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森の迷宮3

-1-

 いやー、半人蠍の鋏肉がカニ肉同等品だったとは。

 久しぶりにええもん食わせていただきました。御馳走様。


 さて、腹もくちくなったことだし、気になってた洞窟の中を見てみますか。

 松明の残りに火をともして洞窟の中をざっと歩いてみると、どうやら3部屋だけの作りっぽい。

 あちこちに人の手が加わったような跡があるのを見るに、どうも誰か住んでいたようだ。

 ただ、それもだいぶ昔のようで、寝床と思われる段差にはボロボロの布の切れ端が残っているだけだった。

 とりあえず入り口に戻り、今度はじっくり観察する。

 入ってすぐの一番目の部屋は……特に何もなし、と。むき出しの土壁と土の床。

 家具の一つも置いてない。

 2番目が居住区みたく、ここに寝床と思われる段差があった。

 普通寝床は一番奥に作るんじゃね? と思ったが、まぁ作者なりの都合かこだわりがあったんだろう。

 寝床の他には、朽ちたテーブルと割れた陶器っぽいものがぽつぽつと。

 それ以外に特に見るものはなし、と。

 そして最後の部屋だが……ここはどうやら研究室っぽいな。

 部屋の中央に錆びきって割れた大鍋があり、棚には埃のかぶった小瓶がずらりと。

 ちなみにいくつか栓を開けてみたが、長すぎる時間の末に全部蒸発して空になっていた。

 そして床に散らばってるのは……紙というか羊皮紙?のなれの果てらしい。

 こりゃ文字が書いてあっても読めんわ。

 で、さっきからどーも気になってた、部屋の隅にある宝箱。

 これは開けてみるしかなかろう、ということでなけなしの術晶石を使ってなんとかまたハニワを作りだし、洞窟の外に避難してから開けてみた。

 20分ほど時間をおいて洞窟の中に戻り、宝箱の中を覗いてみると、中には丸めた羊皮紙がみっちり詰まっていた。

「この羊皮紙は無事っぽいな」

「宝箱から魔力が感じられるわ。何かの魔法がかけてあるのかもね」

「ふーむ、保存の魔法かね」

 羊皮紙の状態からするとそうとしか思えんのよね。

 ちなみに2つ3つ羊皮紙を開いて中を見てみたが……俺、こっちの世界の文字読めないんだよな。何かのレシピっぽいんだけど。

 他に何かないもんかと羊皮紙の束を全部出してみると、一番下に栓のされた瓶が三つと30cmくらいの空の丈夫そうな小袋が収まっていた。

 なんでこんな空の小袋が宝箱に……? とつまんで持ち上げようとしたら、ずしりと重い。

 え? この袋、空じゃねぇの?

 そう思って手を突っ込んでみると、なんかすごく奥行きがありますよ奥さん。

 肘の先まで突っ込んでもまだ反対側に手が届かない。

「ディーゴ、なにやってるの?」

「いや、この小袋がな、空に見えて重さがあるからなに入ってんだろと手を入れてみたらこれよ」

 と、肘まで袋に突っ込んだ右手をぶらぶらさせてイツキに見せる。

 見た感じ、腕の先がなくなったような不自然な長さだ。

「へぇ、なにそれ」

「わからん。空間を広げる魔法でもかかってるのかね。だとしたら便利なんだが」

「重いっていうなら中に何か入ってるんじゃないの?」

「そう思って手を突っ込んだんだが、何も入ってなさげなんだよな」

「ひっくり返してみたら?」

「そうだな、でもなんかやばそうだから洞窟の外でやってみるわ」

 イツキにそう答えると、取り出した羊皮紙と小瓶を宝箱に片づけなおし、小袋だけ持って外に出た。

 ただこの小袋、小袋のくせに結構な目方があるんだよな。

 何がそんなに入っているんだろうと、洞窟の外で袋をひっくり返してみると、

 ぼたぼたどさどさと色々なものが出てきた。

 ざっと整理すると


 鎌

 手斧

 庭鋏

 小鍬

 片手用シャベル

 魔法の杖っぽい短杖(ワンド)


 小瓶(中身あり)×6

 中程度の術晶石×3

 金貨×2

 銀貨×23


 とまぁこれだけのものが入っていた。

 ぶっちゃけすぐには必要ないものばかりだなぁ。しかしこの前半の農具類って、山菜採りとかそのあたりに活用できそうな品揃えだな。

 ……となると、ここの昔の住人は薬草なんかの研究をしていたのかも?

 森の迷宮の奥深くで、ひとり薬の研究に励む魔術師か……。

 ってーことは、あの2匹の半人蠍は門番だった?

 だとしたら、ちっと悪いことしちまったかもなぁ。ゴチソウサマデシタ。

 多分あの羊皮紙の束は研究成果なんだろうが……俺がもうちょっとこの世界になれたら回収して世に広めてやっから勘弁してくれよ。


 次いで、魔法の杖らしき短杖だが……これは早々に鑑定をあきらめた。

 だって単純に魔法の威力を強化するのか、構えて叫ぶと魔法が発動するのか、それ以外の何か特別な効果があるのか、まったく見当がつかなかったからだ。

 ま、街に入れるようになったら専門家に鑑定してもらおう。


 最後は小袋。これについては性能を色々検証してみた。

 小袋にモノを入れたいときは、そのまま突っ込むか、袋の口を押し当てて「入れ」と念じれば入れられる。

 中の物を出したいときは、物を思い浮かべながら手を突っ込むと、思い浮かべたものが手に触れる。

 入っていないものを思い浮かべても何も触れることはない。

 どうやら、入れる容量にほぼ制限はないものの(少なくとも10m近い木を切り倒して入れたところ、問題なく入った)、中に入れた物の重さはそのまま出るらしく、木を入れたときは小袋はびくともしない重さになった。

 あと、壊れ物を入れても自動的に保護されるっぽい。水を入れた陶器を入れて地面にたたきつけても、取り出した陶器は割れてもいなければ水もこぼれてなかったからね。

 この機能は結構便利かも。

 それと、やはりというか生き物は入れられないらしい。捕まえた虫を入れようとしたが、どうも袋の入り口ではじかれるようだ。

 あとは袋の中の時間経過だが、これはむしった草を適当に袋の中に入れて放置してある。

 夕飯時に取り出してみたら、若干しなびていたので袋の中も時間は経過していると思われる。


 結論:中途半端な無限?袋。でもそこそこ便利そう。

 ただ、物が増えてきたら何を入れたか書いたメモも一緒に入れておくか、たまに袋の棚卸をしないと死蔵する物が出てくるかもしれん。

 とりあえず背負い袋の中身を全部出して小袋の中に入れてみたが、腰にぶら下げるにはかなりしんどい重さになってしまったので空になった背負い袋に小袋を入れて背負うことにした。

 ……なんかやってることあまり変わらんけど、まぁ荷物のかさは大幅に減ったので良しとする。


-2-

 そして翌朝、残りの迷宮部分を踏破しちまおうと、ちょっと早めに行動を開始した。

 相変わらず襲ってくる巨大昆虫を退治しつつ道を進んでいると、ある所から地面がじくじくと水を含むようになってきた。

 足元は長靴などではなく木底のサンダルなので、じくじくと染み出すほど地面が濡れているところでは足も濡れるのだが、これが結構気分的によろしくない。

 足底がヌルヌルするし、ヒルなんかがいないか心配だからだ。

 ……しかし、まさか森の迷宮と思ってたのに、道が水没してるなんてことはないよな?

 そう思ってイツキにちょっと先の様子を探ってもらうと、予想外の答えが返ってきた。

「ちょっと先に池というか湖があるわね」

 なんですと?

「でも大丈夫。道は湖の岸をかすめる形で通ってるから、水没はしてないわ」

 あ、そう。ならよかった。しかしこんな迷宮の中に湖なんてできるんだな。

 ファンタジーはわけわからん。


 言われたとおりに少し先に進むと、森の木々が開けて目の前に湖が広がる場所に出た。

「ほう……」

 景観としてはなかなかだ。なんとなく奥日光の湯ノ湖を思い出す。

 湖岸の白鳥に餌やりをしようと、持参したパンをちぎって差し出したら、指ごと齧られたっけ。

 白鳥のくちばしの内側ってギザギザしてんのな。水草とか食うから言われてみれば納得だが、その時は知らなかったからちょっとびっくりしたよ。


 ぼーっと湖面を眺めていると、遠くで魚が跳ねたり岸辺近くを水鳥が泳いだりしていて、なんか迷宮内にいることを忘れてしまいそうになる。

 こういうところで釣りとかしたら爆釣なんだろうなーとか思ったが、あいにく俺の趣味に釣りはないし、釣り道具も持ってないのでさすがに諦める。

 ボートや筏があるなら岸に沿って一周してみるという手もあるんだが、なんかヌシとか居そうなんだよな、ファンタジーのセオリーとして。

 さすがに今の装備で水棲生物とやりあう気はないので、適当な所で切り上げることにした。まだ先はあるしね。


 湖を離れ少し歩くと、足元の土が固いものに変わってきた。

 それと同時に、巨大昆虫との遭遇が少なくなり、代わりに木人や食獣植物との遭遇が多くなった。

 どうやら順調に入り口に近づいているようだ。

 今までは一度に持てる量を考えて、多少加減して木人の実を採取していたが、無限袋を手に入れた今はそんなことお構いなしに重さの許す限り採取できるぜフゥハハハァー、とばかりに採取しまくった。

 あまり美味しくないけどな。


 それと、どうもこの迷宮は左手法で回ったのは遠回りだったかも、と思ったが、それに気づいてからも結構な時間歩いたのであるいは右手法で行っても変わらなかったのかもしれない。

 結局入り口の洞窟にたどり着いたのは日も大分傾いての頃だった。

 洞窟の中で一夜を過ごし、翌朝早くに洞窟を出る。

 入り口の洞窟を出ると、土魔法を使って洞窟をふさぎ、イツキの能力で苔と蔦を生やして念入りに入り口を偽装した。

 いつになるかはわからんが、宝箱の羊皮紙を回収しにまた来なくてはならないし、なんとなくこの場所は他者には知られたくなかった。

 まぁこうやって塞いでおけば、蔦と苔を剥ぎ取り岩を崩してまで中に入ろうとする奴はいないだろう。

 あとは、数日かけてこの迷宮のだいたいの位置を把握し、一番近い街からの方角と距離を書いた木片を荷物袋に放り込んでおいた。

 こうして、異世界に来て初めてとなる迷宮探索は終わりを告げた。

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