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毒を使う緑小鬼1

―――前回までのあらすじ―――

溜まっていた用事も済ませて長い休みが終わった。

新たに淫魔のユニと漆黒虎のヴァルツを加えて、冒険者活動が再開される。

―――――――――――――

-1-

 1月の5日、やっと俺の冒険者活動が再開された。

 1ヶ月半に及ぶ休眠は長かったが、剣闘士の試合が都合3回あって稽古もしていたので、身体は鈍っていない。

 イツキ?屋敷で飲んで寝てましたよ。お陰で何度も蜂蜜酒を買い足してもらう羽目になったわ。


 ただ、休眠期間中に漆黒虎のヴァルツが使い魔になりユニも加わったので、この面子での冒険は初めてになる。

「おお、ついに今日から再開か」

 石巨人亭についてオヤジさんに挨拶に行くと、思いのほか喜んでくれた。

「ああ、つー訳でまたよろしく頼む」

「ディーゴは5級でもユニはまだ7級だ。パーティーで受けられる依頼は一番下の者のランクの一つ上までと決まってる。だから受けるとすれば6級相当の依頼が妥当だな。緑小鬼の討伐の依頼が残ってたと思うから、依頼板を見てみるといい」

「緑小鬼か、まぁ初陣ならそんなところだろうな」

 頷いて依頼板の前に移動する。

 残っている依頼の中で6級相当のものを見ていくと、薬草などの採取の依頼に交じって、確かに緑小鬼の討伐の依頼があった。

 ふむ、場所は徒歩2日の先にあるセグメトという村で、群れの総数は分からんが、それほど数は多くはなさそう、とのことか。

 討伐も含めると往復で5~6日かかるうえに報酬が相場よりちっと安いな。これが残ってた原因か。

 でもまぁ仕方ないか、と、依頼の書かれた紙をむしってオヤジさんの所に持っていく。

「コイツがその依頼かな?」

 そう言って紙を見せると、オヤジさんは紙を見て頷いた。

「ああそうだ。これだ。昨年から時々緑小鬼を見かけるらしくて、その都度依頼を出してたそうなんだが、今回もそんな感じらしい。まぁ冬の間はエサを探して一部の魔物は行動範囲も広がるからな、討伐依頼も多くなる」

「なるほど」

「で、この依頼を受けてくれるか?」

「そうだな、パーティーで初めての依頼にいい感じだから受けることにするよ」

「わかった。村の場所は分かるか?」

「ああ、前に依頼で荷物を配達したことがある。行き方は……大麦の街道から支道に入るが、案内の立て札があったと思う」

「なら大丈夫そうだな。今から出るか?」

「そのつもりで来た。つーわけだから保存食とか分けてくれ」

「あいよ、毎度あり」

 そんな感じで旅に必要なものを買い、早速出発することにした。


-2-

 ディーセンの門を抜けて、大麦の街道をセグメト村へと向かって歩く。

 歩くペースはユニがいるので少しゆっくり目だ。

 ユニは俺の右側を歩きながら、しきりに周囲を見回している。

「外の景色が珍しいか?」

「あ、はい。今までずっと街の中でしたから。でも街の外には魔物がいるんですよね?」

「まぁ確かにそうだが、この辺りじゃまだ警戒せんでも大丈夫だぞ。人通りも多いし、街の騎士団の巡回ルートだからな。揉め事もそうそう起こらんさ」

「そうですか」

「周囲の警戒を始めるのは、このペースで行くと明日の午後辺りからかね。そのくらい街から離れると、騎士団の目も届きにくくなる。森に入ればさらに危険度は増すが、まぁユニはそれほど気を張って警戒せんでも構わんよ。ユニが気付く前に俺かヴァルツが気が付くし、森に入ればイツキがいる。滅多なことじゃ奇襲は受けんよ。だからまぁ、今は景色を楽しんでおくといい」

「わかりました」

 そんな感じで旅は進み、いい時間になったので街道沿いにある避難小屋の傍で昼食をとることにした。

「ここは誰か住んでいるんですか?」

「いや、これは主要な街道沿いでよく見かける避難小屋でな、雨に降られたりとか旅の面子に病人が出たときに、ここで休むことができるよう近隣の街や村が整備してんだ。中には竈と水瓶が設置してあって、暖をとったり簡単な煮炊きもできるようになってる。

 使うにあたって金はかからないんだが、水や薪を使った場合は使った分を出立時に補充するか、幾らかの小銭を備え付けの募金箱に入れてやるのが習慣だな。もちろん、使った後はきれいに掃除するのが礼儀だ」

「そうなんですか。ディーゴ様もよく利用されたりしたんですか?」

「うーん、実はあまり使ったことはねーんだよな。イツキは雨でも無関係だし病気にもならんから、使うとすれば俺の都合次第なんだが、飯は道端で適当に済ませてたし、よほど強い雨でもなければ休まず強引に次の泊り地まで行っちまってたんだよ」

「じゃあ、今回は私のせいで……」

「いや、別に避難小屋を利用するのが悪いってわけじゃねぇんだ。避難小屋をうまく使えば、旅もいくらか快適になる。ただ今までの俺の旅のやり方は、快適さをそれほど重要視してなかっただけの話だ。

 ただまぁ、最近はいくらか余裕もできたし、お前さんとヴァルツが加わったことで旅の事情も変わった。これからは旅に快適さを求めてもいいんじゃねぇかとも考えてる。特に旅の間のメシについてはお前さんに期待してんだぜ?」

「……といいますと?」

「今回は初めての旅っつーことで、あえて一般的な保存食だけを用意してきて食ってるけど……ぶっちゃけ美味くないだろ?」

「……そうですね。手軽で持ち運びは便利ですけど、正直に言えばしょっぱいし固いしで美味しくないです」

「それを、お前さんの料理の腕で何とかしてもらいたいんだよ、俺は。ユニは戦うのは苦手でも料理は得意だろ?まぁ数日なら生で使える野菜もあるし、日持ちのする乾燥野菜を使うのもある。必要なら俺やヴァルツが肉を現地調達してもいい。だから次からお前さんは、旅先でも料理の腕ふるってくれ」

「分かりました。そういう事でしたら頑張ります」

「うん。じゃあこれ食って少し休んだら出発するぞ」

 そう言って話を終えると、二人して保存食を腹に収める作業に専念した。

 ちなみにヴァルツの食事は持参してきた生肉で済ませた。寒いこの時期の屋外なら生肉を持ち歩いても1~2日は平気だし、(元)野生生物なら胃腸も強いし。


-3-

 そして旅を再開し、順調に歩くこと半日、宿泊予定の村に到着した。

 この村には幾度か宿泊の世話になったこともあるので、村人や村長も俺のことを知っている。なにせ目立つ外見だからね。記憶にゃ残るよ。

 ただ、ヴァルツについては初めてなので少し警戒された。俺の使い魔で一切危険はないと説明したら納得してもらえたが、まぁ見た目が大型の肉食獣だから 納得はしてもあまり近くには寄りたくないようで、微妙に距離ができていた。

 初めてなのはユニも同じだが、こっちは見た目が華奢な美少女だし角と翼と尻尾も隠しているので全く警戒はされなかった。

 ……ふむ、今後は初めて寄る村では、まずユニを先行させて話をしてもらうか。

 初めて行く先々で、武器を持って迎えられるパターンも飽きたし、都度行う説明も面倒だ。

 説明に威力を発揮する名誉市民の短剣も、国が変われば無効とまでは行かなくとも威力は落ちるだろうし。


 ユニとヴァルツを紹介した後で村長に泊まりと食事を希望する旨を伝えると、快く了解が得られた。

 ただ、寝床については村長宅ではなくて、村長宅の前の空き地に魔法で一晩だけの草葺のシェルターを作らせてもらって、そこで眠ることを提案した。

 とは言っても口で説明しただけでは分かりにくいようなので、実際に空き地にシェルターを作って中も見せたら分かってもらえたようだ。

 本当なら寝床は村長宅のベッドのほうが有難いんだが、前回寄ったときに、同居している息子夫婦に赤ん坊が生まれたことを聞いてんのよね。

 まだ授乳や夜泣きで手がかかる時期だろうし、そんなときに赤の他人が家の中にいたんじゃ母親の気も休まるまいと遠慮させてもらったわけだ。

 まぁ食事についてはこの村には居酒屋がないので、村長宅のお世話になるしかないのだが。

 ……ヤだよ、折角、村にいるのに夜も保存食で済ますなんて。

 それに、寝床は草葺シェルターでメシも保存食だったら、わざわざ村に寄る意味がない。

 一日歩いて疲れてんだから、朝と夜くらいは温かいものを食べて疲れを癒したいよね。他にもいくつか理由はあるが、俺が途中の村に立ち寄る理由はそれが大きい。

 他の理由?世間話をしながらの情報交換と営業活動と市場調査かね。

 これらについては説明しだすと話が逸れるし、後で改めて言う機会があると思うので、今は省く。

 ともあれ、村長に少しばかり多めに心づけを渡して夕食をご馳走になった。

 内容としては豆と乾燥野菜のスープに黒パン、チーズに加えて茹でた塩漬け豚が少々という、村にしてはまぁまぁ豪華な内容だった。

 煎り豆をつまみに自家製のエールで喉を潤しながら、村長らと世間話に興じるが、少し前にこの辺りでも緑小鬼の小さな群れが見られたとの話が出た。

 ちなみに自分たちで退治するか、街に討伐依頼を出すかを相談しているうちに、その群れはいなくなってしまったそうだ。

 そのうちに夜も更けてきたので、村長宅を辞して草葺シェルターに移動し、眠りについた。


 翌朝、村長宅で簡単な朝食を頂き、村長らに礼を述べて再び旅の空に出る。

 順当に行けば今日中に目的地のセグメト村にたどり着くはずだ。

 昼の少し前に街道に看板を見つけて、支道に入る。

 もうしばらく歩けば平原が終わり、森に入る。そうなる前にちょっと早いが昼飯をすますか……。

 そんなことを考えてながら歩いていると、横を歩いていたヴァルツがぴたりと足を止めて、風上の方に顔を向けた。

 つられて足を止めた俺も、ヴァルツと同じ方角を見る。風に乗って微かに流れてくるこの臭いには覚えがあった。

 緑小鬼の臭いだ。

「イツキ、こっちの方角に緑小鬼がいるっぽい。できるならちょっと探ってくれるか?」

「分かったわ」

 イツキが姿を現し、足元に生えている草をたどって気配を探る。

「ユニ、精霊筒を用意しとけ」

「あ、はい」

 ユニが背負っていた精霊筒を外して手に持つ。

「……あまり良くなさそうね。緑小鬼の群れと幾人かの人間がいる感じ。詳しい状況は分からないけど緑小鬼の方が数は多いみたい」

「そうか、なら急いで向かうぞ」

 イツキの報告を聞いて走り出す。

 セグメト村についてから緑小鬼を探す予定だったが、村に着く前に遭遇するとはな……。

 内心で苦笑を浮かべながら足を速めると、やがて前方に集団が見えてきた。


 そこにいたのは、緑小鬼と魔狼の10匹近い群れに囲まれた、4人の冒険者らしいグループだった。

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