精霊筒の使い手
―――前回のあらすじ―――
魔槍の解析が済み、関係各所に報告も終えた。
手元には魔槍改め精霊筒が残ったわけだが、どうせなら有効活用したい。
さてどう使おうか。
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-1-
魔槍改め精霊筒の報告会を終えた翌日、俺は自室で精霊筒をこねくり回していた。
さて、新しい武器が手に入ったわけだが……この扱いをどうするか、だな。
射程が長く、そこそこの威力を持ち、取り扱いは簡易。ただし弾数は40。決して多いとは言えない。
冒険者の通常戦闘ならば1~2回、もって3回だろう。
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ちと不安も残るが、そろそろアイツを引っ張り込むか。
そう考えをまとめると、ユニを呼んだ。
「お呼びですか?ディーゴ様」
「ああ、ちと確認したいことがあってな」
自室に入ってきたユニを対面に座らせ、質問を開始する。
「呼んだのは他でもない、お前さんの今後のことなんだけどな」
「あの……何か至らないことでもありましたか?」
「いや逆だ。ユニはよくやってくれてる。お前さんががっちりとこの屋敷を守ってくれてるお陰で俺はこうして好き勝手させてもらってる。感謝してるよ」
そう言って笑みを浮かべると、ユニもほっとしたような笑顔を浮かべた。
「まず聞きたいんだが、新しい使用人、ウィル、アメリー、ポールの仕事ぶりはどうだ?」
「はい、3人とも頑張って良く仕事をしてくれてます」
「能力的にはどうだ?あの3人で、ユニ1人分の代わりは務まりそうか?」
「もう少し指導する必要はありますが、おおむね大丈夫かと思います」
「そうか。ならばいい」
俺はそう頷くと、本題を切り出した。
「ユニ、お前さん、冒険者になる気はないか?」
「冒険者ですか?ディーゴ様と同じ?」
「ああ。そうだ」
「でも、私に務まるでしょうか?剣術ができるわけでも、魔法が使えるわけでもないのに……」
「別に前に出て、直接敵と切り結んでもらうつもりはない。魔法が使えなくてもそれは俺がカバーする。
ユニにやってもらいたいのは、俺の後ろにいて離れた場所からこの武器を使って敵を撃つことだ」
そう言って、机の上に精霊筒を置いてみせた。
「それは、昨日ディーゴ様が皆さんに見せるために持って行った……」
「精霊筒、と呼ぶことにした。銃、というのは分かるか?」
「いえ、申し訳ありませんが……」
あれ?魔界って銃はないのか。
「そっか。まぁ説明すると、銃ってのは弩の亜種みたいなもんでな。敵に向かって構えて、引き金というものを引くと矢の代わりに弾丸という鉄や鉛の礫が打ち出される武器だ。この精霊筒は、それをもちっと簡単にしてある」
「はい」
「これなら、別に剣術を知らなくても、魔法が使えなくても戦うことができる。まぁ、少し練習は必要だがな。でだ、お前さんには精霊筒の扱いを覚えて貰って、俺のパーティーに加わってもらいたいんだ」
「お話は嬉しいですけど、いいんでしょうか、私みたいなのがディーゴ様と一緒に戦うなんて……」
「俺がいいっつってんだからいいんだよ。それにユニ、いつまでも俺のおさんどんしてるわけにもいくまい?」
「いえ、私はそれでも構わないんですけど」
「お前さんは良くても周りがダメだろ。召喚されてこっちに来た以上は、なにかしら成果を出さないと拙いのと違うかい?」
「それはそうですけど……魂の回収なんてこと、私にはできそうもないですし……」
「それは魂の回収という行為ができないのか、魂を回収するまで状況を持っていけないのか、どっちだ?」
「後者、です」
「なら問題はねーな。相手を痛めつけるなりトドメをさすなりは俺がやってやる。お前さんはその相手の魂をただ回収すればいい」
俺はそういうと、座っている椅子の背もたれに背を預けた。
「俺も冒険者やり始めて分かったんだがな、この稼業、案外人間を手にかけるケースも多いのよ。無論俺が手にかけてきたのは、盗賊とか違法奴隷商とかいった、生きてたら善人が迷惑する手合いだ。そんな連中なら悪魔に魂を回収させても良心は痛まねぇな、と」
「はぁ……」
「それに、よくは知らんけど、普通の一般市民より悪党の魂の方が悪魔的に価値があるんじゃねーの?」
「そうですね」
「だからな、そう言った手合いの魂をほったらかしにしておくよりは、ついででもいいから回収して、お前さんの手柄にしたらどうか、と思ったわけよ」
「それはとても魅力的な提案ですけど、ディーゴ様は回収はしないんですか?」
「回収の仕方知らんし。それに、回収したとしてもどうすりゃいいのかわからん」
「魔界に持って帰って、しかるべきところに渡せば魔界での地位が上がりますよ?」
「いや、魔界に帰る方法知らんし、帰るつもりもないし、前にも言ったかもしれんが、ディーゴっていう生き物は魔界と繋がりはねぇよ」
「ですが……」
「ですがもよすがもないの。まったく、遠慮しすぎるのがお前さんの悪い癖だ」
(俺も他人のことは言えんが、な)
俺はそう言って軽くため息をつくと、椅子に座りなおした。
「正直に言うとな、ユニ、お前さんを迎え入れたときはここまでやってくれるとは思ってなかった。ところが、お前さんは俺のいない間もこの屋敷をきっちり守り、無駄遣いすることもなく、新しい使用人の教育までしてくれた。感謝している」
そこで一度言葉を切り、頭を下げる。
「今日まで俺のためによく尽くしてくれた。俺のパーティーに加わってくれ、というのは俺なりの感謝の形であり、ボーナスでもある」
「でも……」
「やかましい。ならこれは命令だ。屋敷のことはウィル、ポール、アメリーの3人に任せて、お前は冒険者として俺のパーティーに入れ。そして魂を回収しろ。拒否することは俺が許さん」
「……分かりました。足手まといの私ですけど、よろしくお願いします」
ユニがそう言って頭を下げたのを見て、俺は満足そうにうなずいた。
-2-
……というわけで、半ば強引にユニを引っ張り込んだ俺は、ユニとヴァルツを連れて石巨人亭に向かった。
「うぃっす」
「おおディーゴか。冒険者稼業は休業中のはずなのに、どうした?」
両開きの扉を開けてカウンターに向かうと、暇そうにしていた熊耳の亭主が声をかけてきた。
「ああ、今度、このユニも冒険者登録することにした。つー訳で、登録の書類を頼む」
「おいおい、大丈夫なのか?どう見たって冒険者には向いてそうにないぞ?」
「危ないことをさせる気はねぇよ。俺の後ろから適当に援護してもらいつつ、移動中の飯を作ってもらうのが主な役割だ。まぁ、最低限の武術というか逃げ方は覚えて貰うことになるが」
「屋敷の方は大丈夫なのか?」
「ユニが仕込んだし3人ともよくやってくれてる。それに今日明日から冒険に出るわけじゃない」
「そうなのか?」
「今年いっぱいは訓練所に通ってもらうさ」
「でもなぁ……」
亭主がちらりとユニを見る。
「オヤジさん、ちょいと耳貸してくれ」
「なんだ?」
そう言って顔を寄せてきた亭主に、ユニに悪党の魂の回収をさせる旨を話して聞かせた。
「野盗だの違法奴隷商だの、生きててもカタギの為にならん奴らの魂なら、回収させてもよかろ?」
「まぁそりゃそうかもしれんが……悪魔にとって魂の回収てのは、やらなきゃならんもんなのか?」
「無能と思われて呼び戻される覚悟があるなら、やらなくてもいいんじゃねぇか、とは思ってるが」
そう言ってユニを見る。
「無能といわれるのは仕方ないと思ってますけど、呼び戻される、というのは……?」
「送り出すにも担当官がいるんだろ?俺が担当官の立場なら、いつまでたっても魂を一つも持ってこない無能なんざさっさと呼び戻して、優秀な別のもんと交代させるが?」
「…………」
「……ま、そうかもしれんな」
呆然とするユニを横に、納得したように亭主が頷く。
「じゃあ……」
「お前さんには居なくなられると困るからな、適度に結果を出させてやろうって魂胆だ」
「なにからなにまですみません」
「納得したなら書類にさっさと記入してくれ」
そうして無事にユニの冒険者登録を済ませると、今度は冒険者ギルドの支部に向かった。
-3-
冒険者ギルドの支部に行くと、いつもの訓練場に顔を出す。
「おおディーゴ、今日は可愛いの連れてるが、稽古か?」
早速教官が声をかけてきた。
「ええ、まぁ俺の方はいつも通りなんですが、これからはこのユニの稽古も頼みたくて」
「このお嬢ちゃんが冒険者に?得物はなんだ?」
「これを考えてます」
そう言って精霊筒を教官に渡す。
「なんだこりゃ、火筒か?」
「昨日出来上がった精霊筒、ってもんです。精霊石を装填して引き金を引くと、礫系の魔法弾が打ち出される武器です」
そう前置きして、精霊筒の性能を説明する。
「……なるほど、これならその嬢ちゃんでも使えそうだな」
「それと、基本的な護身術というか、防御と逃げ方を教えてやって欲しいんです。ま、最悪は空飛んで逃げるという手があるんですが」
「は?空を、飛べる?」
事情を知らない教官が聞き返す。
「これは内密に願いたいんですが、このユニ、淫魔っていう悪魔なんですよ」
「……マジか」
「大真面目です。ちなみにこれは領主も知ってます」
「…………」
教官はしばらく顎をつまんで考え込んでいたが、仕方ないといった風にため息をつくとユニを見た。
「わかった。一つ確認しておくが、ここで訓練して悪さをするつもりはないんだな?」
「はい」
「ユニは俺と組むことになります。俺の仕事ぶりはまぁ……見てもらえればわかると思うんで」
「そうか、ディーゴと組むならまぁ大丈夫だろうな。分かった。その精霊筒とやらの扱いと護身術、みっちり稽古してやる」
「よろしくお願いします」
「じゃ、話は分かったが、今日はこれから稽古か?」
「ええ、いつもの通りお願いします。ユニは……今日の所は帰っていいぞ。今日明日あたりは、まず教官に精霊筒を知ってもらわにゃならんからな」
「わかりました。それじゃ、失礼します」
「ヴァルツはユニについてってやってくれ」
「がるっ」
そしてその後は、訓練場でみっちりと稽古をした。
少し離れたところで稽古をしていたマスカルが何か聞きたそうにしてたが、とりあえず今のところはスルーしておいた。
俺もマスカルにどこまで話していいのか、まだ決めかねてるしな。