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対フォンフォン戦

―――前回のあらすじ―――

良さそうな石鹸を教えてもらったことから始まった、剣闘士たちの化粧への食いつきにちょっとほっこりしたディーゴ。

そして今日はその剣闘士との試合の日だが……?

―――――――――――――

-1-

 全く意図してなかった化粧品談義の日から3日が過ぎ、俺はフォンフォンとの試合の為にリングに上がっていた。

 んだが、試合開始間もなく、いきなり窮地に追い込まれていた。

 フォンフォンの息もつかせぬ流れるような連続攻撃の前に、こちとら反撃する暇もなく防戦一方ですよ。

 ……すいません、なんか試合前にフォンフォンたちの女の子っぽい一面を見たせいか、正直甘く見てました。

 肌のハリツヤとか、髪質がどーのこーのとかに一喜一憂する姿を見てたら、とてもこんな激しい攻めをしてくるとはちっと想像つかんですよ。

 しかもこのフォンフォン、『剣の舞い手』と2つ名を頂くだけあって、体さばきや攻撃の動作がまた綺麗というか美しいというか、アクションスターばりに格好いいんだわ。

 気を抜くと、やられてるこっちまで見惚れるくらいに。


 こんなこっちゃイカン、と、両手で構えた槌鉾でフォンフォンの攻撃を防ぎながらも、円の動きを基本とするフォンフォンの攻撃には隙がなく、じりじりとコーナーに追い詰められる。

 だが、俺だってただ防戦していたわけじゃない。

 頭をフル回転させて彼女の戦いぶりを分析し、そして気付いた。

 フォンフォンの剣は『魅せる』剣だ。それ故に、若干オーバーアクションというか、振りや動作が大きい。

 そして、連続攻撃の時には隙を見せないよう早さを優先するため、一撃ごとの威力が落ちる。

 付け入るとすればそこだろう。

 あとは俺の体の頑丈さに賭ける。


 バックステップで距離をとったフォンフォンが、この日何度目かの連続攻撃を仕掛けてきた。

 フォンフォンが繰り出す連続攻撃に、今回はあえて守りを捨てて真正面から突っ込む。

 ビシビシと肩や腹に打撃を食らうが、この程度なら耐えられる。いや、気合で耐え抜く。

 早く細かい連続攻撃では俺を止められないと悟ったフォンフォンが、威力を重視した攻撃に切り替えるため、大きく振りかぶった。

 これを待っていた。

 勢いをもって振り下ろされる柳葉刀を、狙いすましたすくい上げの槌鉾が迎え撃つ。

 力を込めた槌鉾は、たやすく柳葉刀を弾き上げた。

 思わずたたらを踏んだフォンフォンに更に肉薄する。

 柳葉刀を跳ね上げられ、伸び切ってがら空きになった彼女の腹に、腰の回転を乗せた左拳をぶち込んだ。

 確かな手応え。

 たまらず吹っ飛び、リングの床にバウンドして転がるフォンフォン。

「げはっ、う、ごふっ」

 咳こみながらもなんとかフォンフォンが立ち上がる。


 打たれ強さと力技で、一撃で攻守をひっくり返した流れに、観客からひときわ大きな歓声が上がった。

 その場で仁王立ちになり、フォンフォンを見下ろす俺。

 ……いや、余裕ぶって見せてるけど、実は体中痛くて即座に追撃に移れなかったのよ。

 しばしの睨み合いで幾分ダメージを回復させると、今度はこっちから打って出た。

 まだ残る体中の痛みを精神力で抑え込みつつ、一振り一振りに力を込めて真正面からフォンフォンを攻め立てる。

 フォンフォンも柳葉刀を両手で使って防ぐが、先ほどまでの動きの鮮やかさはない。

 振り下ろし、すくい上げ、横薙ぎ、と、あらゆる方向から重い攻撃を見舞う。一撃でも喰らえばそこで勝負が決まってしまうような打撃を続けて、プレッシャーをかけていく。

 フォンフォンも上手く防いではいるが、女の子の細腕で虎男の馬鹿力に真っ向から対抗するには無理がある。

 会場に連続して響く大きな金属音からみても、彼女の腕にかかる衝撃は相当なものだろう。

 バックステップで間合いを取ろうと試みるも、俺がそれを許さない。下がるフォンフォンに食らいつきながら、容赦なく槌鉾を叩きつける。


 それでも下がり続けるフォンフォンを追い回し、なんとかコーナーに追い詰めることに成功した。

 そろそろ引導を渡してやるか、と、ラッシュで止めを刺そうとした瞬間、コーナーを背負ったフォンフォンの姿が掻き消える。

 フォンフォンが消えたのを見て、反射的に大きく斜め後ろに飛びのいた。

 風切り音と共に目の前を柳葉刀が通り過ぎる。

 ……あぶねぇ、もう少しでタリア戦の二の舞になるところだった。

「……通じなかったアルか」

 ちょっと悔しそうにフォンフォンが呟く。

「似たようなのをタリアに喰らって、痛い目見てるんでね」

 フォンフォンがコーナーを脱し、俺も大きく飛びのいたことで間合いが開いた。

「今度はこちらから行くアル」

 フォンフォンがそう言って柳葉刀を構え直すと、大きく息を吸い込んで柳葉刀を回転させ始めた。

「把ァァァァアアアッ!!」

 フォンフォンは気合声をあげると、嵐のように柳葉刀を回転させながら突っ込んできた。

 って、あれだけ俺の打撃を受けてたのに、手ぇ痺れてねぇの!?

 そんなことを考えている間に、また防戦一方になる俺。

 気合いを入れて本気モードになったせいか、先ほどまでと違って剣撃が速く、重い。

 剣先が広く、重心が先にある柳葉刀だけに、勢いをもって振り回されると威力が跳ね上がる。

 迂闊に食らえば骨の1本2本は持っていかれかねない。

 槌鉾を両手で構えて防ぎながら、なんとか攻撃の隙を見出そうと目を凝らす。


 反撃の機会はじきにやってきた。

 これだけの激しい攻めがいつまでも続くはずがなく、守りに徹していると息が切れたらしいフォンフォンの攻撃の威力が落ちてきた。

 左からの袈裟懸けを勢いをつけて右に弾き流すと、その場で体を回転させてフォンフォンの肩に裏拳を叩き込む。

 大したダメージにはなっていないが、体勢を崩すことには成功した。

 体勢を崩しながらも踏みとどまり、こちらに向き直ったフォンフォンの首に槌鉾から手を離した右手を伸ばす。

 フォンフォンがのけぞって俺の右手を避けようとするが、残念、俺のリーチは長いんだ。

 ぐん、と伸ばした右手がフォンフォンの喉を掴む。

 そのまま右手に軽く力を込めて喉を絞めると、観念したフォンフォンは武器を手放した。


-2-

 試合の後に医務室で治療を受け、ひと眠りしたのちに日当を貰うため支配人室に向かう。

「おおディーゴ、来たか。試合ご苦労さん」

「うぃす」

 トバイ氏の労いに頷いて答える。

「剣闘士の試合は慣れてきたか?」

「もう4回目ですからね、それなりに雰囲気は掴めてきたような気がします」

「みたいだな。今回の試合もなかなか盛り上がった。中盤で攻守を無理やりひっくり返したのが受けたな」

「ここの剣闘士はおおむね技巧派ぞろいですからね、力技というのは分かりやすいし珍しいんでしょう」

「そうだな、パワーファイターはお前さんを除けばブルとボニーだけだからな」

 ボニー……ああ、あの超筋肉の男前姐さんか。確か2丁斧が得物だったっけ。

「じゃあ、日当を渡しとこう。今回は金貨7枚だ」

「あい、確かに」

 受け取った金貨を数えて財布に放り込む。しかし、ひと試合で金貨7枚なんて冒険者やってるのが馬鹿らしくなってくるな。

 もっとも、冒険者は浪漫なので辞めるつもりはないが。

「次の試合はどうなります?」

「次か、次は年またぎの興行になる。今月30日の夜から年明け1日の朝まで、剣闘士全員出場の大興行だ。お前さんも出てもらうぞ」

「了解です。で、相手は?」

「ブルを考えてる。二人とも門番にして人外同士、重量級のパワーファイターの戦いだ。門番の実力を見せるデモンストレーションの意味もあるから派手に頼むぞ」

「わかりました」

「ちなみに試合形式は武器なしの殴り合い、格闘戦だ」

 ……マジか。あのブルさんとガチで殴り合うのか。痛い試合になりそうだ。

「ところで当日の門番は?」

「それはやらなくていい。見た目がいいのを特別衣装で着飾らせて、客を華やかに出迎えるつもりだ」

「なるほど」

「ただ、試合の後はお前さんも大ホールに顔を出してもらうぞ」

「え、なんで?」

「大興行の時だけの客に対する特別サービスだ。普段観戦して賭けに興じてくれる客たちと、直接言葉を交わして顔売ってこい。

 他の剣闘士たちも同じように出る。大興行の恒例行事だ」

 えー、なんか面倒くせぇな。つーか、絶対あの太っちょマダムに付きまとわれるだろ。苦手なんだよあのマダム。

 初めにちょろっと顔だけ出して、後は便所に隠れてようかな。

「なんか気が乗らないとか考えてないか?耳が後ろ向いてるぞ」

 おう、感情が顔というか耳に出てたか。

「お前さんは今年から加わった新顔なんだ。それに見たこともない珍しい種族ときてる。お前さんを目当てに来る客もそこそこいるだろうからな、ちゃんとサービスしろよ?」

「ワカリマシタ。……ところで、当日の警備はどうします?」

「門番二人に剣闘士10人が大ホールに集結してんだ、揉め事起こそうって奴なんざいないし、起きてもすぐに対処できるだろ」

「それもそうですね」

「それと30日はちょいと早めの、昼飯時にはここに来てくれ。昼飯はこっちで用意する」

「了解です」

「伝えることは以上だ。今日は帰ってゆっくり休め」

「あい。それじゃ失礼します」

 軽く会釈して支配人室を後にする。

 ……そうかー、次はブルさんとの試合かー。きつい試合になりそうだなー。

 ブルさんのムキムキの筋肉を思い出してちょっと気持ちが沈む。

 とはいえ、試合が組まれた以上はやらないわけにもいかないわけで、あと2週間ちょっと、みっちり稽古に励みますか。


 そんな帰り道にふと思い出して、石巨人亭に立ち寄る。

 例の診療所から妙な依頼が出てないか確認するためだが、依頼板を見ても今のところ依頼は出ていないようだった。

 まぁこの時期、疫病というかインフルエンザが流行る季節だからな、その対処で忙しいんだろう、と勝手に推測する。

 他にも何か面白そうな依頼がないか見てみたが、年末も近いこの時期は隊商の護衛が多い感じだった。

 ふむ、年末商戦に向けて商人たちが今年最後の頑張りをしてる、ってところか。

 普段であれば受けてみたい、条件のいい依頼もあったが、生憎いまは冒険者稼業は休業中だし。

 仕方がないので焼酒のお湯割りで体を温め、石巨人亭を後にした。


 そういやアレもそろそろ注文出しといたほうがいいのかな……。

―――あとがき―――

夏休み期間ということで、ちみっと更新回数を増やします。

次回更新は13日の予定です。

――――――――――

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