受けて1日たっているのと、担いで運ばれてきたせいで大分体力を消耗してます。まぁ今日は泊っていくといいですよ」

「そうですか……どうもありがとうございます」

 神官が深々と頭を下げる。

「礼ならそこの虎男のディーゴさんらに言ってください。追加の解毒ポーションを用意してきたのも彼ですから」

「追加の解毒ポーションまで……すみません、なんとお礼を言っていいか」

「まぁ冒険者は相身互いだ、あまり気にすんな。それよりまだお互い名乗ってなかったな。さっき紹介されたが俺はディーゴ。5級の冒険者だ」

 それをきっかけにお互い名乗りあう。

 神官がフィル、女魔法使いがキャロレッタ、女戦士がリーダーのセシリーで女斥候がアニタというらしい。全員6級の冒険者だそうだ。

 ……男1人に女3人か。ハーレムパーティーかよ、と、ちらと思ったが、むしろ女3人に男のフィルが囲われてるような印象を受けた。

 うん、改めてみると、フィルは整っていながらも少し幼さが残る顔立ちで、なんというかちょっと庇護欲をそそられそうな?そんな雰囲気を出していたからだ。

 まぁ大変だろうが頑張れよ、と声にならない生温かい声援を送ったうえで、今回の件には関係ないので思考の脇に押しやり、エルトールに向き直る。

「エルトール、今更って感じだが緑小鬼どもが使ってた武器だ。ちょっと調べてくれんか」

 そういってユニから受け取った小剣と棍棒を手渡した。

「分かりました」

「時間かかりそうか?」

「傷の具合と症状からある程度絞り込みは出来ているんで、それほどは」

「わかった。んじゃ、待合室で待ってるわ」

 広めの診察室とはいえ、5人に加えてヴァルツもいるんじゃさすがに狭いしな。


 ユニとヴァルツを連れて待合室に移ると、仕事を片付けたらしいウェルシュとアルゥがやってきた。

「やぁディーゴ。今回は大変だったな」

「では、話を聞かせてもらうぞ」

 そう言ってウェルシュとアルゥがそれぞれ空いてる長椅子に腰を下ろした。

「まぁ話って程のもんでもねぇんだが、依頼を受けて目的地に向かう途中であの4人が緑小鬼と魔狼の群れに襲われてるところに出くわしてな。見た感じパーティーが半壊してたから助けに入ったんだ。敵自体は問題なく蹴散らせたんだが、厄介なのは緑小鬼が毒を使ってて、その毒が解毒ポーション1本じゃ消し切れないほど強い毒だったわけよ。それでここに運び込ませてもらった」

「なるほど。解毒ポーションでも消し切れないとなるとなかなか強い毒だな。それはちょっと気になるか」

「我の知識では、使う毒の強さはおおむねその個体の強さや知能の高さに比例する。無論例外もあるが、緑小鬼ごときがそれほど強い毒を使ったという事実には、ちと引っ掛かりを覚えるな」

「まぁ、あのあたりに変な毒草が群生してて、緑小鬼がそれを使ったってんなら、それはそれでなんとかしとかんと拙いしな。第2第3の被害者が出ないとも限らん。今回はたまたま俺らが行き合わせたからよかったものの……」

「その毒草を駆除するなり、周辺の村や冒険者ギルドに注意を促す必要がある、か」

「そういうこった」

 ウェルシュの話に俺が頷いて答えた。

「ところでディーゴが受けた依頼とは何なのだ?さきの話ではまだ目的地に顔を出していないのであろう?」

 今度はアルゥが俺を見上げながら尋ねてきた。

「ん、実は俺らが受けた依頼も緑小鬼の討伐なんだよ。もしかすると今回ので片付いちまったかも知れんなぁ。一応、依頼を出してきた村に行って話は聞いてくるつもりだが」

「なるほどな。であれば、今すぐというほど急を要する話でもなかろうな」

 そんな感じで話をしていると、くるるる……と誰かの腹の虫が鳴った。

 誰の腹の音だ、と見まわしてみたが、ウェルシュもユニも自分ではない、といった顔をしている。

 アルゥにしちゃ音がでかいし、とヴァルツを見ると、ばつが悪そうにそっぽを向いた。

 ……顔に似合わず可愛い腹の音させんのな。

「そういえば皆、夕食がまだだったな。近くの店で買ってくるか」

「あの4人も食うだろう。持ち運ぶにゃ結構な量になるから俺達が行くよ。ちなみに料理はせんのか?」

「料理はもっぱらエルの受け持ちでね。私も作れないことはないが、酒のつまみが精々だ」

 ウェルシュが苦笑しながら答える。

「あの、差し支えなければ私が作りましょうか?毒を受けたお二人は食べやすいものがいいでしょうし」

 ユニがおずおずと手を上げた。

「そうしてくれると助かるな。ただ材料が人数分あったかな……?」

「ならユニには怪我人二人の食事を作って貰って、俺とあの神官で残りの面子のメシ買ってくるわ。2人分くらいなら材料もあるだろう」

「すまんね。買い出しは任せる。じゃあユニには台所を教えるからついてきてくれるか」

「はい」

 ウェルシュとユニが奥に消えるのを見て、診察室の中に声をかける。

「フィル、皆の晩飯買いに行くから付き合え」

「は、はい」

「あたしは?」

 女魔法使いのキャロレッタが声を上げる。

「お前さんは引き続きそこで二人の相手だ。怪我人二人のメシは消化のいいのをウチのヤツが作ってくれる。ハラ空かしてる奴がいるんだ、急ぐぞ」

 そう言ってフィルを連れ出し、石巨人亭に向かった。

 アルゥとヴァルツ?猫2匹は待合室で寝てろ。


「ちゃーっす」

 石巨人亭の扉を開け、カウンターに直行する。

「ディーゴか、今朝方担ぎこんだという冒険者はどうなった?」

「そっちはもう大丈夫だ。一応、今夜一晩診療所に泊まってけと言われてたがね」

「なら結構。その若いのが件の冒険者仲間か」

「フィルです。現の教会の神官で6級の冒険者をやってます」

 そう言ってフィルが礼儀正しく頭を下げる。

「そうか。ここは亜人が主に集まる冒険者の酒場だ。人間のお前さんにはあまり縁がないかもしれんが、気が向いたらこっちにも顔を出してくれ。ウチの連中は不信心者が多くてな、神官はいつでも大歓迎だ」

「はい」

「んでオヤジさん、注文いいかな」

 挨拶が一段落したところで口をはさむ。

「おう、なんだ?」

「晩飯を……ひのふのみの……1つ多めに8人分頼む。あと生肉を1.5人前。それと2級の葡萄酒3本と蜂蜜酒を1本。全部持ち帰りで」

「大量だな、宴会でもするのか?」

「フィルのパーティー4人と診療所の医者2人、あと俺たちの分だ」

「なるほどな。じゃあ料理は大鍋に入れて皿も貸してやるよ。洗って返してくれればいい」

「すまんね」

 その後、オヤジさんが大車輪で作った料理を大鍋2つに収めてもらい、その他もろもろの品を藁籠に詰めたらかなりの量になった。

 大鍋2つと酒4本は無限袋に収めて俺が背負う。ピクルスの入った壺とチーズの塊、生肉は大きな藁籠に入れてこれも俺が持つ。

 代わりにフィルにはパンと食器の入った藁籠を2つ持ってもらった。

 ぶっちゃけ全部無限袋に入れられないこともないんだが、野営道具とか入れっぱなしなところに大鍋2つが加わったので、結構肩に来るほど重いのよ。

 だからと言って、中身の入った大鍋抱えて帰るのも危険だし。

 その点、無限袋に入れておけば、こぼれたり壊れたりすることはないからな。

 大量の料理をもって診療所に戻ると、待合室にはそこはかとなくいい匂いが漂っていた。

 うん、ユニのやつ頑張ってんな。

「おーう、メシ買ってきたぞー」

 奥に声をかけると、診察室からウェルシュとエルトールとキャロレッタが姿を見せた。なんだ、そっちにいたのか。

「お帰り、思ったより早かったな」

「まぁ実際作ったのは炒め物だけっぽいし。で、店広げるのは待合室(ここ)か?」

「そうだな、全員が一度に集まれるのはここだけだな。長椅子をテーブル代わりに床座りになるが」

「んじゃ、長椅子を集めちまおう。キャロレッタ、スマンが台所に行って鍋敷き2つにレードルとトング借りてきてくれ。大鍋が2つあって、中身がシチューと炒め物なんだ」

「わかったわ。お皿はいいの?」

「食器類は借りてきた」

 キャロレッタが台所に行っている間に、男4人で長椅子を集めて即席のテーブルを作る。

 間もなくキャロレッタがいろいろ持って戻ってきたので、無限袋から大鍋2つを取り出して鍋敷きの上に乗せた。

 フィルが並べた皿に「配膳くらいはあたしがやるわ」とキャロレッタが料理を盛り付ける。

「怪我人二人は起きてこれそうか?」

「そのくらいなら問題あるまい」

 俺の問いにウェルシュが答えると、

「じゃあ、僕呼んできます」

 と、フィルが二人を呼びに行った。

「なら俺は台所を見てこよう」

「あ、台所は突き当りを右です」

「あいよ」

 台所で盛り付けを終えた皿を受け取りユニと一緒に戻ると、寝ていた怪我人二人も起きてきて席についていた。

 配膳が済んだところで葡萄酒を取り出し、1本をウェルシュに渡し2本を長椅子の上に置く。

「私だけ1本貰っていいのか?」

「黙っててもそのくらい飲むだろ」

「まぁそうだな」

 いつの間にか姿を現したイツキも席に着き、食事の用意は整った。


「食事の前に、まず礼を言わせてほしい。こうして食事ができるのもディーゴたちと先生たちのおかげだ。どうもありがとう」

 女戦士のセシリーと女斥候のアニタが揃って頭を下げた。

「冒険者は持ちつ持たれつだ、なんかの機会があったら返してくれりゃ、それでいい」

「怪我人を診るのは医者の務めでな、まぁそうかしこまって礼を言われることじゃない」

 俺とウェルシュがそう言って返す。

「さ、これ以上冷めるとせっかく作ってもらったメシの味が落ちる。続きは食いながらにして始めちまおう」

 俺の言葉が合図になって食前の祈りがささげられ、にぎやかな夕食が始まった。

 話していて分かったが、この4人組のパーティー((しるべ)(ほし)という名前だそうだ)は、2か月前に冒険者を始めたというほやほやの新人だった。

 3人娘は同じ村の幼馴染同士で、村の魔法使いに師事していたキャロレッタが師匠の許可を得られたのを機に、景気のいいディーセンに出てきて冒険者稼業を始めたらしい。

 男のフィルだけはディーセンの出身で、現の教会で今も修行中の身分だが、教会のある用事で冒険者ギルドを訪ねた際にこの3人娘に声をかけられ捕獲されたそうだ。

 冒険者という仕事に興味があったという本人の希望もあったが、3人娘の熱意と迫力で教会と両親から冒険者になる許可をもぎ取ったとのことだった。

 ……そろいも揃って肉食系女子ですか。

 こちらについてもいろいろ質問されたが、俺の種族やユニとの出会いについてはもっともらしい嘘で誤魔化させてもらった。さすがに会って間もない相手に本当のことは言えんよ。

 また、毒から回復したセシリーとアニタが予想以上の健啖ぶりを発揮して、一人分多めに用意していたにもかかわらず食事の量が足りなくなり、ユニが料理を作り足すという場面もあったが、概ね皆が満足できる味と量の食事ではあったようだ。

 なお、一緒に食事をしながら普通に会話に交じってくる双尾猫のアルゥに、4人組の特にキャロレッタが興味津々で、食事中もちらちらと見ていたな。

「……そういやエルトール、渡した毒について何かわかったか?」

 和やかな食事も終盤に近付き、それなりの皿が空になったあたりで気になっていたことをエルトールに尋ねてみた。

「ああ、あの毒ですか。ほぼほぼ、特定はできました。ただね……」

「ただ?」

 エルトールは少し声のトーンを落として呟いた。

「……どーも、単純な話で済まなそうなんですよね」

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― 新着の感想 ―
[一言] お礼とせめて消耗品の金さえ払ってくれたら良いよ!
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