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セルリ村訪問

―――前回のあらすじ―――

魔槍改め精霊筒は、淫魔にして使用人のユニに使わせることにして、自パーティーに引っ張り込んだ。

そして12の月に入ったので、かねての予定通りセルリ村を訪問することにした。

―――――――――――――


-1-

 少し前に約束したとおり、12の月になったのでセルリ村を訪ねることにした。

 4~5日を予定しているので、俺のいない間はヴァルツに残ってもらい、ユニも1日おきくらいに稽古に通ってもらうようにした。

 久しぶりのセルリ村なので、爺さん二人も連れていきたかったが、年末が近づいたことでステンドグラスの小品の注文が増えたらしく、二人は店に残るそうだ。


 んじゃまぁ俺一人の気楽な道行、ということで、歩いて半日かかるところを2時間程度でセルリ村に到着した。

「お、虎の旦那じゃないか。久しぶりだね、何か用かい?」

「用ってほどでもないんだが、去年作った用水路の様子を見に、ね」

 村の入り口で出会った村人と話していると、その様子を見た村人たちが集まってきた。

「旦那、久しぶりだね。街での暮らしはどうだい?」

「暇な時でいいからまた肉狩ってきてくれよ」

「泊まるのは村長の所かい?」

 口々に話しかけてくる村人たちに返していると、誰かが呼んだのか村長がやってきた。

「おおディーゴさん、早いお着きですな。なんでも用水路の様子を見てくださるとか」

「ええ、ついでに4~5日厄介になろうかなと思いまして」

「どうぞどうぞ。ディーゴさんなら大歓迎です」

 村長が笑顔で頷くのを見て、村人たちに向き直った。

「つーわけだから、ついでと言っちゃなんだけど家の壊れたところも直すぜ。家を直したかったり、部屋を増やしたい人はあとで村長の所に来てくんなって、皆に伝えてくれないか?」

「さすが虎の旦那だ、ありがたくて涙が出るぜ。おう、今の話、皆に伝えてやんな」

 村人の一人が言うと、集まっていた村人たちは歓声をあげて散っていった。

「すみませんな、村人の家のことまで」

「なに、大した手間じゃありませんよ」

 頭を下げる村長に、手をひらひらと振って答える。

「で、寝床の方はどうしますかね。前に住んでた家は空いてますか?」

「すみませんが、そちらの家は新しい移住者が来て埋まってしまったんですよ」

「じゃあ、村長の家の隣の空き地に、魔法で草葺の簡易住居でも建てようかと思いますが、構いませんかね?」

「ええ、構いませんが、そんな魔法もあるのですか?」

「樹の精霊魔法でそういうのがあるんですよ。居心地はいいんですが、2~3日おきに魔法をかけなおさなければならないのが欠点でしてね」

「そうでしたか。夜具とかはどうします?」

「ふかふかの下草が生えてるんで必要ないです」

「食事はウチで取りますか?」

「居酒屋に行くのでご心配なく」

「そうですか、なんか申し訳ないですな」

「なに、勝手に押しかけてきたんだ。気にせんでください。じゃあ早速、用水路を見せてもらえますか?壊れたところがあるなら直しちまいますんで」

「わかりました。じゃあ、こちらへどうぞ」


-2-

 村長に従って、畑の用水路を見て回る。

 昨年作ったばかりだし、そこそこ頑丈にも作っておいたので、おおむねの所は大丈夫だった。

「泥とか落ち葉とか詰まってるかと思ったんですが、きれいなもんですね」

「そのくらいの整備は村の衆でやりますよ。ディーゴさんに見ていただきたいのはここです」

 そう言って村長が指さしたのは、橋のすぐ脇の所だった。何かがぶつかったように大きく崩れて、応急的に補修した跡がある。

「村の者が酔っぱらったまま荷車で移動しているときに落ちましてね」

「なるほど。じゃあ、ちゃっちゃと直しちまいましょう」

 村長にそう答えて、ぱぱっと魔法で直す。

「次はこっちです」

 村長に案内されて行ったのは、用水路の分岐点。

「水の勢いが強すぎて、削られてしまいまして」

「なるほど。じゃあ水の勢いを殺す石を設置して、ついでに壁の強度も上げましょう」

 そんな感じで4か所ほどを直して回った。

 するといい感じに昼になったので、村長と一緒に居酒屋に行く。

 居酒屋の扉を開けると、懐かしい顔が出迎えてくれた。

「おう、虎の旦那じゃねぇかい。家と用水路を直しに来てくれたんだって?」

「ああ。4~5日こっちにいるから、何かあったら言ってくれ」

「あいよ。虎の旦那のランチは2人前でいいかい?」

「ああ、それで頼む。飲み物は……」

 エールかな、と言いかけたところで、村長が横から口を出してきた。

「ベリックさん、ディーゴさんには例の酒をお願いします」

「例の……ああ、あの酒か。了解」

 亭主がニヤリと笑うと、樽から何かを注いで出してきた。

「今年からウチで出すようになった新しい酒だ。味見してくんな」

 言われるままにカップを受け取り、匂いを嗅ぐ。すると懐かしい香りがした。

 一口、口に含むと予想通り久しぶりに味わう味がした。

「これは、リンゴ酒だな」

「ええ、昨年ディーゴさんに教わったのを思い出しまして、売り物にならないリンゴを使って仕込んでみたのですよ」

「なるほど」

「で、旦那から見て味のほどはどうだい?村の連中にゃ、結構評判がいいんだが」

「ああ、俺が思い出しながら作ったのより、ずっといい出来だ。味もそうだが、透明なのがいい。俺が作ったのは濁ってたからな」

「なら良かった」

 亭主がそう言って破顔する。

「だからさ、村長。来年からはもうちっと量を増やしてほしいんだ」

「そうですな、代官さまと話して、来年からはリンゴ酒に回す分を多くしましょうか」

 村長が頷いた。

「ところで水飴の方はどうですか?」

「ああ、水飴の方は残念ながら領主様に持っていかれてしまいましてね。ウチの村では作っていないんですよ」

「そうですか。……まぁある意味仕方ないですね。あれは作り方が他所に漏れると簡単に真似されるので、領主も気を使っていますから」

「そうなのかい?」

「ええ、ちらっと聞いた話だと、水飴の作り方を知ろうと結構な間者が入り込んできているようですよ」

「そんなきな臭くなってんのかい。じゃあウチの村で気軽に作るわけにもいかねぇなぁ」

 亭主が残念そうに呟く。

「となると、リンゴ酒の方はどうします?これもやはり領主様に届けますか?」

「まぁ届けとくに越したことはないですけど、これは秘密保持は難しそうですね。なにせリンゴを絞っただけですし」

「ですな」

「これは脱穀機とかと同じように、作り方を書いた紙を売る、という方面で行った方がいいかと思いますよ」

「……ふむ、それが無難でしょうな」

「さ、旦那と村長さん、今日のランチだぜ」

 亭主がそう言って料理を出してきたので、話はそこで中断して食事に取り掛かった。

 ちなみにこのセルリ村4~5日出張の報酬は、居酒屋での食事代を村長が持つことで決まった。

 まぁちょっと安すぎる気がしないでもないが、世話になった村だし元手もかかってないしね。


 村長とのランチを終えて、今度は溜め池の様子を見に行くことにした。

 こっちはまぁ、特に手直しするような場所はなかった。穴掘って水路繋げただけだし。

「ところで村長、この村、魚の養殖ってやってましたっけ?」

 セルリ村に来るにあたって、ちょっと思いついたことを訊ねてみた。

「量が獲れたときにたまに居酒屋に卸すくらいですけど、養殖するほどじゃないですね。川魚は臭いと小骨がどうも……」

 デスヨネー

 でも(ふな)(こい)泥鰌(どじょう)(なまず)あたりなら食えんこともないと思うのよね。

 鮒と泥鰌は市場でも見ないが、鯉と鯰に似た魚は見た記憶がある。

 岩魚(いわな)とか山女魚(やまめ)(あゆ)なら単純な塩焼きでも美味いんだが、さすがにこの辺りの川にはいないっぽいし、存在するかもちょっと怪しい。

「どうでしょう、溜め池の傍に泥抜き用の生け簀作りますから、やってみません?」

「できますか?そういう事が」

「底浅にして、壁を石のようにガッチガチに固めて、きれいな泉とかから湧き水を引いてくればイケると思うんですが」

「湧き水ですか……それですとちょっと難しそうですね。ウチの村は井戸か川の水に頼ってますから」

「ああ、そうか。そうでしたね」

 セルリ村は生活用水は井戸水、農業用水は川の水に頼っている。生け簀ほどの大量の水を使うとなると川の水に頼るほかないのだが、その川で獲った魚が泥臭いんだから、同じところの水を使っても泥抜きにはならんわな。

 むぅ、生け簀で川魚養殖は難しいか。


「あとディーゴさん、出来ればで構わないのですが、用水路や溜め池を増やしてもらう事は可能ですか?」

 溜め池の傍で二人して考え込んでいると、ふと村長が口を開いた。

「大丈夫ですよ。農地を広げる予定があるんですか?」

 魔力にはまだ余裕はあるので頷いて返す。

「ええ。ディーゴさんが引っ越した後に何名か移住希望者が来ましてね。このペースで増えますと、ちょっと農地が足りなくなりそうなのですよ」

「そりゃ大ごとですね。場所とかは決まっているんですか?」

「ええ、大体の当たりは付けてあります」

「じゃあ行ってみますか」

 村長を促して、開拓予定地を見に行く。

 村外れにつくと、なるほど確かに平地が広がっていた。

「ここに水を引いてきたいのですが……」

「ふむ……他の畑と比べてちょっと高さがありますね。水を引いてくる位置を考えなきゃなりませんか」

「それでしたら、森の中を通すことになりますが、考えている場所があります」

「森の中ですか、となると、蓋をした密閉式の水路の方がいいですね」

「できますか?」

「大丈夫ですよ。じゃあ、村長が考えてる取水口に行きますか」

 二人連れだって森の中に入り、2時間ほど歩いたところで川の縁についた。

 道中は緩い上り坂だったので、水を流す分には特に問題なさそうだった。

「ここから水を引こうと考えているのですが、大丈夫ですかね?」

 村長に言われて川の周囲を歩き回り、地形を確認する。

「うん、ここなら大丈夫だと思いますよ。ただ今日はもう時間も時間なので、明日から始めますか」


 川からの帰り道、村長に言ってちょっとマナーハウスに寄らせてもらった。

 リンゴ酒を作るにあたって、圧搾機でも提案しようかと思ったからだが……結論から言えば圧搾機は既にありました。

 木製の、かなり大きなネジ式のもので、葡萄酒を絞るときに使ってるそうだ。

 圧搾機で通じなかったのは、単に固有名詞の違いらしい。『葡萄酒絞り機』っつってたからね。

 これに改良を加えるとなると、木製のネジの部分を金属にするくらいしか思いつかんが、それをやるにはこの村の鍛冶屋の設備では不可能だそうで、結局諦めることにした。


 その後、溜め池や用水路の新設と、村人たちの住居の修理や増築に4日を費やし、最終日に村人たちの見送りを受けてディーセンに戻ることになった。

 ついでになるが、帰り際にリンゴ酒も2瓶ほど分けてもらった。あとでイツキに飲ませてやろう。

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